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リアクション
第7章 1日ロイヤルガード体験
「か、かっこいいです、セイニィさん!」
「あ、ありがと……」
キャロル・モリアーティにきらきらとした瞳を向けられ、ロイヤルガードの制服を身に纏ったセイニィ・アルギエバ(せいにぃ・あるぎえば)は戸惑いながらもそう応えた。
ここは、彼女が仕事の時に使っている宿舎である。シャーロット・モリアーティ(しゃーろっと・もりあーてぃ)から、妹のキャロルがロイヤルガードの仕事を見たがっていると相談されたのは数日前。以前にパラミタに来た時に打ち解けたことで、セイニィの仕事内容にも興味を持ったらしい。姉として、妹のお願いを出来る範囲で叶えてあげたい――シャーロットにそう言われて考えた結果、外回りの仕事があるこの日を選んで同行をすることにした。
「今日はお土産を持ってきたんです。地球や異世界で手に入れた、色々なくまさんアップリケですよ!」
「異、異世界?」
アップリケの入った袋を受け取りながら、セイニィはキャロルの口から飛び出た単語に驚いた。最近は異世界が関わる事件もちらちらと起こっていることは知っている。だが、この子は契約者ではなかった筈である。
「異世界は外国のことですよ。好きなライトノベルの影響だと思います」
シャーロットが隣で小さく耳打ちしてくる。そういえば、最初に会った時もアニメの主人公っぽい台詞を度々交えていた気がする。
(ああ、なるほどね)
すっきりしたところで、袋を覗いてみる。
「見たことのないデザインが多いわね。あ、これ……」
「はい、この前穿いてたのです。全部限定商品なんですよー! これなら、被らないかもなーって思ったので」
アップリケ談義を始める2人の傍で、シャーロットは宿舎を簡単に見回した。ツァンダにあるセイニィの家よりも物が少なくさっぱりしていて、どことなく寂しい印象を受ける。もしかしたら、ツァンダに行っても物の多さに寂しさを感じるのかもしれないが。以前に訪問した時とは違い、彼女は今、1人暮らしだ。
シャーロットは、6月頃に{SNL9998932#パッフェル・シャウラ}と会った時のことを思い出す。空京の定食屋で『セイニィと今よりも仲良くなって幸せにしたい』とアドバイスを求めた時、パッフェルはこの宿舎に遊びに行ったら嬉しいと思う、と答えた。でも多分、遊ぶより、共にシャンバラの為に頑張れたら。そうしたら、セイニィはもっと嬉しいだろう。
セイニィの活動の妨げにならず、役に立てるように。
セイニィにしてあげられることを、常に考えて一緒に行動していきたい。
今日も、ロイヤルガードの仕事に同行する中で、彼女をしっかりとサポートできればいいと思う。
「ほらシャーロット、そろそろ行くわよ」
気がつくと、セイニィとキャロルは玄関口へと移動していた。2人に続いて部屋を出ながら、シャーロットはセイニィに微笑みかける。
「帰ったら、また何か作りますね」
「ここも異常なし、ですね!」
繁華街にて、シャンバラ宮殿と職務上の結びつきが強い店や企業を回り、用事のついでに変わったことが無いか訊いていく。今、また1件を回り終えて外に出ると、キャロルはセイニィ達に明るい笑顔を振りまいた。今日の行程は彼女にとって1日体験署長ならぬ1日体験ロイヤルガードみたいなもので、それだけに高揚しているのだろう。
「たまに、こうやって話を聞いておかないとね。本当に小さな変化が事件に繋がってることもあるし」
「わかります! どこに伏線が張ってあってもおかしくないですもんね!」
「え? ……んー、まあ、そんなものね」
言葉のチョイスがあれだが、意味としては間違っていないだろう。
「キャロルも、実は崩壊の危機に瀕した異世界を救う為に活動している勇者なんですよ! ここでは力が使えませんけど、あっちでは色んな能力が使えるんですよ!」
「……? シャーロット、キャロルって契約者じゃないのよね?」
こればかりは脳内変換出来ず、セイニィはこっそりとシャーロットに確認する。通訳を求める意味合いもあった。アニメについて話しているにしては、自己経験を語っているような――
「最近プレイしているゲームの話だと思います。ほら、ゲームって主人公の名前が自由に決められたりするじゃないですか」
シャーロットもセイニィに倣い、こっそりと話す。さすがの彼女も、これからの未来に妹が“ゲーム好き”を契機に本当の異世界に行くことになるとは想像もしていなかった。
「ご、強盗です! 誰か……!」
前方から叫び声が聞こえたのはその時だった。コンビニの制服を着た男性が、道の先を指差している。いかにもな黒い覆面を被った男が小さな鞄を抱えて逃げていくのを見て、セイニィとシャーロットは頷き合った。同時に走り出すと、シャーロットは行動予測で男の次の逃亡ルートを予測する。裏通りに入っていく男を見て、彼女は言った。
「セイニィ、私が先回りして前に立ちます」
「じゃあ、あたしは後ろから行くわ!」
一度二手に別れ、シャーロットは疾風迅雷で走る速度を上げ、強盗が来るであろう場所で待ち構えた。覆面を脱いで走ってくる男がぎょっとして立ち止まる。その直後、男の後頭部にセイニィの遠当てが命中した。気絶した男を引きずって表通りに戻ると、キャロルは目を輝かせていた。
「うわあ……お姉ちゃん達、すごいですね!」
「そ、そう……? とにかく、見失わなくて良かったわ」
正面から褒められて恥ずかしいのか、セイニィは横を向いてキャロルに応え、歩き出す。
「さ、こいつを引き渡してさっさと帰りましょ。お腹空いたわ」
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