百合園女学院へ

薔薇の学舎

校長室

波羅蜜多実業高等学校へ

インベーダー・フロム・XXX(第3回/全3回)

リアクション公開中!

インベーダー・フロム・XXX(第3回/全3回)

リアクション


【1】SKY【3】


『風紀委員のマイア・コロチナです。この特殊空間の詳細は別途データを送りますが、とにかく……魔法少女以外の人間はここではまともに行動出来ません。積極的な戦闘は控えて、防御陣形を維持、援護に専念してください』
 フレスヴェルグのバックアップを担当するマイア・コロチナ(まいあ・ころちな)は、通信回線を開き友軍機に呼びかけた。劣勢に立たされていたイコン隊は、彼女の提言に従って仲間と陣形を組み、最前線から撤退する。
「これで連中もそう易々と落とされることはないだろ……」
 メインパイロットの斎賀 昌毅(さいが・まさき)は機体を加速させ、撤退する仲間と入れ替わりに前線に出た。
 スロットルレバーを握りしめる彼は、シルクハットにタキシード&マント、アブノーマルなアイマスク、胸元には薔薇。紳士なのか変質者なのか、判断に困る出で立ちだが心配ご無用。下半身はスカートなので、迷う事無く後者である。魔法少女仮契約書で変身している以上、魔法少女にはなれても紳士にはなれないのだ。
「どうせモニターに映っても上だけだからいいんだよ!」
「もはや魔法少女ですらない気がしますけど……」
 マイアは苦笑した。彼女はセーラー服風の衣装に、お団子から伸びるツインテール、どこかで見たような美少女戦士風の魔法少女に変身していた。
「……ったく、女子ばっか優遇しやがって。お前は似合っていいよな」
「えへへ、実はこういう格好憧れてたんです」
「マスコットにでもなっとけば良かったかな……。額に三日月の印のある黒猫とか……」
 目標を射程に捉え、昌毅はビームアサルトライフルで弾幕を張る。
「昌毅、そのまま牽制しながら、南東を背に敵を誘導して下さい」
「南東? 海側にか?」
「ええ、フランチェスカが、都市部から敵を引き離そうとしています。ボクたちも協力しましょう」
「そいつは卓見だ。街中でドンパチやらかしたら、取り残された街の連中を巻き込んじまうからな」
 マイアは再び友軍機に通信を送る。
『友軍機に通達。都市部での戦闘を避け、南東部に移動をお願いします。海側に戦線を展開して、ガーディアンを迎え撃ちましょう』
 その時、前方のガーディアンの熱量の異常な増大をセンサーが感知した。
「昌毅!」
「例の熱線砲……”メギドファイア”ってヤツか!」
 昌毅はブースターを全開にして、フレスヴェルグを上昇させた。距離を考えれば回避は余裕だが、最悪なのは都市に熱線が直撃してしまうことだ。
「あれだけは街に直撃させるわけにはいかねぇ」
 下方から、獲物を追ってガーディアンの群れが上がってきた。大気を焼き尽くして放たれるメギドファイアをサイドブースターを小刻みに噴射し、器用に回避する。しかし熱線は断続的に真下から飛んでくる。
「熱烈歓迎だな……!」
 モニターに表示される熱線砲の予測軌道と、イコン乗りの直感を頼りに、フレスヴェルグは灼熱する空を縦横無尽に飛び回る。
「マイア、エネルギー消費量には気をつけろよ。今回は戦闘継続時間を伸ばすのが肝になる。途中でへたってる間に海京が無くなっちまうからな」
「了解です。こちらは気にせず、回避に専念して下さい」
 際どい角度の攻撃は氷の盾と二式(レプリカ)で、直撃から身を守る。かする程度に受けた熱線でも、盾も剣も融解し、せいぜい熱風から機体を冷却するので精一杯だった。
「ぐ……っ!」
「氷の盾及び二式ロスト。機体温度上昇。次にかすったら装甲が蒸発します」
「かすっただけで致命傷か……!」
 戦慄するとともに、昌毅の身に烈火の如く闘志が宿る。
「逃げ回ってるだけじゃジリ貧だ!」
 バスターライフルを眼下のガーディアンに向ける。
「マイア、照準の補正を頼む!」
「任せて下さい!」
 外せば街に直撃する。誤差を極限まで修正し、目標にロックオンサイトを重ねた。
「やられっぱなしは性に合わないんでな」
「涅槃にかわってお仕置きです」
 銃口から伸びる一条の閃光がガーディアンを爆散させた。
「続いて、目標2、目標3を狙う!」
 精密射撃を徹底しているため、一度の攻撃に時間を要するが、それでも着実に目標を仕留めていった。

