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第10章 辱められた女騎士?

「……あら、あけましておめでとう」
 参拝を終えた崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)は、ばったり顔を合せた人物に挨拶をした。
「お、おめでとう」
 その人物――巫女装束を纏った、神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)は、足を後ろに引き、ばつの悪そうな笑みを浮かべている。
「……えっ、とてもそうは見えないんだけど、もしかして巫女のバイトなんかしないといけないほど、お金に困ってたの?」
「いや……」
「まさか卒業後のアテが……え、あなたが?」
「あの……」
「何ならうちでメイドとして雇ってもいいけど……」
「……おい」
 不機嫌そうになった優子を見て、亜璃珠は声を上げて笑った。
「で、どうして巫女のバイトなんてやってるの?」
「いや、警備だって聞いてたんだけど」
 優子は亜璃珠に、巫女装束を着るはめになった過程について話して聞かせた。
 元々優子が巫女として警備を担当することは、決められていたらしい。
 当日まで本人には言うなと口止めされていたアレナから、直前に知らされたということだ。
「アレナもやるようになったわね」
 そう言って笑い、亜璃珠は優子の髪に手を伸ばした。
「でも悪くないわよ、綺麗な髪してるし……。普段から女騎士、って感じだもの、何とか巫女とか、その路線でも十分いける筈よ」
「ゼスタが言うのは、外見的に今年で最後だそうだけどな」
 苦笑する優子に「本職にするのなら、まだ当分大丈夫」と亜璃珠は答えた後で、ふと思いついた。
「あそうだ。『くっ……こんな辱めを受けるくらいなら……!』って言ってみて、着ボイスにして若葉分校生に売るから」
「……? その台詞に何の意味がある? まあ、クリスマスや、メイドにされた時には、言いたかったかも。っと、妙な事に使うつもりなら、撮影も録音も許可できないッ」
 携帯電話を取り出した亜璃珠の腕をぎりりと掴んで、優子は阻止した。
「まあ、これでお前の気が済むっていうのなら、構わないけど、な」
 そう軽く笑った優子に、亜璃珠はため息をついた。
 事件の際に、優子が亜璃珠を利用する形になってしまった件のことを気にしているようだ。
「気持ちは嬉しいんだけどさ、やめてよそういう風に考えるの。
 アレはあなたが私を上手く使って見せた、いわば共同作業よ」
「うん」
「大体裏切りだの利用だの、そういうのを気にする関係なんて望んでない。
 全面的に信用する気もないし、嫌な事は嫌だって言う、喧嘩もしたいし、何より私が嘘をつきたくなった時がやりづらいわ。それでも好きだと思うのが、多分本物でしょ?」
「うん。それならいいんだ。ただ、亜璃珠に嫌な思いをさせたかもしれないと思ってな。あとは、自分は安全な場所に居て、キミを危険な場所に行かせた事に対しても、少しなんというか、自責の念があるというか……」
「まあ、そういうんなら、聞いてあげるわ。優子さんみたいな人の、そういうナルシズムを見るのは好きよ」
 そう言うと亜璃珠は持っていた絵馬を1枚優子に差し出した。
「それで私のご機嫌を取ってよ。でも嘘は書かないようにね」

 そして、亜璃珠自身も絵馬に自分の願い事を記した。出世、と。
「……って、優子さん、なにそれ」
 優子が書き終えた絵馬を見て、亜璃珠は眉を寄せた。
 その絵馬には、個人情報を隠すためのステッカーが張られていて、願い事までも隠されていた。
「亜璃珠が帰ったら剥がすよ。内容は叶ったら……いや、叶えてから話す」
「楽しみにしていていいのかしら?」
「どうかな。少なくても、叶ったら私は嬉しい」
「そう。それなら多分、私も嬉しいわね」
 くすっと笑みを浮かべて、亜璃珠は優子と一緒に絵馬をかけた。
「それじゃ、また学校で」
「ああ、今年もよろしく亜璃珠」
「ええ、今年も宜しく」
 優子は亜璃珠の晴れ着姿を、亜璃珠は優子の巫女装束姿を目に収めながら微笑み合った。