シャンバラ教導団へ

百合園女学院

校長室

薔薇の学舎へ

別れの曲

リアクション公開中!

別れの曲
別れの曲 別れの曲 別れの曲 別れの曲 別れの曲 別れの曲

リアクション



【不変】


 蒼空学園にほど近い場所に建つ一軒の定食屋『あおぞら』。
 書き入れ時を過ぎ閑散とした店内に、仲間達の聞き慣れた声が響く。
「ジゼルさんイェーイ!!」
「イェーイ!!」
「ミリツァさんイェーイ!!」
「はいはい、いえーい」
 次百 姫星(つぐもも・きらら)とジゼルとミリツァ。何時ものやり取りを終えると、姫星は勝手知ったる様子でカウンター席へ腰掛け、メニューも見ずにジゼルを見上げた。
「まずは、日替わり定食お願いします」


「――成る程、来年の話ですか」
「うん、そうなの」
 カウンターの向こう側から出来上がったばかりの料理が乗った盆をテーブルに乗せ、ジゼルは姫星に頷く。
 話題はミリツァの蒼空学園入学に始まり、ハインリヒの空京大学修士課程の修了、プラヴダのキアラ・アルジェント(きあら・あるじぇんと)の地球の軍学校への入学と流れて行く。
「プラウダの方々にとって、来年は節目の年になりそうですね」
「うん、ハインツは何も変わらないって言ってくれたけど……」
 それはあくまで自分を心配させまいとする彼の気遣いであると、ジゼルは知っている。命有るものは成長し、またそうでないものは劣化し、そしてどちらもやがて朽ちる。
 ジゼルが飛び出して行った海の外の世界には、不変なるものなど存在しないのだ。彼女もこの世界のそれが魅力だと感じているのだが、どこか寂しく思う事もあった。
「姫星は?」
「私ですか?」
「うん、姫星は来年何かある?」
「えっと、実はですね……今年『建前上』パラ実を卒業しました」
「おお〜っ!」
 全然知らなかったと拍手をしながら感嘆するジゼルに、姫星は照れくさそうに笑う。
「……もっとも、パラ実っていつ入学したか卒業したか中退したか不明な人だらけですけど。
 なんたって波羅蜜多実業高等学校ですから。
 何だかんだで、あの自由な感じが気に入ってるので当分はそこにいるつもりです。
 バイト三昧の生活も相変わらず。結局、今まで通り変わりませんね」
 ――変わらない。
 そう言われてジゼルはふっと溜め息をついた。思い出しているのは勿論あの事だ。
 姫星もそれを察して、ジゼルに微笑みかける。
「キアラさんとのお別れは悲しいですけど……今生の別れって訳じゃないですから、夏休みくらいにまた会えますよ」
「そうね……」
 元気づけようとする優しさを受けた表情が俄に和らぐと、姫星は何時ものように真っ直ぐな表情で友人へ言う。
「人は出会いと別れを繰り返して成長するって言います。
 次に会った時に、自分が成長した姿を見せてギャフンって言わせるくらい頑張らないとですよ!
「……そっか変わらないから、自分も変わって行けばいいのね」
「はい! じゃないと、キアラさんの成長ぶりにギャフンって言わされちゃいますからね」
「ぎゃふんね! 分かったわ! 私、精一杯頑張るわ!!」
 互いに向き合いながら両手で造った拳を握りしめる二人を横目に見て、ミリツァからは笑みが零れている。
「そうですよ、そのいきですジゼルさん! それに、新しい出会いもありますよ。
 ミリツァさんはもちろん同い年のお友達が出来る訳ですし、プラウダやこのあおぞらにも新しい人が来ますからね」
「そっかーそうよねー……」
 カウンターに両肘をつくジゼルの調子は、姫星のお陰ですっかりいつも通りに戻っている。
 いつも通り。それで姫星も思い出した。
「ジゼルさんは先輩になって……ん? あれ? ちょっと待ってください?
 ジゼルさん……来年、高等部卒業して大学部進学じゃないですか?
 あの魔改造された学校のプールで泳がされたの2年前の事ですから、留年していなければ今年3年生のはず」
「はい、留年してないよ。ジゼルさんは来年大学部です!
 人妻女子高生から、人妻女子大生への、華麗なるランクアップ!!」
 誰から得た知識なのか分からないあまりよからぬ単語を並べてふんぞり返り自慢するジゼルに、今度は姫星から「おお〜っ!」と感嘆が飛び出る。
「ミリツァさんだけでなくジゼルさんもお祝いしないとですね!」
「それって素敵だわ! ケーキも焼きましょう!」
 ぱちんと掌を合わせると、そのタイミングでカウンターに入って来たミリツァが
「おばかさんねぇ、お祝いされる自分が焼いてどうするのよ」と呆れた声を出す。
「でもケーキ、ケーキ食べたい〜っ」
「そんなものあのお料理侯爵と奥様にでも任せておけばいいのよ」
「いいですねー。あ、私今のバイト先でお菓子社割で買えるんで持って行きますよー」
「それじゃそれじゃ、他のお友達も呼んで良い?」
「主役なのだから好きに為さい――」
 会話と笑顔は続いて行く。
 不変なる物など有りはしない。けれどきっとこの友情は永遠に――