First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
Next Last
リアクション
【2】開運龍脈風水……1
そして、再び黒楼館。
小次郎からのカラクル・シーカー確保の報せに、愛美たち万勇拳一門は行動を開始する。
目指すは黒楼館最奥にそびえ立つ五重塔。最上階にて龍脈を御するのは、青き炎ゆらめく風水祭壇。
しかし先に黒楼館に接触したのは万勇拳一派ではなかった。
不機嫌顔がトレードマークの魔術師リリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)達だった。
全身黒づくめのガラの悪い門弟たちを素知らぬ顔でスルーし、正門にあるインターフォンをピンポン。
すると、低い男の声で「はいはい、どちら様?」と返ってきた。
「リリなのだ。ジャブラさんにちょっとお話しがあるのだ」
「……はぁ? 何処のバカだ。館主はお前なんぞのために時間を割くことはない。帰れ!」
「……切られたのだ」
けれどめげずにピンポンを連打する。
「リリなのだ」
「うるせぇ! ピンポン連打すんな!」
「お願いなのだ。うちのユノを空京警察の一日署長にしてほしいのだ。駆け出しのアイドルには死活問題なのだよ」
「よろしくお願いするですぅ」
ユリ・アンジートレイニー(ゆり・あんじーとれいにー)はインターフォンに向かってお辞儀した。
一日署長と言えば、夕方のTVニュースも狙える美味しいお仕事。
数ヵ月前に迷い込んで来た一日署長の依頼に快諾したものの、それからまったく警察からは音沙汰なし。
と言うのも当然、バンフーがずっと居座ってたからだが、しびれを切らしてやってくれば、警察は壊滅状態である。
襲撃犯の万勇拳に文句を言いに来たところ、全てが黒楼館の陰謀であると知ったリリ達なのだ。
「ユリが署長を出来るように取り計らってほしいのだ。ジャブラさんは空京の有力者だと噂に聞いたのだよ」
と言うのは建前。リリが仕事を潰した奴をただで済ませるはずがない。
このまま内部に潜入後、警備を無力化させ、あとは万勇拳にとことん暴れさせる作戦だ。
とは言え、なんだか門前払いされかかって気がするが……。
「館主にアイドルの世話なんぞさせられるか! ふざけんな!」
「ユリはいいアイドルなのだ。歌を聴けばわかるのだよ」
そう言うと、ユノ・フェティダ(ゆの・ふぇてぃだ)がラジカセのスイッチを入れた。
曲のタイトルは『コンロン山脈冬景色』。
コンロンの暗い山々を思わせる、いぶし銀な旋律に乗って、ユリはコブシを利かせ歌い出す。
「ユリを気に入ったエライセンセイが作ってくれた曲なのだよ」
「ねー、ユリちゃん凄ーい。染みるぅ」
「染みるぅじゃねーよ! さっきからうるせぇって言ってんだろ!」
門弟たちはボキボキ拳を鳴らし、さっきから緊張感を削いで回るリリたちににじりよる。
「いけません……!」
とその時、物陰(電柱)から様子を窺っていたJJが飛び出した。
作業服に身を包んだ彼は、ガラの悪いお兄さん達を華麗にスルーし、何食わぬ顔でピンポンを押した。
「こんにちはー。JJ工務店です。カソさんに頼まれてた屋根の修繕に来ましたー」
「……出来る!」
同じく物陰(ポリバケツ)に隠れていた愛美は、自然な流れで潜入を試みるJJに思わず唸った。
カソがこっち側にいる以上確認する術はなし。幹部の依頼で来たとあれば、門下生に止める権限はないだろう。
「すごーい! JJさんって頭いい!」
「マジぱねー」
一緒にゴミ箱の中に隠れてるアゲハもさして興味なさそうに賛同した。
ところが、誰もが上手くいくと思ったその策は、誰も想像だにしなかったほころびから崩れてしまったのである。
「……ちょっと待て、お前、ゴリラじゃねぇか!」
「はい?」
門弟たちにどよめきが走る。
「ああ、彫りが深いもので、そういうあだ名を付けられることが多いんですよ」
「彫りが深いとかってレベルじゃねぇぞ!」
「いえいえ。よく似てると言われるんですが、僕はれっきとしたシャンバラ人です」
JJは慌てることなく身分証を見せる。しかしこれが余計に不信を買った。
「この身分証偽造なんじゃないか?」
「だよな、完全にゴリラだもの。獣人とかでなきゃ納得いかねぇ」
「なんだか怪しいぞ、お前!」
「ええ!?」
またまた変な空気になったその時、不意に視界を横切った業火が門弟を薙ぎ払った。
「ハメハメ波……なのだ!」
リリは両の掌を合わせ、そこから火炎波を放つ。
「リリちゃん、それ拳法違う。ファイヤーストームや」
何故か関西弁で突っ込むユノである。
「何しやがる!」
「わわわっ!」
襲いかかる敵をひらりとかわし、ユノはすかさずフラワシを使った空気投げを繰り出す。
「ぬおおおおおっ!?」
「どーんなもんだい! これが必殺の『パラミティアン柔術』……なんちゃって!」
「ヘラクレスとアンタイオスの伝説を知っているか?」
空中を舞う敵に、リリはふと尋ねた。
「大地の加護により地に触れている限り無敵のアンタイオス。ヘラクレスは宙に釣り上げたまま絞め殺したのだ」
「そ、それがなんだってんだ!」
「おそらく、龍脈の加護も同じなのだよ。地から離れ空中にある時、幸運は失われるのだ」
なんちゃって拳法『魔導拳』の構え、からの……ファイヤーストーム、別名『ハメハメ波』。
炎に包まれた敵は「うぎゃあああああ!!」と悲鳴を上げて地面に叩き付けられた。
「思ったとおり、幸運は発動しなかったのだ」
なんだかリリは確信したようだが、龍脈の加護はそんな単純なものではない。
ならここでの幸運は何かと言うと、対峙した相手がまだリリで良かったということである。
正式に万勇拳で修行を積んだ武闘派連中と出会っていたら、こんなものでは済まなかっただろう、きっと。
「……と言うか、潜入作戦はもういいんですかぁ?」
「予定では未定であって決定ではないのだ。向こうが入れてくれないなら、もうここでひと暴れしてやるのだよ」
「ええと、計画失敗ということですぅ?」
「うるさいのだ。ユリも必殺の『天然離心流』を連中にお見舞いしてやるのだ」
「なんです、それ? そんなの知らないですよぉ?」
「つまづいて攻撃を避け、適当に振り回した手が急所を突く、酔拳を凌駕する天然ボケのみが使える奥義なのだ」
別名、いつものドジなユリとも言う。
「……ねぇ、アゲハさん。余計めんどくさいことになったような気がしない?」
「マジやべー」
ポリバケツの中で、愛美とアゲハは顔を見合わせる。
「あ、でも今がチャンスかも! 正門前に人が集まってきたから、別の場所の警備が手薄になってるよ、これ!」
「……よーし、んじゃマジでボコりに行くか」
蓋を開けると、押し込んでいた天を突くアゲハの髪がぴょいんと空京の空に現れた。
First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
Next Last