リアクション
◇ ◇ ◇ イデアは何処にいるのか。 イルヴリーヒが騎士を率い、ルーナサズ周辺を捜索するが、中々見つからない。 遅れて合流した小鳥遊美羽が、イデアの居場所について聞き回り、突き止めようと探す他は、契約者達は、イデアが現れるのを待っていた。 「後手に回ることになりそうだな……」 弟からの連絡は無い。 ルーナサズの城、街や龍王の卵を望む城壁の上で、ち、とイルダーナは舌打つ。 今回は、イデアはわざわざ姿を見せてから龍王の卵を攻撃するような真似はしないだろう。最早囮の必要も無い。 「卵を割る際には、姿を現すのでは?」 アマデウスが、イルダーナと同じ城壁の上から、龍王の卵を見つめる。 卵の上で待とうかとも思ったが、やめておけ、とイルダーナが言って、共に此処にいた。 「どうだかな。 現すとしたら、卵を割ってからじゃないかと俺は思うが」 「そうですわね……」 アマデウスは周囲の光景を見渡す。 結局、自分の世界を護ることはできなかった。 自分の行動は、全て間違っていたのだろう。 今度は正しい選択をしたい。ここが、自分の存在すべきではない見知らぬ世界だとしても、今度こそ護りたい。 「わたくしに、何ができるでしょうか」 「さあな」 イルダーナは、そっけなく言う。 「……人生など、間違いばかりだ。いつも、いつも」 二度と間違えない。そう思って、二度と間違えなかった者などいない。 ええ、と、アマデウスは苦笑した。 「……そうですわね」 そして。 来た、とイルダーナは呟いた。素早く指で宙に十字を描く。 「永劫交わることなき天空と地の偉大な王よ」 側にいたエメ・シェンノートは、はっと上空を見た。 光の塊――巨大な魔力の塊が、上空から降って来る。 あんなものが叩きつけられたら、卵はおろか、断崖を中心に、ルーナサズの街など丸ごと巻き込まれてこの一帯はクレーターになってしまう、と、ぞっとしてイルダーナを見た。 「我が前にて互いの手を取り不破の盾と成せ!」 龍王の卵の上に、トゥレンが『書』を手に立っていた。 上空の魔力を感じ、『書』を開く。 噴き上がる魔力の塊が、上空で落下してくる魔力の塊と激突した。 恐ろしい反動が周囲へ弾け、衝撃波が広がり、ルーナサズの上空を覆う、イルダーナの魔法防御の上を滑る。 圧風に身体を支えられず、エメとアマデウスは身を低くして、何とかその場に留まった。 息も出来ない、押し潰されるようなプレッシャーがやがて薄まり、鬼院尋人は顔を上げた。 トゥレンがうずくまっている。慌てて駆け寄った。 「トゥレン!」 近くに『書』が無い。使い果たして消滅したか。 「大丈夫か、トゥレン!?」 「うー、頭痛ぇ……。ちょっと休ませて」 元に戻っている。尋人はほっと安堵し、卵岩から周囲を見渡した。 イルダーナの防御外にある森が一部なくなっているが、街は無事のようだ。 「よかった……」 とりあえず、守りきった。 一方、この一連の事件に最初から関わってきたリンネに、何らかの形で決着をつけさせてあげたい、と博季・アシュリング(ひろき・あしゅりんぐ)は思っていた。 「行きましょう、リンネさん。 この世界を護る為に、イデアを止めなくては」 リンネと、リンネの存在するこの世界を愛している。 世界に息づく、全ての美しいもの、そして何よりもリンネを護る為に。 「うんっ」 差し伸べられた手を、リンネは取る。そして、あのね、と考えていたことを言った。 「ウラノスドラゴンを召還させるには、フラガラッハが必要なわけだよね。 つまり、杖を取り戻せば、召還できない、ってことだよね。 イデアが『書』も持ってフラガラッハも持ってる、ってことは無いと思うんだ。 きっと違う仲間が持ってるんじゃないかなって」 成程、『書』とフラガラッハは別の人間が別行動で持っている可能性が高い。 前にフラガラッハで龍を召喚して来たのも、イデアとは別の者だった。 「恐らく、杖の防衛は厳しいと思いますよ」 「でも、取り戻さなきゃ! 誰もできないなら、リンネちゃんがやるよ!」 「手伝います。リンネさんならできますよ」 活躍したい、そう思うのは、役に立ちたい、と思うことだ。 そう思うリンネを、博季は手伝いたいと思っていた。 そして、そんな彼女を護るのは、自分の義務だ。 魔術師は数人の戦士と共に潜んでいたが、リンネの作戦を知ったイルダーナが地図を開き、何ヶ所かの位置を見当付けたそのひとつで発見した。 博季はあえて大技を仕掛け、魔術師に攻撃する。 そして迎え撃つ魔術師の背後から、リンネが飛び掛かった。 戦士達には構わず、まっすぐ魔術師に突っ込む。魔術師はすかさず杖を向けた。 「させません!」 そこへ、更に博季が後方から攻め込む。 はっとした魔術師の隙をついて、リンネが杖を掴んだ。 「おのれっ……」 「きゃあっ……」 既に魔力が発動されようとしていた杖に触れ、リンネの身体に反動が来た。 強い魔力だ。杖を離せば暴発しかねない、そう思い、リンネはしっかりと杖を掴む。 「リンネさん!」 魔術師を押さえ込みながら、博季が叫んだ。 リンネはその声に博季を見たが、杖を両手で抱えて離そうとはしなかった。 「うううーっ!」 その背後から、誰かがリンネを抱え込む。 杖を握る手にびくりとしたが、その手はリンネの手を包み込んだ。 「魔力を抑えつけないで。受け流して解放するんです。上へ」 イルヴリーヒの言葉に従って、リンネは杖の魔力を解放する。 負荷がなくなり、ほっと座り込んだ。 「見事です」 イルヴリーヒは微笑んで、駆け寄る博季に場所を譲る。 「大丈夫ですか」 「うん。ちょっと立てないけど、ヘーキ。ありがと、博季くん」 リンネは博季に満面の笑みで礼を言った。 「あ、これ。取り戻したよ!」 そして握り締めていた杖を、にっこり笑ってイルヴリーヒに渡した。 |
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