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リアクション
【2】覇王マリエル無双拳……7
空京駅前。
広場にあるベンチに腰を下ろし、日比谷 皐月(ひびや・さつき)はため息まじりに空を見上げた。
「……警察に追われるのは初めてじゃねーけど、やっぱりいい気はしないよな、この感じ」
赤猫娘々の乱闘に参加していた彼は、万勇拳の門下生ではないものの、警察から追われる身となってしまった。
ちぎのたくらみで姿を変え、警察の目を欺いているが、気になるのは翌桧 卯月(あすなろ・うづき)の視線だ。
「じーーーー………」
心無しか、ちんまりしてから彼女の鼻息が荒いような気がする。
(……気のせいだよな。き、気のせいだ気のせいだ……)
「ところでこれからどうする気?」
「ん、ああ……このまま逃げ回るのも癪だし。噂のカラクル・シーカーって奴の首根っこ押さえに行くか」
「万勇拳に協力するの?」
「連中に義理立てする理由はねーんだけど、黒楼館の奴らには皆困ってるようだしな……」
皐月は立ち上がった。
「それにあのじーさん、白竜と知らない仲って訳でもなさそうだし、ダチのダチなら手ぇ貸さない理由はないだろ」
「……だったら万勇拳の人たちと一緒に行けば良かったのに」
「やれやれ、ちょっとぐらい身の振り方を考える時間をくれよ」
ドオオオオオオオオン!!
突然、駅前にある雑居ビルの一部がとてつもない音とともに吹き飛んだ。
ざわめく群衆に混じって、皐月たちは横っ腹に風穴を空けたビルを呆然と見つめた。
「……あ、ここ例のネカフェのビルじゃねーか。まったりしてる場合じゃねーぞ、こりゃ」
我れ先にと避難する利用客をかき分けて、皐月たちはビルを駆け上がった。
ネカフェに辿り着くと、一面が吹き飛んだ空間と殺気立った万勇拳一派が目の前を走り抜けるのが目に飛び込んだ。
「あいつらカラオケルームのほうに行ったけど……まぁいい追いかけるぞ」
「ええ」
その1分後、今度は険しい表情の戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)が店内に入ってきた。
監視カメラの位置を注意深く観察し、死角を素早く渡るように店に潜入する。
「……向こうか」
・
・
・
「万勇拳よ! 大人しくしなさい、カラクル・シーカー!」
刑事ドラマばりにドアをばぁんと開けて、愛美と万勇拳の仲間たちは件のカラオケルームに突入した。
あまりにもマリエルとの戦いが激しすぎて筆者も忘れそうだったが、一応このくだりのメインはカラクルである。
彼女を止めるのが大事な仕事なのである。
「……というわけだから、無駄な抵抗はやめたほうがいいんだよ!」
ビシィと愛美は指を突き付けた……がしかしすぐに「あれ?」と首を傾げた。
少年アイドルグループの曲を熱唱するカラクルと、楽しく盛り上げる天音と呼雪の姿がその部屋にあった。
どうやら夢中になっているらしく、店半分が消滅したことにも気が付いていないようだ。
「……誰?」
ふと彼らの視線が愛美に集まった。
「え、あ、ええと……その万勇拳なんだけど。来たんだけど」
急に入ってきてなんなのこの人たち的気まずい空気が流れた。
けれどその空気はありがたいことに長く続かなかった。カラクルがぎりぎり自分の立場を思い出してくれたのだ。
「……万勇拳だと? あ、あ、あたしを捕まえに来たのか……っ!?」
アチョーとカンフーポーズで威嚇する。
「そうなんだけど、緊迫感がなくなっちゃった……」
「カラクルお姉さん、捕まっちゃうんですか? もしかして悪い人なんですか?」
マユは悲しそうな目でカラクルを見つめた。
「は、はううう……。な、なにこの天使……。連れて帰りたい、養いたい、養いたいわー……なんなん、これぇ」
「ふむ……」
天音は何やら閃いて、マユにこっそり耳打ちする。
それでお姉さんが助かるなら……と呟き、マユはほっぺを桃色に染めて言った。
「もう悪い事をしないって約束してくれるなら、ぼくのニーソとふとももの間に指を入れてもいいですよっ……!」
次の瞬間、カラクルから噴射された鼻血は天井を一瞬で赤く染めた。
「……なんだかよくわからないけど、人として道に迷ってるのは間違いなさそうね……!」
「ええ、だから一刻も早く正しい道に戻すの!」
追い付いた卯月は言い放った。
「ネカフェに引き篭って小さい男の子にハァハァしてるなんて、そんなの許される事じゃないわよ!」
「五月蝿い! 人の趣味にごちゃごちゃ口を出すな!」
鼻血を拭いつつ、カラクルは言い返す。
「目を覚ましなさい、カラクル・シーカー! 画面の向こうの男の子は確かに可愛いけど、貴女に笑いかけてはくれないの。それどころか不健康な生活を繰り返せば、姿形は醜くなって、子供に泣かれるようになってしまうのよ……!」
