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着ぐるみ大戦争〜扉を開く者(第2回/全6回)

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着ぐるみ大戦争〜扉を開く者(第2回/全6回)

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第4章 落とし穴注意

 さて、第3師団の主力は現在、モン族が立て籠もっているタバル砦近くに展開していた。タバル砦と第3師団の中間には敵のワイフェン族がいる。困ったことにワイフェン族の総兵力は約一万五千、第3師団の約二倍である。第3師団とモン族は敵によって分断されている状況となっている。
 この状況では迂闊に攻撃と言うわけには行かない。そんな中、鄭 紅龍(てい・こうりゅう)は司令部のテントの近くにいた。そこに金住 健勝(かなずみ・けんしょう)が弾薬を抱えて取りかかる。
 「大変そうだな」
 「このくらいは平気であります。それより貴官は何をしているでありますか?」
 「一応、司令部の警備だ。言っちゃ何だが、第3師団の中枢は師団長と参謀長で持っている。何かあったら大変だ」
 「それは……そうであります」
 「実際、ここだけの話だが、敵が指揮官の暗殺を考える可能性は高いと思う。今、そんな事になれば第3師団はがたがただ」
 「確かにそうでありますが、敵が潜入するのは難しいのでは?ワイフェン軍は砦と第3師団に挟まれております。両側は山の稜線ですから簡単には回り込めません」
 この間、金住はがんばって周辺の地形を調べている。敵に見つからないために草むらを泥だらけで這いずり回ったのだ。偵察するのもいろいろ大変である。
 「それはそうだ。正直、狙うとすれば参謀長ではないかと思っているが、さすがにあちらに護衛にはいけないからな」
 「参謀長は交渉なのでありますか?」
 「だからだ。狙うとすれば手薄なあちらじゃないかと言う気がしてならない」
 鄭は参謀長の志賀が狙われるのではないかと思っている。そこに通信をしていた後鳥羽 樹理(ごとば・じゅり)が慌てて駆け込んできた。
 「大変です。大変です」
 そのまま飛び込むようにテントに入る。まもなく珍しいというか貴重というか叫び声に近い師団長和泉 詩織(いずみ しおり)の声がした。
 「何ですって!交渉団に爆弾テロ?!」
 慌てた声に鄭と金住は顔を見合わせた。
 「本当かよ……」

 「モン族に物資は届けて参りました」
 沙 鈴(しゃ・りん)が報告に来た。志賀の指示でモン族にとりあえず、部品と麦を届けてきたところだ。電動ドリルや発電機にモン族は大喜びである。また、麦も好評である。モン族は山岳地帯であるため、あまり農業に面積がとれないからだ。今までも物々交換などで麦などを手に入れていたらしい。
 「そう、……ご苦労様」
 和泉は元気ない声で答えた。その後の連絡でとりあえず志賀は軽傷、死者はいないと言うことで一安心している。
 「モン族の方でも資源の供給には前向きの様ですが、今の所は。ラピトの方では定期的に麦を頂いております」
 「物資の供給は確立されつつあるわね」
 「ところで、ラピト族がくれる『麦わら』ですが」
 教導団がラピト族にの農薬などを援助する代わりに麦と麦わらをもらうようになっている。
 「燃料として使用してはどうでしょうか?」
 「それならもうやっているわ」
 「はあ」
 「使えないモノをもらうはずないし」
 知っての通り、21世紀に入ってエタノール燃料の実用化が進められている。地球ではアメリカ主導でエコ燃料として活用を進めようとしているが、結果として食料用の穀物まで燃料に転換され、世界的な穀物生産は増えているのに食料生産が減少するという訳わからない状態がおこったりしている。麦、トウモロコシなどは燃料に適しているため、燃料用に転換されることが多く、麦を使うイタリアのパスタ、トウモロコシ粉を使う南米のタコスなどは値が高騰している。イタリアでは「パスタは食べられますか?」「食べられません」という漫画みたいな状態が起こっている。元々、ラピトからもらった麦も燃料にする予定であった。が。
 「志賀君が食べ物を燃料にするのはもったいない、もったいないって」
 もったいないお化けが出るので効率は悪いが麦わらもエタノール燃料にして使用しようと言うことらしい。いい麦は食べ物に使いたいとの参謀長の意見である。
 「ところで、モン族に供給した電動機材ですが、活用はどのように?」
 綺羅 瑠璃(きら・るー)は第3師団が思ったよりいろいろ行動を広げているので気になっているようだ。
 「それは、モン族の鉱業の効率化よね。今まで手堀りだったのだから」
 今まではツルハシにタガネである。電動ドリルが導入されれば採掘は格段に進む。教導団としては鉱物資源は喉から手が出るほど欲しい。協力関係を作り、双方得をする様になるなら万々歳である。
 「てっきり、何か加工するのかとおもいましたが」
 「ドリルは穴掘るだけだけど。確かに加工して欲しいって言うのもあるわね。志賀君は馬車がたくさん欲しいって言ってたし」
 「馬車……ですか?」
 「車両は生産が追いつかなくて師団の機動力はあまり高くない。補給にしても速度はいらないけど大量に運びたい。馬車が活用できれば輸送能力は車両に及ばないにせよ、向上するわ。少しでも能力を上げたいというのは本音の所ね。ただ、すぐには無理だからまずは協力関係を強化すること、かしら」

