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のぞき部あついぶー!

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のぞき部あついぶー!
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第4章 ミズノ


 本テントでは、玲とヴィオがお茶を飲んでいた。
 ヴィオもだいぶ落ち着いて、打ち解けているようだ。
 玲は、もう1人新しく入ってきたアシャンテ・グルームエッジ(あしゃんて・ぐるーむえっじ)にもお茶を淹れていた。
「どうぞ。お茶が入りました」
「あ、はい……。ありがとうございます……」
 人付き合いの苦手なアシャンテは、居心地悪そうに端っこに座って小さく溜め息をついていた。
「はあ……」
 パートナーの御陰 繭螺(みかげ・まゆら)にむりやり連れて来られたけど、やっぱり人と話すのは苦手で、巫女装束の着付け方が書かれたインチキポスターを見ていた。ずっと見ていて覚えてしまったが、それでも見るふりをして時間をつぶした。
 そこで、ようやく繭螺がやってきた。
「た、大変だよ! アーちゃん! 今、パンダ隊の人に聞いたんだけど、のぞき部がこの神社に来てるらしいよ!」
「うん? のぞきって……女の裸をのぞく……ってことですか? だから……どうしたというんです?」
 二度も記憶を失っているアシャンテは、常人とは感覚がズレていた。
「だからどうしたじゃないよ! のぞかれたくないじゃんかあ!」
「でも、のぞき部って本気なんですかね?」
 玲は半信半疑だった。
 ヴィオが震えるだけで何も言わないので、繭螺が必死に訴えた。
「で、でも! のぞかれてからじゃ遅いんだよ!」
 アシャンテはそれを見て、ようやく理解したようだ。
「なるほど。そういうことですか。では……」
 アシャンテがテントを出ていくとき、行き違いにメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)が入ってきた。
「こんにちはぁ〜。着替えはここですかぁ〜?」
「ええ……。今、安心して着替えられるようにしますから、待っててくださいね」
「はぁ」
 メイベルとフィリッパが様子を見ていると、アシャンテは森につないでいたパラミタ虎のグレッグとパラミタ猪のボアを連れて戻ってきた。
「ひえええ。怖いですぅー」
 メイベルはぶるぶる震えている。
「あらあら、これは狛犬かしら?」
 フィリッパはさりげなくメイベルを守るように立って、アシャンテに尋ねた。
「狛犬ならぬ……狛虎と狛猪です。出入口につないでおけば、誰ものぞきに来ないでしょう」
 ガルルウー。
「なるほどー」
「グレッグ。ボア。ま、ひとつ頼みますよ」
 玲はグレッグとボアにもお茶とお菓子を出していた。
 そのとき、玲の前に走ってきた女子が1人。
「私が来たからにはもう大丈夫ッス!」
「だ、誰?」
「愛と正義のヒロイン、ラヴピース! ここに参上ッス!!」
 サレン・シルフィーユ(されん・しるふぃーゆ)だ。そしてパートナーのヨーフィア・イーリッシュ(よーふぃあ・いーりっし)もやって来た。あつい部がまだ到着していない今、彼女たちの存在感は大きい。
「ヨーさん。まずはテントの中で様子を見るッスよ!」
「そうね。巫女の装束にも着替えないといけないしね」
 中に戻った玲は、この2人にもお茶を出した。
「どうぞ。助かりますよ。ラヴピースたちがいれば、のぞき部もそうそう来られないだろうからね」
 が、サレンはせわしなく怪しい物がないかチェックしていて、お茶を飲んでる余裕はなかった。
 そして、ヨーフィアは緊張感があるのかないのか、巫女装束を手にラヴピースに迫った。
「サッちゃん。まずはサッちゃんが着替えたら?」
「でも、私はみんなを守らなきゃいけないし……」
「着替えながらでも守れるんじゃないかなあ?」
「そうッスね……」
 サレンの胸をさかんにのぞいているところを見ると、サレンはその成長具合を見たいだけのようだが……。

