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リアクション
【?6―2・予兆】
「はぁ、はぁはぁ……あぁ、疲れた」
不慣れな女性の身体のせいで、胸が揺れたり足がふらついたりしながらも。
太陽がもうかなり赤くなる頃には、静香はどうにか逃げ切ることに成功して今は空き教室の中で休んでいた。
もちろん放課後の校内が危険なのは承知していたが。淳二とオルフェリアがひきつづき同行して守ってくれるようなので、ひとまずは安全と言えた。
「あれ、静香。どうしたのそんなに息きらせて」
そこへ、偶然亜美が顔を見せた。いい加減説明も面倒になってきていたが、話さないと彼女は引き下がりそうもないのでひととおりのことを簡潔に教えておいた。
「そんなことがあったんだ。でも、か弱い女の子っていいと思わない? 守られてるって表現だと、いい印象じゃないかもしれないけどさ。今だって静香は守られてるじゃない。これって幸せなことなんじゃないかな?」
静香は今回は多少反論したくなったものの。
ふたりを連れている現状で何を言っても、まるで説得力がないことがわかってしまった。
「ごめんあそばせ」
なので結局言葉を発したのは別の人物だった。
数分前のこと。
百合園を訪れた谷中 里子(たになか・さとこ)とドロッセル・タウザントブラット(どろっせる・たうざんとぶらっと)は、おおいにはしゃいでいた。
「さすが憧れの百合園女学院ですわね。皆さん、色々と活動あそばされていて思っていた以上に活気に満ちていていいことですわ」
「里子さん、あまりはしゃぎ過ぎるのは……」
剣を振り、舞を踊り、花を生け、楽しく語り合う。そんな様子を喜々としてあちこち走り回る里子を、ドロッセルはたしなめつつも、
「それにしても本当に、皆さんそれぞれお好きなことをなさっていて羨ましいですね。実は私もお洋服を……あ、いえ、この制服も可愛らしいですよね」
ぽつりとそんなことを呟いて、脇を通り過ぎたゴシックとパンクの服を着たふたり組の生徒を羨ましげに目で追ったりしていた。
「ドロッセル? なにか言いまして?」
「う、ううんべつに!? ただ最近、なにかと物騒だから気をつけないとって話です」
「ええ。今日びおとなしくお淑やかにしているだけじゃ、セレブなんて務まりませんわね……。わたくしももっと精進して、その暁には……むふふふふふ」
そうしてなにやら妄想しだした里子の目に、ある人物が映った。
「あら、あそこにおいであそばすのは静香校長ですわね。ご挨拶でもいたしましょうかしら」
らんららんとスキップ踏みながら近づいてみれば、彼女はなにやら深刻そうに話をしており、戸の前に身を潜めて聞き耳をたててみる。
「あ、里子さん。立ち聞きなんて良くないです……」
話の内容はややこしく事情を知らない里子には半分も把握できなかったが、それでも守る守られるのくだりは理解できた。しかもそう言われて静香もまるで反論できない様子で。
(……守られているだけなんて、貴族あるまじきアルマジロ態度ですわ!)
ついには黙っていられなくなり、
「ごめんあそばせ」
姿を現して、言葉を発していた。
いきなりの登場にみんなが軽く驚くなか、里子はずいと一歩前へ歩み出て。
「静香校長、守られているだけのか弱い乙女だなんて、それで良いとお思いあそばすのかしら? この百合園女学院の校長がそんな風で良い訳ありませんわ。もっと生徒たちの手本であり、目標であってあそばされるべきですわ」
里子は拳を握り締め力説し、
(……そう、深窓の令嬢とか病弱な美少女とか、そんなものはもう古い過去のものですわ。今日の貴族はアイデンティティをスタンディングオベーションさせる勢いでなくては!)
心の中でもそんなことを強く思っていた。
熱いアドバイスを投げかけられた静香のほうは、どう返したものかわからず困っているようで。
「でも静香校長が望むのでしたら、か弱い女の子でも良いのではないでしょうか。自分の好きな風になれるって、なかなかできませんもの」
見かねたドロッセルが軽くフォローをいれたが、
「いいえ! これからの百合園を考えるなら、もっとずっとハードで強い女性にならなきゃいけませんわ! そう思いますでしょう? ねぇ!?」
里子は引かずに興奮して、わずかに口調が若者ぽくなったりしていた。
「そ……そうだね、うん。強いのは、いいことだよね」
ほとんど強引ではあったが、静香はそう返すことができて。
あとは満足した風に里子は去っていき、ぺこりと頭を下げてからドロッセルもその後を追っていった。
「なんだったのよ、今の人は? 静香、静香はべつに強くなくたっていいんだからね? ワタシに任せてくれればいいんだから」
去り際に亜美はそんな風に言っていたものの。
静香としては、なんとなくもう答えは出始めているのがわかっていた。
なぜならループについて調べるのをやめないこと自体が、すべてを物語っていたから。
(そろそろ問題の時間だし。気合いをいれていかないと)
気を引き締める静香の目に、とあるふたりが入ってきた。
それは日下部 社(くさかべ・やしろ)と日下部 千尋(くさかべ・ちひろ)で、社は前回同様異性装によるなりきりで麗人に扮装していた。
「にしても、俺のこの格好もなかなかやろ? なあ?」
「うん! やー姉、素敵だよー!」
「やろ? 俺はやっぱなんでもできてまうんやろな。なんや今度は静香校長が襲われたりしとるらしいけど。俺にかかれば見事助けてみせたるわ!」
「わー!」
「お、噂をすれば本人やないか」
やがて高笑いしていた社も静香に気がついて、手を挙げ互いに挨拶をかわす。その最中、
(それにしても、やけに胸が大きくなっとるような……?)
静香の胸元に注目してわずかに首を傾げたが、
「ああ、そうか。成長期が一気に胸に来たんやな〜」
三秒後に声に出して納得していた。
(ほうほう。あらぁ、DかEくらいはあるんちゃうやろか。すごいなぁ)
そのまましばらく男子的な興味を示していたが、
静香が視線に気付き冷ややかな目で見始めたのに焦り、
「にしても、前回も思たけど。こんな事をして誰が得をするんやろかなぁ?」
わざとらしく声をあげてそんなことを言ってみた。
「もしかしたら、西川亜美が静香に対して、もっと自分の事を見てもらいたいからこんな事を?」
そのまま色々と考えを抱いてブツブツ悩みながら、
「……いや、それなら今回のループで静香校長が殺害される意味が分からんか……。まだ情報が少なすぎるうちは結論は出ぇへんな……。ちーは何か不思議に思った事あるか?」
考えが煮詰まってきたので、子供の感性に頼ってみた。
頼られた千尋のほうはというと、実はループ事件全般を通して感じている事があった。
(もしかしたら、静香にとって大切なものを気付かせる為のループ現象なんじゃないかな? 前回は静香にとってのラズィーヤという存在の意味。今回は男性であるという事実と在り方を女性に変える事で分かってもらおうとしている……とか)
そう考えるとループは静香のために発生している気がしてならない。
ただこれはあくまでも予想で、まだ確信はなく。
「ううん、ちーちゃんも分かんない! でもね、やー兄は静香ちゃんの力になってあげてね♪そうすればきっと解決出来るはずだよ!」
パートナーに教えることはせず、自信ありげな口調で返しておいた。
その際うっかり『やー姉』と呼ぶのを忘れたが、幸い誰にも聞かれていないようだった。
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