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リアクション
第3章 白百合団の才媛達
「お初にお目にかかります、譲葉大和と申します」
イルミンスールの譲葉 大和(ゆずりは・やまと)は、会議の準備を進めている白百合団の団長桜谷 鈴子(さくらたに・すずこ)を訪ねて、自己紹介をする。
「怪盗の事件ではお世話になりました。引き続きのご協力を感謝いたします」
初対面であったが、大和の名を鈴子は把握していた。
「ヴァイシャリーでの事件だけではなく、優子さんにはいつもお世話になっています」
「優子と……」
「え? 俺と優子さんの関係ですか? 心の友と書いて心友です。えぇ、勝手にそう思わせていただいています」
鈴子が尋ねるより早く大和がそう説明をすると、鈴子はなんだかおかしそうに笑みを浮かべた。
「会議前ですが、少しよろしいでしょうか?」
大和の問いに鈴子が頷き、並んで席についた。
「早河綾さんのもう一人のパートナーである『ルフラ』さんという方宛の、綾さんからの手紙をお預かりしています」
早河綾は人身売買などを行なっているとある組織のメンバーに騙され、組織の一員として動いていた少女だ。
大和達の救出作戦により、彼女の体は保護できたが、彼女のパートナーの1人が組織により殺害されてしまった。
しかし、彼女にはパートナーがもう一人おり、それがルフラという男性。綾の義理の兄だ。
「彼について何かご存知でしたら、教えていただけないでしょうか?」
「団の方でも、ご両親にお訊ねするなどして、早河綾のパートナーについては調査をしているのですが、現在行方が分かっておりません。空京で暮らしており、時々ご両親の元には手紙で連絡があったそうですが、最近は届いていないようです。恐らくは綾が組織に関与していることを知っており、綾の身に何かがあったことも感じ取ったために、自ら行方をくらましたのだと思います。フルネームは『ルフラ・フルシトス』、武芸に秀でたシャンバラ人とのことです」
「そうですか……すぐにお会いするのは難しそうですね」
軽く息をついた後、大和はふわりとテーブルクロスを広げた。
「さて、本題に入りましょう」
ティータイムで日本茶と芋羊羹を用意して、鈴子にすっと差し出した。
修学旅行で優子達と入った店から取り寄せた一級品だ。
「会議に向けて、甘いものを取りながらでも、貴女のお考えをお聞かせ下さい。善処いたしますので」
そう甘く、だけれど真剣な瞳で微笑むと、鈴子はくすりと笑みを浮かべた。
「ありがとうございます。戴きます」
両手で湯呑を持ち、茶を飲んで息をついて、鈴子は語り出す。
「一般の百合園生達は何も知らなくていいのです。もちろん、自分達が良家の息女であり、狙われる可能性があることは皆分かっているはずですし、その点に関しては注意を促しておくつもりではありますが。校長や彼女達を守れる体制を、私達白百合団、そして協力して下さる他校の方とで作っておかねばなりませんわ」
鈴子が程よい熱さの茶を全て飲み終えた頃、校長の桜井静香と、白百合団員や協力を申し出た他校生達が会議室に集合した。
「盗聴器などは仕掛けられていないようでござる。集まっているメンバーも学生証を持っており、百合園とも縁のある人物でござる」
長い髭を持つ、ゆる族の男が鈴子にそう報告をする。
「ご苦労様です、うんちょうさん」
「うんちょう? ひ、人違いでござろう」
そそくさと、ゆる族の男はその場を離れて、ドアの前に立ち警備を続ける。
鈴子は立ち上がって、校長と共に前の席に向かう。
鈴子の隣に、子供達と共に別荘に住み始めた2人――シャンバラ古王国の騎士、後にヴァイシャリーに移り住み、女王の親族とヴァイシャリーを守ったとされる、麗しきマリルと美しきマリザの2人が腰掛けた。
「良いものを見たでござる。これだけでも意義のある会議となったでござる」
頷きながらそんなことを呟いたのは蒼空学園の椿 薫(つばき・かおる)だ。
マリルとマリザは昆虫の羽のような羽を生やし、痩身で果敢なげで、神秘的な美しさを持つ双子の女性だった。
「目覚めたばかりで世界情勢の把握が出来ておらず、更に記憶が曖昧なところがありますが、どうぞよろしくお願いいたします」
「力を貸してくれるのは嬉しいけれど、逆に問題ごとを持ち込まれた気もしないではないわ」
マリルは丁寧に頭を下げるも、マリザは少し不満気だった。
「失礼します」
それから白百合団班長のロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)が静香の隣の椅子を引いた。
班長になったばかりのロザリンドは、早速班員を指揮して百合園生や校長の護衛に当っているわけだが、会議の場に班員は出席していない。
白百合団の班は仕事ごとに編成されるため、ロザリンドの班員もいつも同じメンバーというわけではない。
また、大掛かりな作戦の時には、少人数ではなく、班長は数十人の団員の長として指揮をとることになるようだ。
身を引き締めて、ロザリンドは椅子に深く腰掛ける。
そのロザリンドのパートナーであるテレサ・エーメンス(てれさ・えーめんす)は、うろうろと迷った後、隅の席に座った。
その他集まったメンバーは、
白百合団員の氷川 陽子(ひかわ・ようこ)とベアトリス・ラザフォード(べあとりす・らざふぉーど)。
