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横山ミツエの演義(第2回/全4回)

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横山ミツエの演義(第2回/全4回)

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牙攻裏塞島炎上


 下から突き上げるような爆発音が連続しているのを南鮪は足の裏に感じていた。
 権造が迎撃用に集めた不良達は、すでに散り散りになっている。周りはミツエ軍にすっかり囲まれていた。
 鮪がいるのはあちこち破壊された城壁の上だった。
 黒煙を上げる中央塔を見上げた彼は、苦く皮肉っぽい笑みを刷く。
「俺の作戦に乗っておけばいいのに、馬鹿だぜアイツ」
「引きこもりだもん。自分のことしか頭にないんだよ」
 ニニ・トゥーン(にに・とぅーん)は頬をふくらませて言う。
 権造が二次元美少女にしか興味を示さなかったために、どんなにかわいくおねだりしても相手にされなかったニニのプライドは傷ついていた。
 髪型はアリスにしては意表を突くようなモヒカンでも、もとがかわいいので三次元も普通に愛する人だったら、あるいは少しくらいは心を動かしてくれたかもしれないと思うと余計に悔しかったりする。
 ある意味引きこもりを甘く見ていたと後悔する二人の横では、織田 信長(おだ・のぶなが)が全く別の感慨にふけっていた。
「う〜む。安土城、と密かに呼んでいたのがまずかったのであろうか。よく燃えているな」
 言った直後、また一つ大きな爆発が起こり、中央塔の外壁から炎と黒煙が噴き出した。
 そして最も現実的だったのはハーリー・デビットソン(はーりー・でびっとそん)だった。
「ドルルルルン、ドルンドルン! (ひたってないでそろそろトンズラしようぜ!)」
 おおまかに言ってしまえば機械に分類される彼に感傷を求めるのは無理な話なのかもしれない。
 だが感情豊かな三人は、もうしばらく今回の反省と権造への怨嗟にひたっていたいのだった。

卍卍卍


 引きこもりの権造が倒された、という報は瞬く間に牙攻裏塞島を駆け巡った。
 振動が止まず煙の濃くなる中央塔に潜んでいたヴェルチェ・クライウォルフは、このままミツエに勝利させてなるものかと、死にかけのサーバにとどめを刺すために動き出す。
 そして同じことを考えている人がここにも。
「てめぇは……!」
「あら、考えることは一緒かしら?」
 ヴェルチェと仏滅 サンダー明彦がいるのは、広大な権造のいるフロアでもまだ破壊されていない一画だった。
 明彦はニヤリとするとパートナーの平 清景(たいらの・きよかげ)に呼びかけた。
「清景、敵がこの辺に来たら適当に追い払え」
 落ち武者を通り越して腐乱死体の態の清景は、もげかけた首をぐるりと回して引き受けた。
 明彦はヴェルチェに向き直ると声をひそめて言った。
「こんなこともあろうかと、実はとっておきがあるんだ。こいつでこの島の全サーバは全滅だ」
「あたしは配電盤を破壊してやろうと思ったんだけど、その後にとっておくわね」
「これでミツエは戦に勝っても戦利品ナシだ。ざまぁみろ! これで自慢の貧乳ももっとみすぼらしくなるだろうよ!」
 ヒャハハハハ!
 と、半ば狂気じみた笑い声を上げながらも、明彦は放置されていた端末を開きウィルスプログラムを捩じ込んでいった。
 これでサーバに負荷をかけてダウンさせ、戦利品である不健全動画を得られなくて焦るミツエ達が、復旧作業に勤しんでいる間にヴェルチェが配電盤を破壊。
「二段階の嫌がらせだ! 完璧だ!」
 絶好調の明彦だった。

 まさかそんな悪巧みがされているとは知らないミツエは、破壊された機器類からあがる煙の向こうで、水洛邪堂の拳が権造を仕留めたのを見た。
 倒れた権造はピクリとも動かない。
 権造はもちろんだが、ミツエ達も散々だった。気力も体力も使い果たしていた。
 フロアには焦げ臭いにおいと白煙が充満してきている。
「皆さん、無事ですか!?」
「イリーナさん! ミツエさん!」
 外でミツエに成りすまして敵兵を引き付けていたはずの桐生ひなの声がした。後に続いたのはエレーナ・アシュケナージだ。
 ひなはボロボロのミツエ達に「あっ」と小さく声を上げると、視線を巡らせて権造で止まった。
「権造が倒されたというのは、本当だったのですね……」
「本当よ。ところで、無事なサーバは残ってる?」
 エレーナのヒールでどうにか立ち上がることができるようになったミツエが、白煙の向こうを見るように目を眇めた時、イリーナがわずかに苛立ちを見せて告げた。
「落ちてる……どれもダメだ。権造め」
「ざーんねんでしたァ! サーバは俺がとっておきで満腹にしてやったぜ!」
「配電盤も今から修復不可能にしてあげるわ」
 ゲラゲラクスクスと笑う明彦とヴェルチェ。
 ミツエの悔しがる顔を見たくて、我慢できずに出てきたのだ。
「あの二人を捕らえよ!」
 まさにその悔しそうな顔でミツエが命令を飛ばすのを満足そうに眺めて、明彦とヴェルチェはさっさと逃げ出した。その際、ヴェルチェは配電盤にダガーを突き立てていくのを忘れない。
 あーっ、というミツエの焦りの声が二人の耳を楽しませた。


 権造が死ぬと百人のアリスが苦しむというので、ミツエ達は彼を文字通り引きずって塔の外へと脱出を図った。
 疲労により自分一人の体も重いというのに、巨体の増加は拷問のようにきつかった。
 交代で運び出す途中、権造は一度も目覚めなかった。
 途中でアリス解放に向かった味方達と百人のアリスと合流し、上を目指す。
 電気系統が全て壊されたため、地道に階段だ。
「もう少しで地上よ、頑張って!」
 先頭のミツエが続く味方達を励ます。