校長室
話をしましょう
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「キミとはこうして話をするのは初めてだね。どうして私を選んだ?」 次に面談に訪れた生徒にも、優子は同じ質問をした。 「なんとなくです。話をしてみたくて」 そう答えたのは毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)。 白百合団員ではない、気まぐれな少女だ。 見かけはとても幼いが、実際は立派な女性、のはずの契約者だ。 「神楽崎さんは有名ですからね。百合園だけではなく」 「そうか」 優子は軽く笑みを浮かべて、次の質問に入る。 ファイルに触れた優子の指を。 顔にかかった黒髪を。その髪を軽く首を振って払うしぐさを。 大佐はじっと観察していた。 大佐は団員ではないが、鈴子が率いる作戦に参加したことはある。 しかし、優子の下で活動した覚えはなく、ほとんど面識はなかった。 なんとなく、興味があった。 優子を選んだ理由はそれだけ。 そしてなんとなく、彼女の細かい仕草を観察していく。 こんな時でも、優子には隙がない。 「キミには将来の夢はあるか?」 「とくには……。うちは医者の家計なんですけど、パラミタに来る前に医者としての技能は会得しましたので。その他には明確な目標はいまのところないです。なので、次の目標を立てる為のアドバイスでもいただけますか?」 「医学は日々進歩するものだから、その分野に興味があるのなら終着点はないかもしれないぞ? あとは、地球では学べない医療知識を学ぶのも良いかもしれないな。地球医学とパラミタの魔法技術を用いた、医療の発達は望ましいものだから」 まだ若いのだから、その他の道に浮気していみるのもいいだろう。 趣味はあるかと優子は大佐に問いかける。 「投影。動画静止画は問いません。殆ど人物メインですが。人の表情や仕草を撮るのが好き。それがどんな感情からくるものであっても。景色は撮っても劣化する気がするから撮影は好みません」 「うん、写真はいいよな。その瞬間を残しておける。同じ風景や同じ人物を撮ることはできても、その瞬間の表情は様々な背景の下で作られる、心を表すものだから」 例えそれが作られた表情であっても。 作ろうとしたその心を表している。 「そうですね。でもこれは趣味なので、趣味として続けていくんだと思います」 「では、親しい友達や、付き合っている人はいるか? 交友関係から道が見えていくこともあるだろう」 「……百合園の皆は結構好きですよ」 大佐は曖昧にそう答え、優子もそれ以上深く聞こうとはしなかった。 「パラミタの生活で何か困ったことや、悩みなんかはあるか?」 「もう2年もいますから、慣れました。というかそっちこそ、この間の爆発オチの影響は大丈夫だったんですか?」 「ばくはつおち……?」 一瞬不思議そう顔をした優子だが、すぐに、春に行ったパン…パーティの後の爆発騒ぎのことだと気づく。 「それに関しては……聞かないでくれ」 言って、優子は目を逸らした。 「こちらとしては、興味深い表情が撮れて満足でしたけど」 「うん、楽しんでもらえたのなら、それでいいんだ……。けど、そろそろウェブからは下げてくれないか!?」 ちょっぴり優子の口調が強まる。 「わかりました」 言って、大佐は軽く笑みを浮かべた。 優子も少し恥ずかしげな笑みを見せた。 「まあ、キミは将来の夢を焦って見つける必要はないように思えるよ。生徒会にはそのまま、無しと報告しておこう」 「はい、今日はありがとございました。それなりに有意義な時間だったかと」 「うん、ありがとう」 面談を終えると、大佐はそそくさとドアへと向かう。 最後に振り返って、優子の仕草を見ることも忘れない。 机に向かって無駄のない動きで、ペンを走らせる姿もなかなか似合っている。 (普段はむっつりしてることが多いけど、意外とゆるい表情もするんだな。いつかまた撮ってみたい感じ) そんなことを思いながら、大佐は部屋を後にした。