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リアクション
【?7―4・願望】
エレンは、殺気看破で警戒していたのに気付けなかったことに驚いたが。
こうして亜美を目の当たりにして、その理由がわかった。
彼女は……殺気なんてまるで抱いてない。けれど、なにかが心の奥に潜んでいる。
そんな不気味な感覚が、今の彼女から印象として伝わっていた。
「いろいろ言いたいことはあるんだけど……先に片付けるべきことがあるのよね」
エレン達はその言葉がわからず疑問が頭に浮かんだが。
いきなり覆面をした人物が、グレートソードを振り回しながら飛び込んできた。こっちはかなり殺気が垂れ流しだった。
「おらぁああああ!」
覆面女は、なんとも唐突な登場のまま怒声を張り上げ、剣を振り回してくる。
一番早く動いたのはエレン。危険さを感じて、すぐ魔鎧化してエレンを護る態勢になる。
「わたくしがいるかぎり〜、エレンさまを〜傷つけさせたりしませんわ〜」
次に動いたのはプロクル。
「やらせはせん、やらせはせんのである!」
メモリプロジェクターで自分達の立体映像を複数投影し、相手を攪乱させていく。
だが相手はそう易々とひっかからず。意外に冷静に一度後ろへ下がった。
「うりゃりゃりゃりゃりゃりゃ〜!!」
そこですかさずプロクルは、六連ミサイルポッドの一斉射をかましてやった。
「それで終わりでは、ありませんわよ?」
爆音が轟く中、エレアを纏ったエレンはミラージュで敵をさらに攪乱させ、カフェの照明をサイコキネシスで破壊して暗闇を作り、相手の目を完全に封じた。
(これであの剣は不用意に振ることができない。今の内に拘束を……あら?)
と、ダークビジョンを使い敵を把握しようとしてみれば。
覆面女はなんとも見事に尻尾を巻いて逃げに走っていた。
騒ぎを聞きつけ、静香、明日香、ブルタ、博季の四人は廊下を走っていた。
「はぁ、はぁ……あっちから、騒がしい音がした、筈なんだけど……はぁふぅ」
「静香校長。立ち向かおうとするのはいいですけど、あまり無茶はしないでくださいねぇ」
「ふぅ……はぁ……まったく、静香は……情けないね……」
「いや、あなたのほうがもっと息切れしてない?」
すっかりグロッキーな静香に苦笑いの博季だったが。
前方から覆面をして剣を携えた人物が走ってきて、笑いはどこかに吹き飛んだ。
「みんな下がって、はやく!」
残心で油断を怠らなかったのが功を奏した。
博季は、こちらを見るなり静香へと問答無用で振り上げてきた覆面女のグレートソードを、神速と先の先を利用して身を挺して受け止めることに成功したのである。
静香たちは、その間に教室の中へと退避することができた。
「このっ……静香校長を、やらせるもんか!」
そうとうな重さに気が遠くなりかけたが、相手は手負いのようで微かに腕が震えている。
つけいる隙はありそうだとして、光術を発動させて相手の目をくらませにかかった。
「うあっ!」
案の定、覆面女はわずかにうめいて二、三歩後ろへと下がってくれた。
「くそ……なめるなぁっ!」
だが。そのせいで逆上した覆面女は、滅茶苦茶にグレートソードを振り回しはじめる。
斬るというより叩き壊す感じで、事実壁をたやすく砕きながら突進してきていた。
「いけない、逃げて!」
静香の絶叫が、博季の耳には届いたが。博季は逃げなかった。
逃げられなかったのではなく、攻勢に転じていったわけでもない。
教室のひとつから、ある人物が飛び出してきたのがわかったからだ。
それは、カトリーンから連絡を受けて颯爽と駆けつけた、アイリス・ブルーエアリアルの姿だった。
彼女が剣を薙いだ直後。
覆面女は、がくりと膝をつき。前のめりに倒れて気絶した。
「それで、この覆面の人は、結局誰だったの?」
静香の問いに、亜美は軽く笑いながら、
「べつに? ワタシの家から借りたお金が返せなくなって逆上した、ただのチンピラよ。でも皆がやっつけてくれて助かったわ。はじめはワタシだけでなんとかしようとしたんだけど、まるで歯が立たなくてね」
あっはっは……と笑う亜美だが。
その場にいる他の誰も笑いはしなかった。
「この期に及んで、誤魔化すつもりですの? ただのチンピラがあれほどの強さなわけないでしょう。これは私の予想ですが、例の秘密のアイテムが関係しているのではありません? この覆面さんは、それを奪う為に雇われたとか」
エレンの言葉に、亜美は観念したように俯き。
「ま……こいつが調べられたらわかることだものね。ワタシのアイテムを奪いに来たのは事実。あと、静香の抹殺も仕事に含まれてたみたいね。ワタシのほうはついでみたいに扱われて、かなりしゃくにさわったわ」
「それで、なんなんだよ。そのアイテムって」
アイリスが問いかけても亜美はしらん顔をしている。
そんな彼女を悲しげに見つめながら、静香は思いを口にする。
「僕の身体が変化したときから、おかしいとは思ってたんだ。単に時間や空間をねじ曲げるだけの力なら、僕が女の子になるわけないものね」
「…………」
「亜美が僕に使ってくれたそのアイテムには、たぶん願いを叶える力があるんじゃないかな」
「まあ、それに近い感じはあるわね」
なんとも簡単に肯定する亜美。
「だとしたら凄いね。僕の中にあった無意識の願望が意に沿わない形とはいえ、実際に叶えられたんだからさ。まるで猿の手だね」
「博識ね。まあ、ウイリアム・ウイマーク・ジェイコブスの小説として有名ではあるけど。ここにあるのは猿の手に比べれば欠陥品よ。人の手よりかは万能だけど、猫の手よりも使えない。そんなアイテムなの」
「ねぇ、亜美」
そして静香は、どうしても聞きたかったことを口にする。
「なんで僕に、それを使ってくれたの?」
「逆に聞かせてよ、静香。静香は……ワタシの助けは、いらないの?」
静香は問いかけられて、ちらりとブルタのほうに視線を向け。
ついさっき交わされた言葉を思い出し、そして。
「うん」
簡素すぎる返答をした。
ギリ……と、亜美の口元から奥歯がきしむ音が奏でられた。
そして、不意にポケットへと手を入れる亜美。
「そういえば知ってる? 猿の手って……三個願いを叶えてくれるのよね……」
「っ、いけない!」
させまいとするアイリスの叫びと共に、みなが一斉に亜美へと殺到する。
だが亜美はまるで動じることなく『それ』に手を触れさせた。
その瞬間。
辺りは、まばゆい光に包まれた。
姫宮みことは図書室で、ある本を見つめていた。
亜美に手伝いを断られたせいで、探すのに時間がかかってしまったが。ようやく目的である『人の心の奥底の望みを歪んだ形でかなえる存在』に行き着いていた。
「猿の手。みてくれは猿の前足のミイラ。しかしその正体は、代償と引き換えに所有者の願いを三つ叶えてくれるという魅惑の道具」
他にも願いを叶えるお札とか小槌とか、似たり寄ったりのものは見つけていたが。一番近そうなのは、やはりこれだという結論に至っていた。
「そして、三つの願いを叶えたとき。使い手は命を落とすことが多い……か」
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