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嘆きの邂逅~離宮編~(第3回/全6回)

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嘆きの邂逅~離宮編~(第3回/全6回)

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「私は宝物庫への到着を第一に考えます」
 ステラ・宗像(すてら・むなかた)が意見を出す。
「各所の封鎖などはその後でも良いのではないかとも思うのですが……」
 メンバーを見回し、ステラは少し考える。
「どこを封鎖するのかわからぬまま、悪戯に戦力を細分化するわけにはいきませんから」
「分かれ道それなりにあるようじゃからの」
 景戒 日本現報善悪霊異記(けいかい・にほんこくげんほうぜんあくりょういき)は、ステラの隣で胸を張って立ちながら、手帳を広げている。
 ステラと景戒も地下道の記録を行っている。
「罠や道などの他にも大事なことは多いのじゃ。何処を封鎖すべきか、交通結節点足りうる重要な分かれ道は何処か、今後も考えるとこれらを把握せねば次の手を打てぬ。情報・知識は宝石よりも大事なのじゃ♪」
 さらさらと景戒は通路の状況を手帳に書き込んでいく。
「こうして情報を記録し、何処が重要なのか判断するためにも、先ずはひとまずの終点である宝物庫への到着を優先すべきではないでしょうか?」
「人数が多いから、平行作業も可能かと思ったけれど、それもそうね」
 晴海はステラに頷きながらそう言った後、軽く回りを見回す。
「んー。すぐに封鎖はできないにしても、調査はしておくべきだと思うし、退路も必要だから私は地下道に残るわね」
 残るという意思には変わりないようだ。
「調査には賛成ですが、塞いでしまったらこちらも利用できなくなってしまいますし……」
 マッピングしながら、フィルは調査を優先すべきか宝物庫を優先すべきか迷う。
 ある程度隠密が望まれる部隊なのに、人数が多めであることや、退路を確保しておく必要もあると思われるため、数人は地下道に残っていた方がいいとは思うが。隊長自ら残らなくてもという思いが皆の頭にちらりと過ぎった。
「慎重に……といっても、疑わしきものを全て壊して進むには労力がかかりすぎる。亀の歩みではいつまた何が起きるかもわからんし……」
 ヨヤ・エレイソン(よや・えれいそん)はそう言って、晴海と鳳明に目を向ける。
「この先は、ある程度は思い切って進んでもいいだろうと俺は思う。こう言ってはなんだが、破壊に精神力を使っていくより、怪我を癒す為の精神力の方が少なくて済むと思うぞ」
「そうだね、急ごう。地下道の状況は大体わかってきたし、今後は罠を見つけて解除よりも、避ける方向で。いいかな?」
 鳳明が晴海に顔を向けると晴海は頷いて「異論ないわ」と言う。
 その後、明らかに罠と思われるものは破壊し、それ以外は無視して駆け抜け宝物庫を目指すことにする。
 隊長以外は深い説明は受けていないが、この地下道は敵側が利用を目論んでいた地下道だ。仕掛けられている罠に地下道を崩すほどの激しい爆発系の罠や、破壊魔法を繰り出してくる敵は存在しなかった。
 多少負傷するも、人数が多く魔法での治療にも困ることはなく一行は宮殿近くまでたどり着く。
 地上に向う階段のある十字路で立ち止まり、鳳明率いる宝物庫に向う班と、隊長の御堂晴海と地下道調査を行う班に分かれることにする。
「私は隊長のサポートに残ろう」
 少し迷ったが、天華は晴海の補佐として留まることにする。……補佐だけではなく、気がかりなところもあってのことだ。
 ナナとパートナーのズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)も調査に志願したため、地下道には晴海も含めて4人、残ることになった。
 フィルは宝物庫へ行くことにする。
「何かあったら、即連絡してね。なるべく急いで駆けつけるから」
 晴海が鳳明にそう言った。
「はい。行こう、皆!」
 返事をして皆に声をかけると、鳳明は地上へ続く階段の方へ皆を率いて向っていく。
 地下道に残った4人は、少し先。宮殿の地下に当たる辺りを調べてみることにした。

「宮殿の地下室とは繋がっていないようね」
「宮殿に簡単に潜入できる造りだと、困るでしょうからね」
 晴海の言葉に、ナナはそう言いつつ、遠くに目を向ける。
 このまま真っ直ぐ進むと、北の使用人居住区の方に出れるはずだ。
「増援や撤退が必要な際は、東か南を頼ることになるわよね。そちら方面がどうなっているか調査すべきだと思う。2手に分かれましょう。私は身を守る術には長けているから、1人でも大丈夫」
「いや、私は隊長と行こう。4人なのだから2人ずつが妥当だろう」
 天華がそう言い、ナナとズィーベンも頷いた。
「……それじゃ、ナナさん達には東方面をお願いするわ。空飛ぶ箒、お持ちだしね」
「はい、任せてください」
「ボクはナナの後ろから進むよ……。東の塔にたどり着いたら、担当している人に地図を渡しておくね」
 ナナとズィーベンはそう答えて、箒に乗って東の方へと出発していく。
「あまり動かぬ方が良いとも思うが」
 天華が晴海に言う。
「罠のパターンは大体わかったし、北側に向わなければ大丈夫よ。行きましょう」
 晴海は南に向って歩き出し、天華も吐息を一つついた後、慎重に南に向って歩き出す。

