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狙われた乙女~ヴァイシャリー編~(第2回/全3回)

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狙われた乙女~ヴァイシャリー編~(第2回/全3回)

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第4章 廃墟

 百合園女学院生徒会執行部、通称白百合団の副団長である神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)、及び彼女達の呼びかけで集まった仲間達は、作戦会議を行なうために公共施設の会議室を借りた。
 本来、作戦会議の際には団長の桜谷鈴子を中心に行なうのだが、今回は少しでも早く現場に向かった方がいいだろうという優子の判断により集まったメンバーだけで相談が行なわれることになった。
「全く……見ていられませんわ。その意気だけは結構ですけれど、もう少し冷静さとご自愛なさる事を覚えません?」
 溜息交じりに白百合団の崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)が言う。
 というのも、作戦を立てる為にここに引っ張ってきたのは副団長の同行者達だ。
 優子はメンバーが集まり次第、ろくに作戦も立てずに廃屋へ出発しようとした。
「鈴子にも以前はよく言われたが、それは難しい提案だよ、亜璃珠」
 優子が苦笑しながら席につく。
「不用意な行動でウチの生徒の被害を出したくありません。綾さんや不埒者に関して他に判っていることはありますか?」
 白百合団のステラ・宗像(すてら・むなかた)が優子に問いかける。
「先ほど電話で鈴子――団長から聞いた話だが、友人と綾について調べていた生徒からの情報によると、怪盗舞士を語っていた男は、ヴァイシャリー以外の街で、犯罪行為を繰り返していたヤクザの幹部に似ているという噂があるそうだ。それが本当だとしたら、想像以上の相手かもしれない」
 それは百合園生の笠岡 凛(かさおか・りん)が白百合団に提供した情報だった。
 イルマは軽く眉を顰める。
「ヴァイシャリー以外の街、幹部……ですか」
「……話、聞いてて、優子お姉ちゃんは真面目で凄く良い人だと思った。だから神狼も協力するよ。だけどね、前だけ見てたら危ないよ。自分だけ危ないならともかく……人を率いる人は、他の人も一緒に巻き込んじゃう」
 教導団の月隠 神狼(つきごもり・かむろ)が、虎堂 富士丸(こどう・ふじまる)と共に会議室に入り、白百合団と向かい合って腰かけた。
 そして、白百合団や集まった人達を見回す。
「……ん、でも、優子お姉ちゃんは大丈夫かな? だって、良い友達いるみたいだしね。ごめんね、偉そうなこと言って」
「いや、ありがとう」
 優子は神狼に礼を言い、少し困った様子でこう話した。
「小さな事件であっても、私はこうして常に団員を数名連れて出かけることにしている。……これは私のことを良く知っている団長命令でもあるがね。というわけで、頼りにしている」
 白百合団のメンバーに目を向けた優子に、亜璃珠は軽く呆れ顔を見せた。
「まずは、穏健且つ良心的に話し合いを求めてみてはどうでしょう?」
 早速、イルミンスールの當間 零(とうま・れい)が提案をする。
「大勢で向かい交渉し、決裂時は戦闘も止むを得ないと思っている。無論、交渉は穏健に進めるつもりだ」
「ですが、大勢で向かえば相手も警戒するでしょう。圧力に屈したくはないと考えるのではないでしょうか? ですので、僕1人で行かせて下さい。暴力を振られたり捕まったりする可能性を考えれば、余計な負傷をするのは僕だけで済みますし、また戦闘や救出の正当な理由となり百合園女学院の評判を落としたり、彼等の仲間から報復されたりせずに済ます事ができるから」
 優子が首を左右に振る。
「自分だけで済むだなんて……そんなことを頼めるわけがないよ」
 優子は零に優しげな目を見せた。
「気持ちは嬉しいが、他校生であるキミにそんな危ないことをさせるわけにはいかない」
「他校生だからこそ、お役に立てると思うのですが」
「いや、1人で向かうのなら当然、私が行く。なるほど、私が捕まれば正当な理由に……」
「ダメです」
 即、亜璃珠が却下する。
「知り合いのパラ実生に連絡を入れておきましたわ。協力して下さるそうです。目には目を、ハニワ覇王、馬鹿とパラ実は使いようって言いますでしょう? 勿論彼等を無闇に卑下するつもりはございませんけど。それから彼女のパートナーのリナリエッタさんも同行して下さるようですわ」
 亜璃珠の傍で雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)のパートナー南西風 こち(やまじ・こち)が携帯でメールを打っている。
「リナリエッタ……? 百合園生のか!? それは止めなければダメだろう、亜璃珠」
 途端、優子はテーブルに手を打ちつけて立ち上がる。
「……とにかく落ち着いて下さい」
 亜璃珠は優子の手を強く引いて、再び座らせる。
「では、急ぎ作戦を立て、私達も直ぐに向かいましょう」
 白百合団の桜月 舞香(さくらづき・まいか)が作戦の提案を始める。
「全員でいきなり真正面から行くのは危険だから、数人の班に分けて、様子を見ましょう。強攻策が必要かどうかは、先に向かった人達からの報告待ちね。こちらの方が少なくて、大勢の敵に少数で挑むことになるのなら、正攻法よりそっと一人づつ倒すゲリラ戦が基本ね」
「……周辺の地理を把握しておきたい。地図はないか?  完全に制圧、敵が沈黙すればいいが……場合によると救出した者を連れて撤退せねばならんかもしれん……周辺の把握をしておくに、越したことはなかろう」
 神狼のパートナーの虎堂 富士丸(こどう・ふじまる)が訊ねる。
「そうだな。付近の調査をする時間は殆ど取れないだろう。途中で地図を購入し移動しながら確認しよう」
 優子が難しい顔つきでそう答える。
「では、俺は計略班として動きましょう。素敵な協力者も得ましたしね」
 イルミンスールの譲葉 大和(ゆずりは・やまと)が怪しい笑みを見せる。
「任せておいて下さいませ。うふふ……」
 隣で艶やかに笑ったのは、パラ実の羽高 魅世瑠(はだか・みせる)であった。
 急ぎ話し合いを進め、白百合団と協力者達は【計略班】【ゲリラ班】【突入班】【捜索・救出班】に分かれて作戦を決行することとなった。

