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精霊と人間の歩む道~風吹くウィール遺跡~ 後編

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精霊と人間の歩む道~風吹くウィール遺跡~ 後編
精霊と人間の歩む道~風吹くウィール遺跡~ 後編 精霊と人間の歩む道~風吹くウィール遺跡~ 後編

リアクション

 
 ヴァズデルの首も残り一本、しかし電撃放射の頻度はさらに増し、ニ本だった時のおよそ半分の速度で電撃が走り、直撃を受けた生徒たちが吹き飛んでいく。さらに、首自体も常時電気を纏うようになり、迂闊に近付ける状態ではなくなっていた。
「きゃー! あ、危なかったぁ……」
 電撃放射の余波が、天井からぶら下がっていた蔦を遮蔽物代わりにしてそこから攻撃を行っていた芦原 郁乃(あはら・いくの)の直ぐ頭上を襲う。ほっ、と一息つく郁乃だが、電撃はその蔦を切り裂いていたため、蔦がはらはらと地面に落ち、郁乃と蒼天の書 マビノギオン(そうてんのしょ・まびのぎおん)の姿がヴァズデルの下に直に晒されることになる。
「主……これは少々マズイことになったのではないでしょうか?」
「だ、だよね〜……ひとまず退散っ!」
 後方へ走り出した郁乃とマギノビオンの直ぐ後ろの地面が、電撃放射で次々と抉れていく。それでも判断が一つ早かったおかげで事なきを得た郁乃たちの前に、魔物の迎撃に出ていた秋月 桃花(あきづき・とうか)十束 千種(とくさ・ちぐさ)が合流する。
「郁乃様、魔物の脅威は去りました。後はあの龍を倒すのみです」
「遅れて郁乃さんに泣かれても困るので、急いで駆けつけて来ましたわ」
 彼女たちが該当する魔物の出現場所に辿り着いた時には、既に魔物の巣らしきモノは破壊されていた。念のため他の地点の捜索も行い、危険のないのを確認した二人は、こうして郁乃のところへ戻ってきたのである。
「よーし! ここから一気に形勢逆転だよ! 首は残り一本、私達の集中攻撃で追い詰めるよ!」
「そうですね。サティナ様のためにも、ここから一歩たりとも引くわけには参りません。申し訳ありませんが倒させていただきます!」
 桃花が本人にしては珍しく強い意思を覗かせて、郁乃たちへ加護の力を施す。
「こういうことはさっさと終わらせてしまうに限ります。行きましょう、郁乃さん」
 千種が剣を抜き、構えを取る。自らの光条兵器は桃花が手にしていた。
「あたしは主とここで援護をしますよ。主、気持ちは分かりますが、あまり突っ込んでいかないようにしてくださいね」
「う……、わ、分かってるってば!」
 マギノビオンに釘を刺された郁乃が頬をふくらませ、一行の間に一時、弛緩した空気が流れる。しかしそれも、ヴァズデルがもたらす咆哮を耳にして、瞬時に引き締まる。
「主とあたしに、禁忌の力を……!」
 マギノビオンの口から紡がれる禁忌の言葉が、郁乃と本人の魔力を格段に引き上げる。二人が魔法の詠唱を終えるまでの時間を稼ぐべく、桃花と千種が果敢にヴァズデルへ向かっていく。
「明るい未来のため、礎となって消えなさい!!」
「同感です。ここで消えていただきましょう」
 桃花の言葉に千種が頷き、二人が稲妻の中を突撃していく。漆黒の蔦を払い、電撃の雨を抜け、共に渾身の一撃をヴァズデルへ見舞う。
「主、お先に行かせてもらいます!」
 先に詠唱を終えたマギノビオンの放った冷気が、ヴァズデルの動きを鈍らせる。
(ごめんね……これが最善の策だと思うの! だから……!)
 思いを振り切り、郁乃が強酸の霧を発生させる。動きの鈍ったところに霧が絡みつき、ヴァズデルの首を蝕んでいく――。

