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【光へ続く点と線】遥か古代に罪は降りて (第1回/全3回)

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【光へ続く点と線】遥か古代に罪は降りて (第1回/全3回)

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パラ実校舎の運命2

 校舎内、以前コアのあった場所には、繊細で透明な6枚の羽を持ち、スズメバチに似た姿の生き物が鎮座していた。脚の数は8本、頭部に目が3つあり、口はカマキリのそれと似ている。皆が入っていくと、実験体は体を回してこちらを向いた。細い触角がかすかに震えたが、実験体から敵意は全く感じられない。武尊が念のため、3個ある目を見据えてエンド・オブ・ウォーズを発動させたが、特に変化は見られない。
「どうしても動きを止める事や制御が無理の場合は覚醒光条兵器で実験体をぶった斬るしか無いだろう。
 実験体の同化機能のみをぶった斬り、巨大イレイザーとの同化を解除する事が出来るか、試してみる」
「まあ、そこは最終手段として……平和的な接触を試みてみるのが先だろうな。
 名前……を考えてきたんだが……『リキュール』とか『ステラマリス』ってイメージでもないな……」
ジャジラッドが言った。
「やっぱりまず試すのは……食べるもの……だね」
菊が言い、ワゴンから非加工品から食事まで、さまざまな段階の穀類と魚介類をずらりと並べる。横に精製エチルアルコールの入ったビーカーも置いてみる。
「どうだ?!」
実験体スポーンは興味を持った様子だった。触角を震わせ、皿を検分すると、何故かクッキーの皿に前足を伸ばし、抱え込んだ。大あごでポリポリとクッキーをおとなしく食べている。
「菓子に行ったか……」
「だが、いい感触じゃないか?」
ジャジラッドが言って、声をかける。
「お前を遺跡から拾い上げてここに持ち帰ったのはオレだ、わかるか? いわば親も同然だ。
 バンシーのねぐらに帰りなさい! ……お父さんだよ! 」
最後の一言にはかなりムリした気配が漂っている。実験体はかすかにいぶかるような様子を見せた。話の内容まではわからないようだが、聞き取ろうという姿勢は見える。シーリルがこわごわ近寄り、ヒプノシスによる催眠と使役のペンでの命令―『停止』と『バンシーの塒への帰還』―を実行してみるが、前足で逆にペシペシと体に触れられ、首を傾げられただけだった。アブソービンググラブでそっと触れてのエネルギー吸収も試みてみたが、寒気を感じたように実験体がぶるっと体を振るわせたので、すぐに手を離した。せっかく友好的な反応を示しているのに、トラブルがあってはまずい。代わってサルガタナスが話しかけてみる。
「ここを破壊しようとする者達が乗り込んでくる可能性もわずかながらあるわ。
 何か安全を得たいのなら……校舎を迷宮化してはどうかしら?」
破壊と言う言葉に対し、実験体はかすかな反応を示した。シーリルはテレパシーで武尊に経緯を伝えて、アクリトに実験体に敵意は全くなさそうなこと、なにかヒントをもらえないかの2点を頼んだ。