○    ○    ○    ○


 一足先に廃屋に向かったパラ実のナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)は、普通に玄関から訪ねて、いい情報を仕入れたから自分も仲間に入れて欲しいと、持ちかけた。
「どんな情報だ」
 広い部屋に通されたナガンはこの場所に相応しくはない黒い豪華な椅子に腰掛けた男と対面する。
「百合園女に狙われてるんだろ? 白百合団に関するいいネタがあるんだ」
 ナガンは亜璃珠から聞いていた白百合団の情報を当たり障りのない範囲で、男達に話していく。
 ……この部屋の中には、男が4人、女が1人。何れもヤクザ風の格好をしている。
 綾と共に写っていた偽の怪盗舞士はこの場にはいない。
「……なるほど、嘘ではないようだ。ここの活動についてはどれだけ知っている?」
「武器や薬の密交易ってとこか? 人間の売買もやってたりしてな。混ぜてくれよ」
 ナガンはへらへらと笑って見せる。
 と、その時。
「本日はぁ、お招きくださってマジありがとございますぅ。リリナでーす!」
 女性の声が響き、黒椅子に腰掛けている男の傍に控えていた者のうち、男女が対応に出る。
 しばらくして、両手をつかまれ、一人の女性が連れてこられる。
 派手な化粧。胸の開いた真っ赤なミニスカートのドレス。……水商売の女のように見えた。
「彼女、ナガンのダチで便利だから入れてほしいっすよ旦那ぁどうっすか? どうっすか?」
「サービスしますよぅ、全力で尽くしちゃいます」
 艶かな微笑みを見せる女性――雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)の前で、黒椅子に腰掛けた男は腕を組み、こう言った。
「……で、この女が百合園女ではない証拠は?」
「見ての通りじゃないかと」
 ナガンは笑みを消さない。
「例えば、だ」
 男は軽く笑みを浮かべると指で合図をし、リナリエッタを自分の方へと連れてこさせる。
「俺らが百合園をターゲットにするのなら、百合園に仲間を潜入させることも考えるだろう。無論、百合園生らしい格好をさせて、だ。それと平行して、白百合団のメンバーを捕らえる、もしくは誘惑し仲間に引き込み情報を得ようとするだろうなぁ」
 にやりと笑みを浮かべて、男はリナリエッタの顎に手を当てた。
「名前と所属を聞こうか。調べ上げて百合園と関係がないようなら、自由にしてやるが――」
「!?」
 男が再び合図を出すと、リナリエッタを掴んでいた男女は彼女を縛り上げていく。
「それまでは、人質だな。下手なことをしたら、ダチの首が飛ぶぜ? ナガン」
 男の言葉に、ナガンは笑みを消さない。
「しゃーないっすね。ま、手荒なことはしないでくれよ」
 心の中で舌打ちしながらも、面白くなってきたとも思う。
 奴等はナガンが持ち込んだ白百合団の情報を既に全て知っているようであった。
 早河綾は白百合団に所属する百合園女学院の生徒だ。
 彼女を取り込み情報を得ていた彼等に、似た手段が通じると考えたのは浅はかだったようだ。