 生徒たちの攻撃で、残る一本の首も追い詰められていく。迸る電気が辺り構わず放電され、その一筋がカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)を襲う。
「フィールド展開!」
 それに対し、カレンとジュレールのかけたフィールドが重なり合い、電気を遮断していく。それでも高電流の威力は凄まじく、端からフィールドが焼き切れ削られていく。
「カレン、このままではフィールドが持たないぞ」
「お願い、もう少し頑張って!」
 ジュレールの警告を耳にしながら、カレンが願うようにフィールドに魔力を込める。次の瞬間、ふわり、と優しい風が吹き抜けたかと思うと、フィールドが徐々に広がっていく。
「カレンさん、ジュレールさん、もう大丈夫ですわ」
 二人の背後からセリシアが、掌をかざして二人の構築したフィールドを後押しする。三人の力を得たフィールドは放電を耐え抜き、役目を終えてふっ、と消え去る。
「ありがとう、セリシア! よーし、今度はボクたちの番だよ! ……ねえジュレ、前にここで戦った時のこと、覚えてる?」
「こんな時に何を言うのだカレン。もちろん覚えておるぞ」
 ジュレールの返答に頷いて、カレンが口を開く。
「あの時はまだ、ボクたちは未熟だった。それは今でも変わらないことかもしれない。……でも、あの時よりはずっと、出来ることも増えているはずなんだ! 例えば、アイツが蓄えている雷の力を上回る雷の力をぶつけて、存在を消し去ることだって!」
「……無茶な考え、と呆れるところだが、ふむ、我もどうしたものかな、試してみる価値はあると思っておる。それに我には、あの中におるサティナがそれを望んでおるようにも見えてな」
 ヴァズデルに取り込まれることを選んだサティナが、ヴァズデルの力を抑えるだけでなく、その力を一瞬でも暴走させることが出来れば……その可能性を読んだジュレールが、身の丈以上の砲身を持つ電磁投射砲を構え、エネルギーチャージに入る。
(今この瞬間が、全力で魔法を放つ時、その時なんだ! 臆するなカレン、君の全力を見せてみろ!)
 自分を奮い立たせるように呟いて、杖を構えたカレンが自らの出せる最大魔力を講じて、超高電流の電撃を生成する。
 終わった後のことは考えない。ボクが倒れても、セリシアが、他の仲間が助けてくれるから――。
 カレンの視界に、ヴァズデルの首が電撃を纏うのが見える。
 構うもんか、電撃が来るならそれごと撃ち抜いてやる!

「全力全開っ!! サンダーブラストー!!」

 白色に包まれた世界の中を、カレンの放った電撃とジュレールの放った電磁加速を受けた弾丸、ヴァズデルの放った電撃が駆け抜ける。
 接触は一瞬。決着も一瞬。
 ヴァズデルの放った電撃はかき消され、残った一つの首と無数の漆黒の蔦は電撃に貫かれ爆散し、四本の柱に囲まれた緑の球体も貫通した痕跡をそのままに、急速に表面を枯らしていく。
「カレン!」
 生じた熱で煙を吐く電磁投射砲を捨て、ふらり、と倒れるカレンをジュレールが受け止める。規則的に上下する胸にほっ、と息をついて、そして見つめた前方では、生徒たちがトドメを刺すべく最後の突撃を行おうとしていた――。

「……待ってください!」

 広い空間に、はっきりと響く声。
 声を発した本人、鷹野 栗(たかの・まろん)とその傍に寄り添うミンティ、さらには彼女のパートナーである羽入 綾香(はにゅう・あやか)ループ・ポイニクス(るーぷ・ぽいにくす)レテリア・エクスシアイ(れてりあ・えくすしあい)がそれぞれ四方に立ち、向かってきた生徒たちと対峙する形になる。
「……間に合ったと思ったら、何だか凄いことに巻き込まれたようだね。マロン、僕はどんな時でも君の味方だよ」
「うーん、よく分かんないけど、鷹野がしたいようにすればいいと思うよっ!」
「栗らしい、とでも言うべきじゃろうか。この結果が何をもたらすのかは知らぬが……私は最後まで成り行きを見守ろうぞ」
 レテリア、ループ、綾香、それぞれ微妙に思うところは違えど、共通しているのは栗への信頼。
 その信頼を受けて、栗が問いかけるように、生徒たちに呼びかける。

「『悪しきものを倒す』それだけが、ほんとに道を開く方法なんですか!? 大き過ぎる力を持ってしまったが故の悲しみを、この子も感じているんじゃないんですか!? それを分からないまま、ただ滅することだけが正義とは、私は思いたくありません!」

 栗の言葉が、生徒たちに浸透していく。次いで聞こえてきた声は。
 
 言いたいことは分かる。じゃあ、どうすればいい? 何か方法を君は示せるのか?
 
 まとめればだいたいこのような言葉であった。理想を語る人間はカッコよく、美しく映る。だが、現実に実行可能な意見を提示出来なければ結局は机上の空論であり、案を示せない人間は無能の烙印を押される。
「…………」
 栗は言葉を発することが出来ない。
 案はある。大き過ぎる力を小さくしてしまえばいい、と。
 だが、その方法が分からない。傍に佇むミンティも、そこまでは分からないと言う。
 
 やはり、消滅させるしかないだろう――。
 
 そんな空気が大勢を占めようかと思われた矢先、その『声』が聞こえてきた。

『……フフ、まったく人間は面白い。ここまで苦しめた敵を助けようとするとは、我でも思い至らなかったのう』