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嘆きの邂逅~離宮編~(第1回/全6回)

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嘆きの邂逅~離宮編~(第1回/全6回)

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「失礼致しました」
 ノア・セイブレム(のあ・せいぶれむ)は、丁寧に頭を下げて、百合園女学院の校長室を後にする。
「……それにしても、レンさんたら。俺のパートナーと言えば会ってもらえるなんて大した自信です。まさかヴァイシャリー家の一人娘まで口説いたんでしょうか。許せません」
 ぶつぶつ呟きながら、会議室の方へと向かっていく。
 学院内ですれ違う百合園生達の中には、悲しみとも苦しみとも無縁なように、優雅で穏やかな笑みを浮かべている者もいれば、武器を携え緊張した面持ちで見回りをしている者もいた。
 校門に訪れた他校生は案内係の百合園生により案内をされて、会議室の方へ歩いていく。
 ラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)と、生徒を率いて出かけている桜井 静香(さくらい・しずか)校長達を除く、百合園女学院の上層部――生徒会役員は既に会議室に集まっているようだ。
 この会議で、シャンバラ古王国の離宮へ先遣調査に向かう者、それから離宮対策本部の役員も選出されるはずだ。
 ふと、ノアは校長室の方を振り返る。
 ノアの言葉に対して、ラズィーヤはイエスともノーとも答えなかった。
 ただ一言だけ彼女は言っていた。
 『結果で示して下さいませ』と。

