シャンバラ教導団へ

百合園女学院

校長室

薔薇の学舎へ

初詣に行こう!

リアクション公開中!

初詣に行こう!
初詣に行こう! 初詣に行こう!

リアクション


第20章 わいわいと

 1月7日。
 社会人は仕事に戻り、学生たちも新学期の準備を始めた頃。
「日本人は働きすぎだコノヤロー。休みが足らん、あと3週間くらいあったっていいじゃねーかコノヤロー。こうなったら、シャンバラの女王に直訴だコノヤロー」
「何貴様はまたアフォなこと言っておるんじゃ」
 シャンバラ宮殿に向かって歩き出そうとしたアキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)は、ぐあしっと、ルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)に襟首を掴まれた。
「正月くらいは小言をいわんでおこうと思ったが、そうもいってられんほど、貴様は今年もアホじゃのう!」
 ペシペシとアキラの背を叩き、ルシェイメアは空京神社へと彼を引っ張る。
 アキラは皆と葦原の神社で初詣を済ませたあと、こたつにみかんで、テレビを見ながら最強至福な正月を楽しんでいた。
 人一倍十分正月を楽しんだくせに、この発言だ。これはもう、休みがあるからアホなのだと言わざるを得ない。アホでいられないよう、勉学や仕事をさせねばならぬか……などと、ルシェイメアは考えながら、鳥居をくぐった。
「今日はあまり人いないネ。良かったネェ〜」
 普段はアキラの頭に乗っていることの多いアリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)は、今日はアキラではなく、ぬりかべ お父さん(ぬりかべ・おとうさん)の上に乗っかっていた。
 お父さんは身長が3メートル以上もあるため、ここにいれば迷子になる心配もない。逸れた時には、お父さんを目印に集合しようとも決めていた。
「んんん! 焼きそばの匂い! 出来たてかぁ! これはすぐにゲットせねばー!」
「これっ」
 屋台の方へ走り出そうとしたアキラの足に、ルシェイメアが足をかけた。
「ふぎょー」
 顔から地面に突っ込み、アキラは初転びを体験した。
「まずはお参りするのが先じゃ!」
 ズボンのベルトを掴んで、ルシェイメアはアキラを強引に引っ張る。
「あ、まって、ベルトが切れるー。大参事が起きるぞ、女の子達の初悲鳴が聞けるぞ!」
「サービスサービス、ダネ?」
「ぬ〜〜〜り〜〜〜か〜〜〜べ〜〜〜」
 アリスとお父さんは2人の様子を楽しそうに見ながら歩いていく。
 空京神社への初詣に皆を誘ったのは、お父さんだった。
 お父さんには妖怪の山に家族がいる。
 正月は妖怪の山に帰郷し、そちらで家族と初詣はしてきたのだが、アキラ達、もう一つの家族と、人間の神様にもお参りしておきたいと思ったのだ。
「ぬ〜り〜か〜べ〜」
 お父さんは体がとても大きいので、他の参拝客の邪魔にならないように、横歩きでゆっくり歩いていた。
 参拝客の数は多くはないが、その分、人々は一緒に訪れた者との会話に気を取られているようだった。
「お父さん、わき見をしている人、前から来るヨ〜。注意ネ」
 頭の上のアリスが、横向きのお父さんに変わり前方をよく見てくれている。
「賽銭は……うーん。お前、もう少し俺のもとに居たいか? それとも、神のものとなるか?」
 賽銭箱の前にて、アキラは小銭入れを開けて、小銭と会話して相談する。
「全部入れればよいじゃろ? 100円玉さえもないじゃないか」
 覗き込んで、ルシェイメアが言う。
「やっぱり縁起にあやかりたいからなー、よしお前に決めた!」
 結局アキラは5円玉を選んで、賽銭箱の中に投げ入れた。
 そして、鈴を鳴らして……。そこで気付く。
 何を願うか、決めてなかったということに。
「うーん……うーん」
 悩んでいるアキラのことは放っておいて、パートナー達はそれぞれ願い事を言っていく。
「アキラのアホがもう少しよくなりますように」
 ルシェイメアは真剣に願った。
「今年もみんなで楽しくワイワイ過ごせますヨーニ」
 アリスは、お父さんの上で目をつぶって願い。
「ぬ〜り〜か〜べ〜」
 お父さんは、家族の健康と、自分が今年一年無事に元気に働けるようにと、願った。
 そして。
「とりあえず、焼きそばを食べる」
 アキラはいまの気持ちそのままを言葉にした。
「……ご覧のとおりの症状なのじゃ。どうか頼む!」
 ルシェイメアがさらに真剣に、頭を下げて願う。
「皆で食べようネー」
「ぬ〜り〜か〜べ〜」
 とはいえ、アリスもお父さんも屋台に興味があるようなので。
「はぁ……仕方ない、正月だしのう」
 参拝の後の買い物については、ルシェイメアは大目に見ることにした。
「よぉーし、しかしその前に、やらねばならぬことがあるだろう!?」
「何?」
「ぬ〜り〜か〜べ〜?」
「おみくじだ! 焼きそばが美味いか、不味いか、御籤の結果で判断できるはず〜」
 そんなことを言い、アキラは巫女の元にかけていき、おみくじを引く。
 結果は……4人とも特別によくはなかったが、悪くはなかった。
 アキラ自身は、中吉だった。
「むむ、浮気に注意とあるな。焼きそばより先にたこ焼きにしようかと考えていたのが見透かされた気分だ」
 真剣に言うアキラを見て、ルシェイメアはため息をつく。
「ワタシのには、家族を大切にってアルヨ! 皆、今年もよろしくネ!」
 アリスが皆にぺこりと頭を下げると。
「おうよろしく!」
 アキラは手を上げて言い。
「うむ、今年もよろしく」
 ルシェイメアは頷きながら言った。
「ぬ〜り〜か〜べ〜」
 お父さんも笑顔をうかべて、頭を下げようとして。
「わわわっ」
「ぬ〜り〜か〜べ〜!」
 アリスを落としそうになってしまい、慌てて直立不動になった。
「お父さんの身体で初スベリも面白いかもネ!」
 アリスはそう言って笑い、アキラとルシェイメアも笑みを浮かべた。

 授与所を見て回り、アキラとアリス、ルシェイメアは気に入ったお守りを授かる。
「ぬ〜〜〜り〜〜〜か〜〜〜べ〜〜〜」
 お父さんは、山の家族の分もお金を納めて、お守りとお札を沢山授かった。
 それから。
「うん、おみくじ通り「中吉」な味だ!」
「ワタシにも頂戴〜」
 念願の焼きそばを頬張りながら屋台を巡って、食べたり飲んだり、だるまや招き猫を買ったり、夕方まで、思う存分楽しんだのだった。