リアクション
化学工学科のキャンパスで発生した事件に関わった者のうち、まだ何人かはパラミタに戻れず、地球の病院に入院していた。 ○ ○ ○ 「……っ……ここはどこ……」 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は、見知らぬ部屋の中にいた。 真っ白な天井に、真っ白な壁。 ベッドを覆うカーテンに、ブザー……。 どうやら病室のようだ。 (なんでこんなところに……? ええっと……地球の大学に見学にいって……) 全身に痛みがあって、起き上がることもできない。 事故にでもあったのだろうかと、眉間に皺を寄せながら考える。 「う……痛い……」 小さなうめき声を上げた時。 「……セレン、目を覚ました……戻ってきてくれたのね……」 買い物袋を手に現れた人――大切な恋人の、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は涙ぐんでいた。 セレアナは事件後、セレンフィリティがこの病院に運ばれてからずっと、つきっきりで看病をしていた。 「セレアナ……あたし、どうしたのかな?」 不思議そうに問うセレンフィリティに、セレアナは事件のことを話して聞かせた。 テロリストに襲われた時。 セレンフィリティはガスを吸わされ、朦朧とした意識の中で抵抗をしたため、テロリストから暴行受けたそうだ。 セレアナが彼女を発見した時、セレンフィリティは酷い怪我をしていた。 発見が遅れていたら危なかったかもしれない。 「……また、心配かけちゃった……なんか……また助けられちゃったわね……」 話を聞いたセレンフィリティは、ため息をついて呟く。 「あたし、なんだか弱くなっちゃった……」 セレンフィリティの言葉に、セレアナはただ首を左右に振った。 セレンは何も悪くない、というように。 「それで、セレアナと一緒に救助活動に当たった人や、ロイヤルガードの神楽崎隊長は?」 「皆無事よ。神楽崎隊長はまだ回復に時間がかかりそうだけれど、あとの皆は、殆ど退院したわ」 優子の下に、代わる代わる見舞い客が訪れていることも、セレアナは話していく。 「この間は病室に幼児化した契約者が沢山来ていて、楽しそうだったわ」 「幼児? なんで?」 「実際は、神楽崎隊長の仲間や、友達なんだけれどね。先日、契約者の遠足が行われたのよ」 契約者としての能力を一時的に抑える薬として、幼児化、動物化する薬が与えられ、契約者達は子供の姿で地球への遠足を楽しんだそうだ。 セレアナがそう説明をすると。 「あたしもこんな怪我しなければ参加したかったな」 とっても残念そうにセレンフィリティは言った。 「……セレアナの子供の頃ってどんな子だったか見てみたい」 「写真で見れるでしょ」 「生で見たいのよ生で、一緒に遊んだりできて……楽しかっただろうなあ。いいな、みんな」 起きあがることも出来ない状態なのに、セレンフィリティの瞳は活き活きとしていた。 そんな彼女の姿に、セレアナはほっと安堵の息をついた。 「あたしも子供の頃に戻ったら、今度はどこか別の学校へ入って青春やり直そうかな……少なくとも教導団卒業程度の学力はあるから。楽して優等生になれるし、また美少女に戻れるし」 「まったく、何を……」 セレンフィリティの言葉に、セレアナの表情が苦笑に変わる。 「少女ではないけど、今でも十分すぎるくらい美人なのに」 「そう? あああ、でも体が動かなくて鏡を見ることもできないー」 「ふふふ、少しの辛抱よ。意識が戻れば、直ぐに回復するだろうって医者も言っていたから」 「直ぐって明日? ご飯食べたら元気になる?」 「子供のようなこといわないの。もう」 2人は顔を合わせて笑い合った。 そして。 「セレアナ」 セレンフィリティがセレアナを見つめた。 「ん?」 「……助けにきてくれてありがとう」 愛しい人の言葉に、セレアナはただ首を縦に振った。 言葉を出したら、感極まって泣いてしまいそうだった。 眠り続けているセレンフィリティを見ているのは、とても辛かった。 もしこのまま、目を覚まさなかったら……と最悪なことばかり考えてしまって、怖くて仕方がなかった。 「……」 涙をこぼしたらまた、彼女の涙も誘ってしまうかもしれないから。 セレアナは言葉を飲み込んで、自分を落ち着かせてから。 「それじゃ、消化に良い食べ物、頂いてくるわ……大人しくしていてね」 “もういなくならないで、お願い” そんな切実な想いを込めた言葉を、目を細めて言った。 |
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