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パラ実占領計画 第三回/全四回

リアクション公開中!

パラ実占領計画 第三回/全四回
パラ実占領計画 第三回/全四回 パラ実占領計画 第三回/全四回

リアクション

 チーマーやヤクザに対するパラ実生達の闘志がついに爆発した。
 スパイクバイクのエンジン音、馬のいななき、武器を打ち鳴らす金属音、士気を上げるための笛や太鼓の音、さまざまな音が一つのうねりとなって種モミの塔に迫る。
 その先頭を行くのは、神楽月 九十九(かぐらづき・つくも)ゲブー・オブイン(げぶー・おぶいん)だ。
 九十九は相変わらず首領・鬼鳳帝移転記念のバーゲンセールと思い込み、
「おばちゃん方に遅れをとるわけにはいきません! 気合入れて行きますよ!」
 おばちゃん方など数えるくらいしかいないが、どう見ても血煙爪を振りかざして殺るき満々のパラ実生も、九十九にとっては買い物のライバルだった。
 横を走るゲブーも、九十九をライバル視していた。彼女とは別の理由で。
 彼は何よりもモヒカンを愛する男だった。本人も立派なモヒカン頭だ。
 モヒカンであればヤクザなど恐るるに足らず、といったところだ。
 故に、長い髪の九十九は眼中になかった。
「ヤクザがなんぼのもんじゃ! リーゼントだのオールバックだのじゃぁ、モヒカンには勝てねぇんだよ!」
「そうか! そういや良雄さんもモヒカン……」
「どアホ! ソフトモヒカンなんかで真の力が発揮できるか! 生意気だぜ!」
 斜め後ろからついてくるパラ実生の言葉を一蹴するゲブー。彼はソフトモヒカンを見下していた。
「だいたいなぁ、種モミパワーだってホーのほうが上だぜ。あいつの種モミパワーなんざホーの十億万分の一だ! そんなやつ、俺の足に使ってやる!」
 身長五メートル近い巨体のドラゴニュートのホー・アー(ほー・あー)の凄さを語るゲブー。
 塔の入口から飛び出してきたチーマー数人を、鉄甲を装備した拳でパンチの連打で瞬殺する。
「まだまだァ!」
「調子こいてんじゃねぇぞ、ピンクモヒカンが!」
「チャラい頭でさえずってんじゃねぇよ!」
 鉄パイプでゲブーに襲い掛かってきたのは、脱色した髪をだらしなく伸ばした不良だった。
 振り下ろされた鉄パイプを鉄甲に滑らせて軌道を変えた先から火花が散る。
 不良の仲間数人がゲブーを囲もうと集まってきたが、ホーやモヒカン狩りで知り合ったパラ実生達により、混戦状態となった。
 チーマーの一人を棍棒で殴り飛ばしたモヒカンパラ実生に、ゲブーが喜びの声をあげる。
「そのモヒカン、見覚えあるぜ! モヒカン狩りの時にいたよなっ。いつの間にかいなくなっちまったと思ってたが、ちゃんといてくれて嬉しいぜ! モヒカンの友よ!」
「てめぇの目立つモヒカンはすぐわかる」
 友情を深め合っていると、ホーから注意が飛んできた。
「油断するな」
 塔から出てきたチーマーの一団は、ブルタやファトラ、ナコトが呼び集めた集団や給料請求に決死の覚悟を決めた綾乃やペンギンゆる族を食い止めようと、四天王狩りの時以上に凶暴に戦った。
 その横を、パラ実イコンが駆け抜けていく。
 塔入口を占拠しようというのだ。
 そうすれば、ここのチーマーを挟み撃ちにできる。
 ヒャッハー! と、突っ込んだパラ実イコンは、しかし、突然バランスを崩して身動きがとれなくなった。
 片足が地面に埋まっている。
 穴から足を引き抜こうとジタバタしていると、どこからか大型ダンプカーが現れ、背から山盛りの土を雪崩のように下ろした。
 腰まで土に埋まったパラ実イコンは、土の重みで先ほど以上に動きが鈍い。
 あれではしばらくは使い物にならないだろう。
 いったい誰だ、と思っていると、ダンプカーから降りてきたのは黒い髪を高く結い上げた女の子だった。小学校に入学するかしないかくらいの年齢の。
「何なんだあのガキは!?」
 パラ実生の叫びに、その女の子──辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)は、見た目の年齢に似合わない大人びた笑みを見せて塔の中へ駆けて行ってしまった。
 刹那が太平洋の孤島から荒野に戻りレンに事の次第を連絡すると、苛立たしげに首領・鬼鳳帝が落とされたことを告げられた。
 八つ当たり気味に話したことで少し落ち着いたのか、レンは刹那に短いながらも労いの言葉をかけると、すぐに種モミの塔で良雄率いるパラ実生達を迎え撃つ準備に加わるよう言ってきた。
「やれやれ……人使いの荒いやつじゃのう」
「何言ってやがる。下で楽しんできたくせに」
「あの程度、まだ足りんよ」
「じゃ、決まりだな」
 そこで通話は切れた。
 刹那は薄く笑うと携帯をしまい、小型飛空艇で種モミの塔へ急行した。
 そして、良雄達が集まる前に塔の入口付近に落とし穴を作っておいたのだった。
 1階を駆け抜け2階へ上るとムワッと熱気が襲ってくる。
 放送局の人達の間をすり抜けて、刹那達だけが知っている通路で3階を通り過ぎてさらに上へ。
 アトラクションをクリアしてくるかもしれないパラ実生をここで仕留めてやろう、と刹那は物陰に身を潜ませた。

