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続・冥界急行ナラカエクスプレス(第3回/全3回)

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第3章 世界樹【2】


「パルメーラ!くそ!俺なんて庇うんじゃねぇよ……」」
 ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)はパルメーラを探し、崩れ落ちた森を彷徨い歩いていた。
 きっとここからそう離れてはいないはず……そう思って探していると思いがけない人物と出会うことになった。
 ジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)、奈落の軍勢として暗躍していた彼もまたここにいた。
「ジャジラッド、どうしてここにいる……!」
「おっと。そう殺気立つんじゃねぇよ。オレ達もパルメーラの救出に来たんだ、手分けして探そうじゃねぇか」
「……信用出来ねぇな。どうせまた何か企んでやがるに違いねぇや」
 ラルクの右腕、秘伝 『闘神の書』(ひでん・とうじんのしょ)は刀に手をかけて言った。
 それに対し、異形の竜人ゲシュタール・ドワルスキー(げしゅたーる・どわるすきー)は反論する。
「今は一刻を争う時ではないのかね? 我らの小競り合いで少女の命を危険にさらすことはあるまい?」
「……ぐっ」
「闘神、こればっかりはコイツらの言う通りだ。とにかく今はアイツを探そう」
 ラルクの一言で闘神は武器を納め、彼らは協力してパルメーラ捜索をはじめた。
 それから小一時間ほど経ったころだろうか、誰かがおもむろに声を上げた。パルメーラを見つけた、と。
 しかし、駆けつけたラルクが見たものは見るも無惨なパルメーラの姿だった。
 手足を失い、血の海に横たわる彼女を、ラルクは抱きかかえ必死に呼びかける。
「しっかりしろ、パルメーラ!」
「ラルクくん……?」
 目を開けたパルメーラにほっと胸を撫で下ろし応急処置を施す。だが、ここで出来ることは少ない。
「となれば……パルメーラ、菩提樹……アガスティアに行こう。あそこならおまえを助けられるかもしれない」
「どうしてそこまでしてくれるの……?」
「決まってんだろ。おまえに生きていて欲しいからだ」
 パルメーラは大きく目を見開いた。
「生きろ、パルメーラ。生きて、罪を償うだけじゃねぇ。普通の生活を送るんだ」
「また戻れるかな……?」
「当たり前だ! 俺がいる、俺たちがいつだって一緒だ!!」
 しかし、ジャジラッドとその一派はラルクの意見に否定的だった。
「……俺はそうは思わんが、な。現世に戻ったとしても待っているのは辛い現実だ。おまえはともかく各学園上層部は今回の件を無罪放免とはしないだろう。監獄送りが関の山だ。超法規的措置も期待出来んだろうしな……」
「そんなことは俺が……」
おまえにはどうにも出来んよ。おまえらの大好きなクソッタレの秩序はそうやって回ってるんだからな
 ジャジラッドはパルメーラに視線を移す。
「だからオレとともに来い。ともに来れば、ウゲンもきっと喜んでおまえを迎え入れてくれるはずだ」
「どういうこと……?」
「簡単なことだ、おまえはタシガンの世界樹になればいい。あそこはヤツにとって第二の故郷だからな。その地を守る世界樹がおまえの新しい居場所だ。そうなればきっとウゲンも見直してくれるだろう」
「その傷も心配ありませんわ。御神楽環菜の才能の入ったUSBメモリーがあれば、おそらく治療も可能でしょう。」
 サルガタナス・ドルドフェリオン(さるがたなす・どるどふぇりおん)は言った。
「なにせ、神の才能ですからね。解析すればあなたを癒す手段など容易く判明するに違いありませんわ。環菜側の皆さんも人命がかかっているとなれば、きっとUSBメモリーを渡してくれるでしょうし……ねぇ?」
 その思惑が透けて見えるほどの邪悪な笑みを浮かべた。
 さらにもうひとりのジャジラッド一派、奈落人のベルゼネア・トト(べるぜねあ・とと)が言う。
「急を要するのでしたら、こちらのジャジラッドと契約を結ぶ手もありますわ。現シャンバラの女王は二人と契約をしていると聞きますし、強大な力を持つあなたならそれも可能なはず。さすれば怪我も幾らか楽になるのではなくて?」
 ジャジラッドはニヤリと笑い、パルメーラに手を差し伸べる。
「さぁオレと一緒に来い。おまえの居場所はここにある」
 しかし、パルメーラはラルク服をぎゅっと握ったまま動こうとはしなかった。
「話を聞いていなかったのか? そちら側に行ってもおまえは虐げられるだけなんだぞ?」
「都合がいいんだよ、てめぇら……」
 ラルクが立ちはだかる。
利用する時だけおだてて、いらなくなったら平気で見捨てる。そんなヤツらのところにコイツを戻せるかよっ!