 その頃、モン族砦ではイレブン・オーヴィル(いれぶん・おーう゛ぃる)が連絡に来ていた。
 「思ったより、あっさり通れたな」
 「そうね。妨害があると思ったけど」
 カッティ・スタードロップ(かってぃ・すたーどろっぷ)も頷いている。
 オーヴィル達は件の間道を通ってこちらに来ている。間道はワイフェン軍から見えるため妨害があるかと思っていたが、案に相違してそう言うことはなかった。
 「とにかく、間道は生命線と言えるでしょう。こちらもできるだけ警戒しますので協力をお願いしたい」
 「わかりました。多少の部隊はこちらからも出せるでしょう」
 モン族側の指揮官の一人がそう言った。
 「我々はこのまま間道の警戒を続けたいと思います。敵が行動を起こすのであれば、何らかの影響があると思うので」
 「甘いですね」
 そう言ったのはハインリヒ・ヴェーゼル(はいんりひ・う゛ぇーぜる)だ。
 「今回の敵の意図は明白ですな。両者に挟み撃ちできると思わせてモン族軍を引きずり出し、平地で叩くつもりでしょう」
 「こちらを引きずりだす、ということ?」
 スタードロップが驚いた。
 「その通り、今回の対応策はワイフェン族に対して、砦から出るぞ、でるぞ、と思わせてでないことです。それで敵の裏をかくことができるでしょう」
 ヴェーゼルはモン族に根回しを始めた。これにより、モン族は砦から動かない、という方針となった。
 「それにしてももう少し運べれば良かったんですが」
 グロリアーナ・イルランド十四世(ぐろりあーな・いるらんどじゅうよんせい)は残念そうに言った。イルランド十四世は補給部隊に協力して物資を運んだが間道が狭く十分な量が運べなかった。また運ぶ物資は電動ドリル等工具類、麦であり、イルランド十四世が考えた武器弾薬はほとんど運べなかった、というより、師団に余剰が山ほどあるわけではない。イルランド十四世はあまり補給物資の量に関しては考えていないらしい。