 最初の戦闘のチーマーを押し退け、もがくパラ実イコンを通り過ぎ、ピカピカに磨き上げられた1階を駆け上がって2階に出たゲブーと九十九は、その光景に息を飲んだ。
「テレビ局!?」
「それはすでに外にもいましたよ。そんなことより、売り場に行くのに試練があるなんて……これは超目玉商品があるに違いありません!」
 ホーとキングドリルは戦闘以外の疲れを感じたような視線を交わす。
「ここは『熱湯グラグラ池』! 池にある石の足場を飛んで3階への階段を目指せ! 落ちたらアツイぜェ!」
 カメラの横でチーマーがノリノリではしゃいでいる。
「ケッ、馬鹿馬鹿しい! てめぇが落ちろ!」
 ゲブーが池の縁を蹴って最初の足場へ飛び──

ドボーン!

「ホゲアァァアアッ!」
 足場はただの発泡スチロールだった!
 一瞬で全身を真っ赤にしたゲブーが熱湯のしぶきをあげてもがく。
 助けたいがしぶきとはいえ熱湯は熱すぎるので近づきたくないホーだった。
 代わりにホーはチーマーへ難癖をつける。
「種モミの塔で熱湯を扱うとは、種モミに対する冒涜か! 育たないであろう! 種モミの扱いがまったくなっていないのだよ! 種モミとは神! 種モミとは宇宙! すべては種モミに始まり種モミに終わるのだ」
 種モミ剣士として種モミについて熱く語りだしたホーは、ゲブーのことをすっかり忘れてしまっていた。
 早く助けてやれよっ、とチーマーに指摘されるほどに。

