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仮初めの日常

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仮初めの日常

リアクション

 はばたき広場の時計塔にメニエス・レイン(めにえす・れいん)は立っていた。
 彼女が静かに眺めているのは、百合園女学院。そしてその周りの風景。
(今一度、奴らをパラミタから追い出して、自分の理想の世界に戻すんだ)
 頭の中に浮かぶ百合園の校長や、その周りにいるであろう人々の姿を、歯を食いしばり、噛み潰すかのように消していく。
(あんな奴等の言葉に騙されるものか)
 彼女の後ろには、いつも通りミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)の姿があった。
 日傘を差して、差し込む光を防いでいる。
「メニエス様、時期を過ぎたといってもまだ暑いですわ。そろそろ戻りましょう」
「そうね、戻りましょう」
 メニエスは百合園女学院に背を向けると、空飛ぶ箒に跨る。
 すぐに飛び立とうとした、けれど。
 一旦、箒から下りてメニエスはミストラルに向き直る。
「ねぇ、あたしはいつも通りよね?」
 ミストラルは、無表情で問いかけるメニエスに、にこやかな笑みを浮かべる。
「いつも通りですわ」
 メニエスの目に、強い意思の輝きが浮かび上がる。
「さぁ、あたしの目的を達成する為にも、準備しに行かなきゃいけないわ」
 意気込んで、空飛ぶ箒に乗って、彼女は時計塔から飛び立っていった。
 ミストラルはメニエスの背を目で追いながら、にこやかな笑顔を消すことなく。
 そう、ただ淡く微笑みながら呟く。
「そうですね、目的の為にも……」
 そして、自身も空飛ぶ箒に乗ると、彼女の後を追うのだった。

〇     〇     〇


「ミルミちゃん……」
 百合園女学院を出て、迎えの馬車に乗ろうとしたミルミ・ルリマーレン(みるみ・るりまーれん)は、知り合いの声に笑顔で振り向いた。
「あ……」
 でも、その相手は……自分に嘘をついていた人だった。
 自分ではなくて、ルリマーレン家のお嬢様に近づいてきた人。
 その人物の名前は――。
「ミクルちゃん、どうしてここにいるの」
 ミルミは笑顔を消して、尋ねた。
「ラズィーヤさんや生徒会の人に話して、もう少し百合園に通わせてもらうことにしたんだ」
 以前とは違って、その人物、ミクル・フレイバディの声は少し、低い。
 これが地声なのだろう。
「僕の性別のことは、沢山の人にバレちゃってると思うから……もう、隠すことはしないつもり。聞かれたら話すし、着替えとかの時は皆から離れるし……」
 ミクルが説明している間、ミルミはいつもの笑顔を見せなかった。疑心に満ちた目でミクルを見ている。
「白百合団員として、皆に奉仕させてもらうつもりなんだ。沢山嘘をついていたお詫びとして」
「別に、謝んなくてもいいんじゃない」
 ミルミは少し膨れ面で言う。
「百合園は男の娘の入学もナイショで認めている学院だっていうしね。嫌な人もいっぱいいるから虐められるかもしれないけどさ」
 ちょっと冷たい言い方だった。
「うん。でも僕が、一番謝らなきゃいけないのは、ミルミちゃんなんだ。ミルミちゃんに近づいた理由は……もう知っているよね。ずっと仲良くしてもらって、ミルミちゃんのいいところも、僕は沢山知ってる。だから、ちゃんと謝らないとダメだって思ったんだ。もしかしたら、側でお詫びとして何か、ミルミちゃんに喜んでもらえるようなこと、出来るかもしれないから。でも、ミルミちゃんが嫌なら、僕はすぐに転校するよ」
「どっちでもいいよ。いてもいなくても変わんないし」
 ぷいっとミルミは顔を背ける。
「わかってるから、ミルミに近づいてくる人は、嘘つきばかりだってこと。鈴子ちゃんとか、アルちゃんとか本当にミルミのこと好きって言ってくれる人もいるけど、ね……」
「好きか、嫌いかでいうのなら、僕もミルミちゃんのこと好きだよ。嫌いな人なら、謝りたいとか思わないし」
 ミルミの前で、意識を失った時にもミクルは謝罪の言葉と礼をミルミに口にしていた。
「ミルミだって……嫌いな人なら、ラザンとか警備員とか呼んで追い払ってもらうんだからね!」
「……うん」
 ミクルは淡い笑みを見せた。
「じゃ、ミルミ帰る」
 くるりと、ミクルは背を向ける。
「……また明日ね、ミクルちゃん」
「また明日、教室で会おうね、ミルミちゃん――」
 ミルミはその日は最後まで笑顔は見せなかった。
 迎えの馬車に駆け込んで、馬車の中に待たせていた大好きなぬいぐるみをぎゅっと抱きしめて。
「おかえり、おかえり……」
 小さな声で、呟いていた。

