リアクション
○ ○ ○ ○ 一足先に廃屋に向かったパラ実のナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)は、普通に玄関から訪ねて、いい情報を仕入れたから自分も仲間に入れて欲しいと、持ちかけた。 「どんな情報だ」 広い部屋に通されたナガンはこの場所に相応しくはない黒い豪華な椅子に腰掛けた男と対面する。 「百合園女に狙われてるんだろ? 白百合団に関するいいネタがあるんだ」 ナガンは亜璃珠から聞いていた白百合団の情報を当たり障りのない範囲で、男達に話していく。 ……この部屋の中には、男が4人、女が1人。何れもヤクザ風の格好をしている。 綾と共に写っていた偽の怪盗舞士はこの場にはいない。 「……なるほど、嘘ではないようだ。ここの活動についてはどれだけ知っている?」 「武器や薬の密交易ってとこか? 人間の売買もやってたりしてな。混ぜてくれよ」 ナガンはへらへらと笑って見せる。 と、その時。 「本日はぁ、お招きくださってマジありがとございますぅ。リリナでーす!」 女性の声が響き、黒椅子に腰掛けている男の傍に控えていた者のうち、男女が対応に出る。 しばらくして、両手をつかまれ、一人の女性が連れてこられる。 派手な化粧。胸の開いた真っ赤なミニスカートのドレス。……水商売の女のように見えた。 「彼女、ナガンのダチで便利だから入れてほしいっすよ旦那ぁどうっすか? どうっすか?」 「サービスしますよぅ、全力で尽くしちゃいます」 艶かな微笑みを見せる女性――雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)の前で、黒椅子に腰掛けた男は腕を組み、こう言った。 「……で、この女が百合園女ではない証拠は?」 「見ての通りじゃないかと」 ナガンは笑みを消さない。 「例えば、だ」 男は軽く笑みを浮かべると指で合図をし、リナリエッタを自分の方へと連れてこさせる。 「俺らが百合園をターゲットにするのなら、百合園に仲間を潜入させることも考えるだろう。無論、百合園生らしい格好をさせて、だ。それと平行して、白百合団のメンバーを捕らえる、もしくは誘惑し仲間に引き込み情報を得ようとするだろうなぁ」 にやりと笑みを浮かべて、男はリナリエッタの顎に手を当てた。 「名前と所属を聞こうか。調べ上げて百合園と関係がないようなら、自由にしてやるが――」 「!?」 男が再び合図を出すと、リナリエッタを掴んでいた男女は彼女を縛り上げていく。 「それまでは、人質だな。下手なことをしたら、ダチの首が飛ぶぜ? ナガン」 男の言葉に、ナガンは笑みを消さない。 「しゃーないっすね。ま、手荒なことはしないでくれよ」 心の中で舌打ちしながらも、面白くなってきたとも思う。 奴等はナガンが持ち込んだ白百合団の情報を既に全て知っているようであった。 早河綾は白百合団に所属する百合園女学院の生徒だ。 彼女を取り込み情報を得ていた彼等に、似た手段が通じると考えたのは浅はかだったようだ。 その後、ナガンは使い走りや、廃屋前の見張りを任されていた。 行動は2人1組で行なうため自由は制限されていたが、トイレの中で短くメールを打つことくらいは可能だった。 買物から戻ったナガンは、相方と共に屋敷の見張りにつくことになる。 商談中な為、屋敷に誰も近づけるなと命令を受けている。 商談に現れた相手が誰であるのかは、ナガンには分かっていた。 「センパイ、腹減りましたね〜」 相方と適当に会話をしながら、進展を待つことにする。 「生憎これは商品ではありません。私の個人的なペット達です」 黒いスーツに黒いネクタイ姿の譲葉 大和(ゆずりは・やまと)は、隣にいる女性2人をそう紹介した。 ヴァイシャリーでクラブの営業を始めるため用心棒を雇いたいという商談に対し、相手は悪くない反応を示した。共に訪れた女性2人――羽高 魅世瑠(はだか・みせる)とフローレンス・モントゴメリー(ふろーれんす・もんとごめりー)にも反応を示してくる。 魅世瑠は、ドレープとスリットが多数入った黒ラメ入りシースルーロングドレスを纏っており、フローレンスは1サイズ下のミニミニスカートと、露出度の高い魔改造百合園風偽制服に、黒チョーカーとリードで変装をしている。 「ですが……貴方様が御気に召されたのであれば話は別です。商談さえ成立すればあとは……ふふふ、お分かりですね?」 「ご主人様のペットの牝三号ですわ」 「私は牝二十八号ですの」 魅世瑠とフローレンスは大和にしなだれかかりながら、艶やかに微笑んだ。 「ふっ、なかなか上手いことを言う。だが、白い子猫に嗅ぎ回されているようでね。契約は必要最低限で結構だ」 大和の向かいに座る男は――写真に写っていた偽怪盗舞士であった。 「失礼します」 そして、応接室に現れ茶を出した女性にも、見覚えがある。 変装してはいるが、早河綾と思われた。 3人は反応を示さず平静を装う。 商談は大和に任せて、女性2人は茶を出し終えた少女の腕を艶かしく掴んだ。 「貴女、こちらの旦那様好みの『女』になりたくはなくて? 私ならそれを可能にしてみせますわよ」 魅世瑠が、綾と思われる少女に話しかける。 「貴女が羨ましいわ、だってご主人様が紳士ですものね」 フローレンスが言った途端、ピシッと魅世瑠に露出した足を叩かれる。 「痛っ、ごめんなさい三号様」 フローレンスは涙目になりながら、言葉を続ける。 魅世瑠演じる「牝三号」にご主人様好みに躾けられている最中という役回りなのだ。 「でも三号様は貴女をどんな殿方の好みにも育てる腕の持ち主よ」 少女は戸惑いの目を見せる。……写真に写っていた時とは違い、彼女の目は悲しみを帯びていた。 前に座る男性への愛情は感じられなかった。 「今晩私の屋敷に皆様を招待して、女の子を呼んで接待したいのですが、何人必要ですかね? 他にお仲間がいるなら、後日改めて招待したいので全部でどれ位必要でしょうか?」 ガードが固いと思いながらも、大和は人数を探ってみる。 「三千くらいかねぇ」 言って、目の前の男は軽く笑った。 「招待は結構。店に行った際にはサービスしてくれるんだろ?」 「ええ、勿論です。流石に三千はおりませんが、将来的にはそれくらいの規模にしたいものです」 大和はにっこり微笑んだ。 「で、金額や人数ですが……」 そして、慎重に内心を顔に出すことなく商談を進めていく。 「この子も今、躾けているところですの。貴女も私の腕にかかれば、この端麗な旦那様に似合う女性になれましてよ?」 「ええ、貴女も必ず」 魅世瑠とフローレンスは男を間接的に褒めながら、綾の引きとめを続けるのだった。 |
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