「ラルクくん……」
 彼女が彼の傍を離れようとしなかったのは、ラルクがこういう性格だからだろう。
 思えばずっとラルクはパルメーラに呼びかけてきたのだ。彼のひたむきな想いは彼女にちゃんと届いていた。
「あ、そう。なら無理矢理奪ってくまでのことよ……!」
 突然、どこからか声が聞こえた。
 とその瞬間、背後から全能の書 『アールマハト』(ぜんのうのしょ・あーるまはと)が奇襲を仕掛けた。
 薙ぎ払うように立ち上る炎の嵐、そして挟み撃ちにするように、また別の方向から炎が噴き上がった。
「お、おまえは……!」
 ラルクの目に、空飛ぶ箒に股がったメニエス・レイン(めにえす・れいん)の姿が映る。
 血のにじむ包帯を胸に巻き、その顔色はすこぶる悪い。だが彼女は憎悪に満ちた表情でこちらを見下していた。
「あたしをコケにしやがった代償は払ってもらうわ……!」
 ジロリとパルメーラを睨む。
「あなたも所詮ただの操り人形だったみたいね。あたしとしたことが買い被っていたわ。あなたに相応しいのは、大学に戻ることでもなくウゲンのところに帰ることでもない。あたしの飼い犬になるのがお似合いよ。しもべとしてね」
 その言葉に呼応し、メニエスの忠実なる従者ミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)が斬り込む。
 しかし、その前に立ちはだかった闘神の書が抜刀術で彼女のカタールを弾き、接近を阻止した。
「力でどうこうしようってのが気に食わねぇい。とっとと帰んな、お嬢ちゃん。怪我ァしねぇうちにな」
「その言葉、そっくりそのままお返しいたしましょう。大人しくパルメーラ様をお渡しください」
「命令を実行します」
 はっとして後方に視線を向けると、アールマハトが再び炎を使おうと構えている。
 だがその時だった。突如、暗闇から伸びた如意棒の突きが彼女の胸を打ち、残骸の山に激しく吹き飛ばしたのは。
「不意打ちなどと言う、無粋な真似は感心せんな」
 現れたのはブルーズ。と言うことは当然あの男もいる。
 キラリと闇に光ったかと思うと、飛来するのは六文銭。ミストラルはそれらを両断してたたき落とす。
「あなたも邪魔をするというのですか……?」
「彼女に手を出すなら僕らも指をくわえて見てはいないよ」
 天音は指弾で弾いた六文銭を弄びながら、ミストラル……そして、その奥のメニエスを不敵に見つめる。
 多勢に無勢、オマケに重傷を負っているとなれば、これ以上の戦闘は不可能。
「貴様ら……! 次こそは全員皆殺しにしてやるわ!」
 ギリギリと奥歯を鳴らし、メニエスは撤退していく。ジャジラッドもどさくさに紛れ退散したようだ。
 ラルクは助太刀に来てくれた天音に頭を垂れる。
「すまねぇ、恩に着る……」
「礼はいいさ。それより、彼女を早くアガスティアに運ぼう。世界樹の生命力と言えど、これ以上は危険だよ」