「戦力を隠し持ってるのは予想してたが、どこに隠してやがった、あの狂信が……!」
 刃金のパイロット柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)は忌々しそうに言う。
「信者だけを救って自作自演の奇跡の演出か? はっ、そいつで確固たる信仰を得ようなんざ見え透いた三文芝居なんだよ。ああ、反吐が出る。だから宗教は嫌いなんだ」
「あまり熱くなるなよ恭也、悪い癖だ」
 後座に座る柊 唯依(ひいらぎ・ゆい)は、嫌悪を剥き出しにする恭也を諌めた。
「こんなふざけた真似されて、熱くなるなってほうが無理な話だろ」
「……恭也、なんなら頭に風穴開けて涼しくしてやるぞ?」
「うっ」
 唯依は銃口を彼の後頭部に突き付けた。
「……OKお姉様、落ち着いたからその殺気と七曜銃を引っ込めてくれ」
「ならいい」
 そう言うと、仮契約書の力で纏った、フリフリの魔法少女衣装の胸元に銃を収めた。
「……と、出てきやがったな」
 前方に、ガーディアンの一団を捉えた。敵は全て第一形態、どうもこちらのイコン隊と積極的に戦闘を展開しているのは第一形態だけのようだ。
 第二形態は奥のゴールドノア周辺に陣を張り、そこから移動する気配を見せない。時たま陣を離れるのも、通りがかった都市の主要施設を破壊するに留めている。
「来る……!」
 センサーが危険を告げる警告音を発する。
「恭也、目標1、目標2、こちらを指向している。メギドファイアが来るぞ」
「早速、伝家の宝刀を出してきたか。いいぜ、来いよ……一泡吹かせてやるぜ!」
 一撃目を回避すると同時に、スラスターで調整し、射撃の攻撃角度を確保する。
「何をしている、すぐに目標2の熱線が飛んでくるぞ!」
「何って、見りゃわかんだろ、攻撃だよ、攻撃」
 刃金のウィッチクラフトキャノンが目標2を指向する。
「メギドファイアは脅威だが、チャージに時間がかかる上に発射時の隙も大きい。逆に考えれば、攻撃の最大のチャンスだ。エネルギーを集中してる口ん中に一発叩き込めば有効打になるかもしれねぇ」
「無茶なことを。通用しなければこちらが直撃を食らうぞ」
「通用すりゃ問題ない」
「あ、あのなぁ……」
 勇気を通り越して無謀の域に達しつつある義弟に、唯依は絶句してしまった。
「それに賭けってのは、分が悪い程当たった時の喜びがでかいもんだろ!」
 爆音を上げて発射された魔法弾は、エネルギーを収束させていたガーディアンの口腔部を直撃した。熱線のエネルギーが行き場を失い、ガーディアンの上半身を吹き飛ばす。
 更に爆発は傍にいたもう一体を巻き込み、致命的なダメージを与えるのに成功した。
「博打の見返りは思いのほかでかかったな……ん?」
 後頭部に何か冷たいものが当たった。
「お、お前と言う奴は……!」
「うお、銃はしまえって!」
「博打に姉を巻き込むな!」
 再びコクピットに警告音が鳴り響く。唯依は舌打ちをして、銃を下ろした。
「頭の風通しをよくするのは、戦闘終了まで待ってやる!」
「俺に生き残りエンドはねーの?」
 第二陣も同様に、メギドファイア発射直前に掣肘を加え、突破。そのまま、友軍機が集結しつつある南東部に、敵の一団を突っ切って合流する。
『状況はどうなってる?』
 するとモニターにフランが映し出された。
『友軍機の移動はほぼ完了、海側に戦線を張ることに成功しました。しかしこちらに誘導出来たのは、まだ敵全体の四分の一ほどです』
 ウインドウが開き、昌毅が映し出される。
『何度か第二形態を挑発して、誘ってみたがこっちに誘き寄せるのは厳しそうだ。知能の低い第一形態は企図に気付かねぇが、第二形態には警戒されちまってる』
『とは言え、これ以上誘い込んだ場合、戦線の維持が難しくなるぞ?』
 ハーティオンが懸念を示す。
『……ま、とりあえずは目の前の問題だ』
 恭也は迫り来るガーディアンの群れに視線を送った。
 四分の一と言えど、まともに戦闘の出来る機体が四機しかいない状況では、戦闘は苛烈を極めるだろう。戦いはまだ始まったばかりである。