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嘆きの邂逅~離宮編~(第3回/全6回)

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嘆きの邂逅~離宮編~(第3回/全6回)

リアクション

 別邸に到着してすぐ、待機していた百合園生がクリスティーに回復魔法をかける。
 宮殿に向った人数より別邸にいる人数の方が多いくらいなので、救護活動はほぼ問題なく行われ、次々に戻ったメンバー達も滞りなく治療を受けることができた。
「コハク・ソーロッドから神楽崎優子さんへ報告です」
 通信機を管理しているコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)は、すぐに現状について本陣へと連絡を入れる。全体への通信として。
「宮殿には剣の花嫁に似た敵が存在。数が多いと思われるため、全員撤退。負傷者数名、治療済みです」
 即座に、優子から返答がある。
「別邸の場所は知られてはいないか?」
「宮殿側の部屋は使用しておらず、現在は外には何も置いていません。近づいただけでは、この別邸を利用しているとはわからないはずです。追ってきた敵もいないようです」
「了解。状況を見て指示を出す。すぐに動けるようにしておいてくれ」
「わかりました」
 コハクは通信を終えた後、隊長の刀真に報告をすると、通信の記録を纏めていく。コハクが耳にした全ての通信は、こうして記録にとってある。後ほど神楽崎優子に提出予定だった。
「落ち着いて対処すれば、大丈夫です。精神力の無駄遣いをしてしまうと、重傷者が運び込まれた時に、対処できなくなってしまう可能性がありますから、負傷者が増えてからは、怪我の度合いを見極めて、適切な処置をいたしましょう」
 ベアトリーチェは治療をした百合園生と、集まっている救護班の者達に穏やかな笑顔でそう話しかけていく。
「はい、頑張りましょう」
 緊張した面持ちながらも、百合園生達ははっきりと答えた。
 即座に美羽が人差し指を立てて、自分の口に当てる。
「敵が偵察に来てる可能性がるから、静かにしようね」
 小声でそう言うと、百合園生達は無言でこくりと頷いていく。
(怪我人、出したくはないけれど……ここが囲まれて、襲われたら、もっと酷いことになっちゃう)
 美羽は、百合園の制服姿で作業に勤しむ少女達を見て、心配になるのだった。
「空飛ぶ箒を骨組みにした担架も作ったし、私もいつでも搬送に出れるわ。……でもそうね。宮殿で敵を引き付けられないとなると、敵が体制を整えて、攻撃を仕掛けてくる場合、ここが真っ先に狙われるでしょうね」
 祥子はそう言い、刀真に目を向ける。
「すぐに作戦を立てましょう。宇都宮祥子さんも、ご意見お願いします」
 刀真は一角に皆を集める。
 サイモンが記していた地図に、クリスソファーが時計塔など、見定めた離宮の様子を付け足していく。
「しばらく静かにしていた方がいいだろう。大きな物の移動は避けて、少しでも衛生的な環境を整えられるよう、準備をしていこう」
 涼介はそう救護班のメンバーに声をかけて、クレアと共に引き続き環境作りに勤しんでいく。
「大丈夫ですか? あ、座っていてください」
 グロリアは足を負傷した想に声をかける。立ち上がろうとした想だが、グロリアに制されて床に座りなおした。
「大丈夫。自分で魔法かけたから」
「無理はしないでくださいね……とも言っていられない状況ですけれど」
 言いながら、濡れタオルで、想の血で汚れた足を拭いていく。
「……」
 レイラも近づいてきて、想にSPリチャージを使って、想の精神力を回復させた。
「ありがとう」
 想は2人に、笑顔で礼を言う。
 だけれどすぐに、表情を硬くして殺気看破で警戒に努める。
 砦となりうる場所じゃないから。攻められたら危険だということは、想にもよく分かっていた。

