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地球とパラミタの境界で(後編)

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地球とパラミタの境界で(後編)

リアクション

「暇ね……」
「確かに順番待ちの間は暇ですぅ」
 葛葉 杏(くずのは・あん)橘 早苗(たちばな・さなえ)は機体の慣らし操縦を行った後、個人戦の順番待ちのため、旧イコンで着陸して待機していた。
「そういえば、杏さんはどうして風紀委員になったんですかぁ?」
 早苗の中では、未だにそれが引っ掛かっていた。杏の性格的に、他人のために動く組織に属するとは思えなかったからだ。
「私さぁ、兄がシャンバラのロイヤルガードで双子の姉にいたってはマホロバの前の将軍の子供生んでるわけよ。完全にシャンバラ派じゃん」
 そうなると、彼女のことをシャンバラ派の人間として見る人は少なくないだろう。
「だから、私もシャンバラ寄りと思われるのが嫌だから、組織に属して立ち位置を明らかにした訳よ」
「あぁ、試験の時に言っていた、『自分の立ち位置は自分で決める』ってそういうことですかぁ」
 理由を聞き、一応納得がいった。
「そういえば、例の密航者の件はどうなったんでしょうねぇ」


・窮鼠猫を咬む


「悠美香ちゃん、無事か!?」
 月谷 要(つきたに・かなめ)霧島 悠美香(きりしま・ゆみか)の元に駆けつけた。彼女が密航者と接触したことを知ったことと、少しの間精神感応が途絶えたためだ。
「ええ、何とかね。だけど、ちょっと危なかったわ」
 咄嗟に怪力の籠手でガードしたため、悠美香は難を逃れていた。籠手は破壊されてしまったが、怪我がなくて何よりだ。彼女の手には、女性物の服が握られている。
(攻撃が効かなかったと分かると、自分の服で私の視界を塞いできたわ。それをどけた時には、もう姿はなかった)
 既にルージュへの連絡を行い、西地区への応援の要請は完了している。外見特徴も共有されている以上、逃げ回るのは難しいだろう。
(危ない!)
 要の首の辺りに、衝撃が走った。悠美香からの精神感応を受けてすぐに身体を前に倒したため、ダメージを軽減することは出来た。
(要、眼閉じて!)
 悠美香が要の背後に現れた影に向かって、インフィニティ印の信号弾を放った。閃光を目晦ましとして利用し、要は態勢を立て直す。相手が悠美香の方に気を取られているうちに背後に回り込み、こちらから仕掛ける……つもりだった。
(目晦まし、効いてないのかよ!)
 光学迷彩とブラックコートで姿と気配もほとんど分からないようにしているはずだが、まったくものともしていない。
「殺気がだだ漏れヨ、お兄さん」
 相手は本能レベルで危険を察知しているようだ。
 要を上段回し蹴りが襲う。それを、液体金属製の腕で受け止めた。
「ありゃ?」
「攻撃が読めても、身体は読めないって言ってた」
 敵の蹴りでナノマシンで出来た腕が弾けるものの、即座にもう一方の腕で拳を握る。
「なら俺に出来るのは、精一杯人体の常識を無視した戦い方……!」
 相手の身体に触れる瞬間サイコキネシスを行使し、威力を上乗せした。ルージュはこれ用いて身体の内側に攻撃を浸透させることをやってのけていたが、さすがにそこまでは出来なかった。それが可能だったなら、ここで戦いは終わっていただろう。
 天学の女子制服姿が殴り飛ばされる。しかし、彼女は上着の下に手を伸ばし、金属板を取り出した。それを、要に向かって投擲してくる。
「鉄板を仕込んでこっちのダメージを抑えたのか」
 それを回避するも、敵は着地の際に受身を取り、そのまま逃げ去ろうとしていた。
「逃がさないよっ!」
 駆けつけたのは、水鏡 和葉(みかがみ・かずは)ルアーク・ライアー(るあーく・らいあー)だ。ちょうど路地の反対側からやって来た。これで、要達と挟み込んだ形となった。
 ルアークによる威嚇射撃の直後、和葉がアクセルギアを使用し、一瞬で距離を詰める。
「うん、おねーさんの顔、やっぱり――」
 髪型は若干異なるものの、顔立ちは学院のデータベースに残るある生徒と一致している。拘束しようとしたその瞬間、少女の服の袖から何かが飛び出した。ヌンチャクだ。
 それが、和葉の両手首を強打した。アクセルギアを使っているにも関わらずそれを避けられなかったのには、理由がある。
 少女に狙いを定めていたルアークが銃の引鉄を引くと、銃が暴発した。地面には、パチンコ玉が転がっている。指弾で銃口に撃ち込んだのだ。和葉はそれを避けた隙を突かれたに過ぎない。
「これで丸一日は何も握れないネ」
 戦っている間に、要達もまた距離を詰めていた。要はゴッドスピードを、悠美香は彗星のアンクレットで互いの身を軽くしている。相手を倒す必要はなく、拘束出来さえすればいい。そのため、今度は攻撃の意志を見せないように注意を払った。
「……弱い者いじめ、よくないネ」
 天学制服姿が、溜息混じりに呟いた。次の瞬間、この場にいる契約者達は皆、身動きが取れなくなった。
「強化型の……Pキャンセラー!」
「いくら何でも、この状況でまともに契約者の相手は無理ネ」
 その影響を受けていないところを見ると、相手は契約者でもパラミタ種族でもない――ただの人間だ。
 
(捕捉したわ! 今、西地区を逃走中よ)
 カーリン・リンドホルム(かーりん・りんどほるむ)からのテレパシーを受けて、高峯 秋(たかみね・しゅう)エルノ・リンドホルム(えるの・りんどほるむ)は密航者が目撃された西地区へとやってきた。
「アキ君、あの人……!」
 エルノの視界に、見覚えのある人物の顔があった。服装は天学の女子制服、髪型こそお団子ではなくショートのシャギーカットと異なっているが、あのランクSの彼女にそっくりだ。
「あの人だね……追わないと」
 ルージュ達にも連絡を入れ、囲い込むことにする。先刻彼女と接触した者達によれば、契約者対策をしているらしい。強化型Pキャンセラーによって、しばらくは自由に動けなくなってしまったのだと。
 そのことを念頭に入れ、秋達は密航者を追った。その行き先は、極東新大陸研究所海京分所で間違いなさそうだ。