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リアクション
第2章 今年の華
久しぶりに百合園女学院を訪れた高原 瀬蓮(たかはら・せれん)とアイリス・ブルーエアリアル(あいりす・ぶるーえありある)は、たちまち旧友達の歓迎を受けた。
楽しそうに、懐かしそうにおしゃべりしている二人の姿に小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)も嬉しくなる。
「百合園の人達も再会を喜んでるみたい。よかったね」
コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)の呟きに美羽は頷く。
その時、ステージのほうから音合わせをするギターの音が聞こえてきた。
「瑛菜ちゃん、始めるのかな。……おーい、瀬蓮ちゃーん!」
美羽はすっかり囲まれている瀬蓮のもとへ駆けた。
ステージ前の一番良い場所で、コハクとアイリスはパラ実軽音部のライブを見ていた。
リズミカルな曲に自然と体が揺れてしまう。
アイリスを慕う百合園生達は彼女の手を取り踊っているし、アイリスも楽しそうに合わせていた。
コハクも一緒に来た種もみじいさんらに手を取られ、思うままに踊っていた。
コハクがステージを見上げると、軽音部を盛り立てるダンサーとして参加している美羽と目が合った。
明るい笑顔に、コハクも笑みを返す。
美羽は夏っぽい柄のミニスカワンピで、リズムに合わせてくるりくるりと軽やかに回った。
その反対側では瀬蓮がタンバリンを叩きながら、少し恥ずかしそうにステップを踏んでいた。
美羽に誘われたのだ。
瀬蓮も夏っぽい柄のミニスカワンピで、美羽と対になっていた。
瀬蓮と目が合ったアイリスが軽く手を振ると、瀬蓮はタンバリンを鳴らして応えた。
そして、美羽と瀬蓮が目で合図を交わしてタイミングを合わせてその場でくるっと回った。
丈の短いワンピースの裾がひらりと浮き──。
「ふぉおおおおお! 瀬蓮ちゃーん! 美羽ちゃーん!」
「もうちょい、もうちょい〜!」
種もみじいさん達と女装パラ実生がステージ際に詰め寄り、ギリギリ具合に興奮の叫びをあげた。
いつものことだが、どんなに姿勢を低くしても聖域は見えない。
頭を抱えるアイリスに、コハクは同情の目を向けた。
「何か……大変だね」
「君もね。美羽は君の妻だろう」
「ええ。でも、あれが美羽だから」
「瀬蓮も楽しそうだし、まあいいかな」
本当にオイタが過ぎる者が現れた時は、容赦なく鉄拳制裁だ。アイリスの龍顎咬と美羽の蹴り技が不届き者を滅ぼすだろう。
ふと、ステージの演奏の音と照明がしだいに小さくなり熾月 瑛菜(しづき・えいな)が進み出る。
「もうじきお待ちかねの花火があがるよ! 一発目を見逃すな!」
そして始まるカウントダウン。
──3、2、1……
ドーン!
パッと咲いた大輪の花火の直後、合わせるように再びステージが照らされドラムとギターの音が鳴り響く。
美羽と瀬蓮は、打ち上げられる花火に合わせて飛び跳ねた。
時には瑛菜を挟んで三人でジャンプする。
いつしか瀬蓮の動きから固さがなくなっていた。
「すっかり慣れたね、瀬蓮ちゃん」
「そうかな? すごく楽しいからかな。ね、美羽ちゃん」
「やっぱり楽しんでこそだよね。でも、疲れたら言ってね」
「まだまだ大丈夫だよ。花火と一緒にステージで踊るなんて、滅多にないことだもん」
二人は微笑み合うと、瑛菜にもう一曲とリクエストした。
花火を背景に軽快に踊る美羽と瀬蓮の姿を見て、コハクの胸に幸せが広がる。
ステージから帰ってくる二人は、きっと喉がからからに乾いているだろう。
その時は、さっぱりとした冷たい飲み物で出迎えようと思った。
「花火、もうすぐはじまりますよー。そろそろ、屋上に向かってください」
「屋上でも、食べ物ご用意してありますので、運営テントへお寄りくださいませ」
レキと受付の百合園生達が、屋台に寄ろうとしている人々に声をかける。
花火開始まで、あと数分。
「今から来るやつなんていねーだろーし、一緒に見に行こうぜ」
若い男の子のグループが、近づいてきた。
「ボクはここからで十分。花火の他に見なきゃいけないものもあるんだ」
レキはそう答えて、誘いを辞退した。
(平和なイベントだからこそ、壊しに来る人がいるかもしれない)
考えたくはないことだけれど、まだ生徒会役員である自分は、警戒を解いてはいけないのだ。
学院や友達のために。
ドーン!