「!?」
「そうなる前に外に出なくちゃ。そして一緒に小さい男の子と触れ合いましょう。正しいショタの道を歩き出すの」
「……お前やっぱりそっち側の人間だったのか」
「……な、なんか仲間が増えたよ」
皐月と愛美は戦慄した。
そして、残念ながら仲間はまだ増える。
「……そう、人を憎んでショタを憎まず。ショタコンを変態とよぶならば自分を敵に回すことになるぞ」
あらわれたのは、執事服に木刀という斬新なコーディネートの刀村 一(とうむら・かず)。
「ま、またオカしな人が……」
「覗きが趣味なのは頂けない。しかしこう考えることは出来ないだろうか。幼女ちみっこを犯罪から守っていると」
「……出来ないし、守ってないでしょ、あの人」
「むしろ折角の能力、カラクルさんを少年を守る監視員にすれば、双方に利のあるまさに一石二鳥の案じゃないか!」
「たぶんそれ、少年側に利はないよ! 搾取されるだけだよ!」
「……と言うか、なんでそんなに奴の肩を持つんだ?」
皐月は言った。
「犯罪はよくない、よくないが気持ちはわかるんだ。なぜなら、そっちがショタコンならば自分はロリコンだから!」
何故かドヤフェイスの一だったが、皆なんとなくそんな気はしてた。
「いいぞーちみっこは! 見てるだけより実際に触れ合ったほうがもっと楽しいんだ、ちみっこは!」
「……わかるぞ。今まで遠くから見る専門だったが、一緒にカラオケするだけで楽しかった……」
「そうよ、カラクル。少しづつでいい、自分の殻を破ってもっと生ショタと触れ合うのよ」
一、カラクル、卯月、同じコンプレックスを抱える者同士シンパシーを感じずにはいられない。
「私たちの崇高な趣味に乾杯……。それじゃカラクル、お近づきの印にこれを上げるわ」
「へ?」
卯月は皐月を小脇に抱えると、カラクルに差し出した。
「初物よ。貞操でもなんでも好きなように召し上がれ。あ、その代わり保存してある盗撮データちょうだいね」
「ゴクリ……」
山奥に巣食う野獣のようにカラクルは目を爛々と光らせ、ふんすーふんすーと鼻息を荒くした。
「ちょ、ちょっと待てぇぇぇぇ! そりゃ洒落になってないだろ、こんちくしょおおおおおお!!!」
「なんで? こんな美人に貰ってもらえるならいいじゃない」
「美人は美人だけどこの人むちゃくちゃしそうなんだけど! ほら、オレのお尻をしきりに見てるし!」
とその時、一の木刀が一閃、カラクルと卯月の脳天に直撃した。
「痛っ!?」
「……っ、おい貴様、乙女の頭に面打ちとはどういう了見だ……!」
「それはこっちの台詞だ。ちみっこは節度を持って愛でるもの。本気で手を出したら……それじゃ犯罪者じゃないか!」
ショタやロリに手を出すのは一の中ではNG……いや彼の中だけじゃなくて、この社会では完っ璧にNGである。
それこそが彼のポリシーであり、ロリコンとして最低限守らねばならない矜持なのだ。
まぁ……もはや大体全員犯罪者な気もするが。
「というか、ショタコンが良いか悪いかは関係ないでしょ!」
朝野 未沙(あさの・みさ)はそういうなり、カラクルに馬乗りになってソファーに押し倒した。
また忘れそうになってしまったが、ここでの目的は彼女の生み出す監視網を潰すことである。
「ええい、放せ! あたしの上から降りろ!」
「……ゴクリ」
監視網を潰すことなのだが……ジタバタもがく彼女の姿が、脱線に続く未沙のアクセルをベタ踏みにした。
「……ショタコンなんて言ってるからそんな目に遭うんだよ、カラクルさん」
「な、なに?」
「世の中にはもっと素敵な趣味があるんだから……」
ガバッと勢いよくカラクルの被っていた毛布をひっぺがす。
「やめろ……。み、見るな」
長い黒髪に切れ長の瞳、整った顔立ちの東洋系美人だ。雪のように白い肌には照れからか紅が差している。
「身体のほうはどうなのかな……」
「あっ」
彼女はジャージを着ていた。
部屋着ジャージにも関わらず、スタイルの良さの所為か、どことなくスタイリッシュだ。
胸は大きく腰は細いお尻はきゅっと締まっている。まともな精神状態なら芸能界にスカウトされるレベルの逸材だ。
「次回は平凡孔を突かなくちゃならないから練習しておかないと。胸とお尻に秘孔があるんだよね」
「うわわわ、あたしにその趣味はない」
「大丈夫、すぐにネクストドアーは開くわ」
ノンケだって食っちまう未沙はカラクルの胸をまさぐった。
ジャージの上からでも、その柔らかな感触がわかる。わかると言うことは、つまり……。
「ノーブラ……」
「うわあああ! やめろおおお!」
「まさか下も……?」
いくら不精の引き蘢りだからって、いやまさか、流石に下は履いてるはず、いやまず確かめよう……!
