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未来への階段

リアクション

(体調悪いの?)
 円はシスティ……シストにテレパシーを送っていた。
(なんか少しひょろくなったよね。ずっと寝込んでたからしょうがないけど)
 シストから返事は帰ってこない。
(おーい、おーい! 返事も出来ないくらい気分悪いんなら帰った方がいいよー)
 円はなんだか違和感を感じながら、テレパシーを送り続けた。
(……煩い。頭がガンガンするから、話しかけんな)
 しばらくして、不機嫌そうな返事が返ってきた。
(ん? ああもしかして、やっぱりアレ、別人?)
(まーな、そこにいるのは俺の影武者だ。そのうち一緒に出歩いてる姿でも見せて、システィとして俺が百合園に通っていたって噂は揉み消すから、お前も本当のこと広めんなよ)
 本物の彼は別の場所にいて、茶会の様子は、隠しカメラで見ているそうだ。
(うん、それはいいけど。キミ、もう百合園には来ないの?)
(卒業式には出たいと思ってる……自力で歩けるようになってたら)
(うわっ、調査でまた相当無理したんだ? 帰りは魔術師がテレポート使ったんだよね?)
(そうだが、俺もとんでもなく大きなものを持ち帰ったんで)
(大きなものって……救護船? でも壊れちゃったんじゃ)
(違う。誰 か さ ん の イ コ ン!)
(……は?)
(お前のイコンだよ!)
(ボク、持ってきてなんて頼んでないよ!)
(うちの庭に置いてあるから、後で取りに来い。ついでに見舞いにも来い!)
(見舞いに行ったら会えるの? てゆーか、どこにいるのさ)
(……知らん。誰にも会わせてもらえないし、自分がどこに居るのかもわからない)
 シストは現在、軟禁状態のようだ。
(もしかして、あの事件の後、家の人に相当絞られた?)
(……うん。けど、達成感があるし、瑠奈とも契約出来たし……これで良かったんだと思う)
(少しは自分に素直になった?)
(……)
(お姉さんは嬉しいな……って訳でもなさそうか)
 責任を感じてる面もあって、作業を急ぎたかったという感じだろうかと円は思った。
(まぁそれもいいけど、その後の情報とか、貴族の間で上がったりしてる?)
(何も聞かせてもらえない)
(そ、そうか)
 円は思わず苦笑してしまい、隠す為に顔を手で覆った。
(ま、何か解ったら聞かせてよ)
(いやこれ以上、お前達を危険なことに巻き込むつもりはない)
(あぁ、危険なのは解るけど、気になる性分ってやつだから仕方がない。
 だから、夏合宿での好奇心で縁とか出来たわけだしね)
 シストからの返事が届く前に円は立ち上がると、パッフェルの手を取ってシスティに近づいた。
「あのさ! ボク百合園卒業して、内外のゴタゴタが無くなったらパッフェルと結婚して、サバゲーショップ開こうと思ってるんだ」
 不思議そうな顔をしているシスティに、円は満面の笑みで交渉をする。
「んで、システィ貴族と仲いいでしょ? そこで、ステマ的に、貴族間にサバゲを浸透させる事できない? サロンにいって、狩猟より、いいものがあるみたいな」
「無理」
 きっぱりシスティは答えた。
「いやいや、出来る! 出来るって! どうしてそこで諦めるんだ!」
 ぺんぺんと円はシスティの肩を叩いた。
「まっ、考えといてー。
 期待しないけど、期待してるー。じゃ、また会えたらその時は遊ぼう」
 円は手を振って、その場を離れた。
 ……最後の言葉はシストにもテレパシーで送った。
(地球に居た頃、武器の訓練としてサバゲーよくやったな。地球に遊びに来た時には、勝負してやってもいいぞ)
 円の脳裏に、そんな生意気な言葉が返ってきた。

