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まほろば大奥譚 第四回/全四回(最終回)

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まほろば大奥譚 第四回/全四回(最終回)

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第四章 決戦前夜2

 龍騎士漆刃羅 シオメン(うるしばら・しおめん)もマホロバ城襲撃の件は、幕府軍にも伝えらていた。
 大奥の子供を狙っていたということもあって、幕府軍内に動揺が広がっていた。


「今回は辛うじて退けたとはいえ、龍騎士団に狙われたら、ひとたまりもない」
 マホロバが今、唯一対抗できるとすれば、鬼鎧しかなかった。
 鬼鎧を見上げる貞継。
 かつてこの『鬼』と共に戦場を駆け巡ったのだという感覚が、体内から沸き立つ。
 鬼の血を通して伝わってくる。
「鬼城貞康公……マホロバの非常時を、貴方は戦うことで切り抜けられたのか」
 貞継が装甲に触れると、鬼鎧がゆっくりと動き、将軍の元に跪いてた。
 改良により手を加えられ、『鬼の血』さえあればマホロバ人以外でも動かせるようになったとはいえ、やはり元々は主従を尽くし将軍家に仕えた『鬼』だ。
「お前は……まだ将軍と認めてくれるのか」
「そうだ、お前はマホロバの将軍だ」
 背後から声をかけられて貞継は、「あ」と声を上げた。
 風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)に連れられた灯姫――腹違いの姉の姿をみたからだ。
「姉上、よくご無事で」
「立派に……なったな」
 約十五年ぶりに再会した姉弟は身分を考え、表には出さぬよう堪えながら、互いが無事なのを認めあい、喜んだ。
「お前達が姉上を……礼をいう。前に姉上のことを知らせてくれた者の仲間だろう?」
「いや、俺達だけじゃなく、もっと多くの人間が関わっている。将軍家の抱える秘密も……悲劇にもな」
 隠れるように同行していた閃崎 静麻(せんざき・しずま)はちょっと目を伏せてから、顔を上げた。
「実は、灯姫のお力を借りたいと思っている。瑞穂の鬼鎧を、取り戻したいんだ」
「どういうことだ?」
「オリジナルの鬼鎧はマホロバ人ならば言うことを聞く。瑞穂にある奴は、まだ手が加えられてない奴だ。『天鬼神の血』を引く灯姫なら動かせるはずだ」
 静麻の案は、瑞穂の鬼鎧を灯姫と共に奪取するというものだ。
 しかし、戦場でそのような行為は危険極まりない。
 灯姫の意思を確認することになった。
すると――灯姫の返答はあっさりしたものだった。
「戦なら、私は一向に構わんぞ。将棋でも何でも、勝負事に手は抜かぬ」
「あ、姉上……またそのようなことを。昔と変わらないではないか」
 貞継は頭を抱えている。
 どうやら、以前にもこのようなことはあったらしい。
 灯姫が戦に出ると聞いて優斗は心配そうにしていたが、静麻を信じ、ようやくこれだけ言った。
「灯姫、無事に戻ってきたら……ボクと契約を結んで欲しい。ずっと、側に居て、鬼の力が暴走しそうな時には、誰かを傷つけ苦しまないように、僕が責任を持って貴女を止めます」
 灯姫に重傷を負わされた傷を隠さずに、優斗は言った。
 言葉は想いだけではなく、身体ごとでなければ、この鬼の血を止めることはできないことを彼は感じていた。
「私もお力になりましょう。このためにずっと、鬼鎧を追ってきたのですから」
水無月 睡蓮(みなづき・すいれん)が灯姫と将軍の前に進み出た。
「鬼鎧が復活できたのも、灯姫様の血のおかげ。今日はお礼に参りました。そして、私にも戦わせてください」
 睡蓮の忠実な魔鎧鉄 九頭切丸(くろがね・くずきりまる)が片膝を付いている。
 貞継はこれまでの二千五百年分の想いと、これからの数千年分の重みを感じながら鬼鎧を見上げていた。
「もう一度、戦ってくれるか。ともに」
 一瞬、鬼鎧の顔が僅かにほころんだように見えた。