 「それにしても、ここのご飯って結構うまいんじゃないか?」
 緋桜 ケイ(ひおう・けい)は夕食のトレイを見て言った。軍隊の食事いわゆるミリメシはまずいと相場が決まっているようだが、最近はどこの軍隊でも食事には気をつけている。実際、暖かくて美味しい食事が支給される事は士気の維持にはとても重要である。本当に激戦になってしまえば塹壕で缶詰を開けることになる。幸い、前線で警戒している連中を除いてはトレイでほかほかのご飯が食べられる。デミグラスソースのかかったハンバーグに緋桜はご満悦だ。
 「参謀長が食事には気をつけるようにしていると聞いているアル」
 見た目はパンダの楊 熊猫(やん・しぇんまお)も同様な感想だ。
 「参謀長の作ったカレー、うまかったアル。早く戻ってきて欲しいアル」
 実際食事にはラピト兵なども驚いている。
 「こんなご飯がこんなところで食べられるなんて、地球はいいですなあ」
 「みんなはあんまりこういうの食べないの?」
 緋桜としては興味があるらしい。
 「ワシら、肉と言えば大体、普段はソーセージかのお」
 冷蔵庫がないため、新鮮な肉を食べる機会が少ないのだ。肉は屠った直後のみ焼いて食べられ、それ以外は概ねソーセージなどの塩漬け保存食である。そのため、祭りなどで新鮮な肉を食べられるのが皆楽しみ、と言う状況だ。ラピトの人々にしてみればハンバーグなど夢の食べ物と言える。
 「わらわは和食の方が良いのじゃが」
 悠久ノ カナタ(とわの・かなた)はそう言いつつも箸で器用に食べている。
 「いっつも鍋で煮込んでいるのは誰だっけ?」
 「あれは薬じゃ……とはいえスープを煮込むの悪くないかのお。それよりおぬし、例の件はどうするつもりじゃ?」
 「ん、ああ、あの柵か」
 緋桜が気にしているのはワイフェン軍が柵を作っている事だ。
 「そうだな。何とか先行して破壊しておかないとならない」
 「おぬしだけでは手が足りるまい。爆薬など必要ではないか?」
 「そうだな。使える人を当たってみよう」
 本来、工兵が行う任務であるが手が足りないようだ。

 夕刻が近づいた頃、司令部のテントでは作戦に関する討議が行われていた。
 「敵の考えは明白ですな」
 そう口元をゆがめて笑ったのはマーゼン・クロッシュナー(まーぜん・くろっしゅなー)だ。
 「敵は我々に挟み撃ちを誘っておいてモン族を挽きずりだし、これを叩く。そうすれば簡単にタバル砦を落とせます」
 これに対し、やや懐疑的な顔を見せたのはクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)だ。
 「確かにその可能性はある。が、そう思わせて師団主力を狙うことも考えられる。ここは騎兵部隊を砦に送り込むことで、いかにも挟撃するかの様に思わせて、敵に受けの姿勢を強いることが重要かと」
 それを聞いていた和泉はやや考えて静かに言った。
 「で、敵はどちらに攻撃してくるのかしら?」
 「それは、どちらとも言えませんが」
 「それ自体……私達が敵に受けの姿勢を強いられてるって気づいている?」
 シュミットは絶句した。
 「敵は師団主力を狙って来ます」
 断言したのは戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)だ。
 「この状況ではタバル砦ではなく、師団主力に確実に襲いかかってくるでしょう」
 「根拠は?」
 「敵は補給線を断たれています」
 「なるほど……よく見ているわね」
 知っての通り、現在、タバル砦は西の方角にあり、ワイフェン軍を挟んで師団主力は東にある。ではワイフェン軍はそもそもどちらから来たのか?位置的に言って東である。(前回参照の事:『敵の哨戒部隊を撃退した第3師団はそのまま進撃を続け、まもなく街道のT字路にさしかかった。右へ行けばワイフェン領、左に行けばモン領である。そこを左に曲がり、そのまま進んでいく』とある)
 従って、現在、師団主力はワイフェン軍の補給線上に陣取っていることになる。
 「すでにワイフェン軍は一度モン族と戦っています。この状態で我々に後ろをつかれて補給線を断たれた状態で砦攻めを行うとは思えません。砦に関しては師団主力をつぶし、補給線を回復してから攻撃しても同じです」
 戦部は言い切った。
 「ではどうするべきかしら?」
 「とりあえず、陣地作りを急ぐべきと考えます。敵の補給線を断っている以上、持久戦になればこちらの勝ちです」