 七瀬 歩(ななせ・あゆむ)は後輩達とお茶会のセッティングを手伝っていた。
 そのまま、中高生の後輩達と一緒のテーブルでお茶を飲んでいた。
「白百合団は一般人だと対処できない学内の問題に対処する組織だったの。
 でも、政治的な問題とかで学外からの脅威から学院を守らなきゃならなくなって……そうやってる内に一般の人たちから怖い組織に映っちゃったのかな?」
 白百合団のことをよく知らない子達に、団のことを伝えたいと歩は思った。
「でも、あたしの眼からは全然怖い組織じゃなかったよ。
 どちらかっていうと、昔のパラミタの人が遺したモノの方が怖く見えたかも。いつ、知ってる人が死んじゃうかもって……」
「先輩の知っている人で、死んじゃった人いないのですか? 沢山戦いあったのに」
 それはシャンバラ人の少女の問いだった。
 彼女は生まれてから今までの間に、知り合いを何人も戦争で亡くしている。
「……うん、死んじゃった人もいるね」
「可哀相、です」
「ん……それはちょっと違うかな、皆信念持ってたし。
 でも、やっぱり後悔するんだ。あの時、違う選択をしてたらもっと良い未来があったんじゃないかって」
 歩の言葉を、少女達は真剣に聞いていた。
「あ、うーん、ごめん。重くなっちゃった。
 ええっと、色々失敗しちゃってる先輩から言えるアドバイスは……うーん。
 とりあえず、絶望はしちゃいけない、かなぁ。……あ、当たり前か、あはは」
 歩が笑い声をあげると、少女達の顔も少しだけ緩んだ。
「でも、経験上だと絶望した人が何かを起こしちゃう気がするんだ。
 だから、そういう人が少なくなるような世界を皆で作っていけたらなぁって思う」
「希望のある世界であってほしいですね」
「そう、そういう世界を、あたしたちで作っていくんだよ」
 それから、と。
 歩は思い起こしながら語っていく。
「印象に残ってることが一つあるの。
 危ない組織に学院が襲われた時、白百合団の人が壁になって学院を守ってて。
 手出しも禁止されてて厳しい状況だったけど、皆学院を守るのを諦めてなかった」
「その事件知ってます! 神楽崎元副団長や、崩城先輩、セリナ副団長たちが盾になって百合園を守ってくれたんですよね」
 それは白百合団が力で解決しようとして招いた戦いだった。
「うん、そう。あの姿を見てるから、身内びいきな目かもだけど、解体は勿体無いって思うかな」
「でも、今の白百合団は、百合園生を守るために、人を殺しちゃうんですよね」
 少女達の悲しげな言葉に、歩は「え?」と驚きの声を上げた。
「去年の事件お話し、聞いたんです」
「セリナ副団長の指示で、白百合団はダークレッドホールに突入したんですよね? そして百合園を守るために百合園生を傷付けて、幼い女の子を殺したって話……」
「このお話が、広まったら……私達、街の人たちに嫌われちゃうかも」
 既にその話は、百合園生、そして町の人々、世界へと広められ始めていた。
 白百合団員の統率がとれていないと思われる行動は、すべてロザリンドの命令によるものだったと、歩も聞いていた。
 ダークレッドホールの先の世界で起きたことは、曖昧にしか知らされていない。
 後輩達が聞いた話が真実なのか、歩には分からなかった。違うとも言い切れない……。
「……決めるのは皆だよ。もし白百合団が無くなっても、その精神がなくなるわけじゃないしね」
 歩が後輩達にそう言うと、皆不安げな表情で頷いた。

 臨時生徒会が終わった後。
 総会で演説に耳を傾けていた橘 美咲(たちばな・みさき)は、茶会には出席せず、茶会に招いていた相手――ファビオ・ヴィベルディ(ふぁびお・う゛ぃべるでぃ)と、会場とは少し離れた場所で話しをしていた。
「私はダークレッドホールの事件を通じて白百合団の組織としての限界を感じました。私達の力不足のせいで犠牲が出てしまったからです。
 ……それを仕方がなかったという人も居るでしょう。
 でも私は自分に言い訳出来ません。
 私達はもっと死んでしまった人達に真摯に向き合うべきだと思うんです」
 揺るぐことのない真剣な目で、美咲は言葉を続けていく。
「……あの戦いの中で、小さな女の子が死にました」
 ファビオは口を挟まず、美咲と同じように真剣な目で彼女を見ていた。
「それも本人の罪ではなく、彼女のパートナーを止める為にです。
 私はその子を手にかけた人を責める気にはなりません。
 でも、そうせざるを得なかった私達の弱さ……白百合団の弱さは責められるべきだと思っています」
「学生の組織である、君達が責任を感じる事ではない」
 ファビオの言葉に美咲は首を左右に振る。
「小さな女の子を犠牲にしなくてはいけなかった私達。
 そのような犠牲を今後生み出さないような『強さ』を私達は追いかけるべきです」
 はっきりとそう言い、美咲は臨時生徒会での瑠奈や演説者の話をファビオに話した。
「風見団長の「百合園警備団」は従来の白百合団に比べると学院外との繋がりが強くなります。
 ダークレッドホールの事件の際は学院外の多くの人に助けられました。
 そうした学院外の人々との協力体制を百合園警備団の発足で構築出来るのなら、私は風見団長の考えに賛同です。
 そしてその活動を支えていきたいと思います」
「キミがそうしたいというのなら、俺は応援するだけだ。でもどうして、その話を白百合団の仲間ではなく、俺に?」
「それはファビオさんにもその警備団に協力してほしいからです」
 美咲の言葉に、ファビオは軽く眉を寄せた。
「ラズィーヤ様との関係で色々仕事を頼まれることはあるでしょう。それを止めろとは言いません」
 真剣な目で、美咲はファビオを見つめ続ける。
「でも、ファビオさんさえ良ければ、これからは私と一緒に、戦ってくれませんか?」
 ……しばらく、美咲とファビオは真剣な顔で見つめ合っていた。
 先に表情を崩したのはファビオの方だった。
「百合園警備団は女性のみで結成されるそうだ。俺は警備団の一員として加わる事は出来ない」
「そうですか……」
「だけど、警察発足時には、国軍を離れて警察の方に所属することになると思う」
 それからファビオは微笑んでこう続けた。
「美咲ちゃんたちを見守れる部署に配属してもらうよ」
「はい。私もファビオさんを見守ります」
 美咲の表情から硬さがとれていき、ファビオの表情に安堵が生まれる。
 ファビオは美咲の頭を1度だけ撫でると。
「それじゃ、ラズィーヤさんに報告にいくから」
 そう言い、帰っていった。
 その後、美咲は茶会に顔を出して、仲間と友達と他愛もない話をして過ごした。
 決意を胸に秘め、普段通りの元気いっぱいな笑顔で……。