 テント西側の庭園には小さな茶室がひとつあり、その屋根の上からクライスが狛虎と狛猪の様子を見ていた。
「やっぱり、狙うは周さんの偽テントかな……。でも、早まって犬死しないように、冷静に指示を出さないと……」
 そのとき、本殿西の脇道を抜けてテントに走ってくる影が1つ。
「あ、あれは……!」
 薫の獅子舞だ。
 そして、本殿東の脇道を抜けて出てきたのは、パンダ隊隊長の理沙だ。
「のぞき部ううう! どこ行ったあ! 懲りずに乙女の身体をのぞこうとしやがってー! させるかー! そうはさせるかーっ!! えーっと、あつい部のコールなんだったっけ。そうだ。……ファイファー!!!」
 テント東側の森からは、ショウがクライスと連絡を取りながら見ていた。
「むむ! ほんとだ。先輩のピンチ! クライス、ここは俺に任せてくれっ!」
 ケータイを切ると、さっき買ってきた破魔矢に火を点けて……
 ぴゅーーーーー。
 本テントに向かって放った。
 火をまとって飛んでいく破魔矢に、理沙はすぐ気がついた。
「のぞき部かっ???」
 理沙は矢の出た東の森を見て……西にいた薫を見逃した。
 これがショウの狙いだ。
「へへっ。おみくじで『エロ』を引いた俺をなめんなよーっ!」
 しかもちょうどいいことに、上空には寛太と機晶姫のカーラ・シルバ(かーら・しるば)が空飛ぶ箒に2人乗りしていた。
「よーし! カーラ! 穴があいたら見放題ですねっ!」
「え? 何がですか?」
 カーラは自分のパートナーが何部に所属して何をしようとしてるのか、全然わかってなかった。
「テントの中に、いいものがあるんですよっ!」
「いいもの? ふーん。なんでしょう。それは気になりますね……」
 そして、炎の破魔矢が……
 ズボッ!
 テントの屋根を突き破った!
「きゃああああ!!!」
 テントの中では、大パニック!
 みんな、ほとんど裸のまま体を寄せ合ってきゃあきゃあと大騒ぎ!
「いやあああ。見ないでくださいぃ」
 フリルのついた白い下着姿のメイベルが、大きな胸を揺らしてあたふたドタバタ。
 フィリッパはのぞき部撃退用に持ってきていたミズノの野球バットを慌てて鞄から取り出すが、やはり下着姿で……メイベルとは対照的なブラック。ミズノを担いだその姿は奇妙なバランスで、妙にやらしい大人の魅惑が漂っている。
 と、そのとき。
 玲が、持ってたお茶をぶちまけてしまう。
「あちちちちちっ!」
 あまりの熱さにアシャンテが暴走!
「のぞき部! 受けて立ちます!」
 上半身裸のままで表に飛び出しそうな勢いのアシャンテを、繭螺が必死で止める。
「アーちゃん。裸! 裸! 裸だからああ!!!」
 そうこうしてるうちに、破魔矢が通った屋根の穴は火が燃え広がって人が出入りできるほどのサイズになっていた。
「うっひゃあああ! のぞけるぞーーー!」
 上空の寛太が喜んで近づく、そのとき――
 ぴしゅ!
 ヨーフィアが矢を放った。そして――
 ブッサァ!
「うおおおお!」
 矢は寛太の目に命中。バランスを崩して……
 ひゅーーーーーー。ドサッ。
 カーラが落ちた。
「カーラ!!!」
 寛太は叫びながらも、もう一方の目でしっかりのぞくことは忘れない。このあたり、新入部員にして既にのぞきソウルを身に付けていると言える。
 が、ラヴピースを舐めてはいけない。
「ヨーさん! がんがんやっちゃうッス! がんがんッス!」
「もちろんよっ!!!」
 ヨーフィアは凄まじいスピードで無数の矢を放つ。
「うぎゃああああああ!!!」
 寛太は両目を射られ、何ものぞけないうちに撤退。森の上空へ逃げたが、高い木に激突して……落ちた。
「う……ううう……」
 テントでは、テーブルの上に乗っていたラヴピースがみんなに説明する。
「矢尻はゴムになってるから、大丈夫ッス。心配しない……で?」
 振り向くと、ヴィオの放つ火術が飛んできた。
「なんで!!!」
 ヴィオは、落ちてきたカーラに向けて放っているつもりだが、怖くて目をつむっていたのだ。
「しっかりするッス!」
 ラヴピースはヴィオを抱きしめてやる……が、
 ガッツン!
 ミズノで頭を打たれて、倒れた。
「きゃああああ! 変熊……違うぅ。変態のぞき部ですぅぅぅぅ!!!」
 興奮しすぎたメイベルが、泣きながらミズノを振り回していた。
 ガッツン! ガッツン! ガッツン!!!
 ついに、テントの中にいた巫女さんは全員倒れ、メイベル1人になってしまった。
「はぁあ。フィリッパ……みなさん……どうしたんですかぁ! のぞき部にやられたんですか!?」
 メイベルは泣きながらみんなに応急処置を施し、屋根の補修をした。
 ぐっすんぐっすん。
「にっくきのぞき部ですぅー」
 表では、理沙が破魔矢を放ったショウを見つけていた。
 が、獅子舞の薫も目に入った。
「うう。どうする、私!?」
 ショウは東、薫は西。両方は追えない。パートナーのチェルシーは、罠を仕掛けていてそばにはいない。
 そのとき!
「理沙!!!」
 リュースが駆けつけた。
「リュース! 私は獅子舞を! リュースは森のあいつを!」
「オーケー! 任せろ!」
 リュースは逃げていくショウを見つけ、追いかける。
 そして、すぐに追いついた。
 何故なら、ショウはコタツに入っていたから逃げ足が遅かったのだッ!!
 リュースはショウの背中を掴んで止めると、啖呵を切る。
「貴様あ! 理沙を困らせる奴は容赦しねえ!!!」
 思い切り振りかぶって、ぶん殴る――
 そのとき!
 ショウがコタツに入ったまま、クルッと振り向いた。