神楽崎優子が率いた闇組織討伐に協力した蒼空学園の椿薫。更に怪盗問題でも協力した譲葉大和。
ルリマーレン家の別荘解体に協力をした高月 芳樹(たかつき・よしき)とアメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)。
そして、準備中のパラ実神楽崎分校で分校長を務める崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)。
分校長代理を務めている情報コンサルタントのキャラ・宋(皇甫 伽羅(こうほ・きゃら))と、ドアの前に立つキャラの舎弟(うんちょう タン(うんちょう・たん))と後見人(皇甫 嵩(こうほ・すう))だ。
「では先に、百合園が抱えている問題について、何か意見がありましたらお願いします。現在のところ異変はないようですし、恐らく組織が接触してくるとしたら、次以降の課外活動と思われます。ですが、皆様油断だけはしないようお願いいたします」
鈴子が集まった皆にそう言った。
白百合団員と他校の協力者達には、これが囮行動でもあることを説明してある。
「その前に質問」
テレサがぴっと手を上げた。
「どうぞ、テレサさん」
議長の立場にある鈴子が答えた。
「綾が持ち出せた情報……名簿とかってどこまで記載されてるの? そこから考えられる事態って誘拐や襲撃以外に何かある?」
「白百合団員でも校長やラズィーヤ様が把握しているような詳細情報を持ち出すことは不可能です。皆さんも見ることが出来る顔写真に住所、氏名、年齢、種族、クラス、部活程度の情報と思われます。考えられる事態については……」
鈴子は眉を寄せて考えるも、首を左右に振った。
「何とも言えません」
「学院内での闇組織の影響排除ないし早期発見としましてご提案があります」
ロザリンドが鈴子に目を向けると、鈴子は頷いて発言を促す。
「教職員の方達の目で、成績や生活態度に変化があった方の情報を集めてもらうこと、私達白百合団員も噂レベルであっても、そういった話を耳にした際にはチェックをしておくこと……殆ど無関係の方ばかりでしょうが、それでも綾さんと同じ境遇の人がいましたら見つかるかもしれませんので」
「わかりました。教職員の方々の協力も求め、白百合団も気を配っていきたいと思います」
「それから『陽炎のツイスダー』と呼ばれていた人物ですが、正門前での戦闘後、警備隊の兵士に引渡したようですが彼はその後どうなったのでしょう?」
「その人物に関しては、白百合団も把握していません。ラズィーヤ様も軍から何の報告も受けていないと仰られています。……尤も百合園の生徒に知らせたくはないだけで、ラズィーヤ様ご自身は把握しているのだと思いますけれどね」
ロザリンドとしては、自分達のカードとして扱えるのかどうかを知っておきたいと思ったのだが……ラズィーヤに白百合団はそのカードを扱える団体として認められていないのかもしれない。
「事件の犠牲者でも加害者でもある、早河綾さんですけれど、多少は病状も回復してきたようです」
「歩くことは出来ないようですが、上半身は痺れが残るものの、自分の意思で動かすことができるようになっていますわ」
交替で綾の警備や監視を努めている陽子とベアトリスが綾の状況を報告していく。
「医師からは車椅子に乗せて、外に出すことも可能と聞いております」
「そこで、提案なのですが……」
陽子とベアトリスは真剣な瞳を静香と鈴子に向ける。
「世話係、護衛、監視をつけて、綾さんも課外活動に参加させてはどうでしょう」
陽子の提案に静香が反応し、鈴子に目を向けた。
「それが綾さんの為にも、課外活動参加者全員の為にもなると思います」
ベアトリスが陽子の言葉に続けて、そう言った。
「そうだよね、リハビリにもなるかもしれないし、介護をすることが百合園生の勉強にもなるだろうしね」
鈴子の反応を気にしながらも、静香は2人の提案に賛成だった。
「それは……難しいことです。非常に危険ですわ」
「無論、だからこそ有意義と感じております。彼女が生きていることは、組織にも伝わっているでしょう。その彼女自身が動けば、組織の関心を惹きやすいと思われます」
鈴子に、陽子はそう説明をした。
「うん。囮、だからね。でも確かに危ないね」
静香は表情を曇らせて考え込む。
「確かに、彼女が協力してくれるのなら、陽子さんの仰るとおりだと思います。ただ……彼女は、もう百合園生でも白百合団員でもないものとお考え下さい。正式な退学の手続きは済んでいませんが、彼女は百合園生を売るという決して許されない行動をしていますから、復学を認めることは……できません。一部の百合園生や私、校長が許したとしても、ラズィーヤ様は心中はどうあれ許すことは出来ないでしょうし、白百合団でいえば、副団長の神楽崎優子も白百合団を指揮する者として彼女の行いを許しはしない……許すことは出来ないでしょう」
「ん……。それでも、意味はあると思う、よね」
静香が陽子とベアトリスに目を向けると2人は複雑な表情ながらも頷いた。
鈴子は少し迷った後、首を縦に振る。
「では、次の課外授業の際には、連れ出せるようラズィーヤ様に相談してみましょう」
「お願いします」
「私達からも関係者に交渉いたしますわ」
陽子とベアトリスは複雑そうな表情のまま、淡い笑みを見せた。
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