 『熱湯グラグラ池』でパラ実生達が茹蛸にされている頃、46階の不動産屋にパワードスーツフル装備で顔のわからない男がある話し合いに来ていた。
 内容は、塔に厄介事を持ち込んだ大和田組を追い出すからテナントを一件貸してくれ、というものだ。
「最近やって来た新顔がデカイ顔してんのは、他の階の奴らからも苦情が来てんじゃねぇの?」
「苦情というか、その大和田組が居座ってる47階にもともといた人達は、やつらに追い出されちまいましたがね。ま、相手が相手だ。仕方ありませんや」
 誰が借りようと収入があればいいらしい不動産屋。
「なるほどなァ、ひでぇ奴らだ。……次はおまえかもな」
 脅すように言うパワードスーツの男──ジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)の言葉に、不動産屋の怠惰な表情に緊張が走った。
 ジャジラッドはそれを見逃さず、話しを続ける。
「この塔に、ご当地十二星華が残ってるだろ。そいつらの力を借りたい。どこにいる?」
「あの人達はどちらにも手を貸しませんよ」
 答えたのは、色のある女の声だった。
 いつからそこにいたのか、ドアに寄りかかり挑戦的にジャジラッドを見つめている妙齢の派手な女。露出度の高いワインレッドのロングドレスからは、甘い匂いさえしてきそうだ。
「あ、綾香さん……」
 戸惑う不動産屋。
 それは決して目の前の女の色香によるものではなく、何故ここにいるのかと問うものだった。
「だってねぇ、大和田さんもレンさんも良雄さんも、関係ありませんもの。──でも、私は違いますから。私は、大和田さんの味方ですよ。それでは、ごきげんよう」
 いっさいの隙のない身のこなしで、綾香はするりと出て行ってしまった。
「銀座の十二星華の綾香さんが……密かにファンだったのに……」
「銀座の十二星華?」
 呻く不動産屋にジャジラッドが聞き返すと、不動産屋はうなだれたまま説明した。
「彼女は剣の花嫁です。剣の花嫁初の銀座のホステスなんですよ。彼女のもとに通う財政界の有名人から、いつしか『銀座の十二星華』と呼ばれて親しまれるようになったんです……」
「つまり、十二星華とは何の関係もないんだな?」
「それを言っちゃあ身も蓋もないないですよ」
 ともかく、これで綾香の目を引き付ける魅力の理由はわかったが、同時に……。
(あの身のこなし、ただのホステスじゃないな)
 ジャジラッドは警戒心を抱いた。
 それはそうと、話を戻したジャジラッドは、綾香が戦いに加わることに落胆している不動産屋から、大和田組を追い出したらテナントを一件借りるという約束を取り付けたのだった。