 その後、ナガンは使い走りや、廃屋前の見張りを任されていた。
 行動は2人1組で行なうため自由は制限されていたが、トイレの中で短くメールを打つことくらいは可能だった。
 買物から戻ったナガンは、相方と共に屋敷の見張りにつくことになる。
 商談中な為、屋敷に誰も近づけるなと命令を受けている。
 商談に現れた相手が誰であるのかは、ナガンには分かっていた。
「センパイ、腹減りましたね〜」
 相方と適当に会話をしながら、進展を待つことにする。

「生憎これは商品ではありません。私の個人的なペット達です」
 黒いスーツに黒いネクタイ姿の譲葉 大和(ゆずりは・やまと)は、隣にいる女性2人をそう紹介した。
 ヴァイシャリーでクラブの営業を始めるため用心棒を雇いたいという商談に対し、相手は悪くない反応を示した。共に訪れた女性2人――羽高 魅世瑠(はだか・みせる)フローレンス・モントゴメリー(ふろーれんす・もんとごめりー)にも反応を示してくる。
 魅世瑠は、ドレープとスリットが多数入った黒ラメ入りシースルーロングドレスを纏っており、フローレンスは1サイズ下のミニミニスカートと、露出度の高い魔改造百合園風偽制服に、黒チョーカーとリードで変装をしている。
「ですが……貴方様が御気に召されたのであれば話は別です。商談さえ成立すればあとは……ふふふ、お分かりですね?」
「ご主人様のペットの牝三号ですわ」
「私は牝二十八号ですの」
 魅世瑠とフローレンスは大和にしなだれかかりながら、艶やかに微笑んだ。
「ふっ、なかなか上手いことを言う。だが、白い子猫に嗅ぎ回されているようでね。契約は必要最低限で結構だ」
 大和の向かいに座る男は――写真に写っていた偽怪盗舞士であった。
「失礼します」
 そして、応接室に現れ茶を出した女性にも、見覚えがある。
 変装してはいるが、早河綾と思われた。
 3人は反応を示さず平静を装う。
 商談は大和に任せて、女性2人は茶を出し終えた少女の腕を艶かしく掴んだ。
「貴女、こちらの旦那様好みの『女』になりたくはなくて? 私ならそれを可能にしてみせますわよ」
 魅世瑠が、綾と思われる少女に話しかける。
「貴女が羨ましいわ、だってご主人様が紳士ですものね」
 フローレンスが言った途端、ピシッと魅世瑠に露出した足を叩かれる。
「痛っ、ごめんなさい三号様」
 フローレンスは涙目になりながら、言葉を続ける。
 魅世瑠演じる「牝三号」にご主人様好みに躾けられている最中という役回りなのだ。
「でも三号様は貴女をどんな殿方の好みにも育てる腕の持ち主よ」
 少女は戸惑いの目を見せる。……写真に写っていた時とは違い、彼女の目は悲しみを帯びていた。
 前に座る男性への愛情は感じられなかった。
「今晩私の屋敷に皆様を招待して、女の子を呼んで接待したいのですが、何人必要ですかね? 他にお仲間がいるなら、後日改めて招待したいので全部でどれ位必要でしょうか?」
 ガードが固いと思いながらも、大和は人数を探ってみる。
「三千くらいかねぇ」
 言って、目の前の男は軽く笑った。
「招待は結構。店に行った際にはサービスしてくれるんだろ?」
「ええ、勿論です。流石に三千はおりませんが、将来的にはそれくらいの規模にしたいものです」
 大和はにっこり微笑んだ。
「で、金額や人数ですが……」
 そして、慎重に内心を顔に出すことなく商談を進めていく。
「この子も今、躾けているところですの。貴女も私の腕にかかれば、この端麗な旦那様に似合う女性になれましてよ?」
「ええ、貴女も必ず」
 魅世瑠とフローレンスは男を間接的に褒めながら、綾の引きとめを続けるのだった。