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黄金色の散歩道

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空中散歩
 
 
 イルミンスールの森。
 ザンスカールにあるハルカの家に、今日も樹月 刀真(きづき・とうま)漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)は遊びに来た。
「ハルカ、こんにちは」
 玄関の扉を開けて出迎えたハルカを、月夜は、いつものようにぎゅっと抱きしめる。
「いらっしゃいませ、なのです」
 ハルカも嬉しそうに抱きつき返した。
「お前、会う度に抱き着いてるな……」
 少し呆れ気味の刀真に、月夜はハルカを見下ろした。
「ハルカ、嫌じゃない?」
「嫌じゃないのです」
 挨拶にハグをすることに嫌悪は無い。
 トオルも会う度ハグして来るし、親しい人とのスキンシップは嬉しい。
 よかった、と月夜はほっとした。

「相変わらず元気そうだな、安心した。勉強は頑張っているか?」
 ハルカの淹れたお茶を飲みながら、刀真がそう訊ねると、ハルカははいっ、と頷いた。
「頑張っているのです。古代語は難しいですけど、はかせにも教えて貰ってるのです」
「古代語?」
「ハルカの先生は、古代魔法の先生なのです」
 古代魔法を理解する為には、古代語を理解することは必須だ。
 ハルカはくすくす笑って声をひそめた。
「でも、はかせの字は、読むのが大変なのです」
 家で自習するハルカに付き合うオリヴィエが、教科書にメモをしてくれることがあるのだが、その悪筆ぶりと言ったら、学校でそれを見たハルカの師が顔を顰めた程のものだった。
「そういえば、箒が使えるようになったんだったな。
 ハルカ、一緒に空を飛んでみようか。きっと気持ちがいいぞ」
「賛成なのです!」
 丁度、出したお茶も飲み終えた。三人は空の散歩へ出掛けることにする。


 ハルカがイルミンスールの入学祝に黒崎 天音(くろさき・あまね)から贈られた『ハルカのスズメ号』は、スピードと小回りの利く箒だが、ハルカはイルミンスールの森の、巨大な木々の間を縫うように、ゆっくりと飛ぶのが好きらしかった。
 月夜を乗せた刀真の小型飛空艇が、ハルカに併走する。
 暫く森の中を飛んだ後で、一気に上昇し、森の上へと高度を上げた。
「ふふ、気持ちいいね、ハルカ!」
「はい!」
 背後から刀真にぎゅっとしがみ付いていた月夜だが、刀真の後ろでは景色が見えにくい、と立ち上がる。
「月夜、危ないぞ」
「え? ……刀真のエッチ!」
 危ないということは、見える、ということか。月夜は片手でスカートを押さえた。
「はっ? エッチじゃねえよ! 普通に危ないだろうが!」
 何か誤解をしている月夜に、刀真は言い返す。
「違うの? じゃあ大丈夫だよ、刀真が私の危なくなるようなことをするわけないもん」
 断言する月夜に、刀真は肩を竦めた。
「はいはい、仕方ないな……ちゃんと掴まってろよ」
「うん!」
 月夜は立ったまま、刀真に背後から抱きついて、彼の首に腕を回す。
 こうしていれば、安心だ。――いつでも、どんな時だって。
「こら、腕を回して来るな、操縦できないだろう」
 口ではそう言いながら、刀真も拒絶していない。
 少しのこそばゆさと、心地よさ。互いへの想いに浸りつつ、のんびりと空を飛ぶ。

 陽が傾き始めたところで、三人は地上に戻った。
「楽しかったのです」
「また行こうね。今度は別の場所でも飛んでみようよ」
 月夜がそうハルカを誘う。
「夕飯には、博士やアイシャも誘おうか?」
「素敵」
 刀真の提案に、月夜も賛成した。
「聞いてみるのです」
 ハルカは携帯電話を取り出す。
「皆で食べる方が、きっと美味しいね」
 ぎゅっ、と刀真の腕に月夜が抱きついた。
 その心地よい重みと柔らかさ、甘い匂いや可愛らしく甘える仕草に、刀真は湧き上がる愛しさを感じる。
 この想いを伝えたい。
 そっと頭を撫でると、刀真を見上げた月夜は、嬉しそうに笑った。