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イルミンスールの冒険Part2~精霊編~(第1回/全3回)

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イルミンスールの冒険Part2~精霊編~(第1回/全3回)

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●精霊の皆さま、ようこそイルミンスールへ

「ようこそ、イルミンスールへ。どうぞ、楽しんでいって下さいね」
 澄み切った晴天の下、イルミンスール魔法学校入口にやってきた精霊たちを、セリシアが出迎える。緑を基調とした清潔感あふれる服装、木漏れ日の温もりを思い起こさせる笑顔と小鳥のさえずりのような声に、訪れた精霊たちは一様に好感を抱いた様子で中へと導かれていく。
『お主、随分と気に入られているようだの。……我としては、お主に悪い虫がつかぬかどうかが気がかりだの』
「皆さんが心優しい方だからですよ。……もしおっしゃるような方がいたとしても、その時は姉様が追い払ってくださるのでしょう?」
 サティナの茶化すような物言いに、セリシアは笑みを崩さずに言い返す。
『……お主も言うようになったの。我の出番がないことを願っておるよ。平穏無事に済むのが一番だの』
「ふふ、そうですね。人と精霊とが、お互いを知り合い、手を取り合えたらいいですね」
 言ってセリシアは、まさに自分の言ったことが叶えられている例、リンネとカヤノ、レライアを思い浮かべる。
(……独りは、淋しいですものね。皆さんが笑顔でいることが、一番だと思います)
 風の流れが、新たな精霊の来訪を告げる。
 セリシアは思いを胸に秘めて、精霊の対応に向かっていった。

「オレは森崎 駿真(もりさき・しゅんま)だ。駿真って呼んでもらっていいぜ」
「オレはヴォルテールの炎熱の精霊、キィルだ。よろしくな!」
 駿真と、ツンツン頭が特徴の『ヴォルテールの炎熱の精霊』、キィルが互いに自己紹介を交わす。
「こっちこそよろしく! んじゃ早速だけど、どこを見て回りたい?」
「そうだなぁ……パーッと盛り上がれる場所がいいな! 祭ってやっぱ、騒いでこそじゃん? だからさ、騒げるところに連れて行ってくれよ!」
「オッケー、だとするとあっちだな。何だか気の合いそうなヤツで安心したぜ」
「おまえも面白そうなヤツで、オレ気に入ったぜ! 今日は楽しもうな!」
 出会って早々打ち解けた駿真とキィルが、我先にと競い合いながら目的地へと向かっていく。
「こらこら、そんなに急ぐと危ないよ。他の精霊も来ているんだからね」
 その後ろからセイニー・フォーガレット(せいにー・ふぉーがれっと)が、落ち着いた物腰で二人を宥める。
「そうだった、ごめんセイ兄。そういやキィル、やっぱ精霊同士で反発し合うこととかってあるのか?」
「ああ、あるぜ。氷結の精霊はダメだ、受け付けねえ。向こうもオレたちのことは嫌いみたいで、よく喧嘩になっちまうんだ。ま、あとはこれといって苦手なのはいないな。雷電の精霊は優しいヤツが多いから、いい感じに接してるぜ」
「へえ、そうなのか。セリシアもその辺、分かってて対応してんのかな」
「セリシアってあの、オレたちを出迎えてくれた女か!? メッチャ綺麗じゃんかよ、オレ一目惚れしちまったぜ」
「んじゃ、セリシアの手が空いたら、どっか誘ってみようぜ!」
「だな!」
 駿真とキィルが、すっかり意気投合した様子で頷き合う。
(……今のところは、このままで大丈夫かな。精霊にも、楽しんでもらう方がいいだろうしね)
 そんな二人の背中を、セイニーが微笑を浮かべて見守っていた。