 その直後、後方に動いていたのは比島 真紀(ひしま・まき)である。
 「戦部は後ろに警戒しろって言っていたが」
 匍匐前進する比島は敵戦力が回り込んで後方に動く可能性を考えたが、ワイフェン族は現在、包囲されているに近い。事実上回り込むことは不可能だ。戦部が言っているのはワイフェン族本国から増援、もしくは補給部隊がやってくることだ。もし来ていれば師団主力の後ろをつく事になる。
 「おい、あれは」
 サイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)は驚いた声を上げた。比島達から見て大分、前、つまり師団主力の後ろにじりじりと迫る姿を発見した。
 「すぐに引き返す。直ちに連絡だ」
 慌てて比島は反対側に移動し始めた。

 夜になり、稜線に沿ってじりじり動く影があった。
 「ふん、さっさと行きなさい」
 水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)は銃を突きつけて蹴飛ばすように進んでいる。間にいるのはジェイコブ・バウアー(じぇいこぶ・ばうあー)だ。バウアーは現在懲罰部隊になっている。ただいま爆薬を抱っこ中である。
 (く、くそ〜。この女〜)
 内心不満げな表情で歩いている。
 「まあ、あんまりそういじめずに」
 緋桜がその後ろからついて来る。緋桜は敵に対する陽動・妨害工作として柵を破壊すべく肉薄を考えていた。唯人手が足りないなと思っていたところ。懲罰部隊に爆薬を仕掛けさせればいいと言うことになり、懲罰部隊と共に危険を冒してこちらに来ていた。夜になり頃合いは手頃、と言うわけで闇に隠れて、稜線沿いを回り込み敵陣に接近を試みた。
 「で、どの辺に仕掛けりゃいんだ?」
 「目的は柵を破壊することだ。できれば柵の根本に仕掛けてくれれば」
 そう言う緋桜に水原はぐりぐりとバウアーの尻を足で押す。
 「そう言うこと、さっさと仕掛けて来なさい」
 「仕方ねえなあ……」
 バウアーは爆弾を抱えたまま敵陣に近づいていく。かがり火がたかれており、見つからないように近づかねばならない。しばらく近づいたがバウアーは妙に静かなことに気がついた。
 「全員寝てる?……そんな事はねえよな」
 様子を見ても所々にかがり火はあるが人の姿が見えない。
 「こいつぁ!」

 ほぼ同時刻、正面側からワイフェン軍に接近する影がある。
 「とにかく、こんどこそ、ワイフェン族の後ろにいる連中の正体を暴いてやる」
 テクノ・マギナ(てくの・まぎな)はそう意気込んでいる。
 「やる気満々だね」
 ラッキー・スター(らっきー・すたー)は面白そうだと思ってマギナについて来ている。
 「そりゃそうだ。黒幕の正体を暴けば金になる!」
 「なるほど、敵の正体を突き止めるつもりか?で、どうやって?」
 「とにかくできるだけ近寄ってワイフェン族と違う者がいないか確認する」
 「で、違う奴ってのはどう違うのかな?」
 「…………」
 そこにエー テン(えー・てん)イー ツー(いー・つー)が戻ってきた。
 「おう、どうだ?」
 「それが、妙に静かでござる」
 テンが不思議そうに言った。テンは一応、ヴァルキリーなので低空でなら空を飛べる。敵の陣地に空から向かったようだが様子がおかしい。
 「こちらもヨ。人影見えないネ」
 「どういう事だ?」
 そのとき、である。
 ひたひたひたひたひたひたひたひたひたひたひたひたひたひたと静かな音が聞こえた。
 「な、何だ?」
 「ひええええええっ」
 スターは悲鳴を上げた。
 暗闇の中から溶け込むような影が津波の様に姿を現した。ワイフェン軍である。敵側が動き出し、師団主力方面に向かって進んでいくのだ。ちょうどその前に現れたのがマギナらである。
 実はワイフェン軍は少人数に分かれ、光学迷彩?を使用しながらじりじり接近してきた。そのため、空から見ていると解らないのだ。(移動中には使用できない。少し進んで隠れ、様子を見てからまた進みの繰り返しである)
 敵はここで発見されたと思ったのであろう。一斉に発砲してきた。マギナらに集中砲火である。
 射撃によりマギナらはばたばたと倒れていく。
 「危ない!」
 コーデリア・ナイツ(こーでりあ・ないつ)がスターを突き飛ばすがナイツは代わりに足を撃たれた。一万五千のワイフェン軍が一斉に師団主力に向かっていく。スターはあっという間にその下敷きになった。要するに踏まれまくった。

