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続・冥界急行ナラカエクスプレス(第3回/全3回)

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続・冥界急行ナラカエクスプレス(第3回/全3回)
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第4章 魔将君臨【1】


 ナラカエクスプレスは走る。
 暗い森をかき分け、鉄の道に火花を散らし、そびえるガルーダを目指してひた走る。
 車内には無論のこと緊迫した空気が張りつめていたが、ふと、ぴんぽんぱんぽーんと気の抜ける音が鳴り響いた。
『本日もナラカエクスプレスをご利用頂きまことにありがとうございます』
 アナウンスの主は【トリニティ・ディーバ】である。
『当車両はガルーダ迎撃第一部隊として貸し切り運行を行っております。皆様、左手をご覧下さい。あそこにそびえ立つのが本作戦の目標ガルーダ・ガルトマーンでございます。全身がトリシューラの放つ神気に包まれているのが見えますでしょうか。神槍の放つ巨大な力を処理しきれず、巨大化、そしてなおも体表から神気が噴出している状態です』
 一同はゴクリと息を飲む。
 つまり、ルミーナ・レバレッジ(るみーな・ればれっじ)の身体は決壊寸前、崩壊まで幾ばくも余裕はない。
 トリニティは人形のような無表情で……しかしながら、彼女なりの熱意を込めた調子で言った。
『お家に帰るまでが旅でございます。皆様の無事なご帰還を心よりお待ち申し上げております……』
 それからまたいつもの調子で彼女は言う。
『間もなくガルーダ前ーガルーダ前ー、お降りのお客様はお忘れ物のないようお気をつけ下さいー』
 そのしばらくのち、マクスウェル・ウォーバーグ(まくすうぇる・うぉーばーぐ)は冥界の樹々の間を跳んでいた。
 次から次へと軽やかな身のこなしで枝木を渡り、マクスウェルはガルーダを目指す。
 握りしめられた拳には、あらゆるものを創造すると言う全能弾『マハースリスティ』があった。
「さて……、なんともなしに渡されたが、どれほどの威力が発揮できるのか……」
「ともあれ試し撃ちをしてる余裕はありませんからね。この一発にすべてをかけるしかありません」
 傍を駆けるもうひとつの影、菅野 葉月(すがの・はづき)は言った。
「やれやれ、御神楽校長はもっと準備のいい人間かと思ったが……、まぁそれだけ事態が切迫してると言うことか」
「……さぁそろそろガルーダが射程に入りますよ」
 とその時、パートナーのミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)が話かけてきた。
「葉月、ディテクトエビルに反応はなかったわ。ガルーダ以外は近くに潜んでないみたい」
「そうですか。なら、存分に戦えますね」
「ま、もっともそんなヤツがいても、ワタシの目が黒いうちは放っとかないけどねっ」
「その時は、僕たちのガードはよろしくお願いしますよ」
 葉月はマクスウェルと視線を合わせ静かに微笑む。
 そして、とある枝の上で三人は歩を止めた。
 親指で弾いた全能弾をキャッチし、マクスウェルは魔銃モービッド・エンジェルに銃弾を装填。
「降り注げ天の光、ナラカの闇を吹き飛ばせ……!」
 閃光とともに発射された弾丸は空に吸い込まれ……次の瞬間、暗雲立ちこめる空を引き裂いた。白光が天空を覆う。
 異変に気付いたガルーダが見上げた途端、無数の稲妻の矢が降り注いだ。
「来たか。オレの邪魔をするなら生かしてはおかん……!」
 暗く燃える炎を瞳に宿し、ガルーダは攻撃の主を捜して森を見回す。
「足が止まった……! このまま畳み掛ける……!」
 攻撃は最大の防御、続いて葉月が全能弾を投げた。
「我が弾丸に雷帝インドラの加護を……、貫けぇっ!!」
 光を伴いイメージが具現化される……それは巨大なヴァジュラ(金剛杵)、電撃を纏いガルーダの正面を捕らえる。
 しかしガルーダは一切動じることなく、神槍を横に倒し飛来するヴァジュラを受け止めた。
「さかしい真似を……」
 ゆっくりとヴァジュラは押し返されていた。イメージを保てず、次第にぼろぼろと稲妻が剥離していく。
 ブラフマーストラを通さない分、イメージを顕在化させておける時間も限られているのかもしれない。
「電撃が弱点かと思ったのですが、通用しないとは……」
 葉月は言った。
 電撃は取り立てて弱点ではない。おそらく電撃を苦手としたハヌマーンやタクシャカと混同しているのだろう。ただまぁ、火炎も冷気も通用しないガルーダなので、ダメージが通る属性として電撃は間違いではない。
 マクスウェルは言う。
「気にするな。第一部隊の任務はヤツの行動を制限させること、これだけやれれば上出来だ」とその時である。
「なら、オレも乗るっきゃねぇな。このビッグウェーブに……!」
「!?」
 彼らの間をすり抜けるようにして、のぞき部部長弥涼 総司(いすず・そうじ)の参戦だ。
 ヤバそうなヤツが出てきた……と表情で言う二人には一瞥もくれず、フラワシ『ナインライブス』を発現させる。
「射撃関係は邪念が入るタイプなんだよなぁ……、まぁでもあんだけでかけりゃあ当たるだろう」
 ナインライブスが親指で弾くように全能弾を構えた。
「全能弾っつっても完璧じゃあねぇ……、ならばオレが狙うのはルミーナ……」
 弾かれた弾丸がガルーダを撃つ。ところが、直撃したにも関わらずダメージはない。
 ガルーダは弾丸の軌道から発射地点を推測し、槍のひと薙ぎで総司のいる森ごとえぐり飛ばしてしまった。
 だが……既に総司は次の行動に移っていた。
 気配を断つとちぎのたくらみで五歳児になり、ガルーダのおっぱいに素早く張り付いたのだった。
ままー、まんま……まんま……
 脳細胞が不器用なのか、よじ登る際に頭を打ったのか不明だが、幼児退行も引き起こしていた。
 おっぱいおっぱい……ともぞもぞ奥底に潜ろうとする。
 だがしかし、功を焦り動きすぎてしまったため、発見されひょいとつまみ上げられてしまった。
「まま……?」
「油断も隙もないヤツだ。さっきの銃弾は貴様の仕業か……」
 未だなにも表面化していない全能弾。一体、どんな念を込めて撃ったのかと言うと、それは『催淫効果』だった。ルミーナの魂にステータス異常『淫乱』を与え、ガルーダの混乱を誘う策だったのだ。
 ただひとつ誤算だったのは、彼女の魂は押さえ込まれているということである。例えるなら、睡眠のステータス異常を起こしてる人に、混乱のステータス異常を与えても、睡眠が優先されてしまうと言うことだ。
「目障りだ、失せろ」
 次の瞬間、ぶちゅりと音を立てて総司はにぎり潰された。