○     ○     ○


 地下道を進む魔法隊は順調に足を進めていた。
 人数が多いことからも、怪しい箇所を見逃すことはなく、スキルで周囲に警戒を払いつつ、罠が仕掛けられている可能性のある場所を破壊して進む。
 列を乱す者も、1人で突っ走る者もいなかった。
 葛葉 翔(くずのは・しょう)のパートナー、アリア・フォンブラウン(ありあ・ふぉんぶらうん)イーディ・エタニティ(いーでぃ・えたにてぃ)の2人が先頭を歩いている。
 ここには携帯の電波は届いていないけれど、封印が解けて地上に戻った時にことも考え、メンバー間で携帯電話の番号を交換してある。
 アリアは、イーディと琳 鳳明(りん・ほうめい)にパワーブレスをかけ、自分自身はいつでも回復魔法がかけられるよう、姿勢を整えておく。
 イーディの方は、10フィート棒を持ち、床を突いて、地雷などの爆発物や仕掛けがないかどうか、探りながら進んでいる。時折棒で壁をも突っついてみる。今のところ、壁に仕掛けはないようだが、通路端の照明、及び天井に設置されているカメラのような機器は危険と思われるため、触れずに後方から破壊してもらている。
 事実、それらを破壊した後に、管のようなものが見えたり、バッテリーのようなものが見つかったりしている。
 しかし、慎重に進んでいたために、歩みが遅く中々目的地にたどり着けずにいた。
 地上に明かりが点いてから、もう随分時間が経っている。
 メンバーの何人かが預かっている通信機からの連絡によると、使用人居住区に向った契約者達は、居住区内への進入を果たしたとのことだ。
 魔道生物や人造人間達が目覚めつつある、らしいとの話を聞いていた。
 つまり、意思能力のある者が動き始めている可能性が、高い――。
「あっ」
 通路の両端から、流れ出て来る液体に、イーディが気付く。
「毒物かも!」
 アリアが声を上げて、振り返る。
「気化させるな。氷結だ」
 隊長の御堂晴海(みどう・はるみ)を背に庇いながら、諸葛涼 天華(しょかつりょう・てんか)が瞬時に声を上げる。
「了解!」
 ウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)が、氷術を発動し液体を氷結させる。
「足音が聞こえるじゃん……ッ」
 イーディは光精の指輪で呼び出した精霊を奥へと向わせてみる。
 ……鎧が、歩いてきている。これまで、通路に置かれていた像の類は壊して進んでいたが、やはり魔道で動く物体だったらしい。
「これまでも何度も見かけましたけれど、遠方からなんて……」
 ナナ・ノルデン(なな・のるでん)が武器を構える。
接近してはいない場所の像が動き出したということは、遠方から何者かの魔法的干渉があった可能性が高い。
「派手な戦闘はここでは出来ませんね……」
 考古学者のグレイス・マラリィンが顔を歪める。
「グレイス先生は下がってて」
 護衛についていたカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)が、グレイスの前に出る。
 彼に何かがあったのなら、宝物庫にたどり着いたとしても、価値のあるアイテムや、離宮に隠された秘密の類、目の前の魔道生物の停止方法など、あらゆる謎や仕組みを解明することが不可能になってしまう。
 足音は駆ける音となり、こちらに迫る。
 カレンはディテクトエビルで相手の害意を感じ取ると、アシッドミストを放った。
 僅かに敵の動きが鈍る。
「前衛の人、お願い!」
 アリアは後ろへと下がる。
「近づけさせないじゃん」
 イーディはアリアの前に立って、両手に持ったハンドガンを撃ち、敵の間接部分を狙っていく。
「行きます!」
 ナナが飛び出して、盛夏の骨気を装備した拳を、銃弾で弱った敵の腕の関節部分に叩き込む。
 腕が外れて落ち、続いて胴体を蹴り飛ばして、後方へと跳ぶ。
「足を撃ちます」
 フィル・アルジェント(ふぃる・あるじぇんと)は、よろめく敵の足の間接を狙い、銃を撃っていく、
「任せて」
 小さな声が響く。隠れ身で姿を隠したヴェルチェ・クライウォルフ(う゛ぇるちぇ・くらいうぉるふ)が、ブラインドナイブスを放ち、ぐらついている膝部分を破壊する。
 鎧はそのまま動かなくなった。
「急ぎましょう」
 隊長の晴海が言い、一行は照明類を破壊しながら急ぐ。
「やはり地下道を封鎖する必要がありそうですね。私はそちらに回ります」
 ナナが晴海にそう申し出る。
「助かるわ。私も地下道に残るつもり。宝物庫に向うメンバーを率いてくれる班長を決めたいのだけど……」
 言って、晴海は皆を見回す。
「や、やらせていただけるのなら、私が」
 緊張しつつも、立候補したのは教導団員の琳 鳳明(りん・ほうめい)だ。パートナーを本部に残しており、銃の管理や、地下道の記録など、皆のサポートとして立ち回っている。
 外見は幼さの残る少女だが、年齢的にも申し分ない。
「お願いするわ」
「はいっ。よろしくお願いします」
 鳳明は晴海と仲間達に頭を下げる。