 夜の空にいきなり火矢が飛んだ。それと同時に発砲音、爆発音が聞こえてくる。
 「な、何だ?」
 「敵襲!敵襲!」
 叫び声が上がる。
 「総員戦闘配置!」
 あちこちで声が起こり襲いかかるワイフェン軍と師団主力は戦闘に入った。残念ながら陣地作りはまだ途中で穴掘ってる所だ。すぐに皆は穴に入り応戦し始めたが、なにぶん相手の数が多い。師団主力単独で応戦すると倍の敵に当たらねばならない。
 敵側も激しく応戦する。そのため、近距離での撃ち合いになった。
 「各員、部隊毎に密集して応戦!」
 和泉が叫び、各部隊は撃ち返すが状況は厳しい。

 遠くの砲声に驚いたのは間道にいた大岡 永谷(おおおか・とと)である。緋桜達を支援するため警戒していたが、敵の陣地がもぬけの殻であることを聞いてびっくりしている。
 「とにかく、すぐに本隊に合流しよう」
 ほとんどの者がワイフェン軍は陣地に籠もって動かない、もしくは砦に籠もるモン族を引きずり出すのが目的、と考えていたのでここまで思い切って師団主力に攻撃を掛けてくると思っていた者は数少ない。そのため、離れたところで出遅れる者が続出した。
 大岡はファイディアス・パレオロゴス(ふぁいでぃあす・ぱれおろごす)熊猫 福(くまねこ・はっぴー)らを連れて間道から降りると、熊猫に緋桜らに連絡するように指示した。
 「とにかく、すぐ合流する。本隊が危ない」
 「解ったよお」
 熊猫はころころした外見そのままに転がるようにしてそちらへ向かおうとした。そのとき発砲音がした。
 「わあああっ」
 「くそっ!」
 大岡は発砲してきた方に撃ち返す。
 「大丈夫か?」
 「あ、あたいは平気。大丈夫だよお!」
 そう言いつつけなげにもずりずり移動していく。
 「敵の足止めでございます」
 パレオロゴスは青い瞳を寄せて暗闇を見通す。
 「数は多くはないはずですが」
 「それは解っているが」
 おそらくたいした数はいない。発砲しつつ後退するつもりだろう。しかし、迂闊に動けないのも事実だ。
 (本隊から分離している連中は、合流が難しそうだ)
 大岡は密かに歯がみした。