 ぬくっ。

「ぬくっ?」
 リュースが戸惑う。
「な、なんだ、このぬくぬくした心地よさは? ど、どうしたというのでしょう。気持ちが穏やかになっていきますね……」
「さあさあ、みかんに煎餅。お雑煮もあるぜ」
 ぽわーんとただよういいニオイ。
「そ、そうだ……! の……のぞき部の情報を教えてもらいましょうか。教えてくれるまでここを動きませんよ。……も、もちろんサボってるわけじゃないんですよ。オシオキだってやっちゃいますから」
「この状況で、どんなオシオキ?」
「……お雑煮1人で全部食べちゃいます! 悔しいでしょう?」
 リュースは、完全にショウの罠にはまっていた……。
 恋人の理沙は、西の庭園側からまわって薫を追いかけていた。
「待てこらあああ!!!!」
「にんにんー! せめて包囲網に穴をあけるでござるー!」 
 司令塔のクライスは咄嗟に判断し、薫にテレパシー、いや、エロパシーを送る。
「薫さん! その格好でパンダ隊隊長から逃げ切るのは不可能だ。悪いが、虎と猪を頼む! トラトラトラ……!!!」
 トラ……トラ……トラ……
「エロパシー、届いてくれ!」
 トラ……トラ……トラ……
「ガオーーーッ!!」
 薫は自分がトラになりきって走っていた。
 エロパシーは高度なのぞきスキルで、まだ使いこなせないのだ。
「ガオガオーッ! ガオーッ!」
 ただ、たまたまカオルトラは狛虎と狛猪の脇を走り抜け、結果的に引きつけることに成功した。
 が、森に入ったところで……ドンドンドン! 狛猪に尻を突き上げられ……狛虎にお尻をガブッと噛まれてしまった。
「ぎゃああああっ!」
 痛みでトラから醒めた薫は、慌てて逃げながらも木陰に潜むチェルシーに気がついた。
 見事、仕掛けられた罠を見破った。
「理沙殿のトラップは百も承知! 甘いでござるよっ!」
 ササッと避けた、そのとき――
 ズザザア……ばっちゃーーーん!
 狛虎と狛猪と一緒に、水の張った落とし穴に……落ちた。
「そ、そんな馬鹿なあ……!」
 チェルシーが木陰からゆっくりと出てきて、かわいく笑った。
「うふっ。狙い通りですわね。……寒中水泳がご趣味なのかしら?」
 薫が虎に食われながら見上げると、理沙もやってきて腰に手を当てて見下ろしている。
「さーて、オシオキタイムといきますかねー♪」
 理沙が妖刀村雨丸を抜くと、霧が舞い……その中をサササッと振るう。
 霧が晴れ、チェルシーが頷く。
「理沙さん。素晴らしい腕ですわ」
「ふふん。まあね!」
 薫のツルピカ頭に……真っ赤なパンダの顔が描かれていた!
「む、無念……!」
 薫はバタンと倒れ、気を失った。
「甘いんじゃないの? こんなもんで終わりだと思ったら大間違いなんだよッ!」
 理沙は薫を縄でグルグル巻きにすると、ほんのちょぴっとヒールを与える。
「う……うう? 貴殿は……?」
「パンダ隊隊長、白波理沙だよっ!!!」
「はあ! ま、またでござるかっ?」
 この後、薫はボッコボコにされて気絶してはヒールで起こされるというオシオキを108回食らうことになるのだが、チェルシーは不思議そうに尋ねた。
「どうして108回なんですの?」
「煩悩を取り払うためだって、美羽が言ってたわ」
「そういうことでしたか……」
 薫はそれを聞いて、抗った。
「の、のぞきソウルは煩悩では……ない」
 ボッコーッ!
 また気絶した。
「やられたか……!」
 庭園の司令塔クライスは、目をカッと開いた。
「サフィ! 早く着替えて。本テントから偽テントへ、誘導を頼む! いよいよ作戦開始だっ!」
 茶室の下からは、待ってましたとサフィが現われた。
 何を企んでいるのか、クイーンヴァンガードの制服を着こんでいた……。