 種モミの塔が放送局を招いてのアトラクションと化していることは、乗り込んだパラ実生もすでに承知することとなっていた。
 2階をクリアした者達が3階へ駆け上がると、今度はポールダンスが待ち構えていた。何本ものポールがフロアに林立している。
「いつまでも付き合ってやると思うなよ!」
 血気盛んな数名がポールをへし折ってやろうと掴むと、バチッと電流が流れて彼らはリタイアとなった。一瞬、マンガのように骨が透けて見えたかもしれない。
「こりゃぁ、やるしかねぇな! バラエティってのは遊びじゃねぇってことだ」
 パラ実生の中から覚悟を決めたような声があがる。
 しかし、反対する声もまだあった。
「んなもん、チンタラやってられっかよ」
 拳を打ち鳴らすのは、元パラ実生のラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)だ。
 まどろっこしいことを嫌がった彼は、何とか良い方法はないかと思案を巡らせる。
「おいおい、下手に暴れないほうがいいんじゃねぇの? シャンバラ中に放送されんだぜ、これ。用意されたゲームをルール無視して破壊して突破しました……なんて、醜態もいいとこだと思うけど?」
 最初に発言した男(パラ実生のフリをしているが、このアトラクションを提案した支倉遥のパートナーの伊達 藤次郎正宗(だて・とうじろうまさむね)だったりする)が、ラルクに周りを見るように促すと、複数台の撮影用カメラが様々な角度から彼らを映していた。
「……そういうことかよ。仕方ねぇなァ! 全日本番長連合総番長が指揮を取ってやらぁ! てめぇらついてこい!」
 ラルクは後ろのパラ実生達に怒鳴りつけると、自らポールの前に立った。
 パラ実OBに言われたとあっては逆らえない、と数名がラルクに続く。
 ラルクはカメラに向かってニヤリとした。
「しっかり撮っとけよ」
 身体能力的には何の問題もないラルクはするするとポールを登り、曲に合わせて次々にポーズを決めていく。
 続いたパラ実生も、不器用そうながらも何とかこなしていたが、中には手を滑らせて落ちたり、曲のテンポと合わずに奇妙な動きになったり、何を勘違いしたのか歌いだす者までいるという有様だった。
 もちろん、そんな彼らのポールにはビリビリと電流が流され、床へ一直線だ。
「もうっ、何でみんなそんなに音感ないかなあ!?」
 見かねた女子パラ実生が代わりに挑み、どうにかこの課題をクリアできたのだった。
 リタイアとなったパラ実生達は、漏れなく髪がアフロになっていたとか。
 ともかく、散々な目にあいながらもかげゆの罠を切り抜けたラルク達の前に、今度はレンの舎弟達が立ちふさがった。しかもよく見れば彼らの中には、元都道府県番長とその舎弟達の姿もある。さらに彼らの後方にはヤクザが数人控えていた。
「……いると思ったぜ。四天王狩りの時の続きといくか?」
 凄むラルクに、元番長が待ったをかける。
「もうこの辺にしとけ。2階と3階とでだいぶ疲れてるだろ? わざわざ死ににいくことはねぇ」
「命乞いか?」
「そうじゃない! 良雄さえ差し出せばお前らは見逃してやるって言ってんだよ」
 強気な発言をしながらも、彼の目は一瞬後方のヤクザに向けられた。わずかな怯えの色を含んで。
 それに気づいたラルクの表情がみるみる険しくなる。
「そうかい……。ヤクザが侍と忍者の上級クラスだから何だってんだ? よくも地球の可愛い舎弟を取り込んでくれたなぁ。お前らそこどけよ。俺がヤクザどもをブッ潰してやるぜ」
「そういうわけにはいかねぇ! そっちが刃向かうならこっちもやるまでだ!」
 双方がそれぞれの武器を構え、一気に緊張が高まる。
「だったら覚悟しろよ!」
 ラルクが床を蹴り、繰り出した拳を元番長の釘バットが受け流す。
「ヤクザを怖がるお前らに俺が倒せるか!」
「ヤクザ連中は怖いが、それだけじゃねぇ! 俺らはレンさんに賭けてんだよ!」
 鋭く横薙ぎにされた釘バットを、軽く後ろにステップしてかわすラルク。
 ラルクは舌打ちした。
 不良をやってるからこそ一般人以上にヤクザの脅威を理解している。
 学生同士のケンカなら怖いものなしだが、暴力のプロのヤクザに勝てるはずもなく。
 けれどレンのことは慕っている。
 元番長達も複雑なようだ。
 ラルクはドラゴンアーツの力を使い、元番長達を押し退けてヤクザに迫った。
「家族も両親もいねぇ俺にお前らの脅しは通用しねぇぜ! 大和田に伝えろ! 俺と決闘して、俺が勝ったらパラミタから消えろってな!」
「大和田さんのとこまで自分で行って自分で伝えるんだな」
 ラルクとヤクザの短刀が激しい攻防を開始した。
 彼と同じように、ヤクザがパラ実生の家族を攻撃したことに激しい憤りを感じる者がもう一人いた。
 本来の魔鎧として騎沙良 詩穂(きさら・しほ)を補佐する清風 青白磁(せいふう・せいびゃくじ)
「大和田道玄……おぬしの『任侠』はどこにあるんじゃ! 見損なったぞ!」
 オオオオオッ!
 と、吼える青白磁から発される強烈な闘気。
 押し寄せていたチーマーが圧倒される。
「詩穂! 見せてやれッ。マジカルステージ♪ で百人狩りじゃけぇ!」
「オッケー。本気狩る(マジカル)ステージ♪ だねっ☆」
 青白磁の怒りとは対照的な明るい笑顔で、詩穂はチーマーを挑発した。
「チーマーと黒服の詩穂のファンのみんな〜☆ 今から詩穂の本気狩る(マジカル)ステージ♪ で全員潰してあげるっ。詩穂が負けたら何してもいいよ☆」
 何してもいいよ、のセリフにチーマーの目が光った。
 パラ実生は焦りまくった。
「詩穂ちゃん、女の子が軽々しくそんなことを言ってはいけません!」
 お母さんみたいなことを言い出すパラ実生もいる。
「パラ実生ども、邪魔だーっ!」
「てめぇらのほうが邪魔だ! 詩穂ちゃんには指一本触れさせん!」
 4階は一気に乱闘の舞台と化した。
 詩穂も考えなしに危険な発言をしたわけではない。
 この前、チーマーに何を楽しいと思うのかについて聞いた時の答えから、パラ実生と全面対決したらお互いの力を認め合い、今度こそ和解できるのではと考えたのだ。
 それともう一つ、イコン生産工場も気になっていた。
「詩穂、上じゃぁ!」
 天井からの殺気に気づいた青白磁が注意を飛ばすと、カッと閃光が視界を覆う。
 クトゥルフ崇拝の書・ルルイエテキスト(くとぅるふすうはいのしょ・るるいえてきすと)の放った光術だ。
 バランスを崩し、落下してきたヤクザを詩穂の投げたアウタナの戦輪が打つ。
「これも、クトゥルフが呼んだ戦争か……」
 ルルイエが受け身を取って立ち上がるヤクザを見据えて呟いた。
「さあ、行くよっ☆」
 詩穂はサイコキネシスで戦輪を自在に操り、パラ実生では対抗が難しいだろうヤクザを翻弄しにかかった。あるいは青白磁の気持ちに応えたのかもしれない。
 アイドルらしく、華麗に汗など見せずに応戦する詩穂の耳に、一瞬だけ得体の知れない不穏な音が掠めた。
 それはもしかしたら音ではなかったのかもしれない。
 直後、足元から爆発音が響き、突き上げられた。
「なっ、何事!?」
「あちらへ!」
 態勢を崩す詩穂をルルイエが階段のほうへ引っ張る。
 4階の床はたちまち崩れだし、敵も味方も関係なく下へと落ちていく。
 巻き込まれてたまるか、とまだ残る者達が階段へ殺到した。