 同様に砦の方は大騒ぎである。
 「どうやら本隊が襲われてる様ですわ」
 フェイト・シュタール(ふぇいと・しゅたーる)がツインテールをゆらして駆け込んできた。
 「敵の狙いは本隊か!くそっ!」
 松平 岩造(まつだいら・がんぞう)は焦った。松平はタバル砦で敵がどう動くか観察するつもりであった。敵のタバル砦への先制攻撃を警戒していたが完全に外している。
 「すぐにモン族の部隊を動かそう」
 「無理だわ」
 クリストバル ヴァリア(くりすとばる・う゛ぁりあ)が青ざめて言った。
 「迂闊に砦から出ないように待機状態になってる」
 「くううっ」
 モン族は数はそれなりに多い。いきなり右へ左へと都合良く動かせるわけではない。砦に来ている連中は完全に裏をかかれている。今から動いても師団主力までは何キロかある。追いつくまでには相当な時間がかかる。

 すでに本隊は激戦である。なにぶん敵はこちらの倍近い戦力であるがそれだけではない。
 「くそ、連中、ひと味違うであります」
 比島は構築途中の陣地、というより穴ぼこで射撃している。やっかいな事に後ろからも攻撃してきたからだ。そこに金住達がやってきた。
 「こっちは大丈夫でありますか?」
 「何とか持たせているであります」
 金住と比島がステレオで会話しているのをレジーナ・アラトリウス(れじーな・あらとりうす)は困ったような顔で見ている。アラトリウスは金住の軍人口調が嫌いなのであるが、もう一人同様にしゃべる者が現れたからだ。
 「後ろから来るとは!」
 「先に見つけててよかったであります」
 後ろから来ているのはかなり少数だ。おそらく援軍というより、敵補給部隊の護衛か何かであろう。しかし、もし気づかずにいたら後ろから不意打ちを食らって味方は大混乱になっていただろう。回り込んでくるのではなく、別の部隊が来ることを根拠を示して断言した戦部に比島は驚いている。(敵が分派して回り込んでくるのと別に部隊がやってくるのでは意味が違う。総兵力が異なってくるからだ)
 敵が眼前まで来た。
 「うおああああ!」
 金住はアーミーショットガンをぶっ放した。近距離防御ではかなり有効な射撃だ。敵は数人まとめて倒れる。そこへすかさず比島が飛び出し、火術をぶっ放す。派手に爆発し、敵がひるんだところで金住が腰から拳銃を抜き放ち、素早く撃つ。拳銃型の光条兵器である。
 金住と比島は背中あわせで武器を構えた。
 「比島殿、やるであります」
 「貴殿もな」
 師団主力の後ろ側は何とか持ちこたえている。アラトリウスは穴の中で震えながらもか細い声で負傷者を呼ぶ。
 「怪我している人はいませんか〜」
 
 正面側はかなり入り込まれている。ワイフェン族側の意気込みがかなり違う。損害にかまわず肉薄してくる。そのため、第3師団側にも負傷者が増えて行く。
 「こ、こんな馬鹿な。敵はモン族を襲うはずだ」
 クロッシュナーは悲鳴を上げつつ陣地の一つにいた。なかなか自分がいる大隊に合流できないのだ。
 そこにワイフェン軍が突撃してくる。銃を構えようとしたところで弾かれた。すぐ近くに件のヴァルキリーが立っている。素早く繰り出された槍を必死でよける。そのままごろごろと転がった所にワイフェン軍の騎兵部隊が突っ込んできた。驚愕して目を見開いたクロッシュナーは馬蹄に踏みつぶされ、血反吐を吐いた。
 「ひいいいいっ」
 側にいたアム・ブランド(あむ・ぶらんど)が悲鳴を上げるがその直後被弾して吹き飛んでいく。
 「てめえ!」
 叫んだのはヴァルキリーの姿を認めた神代 正義(かみしろ・まさよし)である。さっきまで高笑いして必殺技を大安売りしていたがヴァルキリーの姿を見ると表情が変わった。もっとも、マスクを被っているので余人にはその引き締まった顔は解らない。
 「テメーとの決着はまた後だ、今は慣れない銃なんて持ってるせいで戦えん!」
 そう言いながら神代は器用に後ろに向かってすり足で後退していく。さすがに混乱して押されている状況で迂闊に戦えない。周りの連中と一緒に神代は下がっていく。
 味方も必死に防戦している。
 「何で弾着観測した位置にこないのよお〜」
 マノファ・タウレトア(まのふぁ・たうれとあ)が双眼鏡を見ながらぼやいている。後鳥羽はせっせと迫撃砲弾を砲身に放り込んでいく。やや離れた所から撃っているのだが、味方が近くにいるのでうまくいかないようだ。
 「惨状先生、そう上手くは行きませんよお」
 もっぱら通信をやっていたのが緊急事態で砲兵の手伝いをしているのだ。さすがに迫撃砲は近距離過ぎると当てるのが難しい。
 