パーンパパパーンパーン
最初の花火が空を鮮やかに染めた。
(皆が楽しんで帰れますように。
素敵な、思い出を作れますように……)
そう祈りながら、レキは校門から花火を観るのだった。
「はーいどうぞ。沢山食べて大きくなってね」
ルカルカは、花火開始直前まで、お菓子を配って回っていた。
「ん、これは……美味しいですぅ。手作りですねぇ、魔法学校のおやつにするですぅ〜!」
クッキーにチョコレートをまぶしたお菓子を食べたエリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)が歓喜の声をあげた。
「そんなに美味しい? 嬉しいな〜。頑張った甲斐があったわ」
「おい」
鼻高々に言うルカルカに、ダリルのツッコミが入った。
「ダリル作ですねぇ、当然ですね〜」
「なにその反応……ルカだって作れるんだからね」
エリザベートの反応に、ルカルカは軽く膨れた。
「ほら、花火始まるぞ」
「あ、そうか。始まる前に、配っちゃわないと」
それじゃまたねと、エリザベートに手を振ると、ルカルカはエリザベートが敵対心を抱いていた環菜や、縫いぐるみと一緒に来ているメルメルにも、お菓子を配っていった。
そして花火開始直前に一旦、姿を消して。
テントで片付けをしているダリルの下に、ルカルカは購入した飲み物を持って戻ってきた。
「ダリル……ありがとう」
素直な感謝の気持ちとともに、飲み物を彼に渡す。
「……ああ」
こちらこそ。
言葉には出さなくても、ダリルの気持ちはルカルカに届いている。
花火開始少し前。
百合園校門前の屋台が落ち着き始めた頃。
「すみませ〜ん。3枚クレープをくださ〜い」
若葉分校庶務のブラヌ・ラスダーが仕切るクレープ屋を訪れたのは、彼の妻である牡丹・ラスダー(ぼたん・らすだー)だった。
「牡丹、クレープ3つも食うのか……いや、ダチと食うのか。そんな、可愛い格好して」
少し寂しげな声で言い、ブラヌは悪友たちと注文されたクレープを作っていく。
先ほどまでは普段着だった牡丹だが、今は浴衣を纏っている。
ブラヌは背と胸に「祭」とでかでかと書かれたハッピ姿だ。
「屋上の方はどうだ? 盛りあがってるか」
「ええ、ステージで歌や踊りを披露してくださる方々がいまして……あ、ここまで少し音楽が聞こえますね」
屋上から響いてくる音は、この辺りまで届いていた。
そろそろステージはクライマックス……そして花火が始まるはずだ。
牡丹は今まで、屋上で音響設備やライトの整備と調整を手伝っていたのだが……。
「はい、まいどあり〜」
代金を受け取り、若葉分校生が牡丹に箱に入れたクレープを3つ、差し出した。
「ありがとうございます。箱はいらないです……」
牡丹はクレープを一つずつ手に取ると。
「はい、あ〜ん」
「ん?」
「はーい、あ〜ん」
「は?」
ブラヌの悪友たちの口に、入れていった。
「それじゃ……ごめんなさい! ブラヌさん、借りていきますね!!」
そして、ブラヌの手を掴むと、屋台から引っ張り出してクレープ片手に連れていくのだった。
「牡丹、あんま他の男にああいうことをだな……」
「ブラヌさんも、あ〜ん」
歩きながら、ちょっと不満そうな顔のブラヌの口にもクレープを入れて。
「んっ」
「ふふっ」
顔を近づけると、反対側をかぷりと食べて、牡丹はニコッと笑みを浮かべた。
「なんだよ、もう……。い、行こうぜ!」
ブラヌは赤くなって、自分の方から牡丹の手を掴んで、屋上へと歩き出す。
「ブラヌさん、こちらです。奥の方ですが、人が通らない場所ですので」
牡丹が確保しておいた場所は、所属関係なしのスペースの奥の方。
そこに2人分の、大きめなシートを敷いてあった。
「ちょっと行儀が悪いんですが」
言って、ブラヌの手を引っ張りながら、牡丹はシートの上に横になった。
「こうやって仰向けに寝転がって、空を見上げる形で花火を観ると、いつもとは違った感じで花火を楽しむ事が出来るんですよ!」
牡丹がそう言った途端、パーンパパパーンパーンと、最初の花火が打ちあがった。
「お、始まったな!」
ブラヌもごろんと牡丹の隣に横になり、空を見上げる。
パパーン、パーン
「おわっ」
空に咲いた花を見て、ブラヌが驚きの声を上げた。
「凄いですよね……なんて言いますか……こう、打ち上がって咲いた花火が自分達の方へ降り注いで来るような……そんな迫力があります!」
パーン、パパーン
「ほんと、すげぇ……」
迫力に息をのみ、ブラヌは花火を観ていた。
2人は自然と手を重ねて、繋ぎあって。夜空の、花の中に誘われ吸い込まれていくような感覚を受けながら、不思議な空間を互いだけを感じながら楽しんでいく。
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