「あ……花びら。どこから飛んで来たのかな」
 下校途中の百合園生が、鞄の上に舞い落ちた花びらを手に取った。
 薄い黄色の花びらだった。
「桃色の花びらも飛んでいますわ」
 少し風の強い日だった。
 どこからか飛んで来た沢山の花びらが、校舎の前でふわふわと踊っている。

「今日で、これで最後、だ」
 四条 輪廻(しじょう・りんね)が袋の中から最後の花びらを風に乗せた。
 色とりどりの花びらは、ヴァイシャリーの、離宮の上に生きる人達の元で舞い踊り、風に乗って彼方へと消えていく――。
 ただ戦うために作られ、そして死んで行った者に。
 敵であれど、己の信念を貫き、そして死んだものに。
 誰かを守るために、その身を犠牲にしたものに。
 輪廻は少しだけ、祈るように目を瞑った。
「ありがとう……いずれ、また、な」


 僅かな。
 そう、僅かな休息の後。
 シャンバラは――コントラクター達は、混迷の道へ戻っていく。

 この数日後、2020ろくりんスタジアムで蒼空学園校長御御神楽 環菜(みかぐら・かんな)が何者かに暗殺される。
 フマナではドージェと龍騎士団が戦いが始まり、東西シャンバラはそれに対して不干渉の態度をとっている。

 東西シャンバラ政府はロイヤルガードを設立した。
 共に東シャンバラのロイヤルガードを立ち上げた神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)は、そのまま隊長の任に就く。

 戦いの足音が急速に近づいてくる。
 コントラクター達は再び剣を取り、歩き出す。
 新たな道を切り開くために。

担当マスターより

▼担当マスター

川岸満里亜

▼マスターコメント

シナリオへのご参加、ありがとうございました。
一時の平和な時間を、楽しんでいただけましたでしょうか。

●ジュリオ・ルリマーレンについて
SFM0003727 エメ・シェンノートさんと契約に至りました。
ただ、精神が正常な状態ではないことからLCとしての追加は次の機会にと考えております。
追加後も、元々NPCであったことから、川岸のシナリオ等に名前が登場することがあると思いますが、ご理解の程よろしくお願いいたします。

●白百合団役職について
現状維持という意見が圧倒的に多かったです。
団長への推薦、投票は桜谷鈴子より神楽崎優子の方が多かったのですが、多数いただいた現状維持という意見は桜谷鈴子を推すという意味と考え、現状維持とさせていただきます。
不信任につきましては、桜谷鈴子、神楽崎優子、共に同数いただきました。理由は彼女達の負担を減らしたい、パートナーを失ったので様子見及び療養が必要なのではないかというような内容です。
仕事を割り振るために、副団長代理という役職、特殊班が結成されました。

団長 桜谷鈴子
副団長 神楽崎優子
副団長代理 ティリア・イリアーノ(新任)
特殊班班長 風見瑠奈(新任)
特殊班班員 SFM0011159 レキ・フォートアウフ(新任)
特殊班班員 SFM0006677 冬山 小夜子(新任)
特殊班班員 SFM0005997 ステラ・宗像(新任)
特殊班班員 SFM0005513 フィル・アルジェント(新任)
特殊班班員 SFM0007325 崩城 亜璃珠(新任)
班長 SFM0004185 ロザリンド・セリナ
班長 SFM0005115 ヴァーナー・ヴォネガット(作戦指揮時はパートナーのサポート必須)
班長 SFM0003921 秋月 葵(作戦指揮時はパートナーのサポート必須)
その他未登場NPC

団長、副団長の役割に変更はありません。
国の問題が落ち着くまで、作戦時の現場指揮はほぼ神楽崎優子に代わって、ティリア・イリアーノがとります。桜谷鈴子が直接率いることもあります。

特殊班につきましては、班長とは違った昇進とお考え下さい。
肩書きがついたからといって、班長として指揮をとる必要がある、特殊班の任務に加わらなければならないということはなく、白百合団の仕事はあくまで志願制です。

●神楽崎分校について
『若葉分校』と名前が変更になります。
体制については、リアクションでご確認下さい。
今回は役職に変更のあった方のみ、称号を発行しております。神楽崎分校の称号でも引き続き、分校生という扱いになります。

●離宮の話について
アレナを救出するための案をいただきましたので、いただいた案を元に研究を進めて、状況が整った時に離宮へ迎えに行く……という番外編をいつか1度だけ行えたらいいなと思っております。
その他、離宮に忘れ物のある方にもご参加いただけたらと思います。
番外編は世界的な状況を見ながら行えそうな時にと思っております。かなり先になる可能性もありますが、それまでの間に他のシナリオへ離宮の話題を持ち込んでどうにかしようと動くことはどうかご遠慮下さい。

貴重なアクション欄を割いての私信、ありがとうございます。
なかなか時間がとれず、きちんとお返事がかけなくて申し訳ありません。

それではまた、皆様にお会いしたいです。