 状況はより厳しくなってきた。味方はじりじり押されている。司令部周辺にも敵の射撃が加えられている。和泉のまわりも、集まった連中が必死で防いでいる状況だ。
 「敵もなかなか動きが速い」
 曖浜 瑠樹(あいはま・りゅうき)は手前で銃を撃ちまくっている。幸い、というか曖浜は敵の光学迷彩を警戒していた。敵もゆる族である以上、当然光学迷彩を使ってくる可能性はある。この状態で光学迷彩で侵入されたら危険であるが、曖浜が警戒していたため、今の所突入は防がれている。
 「どうだ?他にいそうか?」
 「大丈夫、いないと思う」
 マティエ・エニュール(まてぃえ・えにゅーる)はこっそり隠れて近づいてくる者がいないか確認している。お陰で司令部は不意打ちを受けずにすんでいる。
 「がっ!」
 悲鳴が上がった。シュミットが被弾したのだ。慌ててハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)が駈け寄る。
 「大丈夫ですか!」
 「だ、大丈夫……」
 腕に被弾しただけだ。すぐにティーレマンが治療する。しかし、次第に戦力を削られていく状況だ。
 「戦部候補生!」
 和泉は叫ぶように戦部を呼んだ。
 「はい、ここに」
 「貴方、敵がこちらに攻撃してくる理由は補給線を切られているから、との判断よね?」
 「はい。敵は補給線をつなごうと必死のはずです」
 その回答に和泉は少し考えた。
 「信号弾!」
 その声に戦部の側にいたリース・バーロット(りーす・ばーろっと)が慌てて近くの箱を漁る。
 「ありました。どうぞ!」
 バーロットから信号拳銃を受け取った和泉はそれを発射し、全軍に後退を知らせた。続いてもう一発。撤退方向を左側(南)側と指示し、一斉に移動を開始した。
 すると、戦いの動きが変わった。戦闘はしばらく継続したが、敵の火力が小さくなった。一息ついた感じの師団主力はそのまま戦力を集結させつつじりじり後退する。まもなく、敵は一斉に東側へと移動を開始し、そのまま離れていった。
 「離れていった……」
 バーロットが呟くと和泉はほっとため息をついた。

 敵はそのまま味方を突破する形で東側に後退していった。まもなく、戦場に静けさが戻り、直ちに負傷者の収容が行われた。
 「おい、傷は浅いぞ、しっかりしろアパム!」
 神代が負傷者を抱え上げて叫んでいる。
 「アパムって誰だ?」
 聞いたことがないと担架を持ってきた団員が聞く。
 「俺も知らない!しっかりしろアパム」
 今回は負傷者が続出している。ほぼ二千名以上が戦闘不能になっている。全体の戦力を考えれば大損害だ。とにかく、部隊の回復を急ぐ事となった。
 皆が手当や後片付けをしていると、間道の方からものすごい勢いでバイクが一台走ってくる。司令部の前まで来ると派手な音を立ててドリフトで停車しようとして、一瞬止まったもののドテッとひっくり返った。
 「あ、こけた」
 それを見ていた後鳥羽が思わず呟くと、下から志賀が這い出してきた。
 「参謀長?」
 「やられたってええええ〜?!」