「あれ、ここどこだろ……どうしよう、はぐれちゃったかな」
 緑の髪をした女の子が、不安な顔を浮かべて辺りを見回していると、それを目ざとく見つけた鈴木 周(すずき・しゅう)に声をかけられる。
「なぁなぁ、一人? 良かったら俺と一緒にお祭りで遊ぼうぜ!」
「あの、えっと……一緒に来ていた子とはぐれちゃって……」
 女の子から事情を聞いて、周が任せておけとばかりに胸を張って答える。
「よし、その精霊を探すついでに、俺と遊ぼうぜ! まずは名前を教えてくれないか? あ、俺は鈴木 周、よろしくな!」
「えっと、ウインドリィの風の精霊、タニアです」
「タニアちゃん、いい名前だな! タニアちゃんはどっか行きたいところとかある?」
「あの、こういうところに来るのは初めてで。でも、皆さん楽しそうだなっていうのは、分かります」
「だろ? 俺も楽しいぜ、タニアちゃんと知り合えたしな!」
 そんな調子で会話を交わしながら、足を進めた先でタニアが、あっ、と声をあげてある一点を指差す。
「いました! ……何してるんでしょう?」
「二人で睨み合ってる……? とりあえず行ってみようか」
 周の言葉にタニアが頷き、そして向かった先では。
「私に手合わせを願うとは……いいでしょう。私はウインドリィの風の精霊、シウス。お見知りおきを」
「俺はラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)だ。精霊と手合わせができるなんて滅多にねぇ機会だからな、楽しみだぜ!」
 広場の一角で、シウスと名乗った精霊とラルクが、向かい合ってそれぞれに構えを取る。殺伐とした雰囲気でないことを知ってか、周りを人と精霊とが好奇心を露にして取り囲む。
「うっしゃあ、行くぜ!」
 先に動いたのはラルク、巨体からは想像もつかない素早い動きで踏み込み、剛腕を振り下ろす。それをシウスはさらに素早い動きで後ろに飛んでかわす。
「人にしてはなかなかの動き……ですが!」
 足を着けた直後、シウスが雷を彷彿とさせんばかりの踏み込みでラルクの懐に潜り込み、襟首を取って投げを見舞う。宙を舞うラルク、しかし顔にはまだ余裕の笑みが浮かんでいた。
「これで決まったと思うな!」
 姿勢を力づくで変え、打ち付けられるはずの樹を足で蹴って、一直線にラルクがシウスへ迫る。背中を見せたままのシウスに再び振り下ろされる剛腕、しかし――。
「卓越した筋力、そこから生み出される身体の動きは称賛に値します。ですが、攻撃に移る動きが単調です」
 言ってシウスが、掠めたラルクの腕を取って引く。空中で前のめりになったラルクは頭を抱え込まれ、飛んだ勢いのままに地面に顔面からダイブする形になる。立ち上がり埃を払うシウスに声援が飛ぶ中、何事もなかったかのように起き上がったラルクが頭を掻いて悔しげに呟く。
「かぁ〜、攻撃を見切られちゃしゃあねえな。……でも、いい勝負だったぜ、あんがとな!」
「いえ、こちらこそ。なかなか面白いものも見せてもらいましたし」
 シウスが手を貸して、ラルクを助け起こす。そこにタニアと周が現れた。
「シウス!」
「おや、タニア。すみません、あなたを見失ってしまいました。探そうと思ったのですが、この方に声をかけられてしまいまして」
「っと、知り合いか? わりぃ、時間取らせちまったか」
「構いませんよ、こうして見つかったことですしね。……では、私たちはこれで」
「周さん、ここまで連れてきてくれて、ありがとうございます」
 タニアが礼を述べて、シウスの腕を取って歩き去っていく。
「なんだよ男連れかぁ……せっかくいい雰囲気になったのにな」
 項垂れる周に、ラルクが威勢のいい笑い声をあげる。
「んじゃ俺と、運動後の一杯でも一緒するか?」
「そいつはお断りだ! 俺は諦めないぜ!」
 言って周が、次の標的を探すべく走り去っていく。

「セリシアさん、エスコートの手順はこのような感じでよろしいですか?」
 精霊を見送ったセリシアに、ナナ・ノルデン(なな・のるでん)がエスコートの相談をしにやって来る。
「はい、それで構いません。ごめんなさいね、手伝わせてしまって」
「いえ、せっかく精霊様に来ていただけるのですから。……それで、精霊様は一属性ずつご案内した方がよろしいですか?」
「そうね……個体差はあるけれど、炎熱の精霊と氷結の精霊、光輝の精霊と闇黒の精霊は仲が悪いとされているわ。雷電の精霊は他のどの精霊にも別け隔てなく接するわ」
「精霊を案内する時に、その属性に属するアイテムを利用したら、もっと気分よくしてくれるの? 例えば、炎の精霊の時には松明をかざす、とかさ」
 ズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)の質問に、セリシアが少し考えてから答える。
「それにも個体差があるわ。極端な例だと、氷結の精霊なのに寒いのが苦手とか、光輝の精霊なのに明るいところが苦手、なんてのもあるわ。私と姉様は雷電の精霊、カヤノちゃんとレライアちゃんは氷結の精霊に属するけれど、あんなに違うんだから……あ、このことは二人には内緒ね?」
『こらこら、我には聞こえておるぞ。……ま、我とお主とでも違うところはあるがの』
 サティナの突っ込みに、ナナそしてズィーベンにも笑みが生まれる。そうしていると、入口には精霊ご一行様とでも言うべき、大勢の精霊が大挙してやって来ていた。
「一番大切なのは、今日の祭を楽しんでもらおうとする心、気持ちです。精霊は、感情を理解する力に長けているわ。楽しそうな人の前では楽しそうにするし、悲しそうな人の前では悲しそうにする。そして、懇意にしてくれる人には、決して悪いことはしないわ。……それじゃ、この方たちのエスコート、お願いできるかしら?」
「はい、お任せください、セリシアさん」
 セリシアに頷いて、ナナとズィーベンが精霊の前で頭を垂れ、挨拶する。
「ようこそお出でくださいました、精霊様方。本日皆様方をご案内させていただきます、ナナ・ノルデンと申します」
「ズィーベン・ズューデンだ……です」
「慣れない手前、不作法など致してしまうかもしれませんが、今日という日を楽しんでいただくため、誠意お仕えさせていただきます」
「ご用のある方は、なんなりとお申し付けください」
 挨拶を終えたナナとズィーベンを、好意を持った精霊が取り囲み、そして無数の会話が生み出されていった。