 校舎外部ではハーティオンがまだ必死で……といっても覚醒の力は当に消えているので、人形のように校舎に引きずられている感じであったが――進路を変えようとしていた。リアのシュッツァーは校舎の前方にあの瘴気を放つイコンがいるのを確認した。
「あれがアイールに到達してはまずい。何とかして止めなくては」
董 蓮華(ただす・れんげ)紅龍で瘴気を放つイコンと校舎を結ぶ線上に立った。スティンガー・ホーク(すてぃんがー・ほーく)の傭兵団ともども3機編隊を組み、アイールの街の方からゴーストイコンを迎撃してきていたのである。
「あのどす黒い瘴気は……何?!」
レムテネルから通信が入る。
「あれが例の謎のイコンだ。先ほど覚醒での攻撃を試みた部隊がいたが、かすり傷程度しか追わなかったらしい」
「つまり……アレを何とかしなきゃ街がやられちゃうって事なんだわね。
 街もヒトガタもアクリト達も守らなきゃ!」
叫ぶや否や、全速力で突っ込み、瘴気を放つイコンの脚や腕を狙う。だが身軽に避けられてしまう。シュッツァーもミサイルポッドで援護射撃を行うが、ダメージはない。
「これはもう……最終手段でヴィサルガを使うしかないよね」
蓮華が言った。上空を猛スピードで飛んできた一機の迷彩UFOが、パラ実の校舎に吸い込まれる。武尊が戻ってきたのだ。全速力で実験体の元へ走る。アクリトの仮説では、他のスポーンたちと隔離されていたため、実験体にははっきりした秩序だった思考がまだなく、子供のような状態なのではということだった。なるべく簡単な言葉、あるいはイメージで、生物の原始的な感性に訴えかけてみるしかないのでは、と。
「うまく行ってくれよ!」
手早く皆にそのことを説明し、実験体に向かってテレパシーで話しかける。
『まっすぐはキケンだ、曲がれ!』
かすかなイメージのような思念が届く。
『キケン?』
『そうだ、危ない』
『向こう……ナカマ……気配……帰る』
強い意思が感じられる思念が帰ってくる。ジャジラッドが声に出して言う。
『まっすぐは、危ない!』
その場にいた全員が思考と言葉で同時に唱和する。
「まっすぐは、危ない!」
実験体の触覚が震えた。しばし考え込む様子を見せるが、その間にも校舎の前進は止まらない。外部の蓮華が前進する校舎を見据えて言う。
「校舎内でパラ実の人がなんかやってるみたいだけど……逃げてくれるよね」
ホークが言う。
「彼らはお前よりよっぽど強い」
「でも……パラ実の皆はこれからどうしたら?」
「その為に創世学園があるだろ」
「でもでも……」
「このまま直進すれば街も危ない。瘴気を放つイコンはここでなんとしてでも食い止めなきゃならん」
「……ですよね! なら遠慮しない!」
コックピットを開きヴィサルガでクジラギフトを召喚する。クジラギフトのエネルギー砲の一撃のすさまじさは以前の戦闘でも証明済みだ。
「消えろお!」
 そのときだった。アクリトの見守る目の前で、ヒトガタが強烈な白熱光を放った。光はヒトガタから放たれ、壁を透過してまっすぐにパラ実校舎のほうへと飛んでいく。光は巨大イレイザーを包み込んだ。シュッツァーが大型荷電粒子砲を瘴気を放つイコンめがけてフルパワーで撃ちこむ。クジラ形ギフトが空間を割って現れ、砲撃準備に入る。砲口に光の粒子が集まり、どんどん膨らんでゆく。ビームの発射口はまっすぐに瘴気を放つイコンと、パラ実の校舎へ向いている。クジラ型ギフトが砲撃を放った。瘴気を放つイコンは素早く飛びのき、そのままどこかへ飛び去る。ビームはまっすぐにパラ実校舎を飲み込んだ。
だが、ヒトガタから放たれた光に包み込まれ、巨大イレイザーはその砲撃のエネルギーを全て吸収した。
「なんだ……あれ」
リアが呻くようにいう。光の幕が消えたとき、校舎は停止していた。そしてゆっくりと向きを変え、町のないエリアへと向かって行った。アイールの危機は回避されたのである。ジャジラッドからアクリトに向けて、実験体がアイールの町を迂回したこと、どうやら『ナカマ』の元へパラ実校舎もろとも行こうとしているらしいこと、概して非常に友好的であることなどを伝え、事態は終息した。コア・ハーティオンが叫んだ。
「パラ実校舎の進路変更に成功!! 『激闘!パラ実校舎を守れ!の巻』 完!!」
進路変更を決意したのは実験体なのだが、この際まあ、いいのだろう。