第1章 会議室に集いし者達

 百合園女学院の生徒会は通称『白百合会』と呼ばれており、白百合会は通常の役員が在籍する本部と、一般人には対処できない学院がらみの事柄を対処するための執行部、通称『白百合団』に分かれている。
 現時点で生徒会の重役であるのは、生徒会長の伊藤春佳(いとう・はるか)、執行部、部長の桜谷 鈴子(さくらたに・すずこ)、執行部副部長――いわば白百合団指揮官の神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)であり、それ以外の役職は複数名の生徒が就くこともある。
「会議を始めます」
 ラズィーヤが席に着き、静まり返った会場に伊藤春佳の声が響いた。
 机はロの字型に並べられており、集まった者達は、所属学園ごとに席についている。
「ここ百合園女学院の会議室がシャンバラ古王国の離宮対処に関する対策本部となります。本部長はラズィーヤ・ヴァイシャリー様が、事務局長として事務的な事柄の取り仕切りは、私、百合園女学院生徒会長の伊藤春佳が担当させていただきます。どうぞよろしくお願いいたします」
 伊藤春佳とラズィーヤが頭を下げ、会場から拍手が沸き起こる。
「まずはそれ以外の役員の立候補を募りたいと思います。担当して下さる方は挙手をお願いします」
 応じて即手を挙げたのは、ラズィーヤと友好関係にある百合園女学院の神倶鎚 エレン(かぐづち・えれん)、一連の事件において、白百合団へ協力をしている蒼空学園の菅野 葉月(すがの・はづき)、ルリマーレン家別荘事件に協力をした荒巻 さけ(あらまき・さけ)、一連の事件で校長の護衛や助言を行っていたイルミンスールのオレグ・スオイル(おれぐ・すおいる)の4名だった。
「では、神倶鎚エレンさんから、希望の役職とご助力いただける仕事の内容をお願いします」
「百合園の神倶鎚エレンです。私は全般的な、各種提案、情報収集、状況分析を行わせていただきたく思います。これまでの会議についての資料は全て確認させていただきました。こういった会議の進行管理などもお手伝いしたいですわ」
 続いて、春佳は菅野葉月に手を向ける。
「蒼空学園の菅野葉月です。僕は百合園と他校生徒との間を取り持つ窓口、渉外担当を希望します。……先日の空京での鏖殺寺院によるダークヴァルキリー復活の事件の際には悲しいことに六学校間の争いが表面化しました」
 葉月は悲しげな目で皆を見回す。
「心配なのは、この離宮調査においてその影響が出ないかと言うことです。各学校からの推薦を受けていると言うのは、場合によっては各学校の意向を受けて志願してきた可能性もあるわけです」
 会議室に集まったメンバーは皆所属が記された名札を胸につけている。
 多くの契約者達が所属する6校全ての学生達がこの場に集っていた。
「自分も蒼空学園の生徒であるため、当然その疑いをもたれても仕方ないですが、今までの実績とこれからの行動で証明していくしかないわけです。他の他校からの参加者についても同様です。ただ、行動においては各学校の協力は不可欠ですので、その疑いは一時的にでも忘れるべきなのでしょう」
 正面を向いて、葉月ははっきりとした口調で提案する。
「一致団結して、臨みましょう。何か問題が起きた時――いえ、起こる前に調整役として僕が解決を図りたいと思います」
 軽く頷いた後、春佳は荒巻さけに目を向けた。
「蒼空学園の荒巻さけです。本部長の補佐等を行わせていただきたいと思います。意見は積極的に述べて、状況把握につとめ、皆のまとめ役となれるよう努力いたしますわ」
 続いて、春佳はオレグ・スオイルに目を向けて発言を促す。
「イルミンスール魔法学校のオレグ・スオイルです。私は皆さんのサポートをさせていただきます。今回の会議では離宮の地図の作成、状況把握に努め、報告書にまとめていこうかと思います。事務局長の補佐という形でしょうか」
「了解しました。他に立候補される方はいませんね?」
 手が挙がらないことを確認した後、春佳はラズィーヤと2、3言葉を交わした後、こう決定をする。
「それでは、荒巻さけさんには、本部長補佐を、菅野葉月さんとオレグ・スオイルは、事務局長付けの事務員とし、それぞれ、各学園間の調整と、書記的役割を担当していただくことにいたします。そして……」
 春佳がエレンに目を向ける。
「神倶鎚エレンさんには、副本部長をお任せしてみたいと思います。ラズィーヤ様がご不在の時には代理として諸々の決定と承認を神倶鎚さんにお任せいたします。本部長であるラズィーヤ様の意にそぐわない決定は決してなされないようご注意下さい。また、作戦に関しては神楽崎優子さん、事務的分野に関しては私、伊藤春佳の決定が優先されます」
「お受けいたします」
 非常に責任の重い役職であったが、エレンは覚悟を持ち受けることにした。
「一つ、提案よろしいでしょうか」
 手を挙げたのは榊 征一郎(さかき・せいいちろう)だ。
「どうぞ」
 春佳の許可を得て、征一郎が提案を始める。
「薔薇の学舎所属の榊征一郎と申します。やはり混合部隊は連携の面で不安があります。そこで、他校生との間への調整役は私も必要と考えております。菅野さんお一人で全ての契約者の意見を聞くことは不可能と思われます。ですので、学校同士の調整役をそれぞれ一人募るのはどうでしょう?」
 征一郎の提案に、春佳は少し難しい表情を見せた。
「……身内の話で申し訳ありませんが、我が学舎は宗教の問題があって女性と話すことを許されない不幸な生徒もおりますので。お互い、一度要望はまとめた方が混乱も少ないと思うのですが」
「設けることに関してはこちらとしては異論ありません。ですが、こちらで決定できることではありませんので、学園間の方々で話し合いを行い、調整役なり代表者を決めていただければ非常に助かります」
「では、私は薔薇の学舎の調整役として立候補させていただきます。他に立候補されたい方がいましたら、話し合いたいと思いますので、お申し出下さい」
 薔薇の学舎の生徒達に征一郎は頭を下げた。
「他の学園の方も、調整役を担って下さる方がいましたら、菅野さんか私にお申し出下さい」
 春佳がそう言うが、この場では立候補者はいなかった。
「他に、役員に関して質問や意見はありませんか?」
 春佳が問いかけると、フィル・アルジェント(ふぃる・あるじぇんと)が手を挙げた。
「フィル・アルジェントさん、どうぞ」
「はい、百合園女学院の白百合団員フィル・アルジェントと申します」
 フィルは頭を下げた後、話し始める。
「私は本部事務部門ではなく、作戦指揮官補佐として立候補させていただきたいと思います。結成されるという先遣調査隊の危険が減るように、指揮官と共に作戦を練り、打ち出していきたいです。現場での皆のまとめ役として立ち回れたらと思います」
 フィルの言葉に春佳は指揮官の神楽崎優子に目を向ける。
 優子の頷きを確認し、春佳はフィルに目を戻す。
「了解いたしました。作戦指揮官補佐を、白百合団員のフィル・アルジェントさんにお任せいたします」
「作戦部門に関しての具体的な編成については、先遣隊メンバーが決まってから私の方から説明させてもらう」
 春佳の言葉に優子が付け加える。
 フィルが頷いた、直後――。
「それで? 離宮に遊びに行くのかお前達は」
 辛辣な言葉が飛んだ。
 皆の視線が発言者の、レン・オズワルド(れん・おずわるど)に集まる。
「出発前には、オジョウサマ方で作戦を立てて、訓練も行うそうだが。その訓練にしても、本当に必要か甚だ疑問だ。むしろ実戦経験のない者を無理に戦場に連れ出すことの方が危険に思える。自衛の為の護身術講座を開くならまだしも、戦力を見越しての訓練など止めてしまえ」
「一般の生徒を戦場に出すつもりはない。だが巻き込まれる可能性はある。自衛の為に訓練は必要と考える。白百合団員は軍人ではないが武術訓練は強制ではなくとも行っており、実戦経験がある者も多い。他校の契約者同様、シャンバラの人々からの依頼を受けて戦場に立ったことのある者もいるだろう」
 優子の言葉をレンは鼻で笑う。
「子供の喧嘩程度の抗争を実戦というならな」
 途端、春佳と優子が鋭い視線をレンに向ける。
「寄せ集めの子供達は傭兵部隊の代わりにはなりはしない。6学園の協調なんて妄想だ。調整なんて無駄なこと」
 バンと手を突いて、同じイルミンスール席に座るウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)が立ち上がる。
「おい、協力者が集まったこの場でそりゃないだろ?」
 ウィルネストの言葉に、レンは口元に嘲りの笑みを浮かべる。
「この会議自体、妄想を語り合う場でしかない」
「妄想!? んだと、何の為の外部協力だと思ってんだよ!」
「協力? 何に協力するつもりだ?」
 レンは百合園生徒会役員に目を向けて嘲笑する。
「政治にしろ武術にしろ、ここのオジョウサマ方は只のごっこ遊びをしているだけさ」
「ちょ、ちょっとレンくん!? 何考えてるのさ! 止めなよ!!」
 友人である琳 鳳明(りん・ほうめい)が遠くの席から声をかけるも、レンの発言は止まらない。
だから女一人も守れない
 パキン
 優子が持っていたペンを片手で真っ二つに折った。
 しかし、目を閉じて彼女は何も言わない。
「ご退出いただけますか」
 にっこり微笑んでそう言ったのはラズィーヤだった。
「喜んで。茶番に付き合うのは時間の無駄だと思っていたところだ」
 レンは薄い笑みを浮かべて立ち上がり、パートナー達と共にドアへと向かう。
「校門まで送ります。問題を起こされては困りますから」
 鋭く目を光らせながら立ち上がったのは、白百合団の班長の一人ティリア・イリアーノだった。
「警備員ごっこのつもりか」
 嘲り声で笑い声を発しながら、レンはティリアと共に会議室から出て行った。