「流石は魔法学園のお祭、さながら魔法の国ですわね」
「すごいねー、ニンゲンもぴゅーって飛んだりぱっ、って消えたりできるんだねー」
 青い髪が綺麗な、年頃9歳くらいの女の子と手を繋いで、エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)がイルミンスールのお祭を楽しんでいた。箒に乗った生徒が自在に宙を舞い、さながら航空ショーの如く、時には魔法を演出に用いて観客を魅了する。出店は一見普通の店構えだが、調理は自前の火術な辺りがいかにも魔法学校らしかった。
「そういえば喉が渇きましたわね。ちょうどそこに飲み物を出しているお店が見えます、行ってみましょう。もしお金を支払う必要があったとしても、後ろの者がどうにかしてくれますわ」
「その言い草は酷いですよ……」
 二人の後ろを歩いていた影野 陽太(かげの・ようた)が苦笑を浮かべる。果実を絞ったジュースを出していたその店は、果物の提供を大量に受けたとのことでお金を取っていなかった。そもそも他に見えるお店の類は、商売というものをしていないようであった。
「これ、環菜会長が見たら驚くでしょうね。学校が違うから当然なのかもしれないですけど」
「ねーねーおにーちゃん、おにーちゃんはここのニンゲンじゃないのー?」
 ジュースを口の周りにべったりとつけながら、女の子が陽太に問いかける。
「俺たちは蒼空学園ってところから来ました。イルミンスールでこのような祭が行われるって聞いて、手伝いに来たんです」
「わたくしは、精霊というものに単純に興味があって、面白そうだから付いてきましたわ」
「へー……わたしが眠ってる間に、なんかいろいろ変わったんだねー。風のせーれーさんに呼んでもらって、ここに来れてよかった! あ、おねーちゃん、あれなーにー?」
「何やら面白そうなことをしていますわね。行ってみましょう」
 女の子が興味を示した催し物へ、エリシアが女の子を連れて駆けていく。
「ああ、待ってください」
 その後を、陽太も慌てて追いかけた。