 ナナは、殺気看破で周囲の様子を探りながら、壁や床に触れずにズィーベンと共に東に向って進む。
 ナナだけだが、一応光学迷彩で姿も見えにくくしておく。
 通路は空飛ぶ箒で飛ぶことに、問題のない広さがあり、石像の類も、近づいて作動したとしても十分突っ切ることができた。
「以外に簡単に罠が回避できるような……」
「うーん。それって敵側も、だよね」
 ナナの言葉に、ズィーベンが周囲の状態を記録しながらそう言った。
 前方に稼動している石像が見える。
「はっ!」
 ナナはスピードを上げて一気に接近し、箒から飛び降り、壁を蹴って踵を石像の体に叩き込んだ。
「いくよ!」
 ズィーベンは後方から雷術で援護をする。
 その後、ナナは拳を石像に叩き込み、石像を崩した。
「……全部倒して向っていたら、時間がかかってしまいますね。でも、放っておいたら、皆が後方から攻められてしまいますし」
「宮殿もこれくらいの敵の数なら、人数的に問題は全然なさそうだけどね」
 ナナとズィーベンは小声で話をしながら、箒に乗って調査を進めていく。

○     ○     ○


 南の塔からも、地下道の探索の必要を感じ、神楽崎優子に話を通して下りた者がいた。
 志位 大地(しい・だいち)メーテルリンク著 『青い鳥』(めーてるりんくちょ・あおいとり)だ。
 宝物庫に向ったメンバーと合流を目指すように、無理ならば近くの陣に避難するようにと優子からは指示を受けている。
「この辺りは宮殿とも使用人居住区とも離れていますから、あまり仕掛けはないようですね」
「でも、念の為凍らしておけばいい?」
「ええ、お願いします」
 トラッパーの知識で周囲を見回し、怪しいと思われる箇所を青い鳥が氷結させたり、潰しながら歩いていく。
 預かった通信機からの連絡では、宝物庫に向った魔法隊の一部が、地下道に残っているとのことだ。
「合流後、急いで北側に向った方がいいでしょうね。仕掛けが施されているとなると、上手く利用していけるとは思えませんし」
「そうね。把握している人物がいるのなら、敵側が利用を考えるはず」
 そんな会話をしながら、2人は北へ向い、慎重に歩いていた。
 明かりは、大地の持つ、光精の指輪から呼び出した精霊の光のみだった。
 っと、その時。
 通信機から全体への神楽崎優子からの連絡が届く。
『物資と数人の契約者が到着した。状況確認後、主に宮殿への援護に向わせる予定だ』
「……予定より随分早いですね」
 そう呟きながら歩いていると、遠くから足音が響いてきた。
 こちらに人が向かってくるという話は聞いてはいない。
 近くに細い上り階段がある。そちらの方に、大地は身を潜ませて様子を見ることにした。

 晴海と天華は南に向って歩いていた。
「こっちには置物が殆どないわね。床や壁にも仕掛けなさそうだし……」
 言いながら、晴海が床をトントンと足で2回叩いた。
 しかしその直後に天井のスプリンクラーのような機械から、液体が噴射される。
「アルコールか……っ」
 天華は晴海と共に、端へと避難する。
 続いて、足元の電灯付近から炎が湧き上がる。
「熱っ」
 あっという間に炎が燃え広がる。2人とも炎に巻かれるが、互いの体を叩いて消していく。
 続いて、晴海は氷術を使って鎮火を図る。
 天華はアルティマ・トゥーレを使い、ナラカの蜘蛛糸に冷気を絡ませて、周囲を舞い飛び、炎を消していく。
「やっぱりある程度の破壊は必要かしら。ううん、駆け抜ければ大丈夫そうじゃない」
 晴海は瞳を煌かせて、天華に目を向ける。
「私が駆け抜けるから、ここで待っていて。私は武術には長けていないけど、身体能力は魔法で上昇させることが出来るわ」
「私も共に行く」
「精神力が惜しいし、2人で怪我をする必要もないでしょ。あなたはナナ達か宝物庫に向った班と合流をして。これは隊長命令よ。それじゃね」
 そう言うと、晴海は南に向って駆けていった。

 ――大地は、身を潜めた状態で、一部始終を見ていた。
 液体が噴出して、端へと下がった時に。晴海は靴の踵で非常灯のような装置を砕いた。
 その直後、そこから炎が噴出したこと、を。
 偶然?
 それにしては、狙ってその場所に下がったように見えたのだが。