「少し……やりすぎたか?」
「いや、ガソリンに砂糖を混ぜるよりは、よほどお前らしいと思う」
「あれはどうかしていた。反省している。まったくどうしてあんな行動に出たのか……」
 塔の外の入口から中を覗き込み、小声で言葉を交わす会社員風の男女。
 何者だ、と聞かれれば、不動産屋の従業員だと答えただろう。
 その正体は、斎藤 邦彦(さいとう・くにひこ)ネル・マイヤーズ(ねる・まいやーず)である。
 不動産屋には、従業員のフリをさせてもらうことや、少し騒がしくなることを話してあった。
「騒がしくなろうが家賃はまけないよ」
 と、つっけんどんな態度を返されたが、邦彦はテナントを借りにきたわけではない。
 従業員と偽って勝手に家賃を取り立て自分の小遣いにしないことを約束すると、不動産屋は彼らの変装を許した。
 邦彦はパラ実生をサポートしようとスーツに着替えて、アトラクション設置の進行状況を見ながら破壊工作を仕掛けていたのだ。
 ネルはその傍ら、記録をメモするふりをしながら邦彦の護衛を勤めていた。
 頃合を見て爆破させたはいいが、やりすぎたようだ。
 2階と3階、ついでに4階の床が抜けてしまった。
 本当は、設置された装置を壊して上の階に進んだパラ実生が、下の階に残っているチーマーに挟み撃ちにされないようにしたかったのだが……。もろともにしてしまったようだ。
 1階は瓦礫の山に完全にふさがれてしまった。
 これでは塔の中の者達は出てこられない。もしくは飛び降りるか。
 邦彦が塔の外を見やれば、イコン工場から出撃して着地に失敗したパラ実イコンの残骸が目に入った。
「お前の変装は思った通りうまくいったな」
「話しをそらすなら、もう少しうまくやれよ」
 強引すぎたのは邦彦にもわかっていた。
 素っ気無い返事をしたネルだが、邦彦の気持ちもわからなくはないので話しに乗ることにした。
「ハイヒールは歩きにくくてたまらん。このスカートも足元が動きにくいし、上着も……。お前はよくこんなスーツでいつも動き回っていられるな」
「慣れだな」
 とはいえ、女性用のスカートスーツが運動に非常に不向きなのは確かだ。
 と、瓦礫の山がゴトリと崩れ、ボロボロの……どこかの放送局の人と思われる者がヨロヨロと這い出てきた。
「こ……これが、クトゥルフとハスターの戦い……人間ごときが、首を突っ込もうなど……む、無謀もはなはだしいということか……」
 ゴホッと咳き込み、彼は気絶した。