「やあ! ボクはエル・ウィンド(える・うぃんど)さ。やはり光輝の精霊ともなれば、ボクみたいに年がら年中輝いている人に興味を示すと思うんだけど、どうだい?」
 言ってエルが、『キラッ☆』と瞬きをすれば、その全身から眩いばかりの光が放たれる。
「あら、あなた、粋な計らいをなさるのね。そうね、輝いていることは素晴らしいわ。それが物であれ、そして人であれ、ね。わたくしはサイフィードの光輝の精霊、シャンダリア。あなたはわたくしの眼鏡に適う殿方なのかしら?」
「もちろんですとも。それでは、お手をどうぞ」
 試すような眼差しのシャンダリアに、自信ありげに微笑んでエルが手を差し伸べる。その横ではエリオット・グライアス(えりおっと・ぐらいあす)が、自らの周りに冷気を纏わせ、服や髪には氷片を張らせた上で対応に当たっていた。
「あ、あの、大丈夫ですか? とても寒そうに見えるのですが……」
「……問題ない。凍死するような寒さではないのでな」
 平静を装うエリオットではあるが、唇が紫色なところを見ると、それなりに無理をしているようである。
「ほらほらエリオット、そんな顔してたらエスコートにならないわ。それじゃ一つ、氷の微笑、お願いね」
 やってきたクローディア・アンダーソン(くろーでぃあ・あんだーそん)が、エリオットにクローディア命名、『氷の微笑』をするように言う。
「クローディア、そうは言うが、普段仏頂面の私が微笑を浮かべて、どうなるというのだ?」
「さあ、それは精霊さん次第じゃない? でも、私の読みでは、ウケると思うな」
 それからもいくつか、他の人や精霊に聞こえない二人だけのやりとりが交わされ、そしてエリオットが振り向いて、『氷の微笑』を浮かべて言葉をかける。
「さあ、行こうか」
「…………はい。わたし、クリスタリアの氷の精霊、ミサカです。よろしくお願いします」
 エリオットに視線を向けられたミサカが、白い肌を紅く染めて、そっと横に寄り添う。
「人間ってこんなに……何て言うか、個性的? なヤツだったか?」
「うーん……多分、エリオットさんとエルさんが、じゃないかな。自分はそんな、あの二人のようにはなれないよ」
「ふーん……ま、いいや。派手派手しいのも寒すぎるのも好きじゃない。お前くらいがちょうどいい。俺はナイフィードの闇黒の精霊、マラッタ。よろしくな」
「あ、はい。ええと、ケイラ・ジェシータ(けいら・じぇしーた)だよ。よろしくね、マラッタさん」
 一通り挨拶が済んだところで、バスケットを手にしたホワイト・カラー(ほわいと・からー)が、中に収められていたマフィンを皆に振舞う。
「あの、どうぞ。私、お菓子作りは得意なんです」
「あ、ありがとうございます。……はい、とても美味しいです」
「ふむ……精霊も、食事をするのか?」
「多分、エリオットさんの言う食事とは違うと思います。わたしたち精霊は、食べる・飲むという行為はしますけど、美味しいか美味しくないかで、食べたものを糧にできるかできないかを判断している、と思うんです。苦いのとか、辛いのとかは、食べたり飲んだりする意味がないんです」
「ボクたちは、苦かったりしても身体にいいから、って食べなきゃいけないものとかあるね。なるほど、そんな違いがあるのか」
「およその推測ですけれどもね。他の種族との違いを、あまり詳しく調べたわけではないですから。……ええ、確かにこのお菓子は美味しいですわね」
「いいね、これ。俺にちょっと作り方とか教えてくれない?」
「マラッタさん、料理するんですか?」
 マラッタの問いに、ケイラが驚いた様子で尋ねる。
「前に、窮地に陥った俺を助けてくれた人間がいてな。そいつが色々と俺に作ってくれた。それが美味しくて、何だか俺でも作れないかなって思って、見よう見まねでやってたんだ」
「そうなんだー、ちょっと意外かも。あ、悪い意味じゃなくてね。じゃあ今度、コシャリっていう自分の好きな料理があるんだけど、教えてあげたら作ってくれるかな?」
「コシャリ……聞いたことないけど、俺にできるなら、構わないぜ」
 マラッタが頷くのに合わせて、ケイラが喜ぶように手を合わせる。
「さあ、そろそろ参ろうではないか。このドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ、喜んで先導を務めさせていただこう」
 アロンソ・キハーナ(あろんそ・きはーな)が、騎士の鎧に愛用の槍を持ち、頼もしさを滲ませながら一行を先導し、それに付いていくように精霊と人とが会話を交わしながら、賑やかな通りを歩いていく。
「あの、こ、これは、どのように動いているのでしょうか?」
「不思議ですわね……ちょっとあなた、説明してもらえませんこと?」
「…………何と言ったらいいんでしょう。…………触ってみると、いいでござる?」
 御薗井 響子(みそのい・きょうこ)の背中から伸びる一対の腕に興味を示したミサカとシャンダリアが、まるで虫を突付くようにつんつん、と手の部分を触ったり、握って開いてに合わせて指を動かしたりして、遊んでいた。
「…………やはり、寒いな。それほど問題はないようだし、切るか……」
「えー!? エリオット、氷の微笑はー?」
「表情くらい普通にさせてくれないか……こういうのは、おもてなそうとする心が大切なのではないか?」
「そうだね。ま、ボクのように明るく、光輝いていれば何の問題もないだろうね」
「……エル、眩しいです。少し加減してください」
 顔色まで紫色になりかけていたエリオットが氷術を切り、それにクローディアが残念そうな表情で呟く。相変わらず光を放ち続けているエルは、ホワイトにツッコミを受けていた。
「……ねえ、マラッタさん。一つ、聞いていいかな」
 そしてケイラは、どこか言うのをためらうかのような表情を浮かべて、マラッタに尋ねる。
「自分は暗いところが苦手なんだけど、それって治るのかな?」
「治る、んじゃないのか? 俺は確かに闇黒の精霊だから、暗いところは苦手じゃないけど、好んで好きってわけでもないぜ。慣れるのが人間に比べて格段に早い、ってくらいだと思うな。……どうして、の部分は知らないけど、どうしても治したいなら慣れるまで続けるしかないだろうし、治さなくて困らないなら治さなくてもいいんじゃないかと思うぜ」
「……そっか。うん、ありがとう。変なこと聞いてゴメンね。お詫び、と言ったらおかしいけど、素敵な演奏を聞かせてあげる」
 言ってケイラが、包みからウードを取り出し、演奏を始める。周りの喧騒の中にあって、そのリュートに似た楽器の音色は不思議と、精霊そして人間の心を落ち着かせ、緊張していた身体をほぐしてくれるような気分をもたらしてくれた。