未沙の指先が、詳細に描写するとリテイクを食らうゾーン、所謂『Vゾーン』に忍び寄る。
「……ええい、五大人を舐めるなっ!!」
カラクルの目がカッと見開く、その途端、スピーカーから「ドォン!!!」と爆音が飛び出した。
凄まじい音量に部屋の窓ガラスに亀裂が走り、未沙は勿論その場の全員が思わずのけぞった。
「み、耳が……!」
目をぐるぐる回して、未沙はソファーの下に転がり落ちた。
「見たか下劣なメス猫、これが機甲八卦奥義『爆音聴壊殺』だ!」
カラクルは床でぴくぴく身を震わせる未沙をげしげし踏み付けた。
・
・
・
とその時である。
「まったく遊んでる場合ではないでしょうに……」
「なんだお前は……?」
小次郎は部屋に踏み込むなり、耳を押さえる一同をすり抜けて、カラクルに襲いかかった。
「なっ!?」
軍式格闘術であっと言う間に取り押さえ、その首元にスタンガンを突き付けた。
「マフィアはマフィアらしくやっていれば良いものを、中途半端に権力握って首を突っ込むからこうなる……」
「き、貴様……」
「小谷殿」
「え、は、はい?」
「彼女が使っていたPCはまだ残っていますか?」
「ええと、吹き飛ばされてはいないと思う……」
「では押収してください。彼女の行ったテロ行為の重要な証拠になります」
「りょ、了解」
「それから、使用可能なPCや通信機の類いは破壊してください。皆さんの携帯も電池を外して起動出来ない状態に」
一同ははっとする。
「それと、そのスピーカーは破壊したほうがいいですね」
「確かに。またあれを食らったら敵わねーよな」
皐月は槍でスピーカーを叩き落とした。
小次郎は手際よく指示を飛ばし、カラクルの技を無効化していった。
「……さて諸問題の何割りかが片付いたところで、これから彼女には尋問をしなければなりません」
「?」
「彼女次第ですが、場合によっては手荒な手段も必要になるでしょう。それを見せるには相応しくない人もいますし、この先は希望者だけ部屋に残ってください。それ以外の人は外でお待ち下さい。そのほうがお互いのためだと思います」
小次郎は恐ろしく冷たい目を一同に向けた。
彼の言葉の意味するところを察した一同はゴクリと息を飲んだ。
「図に乗るなよ、お前如きの自由になるあたしではない」
「既に周辺の機械類は排除した。通信機器がなければ遠方の機器に繋がることも、応援をよぶことも出来んだろう」
「ふん……しかし近場の機械なら手は届く」
ドオオオオオオオオン!!!
突然、ビルが激しく震えあがった。
前の通りを走っていた大型トラックが進路を変え、ネカフェのビルに突っ込んで来たのだ。
大きく態勢を崩した小次郎をカラクルの長い脚が蹴り上げた。
「がはっ!?」
「これぞ機甲八卦奥義『2トントラック拳』だ、覚えておけ!」
「ま、待て……!」
倒れた彼を踏み越え、カラクルは部屋を飛び出した。
機甲八卦の射程は半径100メートル、通信機器を介すればどこまで射程は伸びるのだ。
「万勇拳め、この屈辱は忘れんぞ! これから道往く車は全て敵だ、せいぜい気を付けるんだなっ!」
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