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第5章 Cibola
 
 
「……成る程、規模が広がっている……」
 龍頭事件の現場、『シボラの大穴』を確認に来た紫月 唯斗(しづき・ゆいと)は、高台から『大穴』を望んで表情を暗くした。
 龍頭事件の時は、唯斗も参戦し、戦った。
 その影響は確認しなくてはと思い、来てみたのだが。
 ふと見ると、『大穴』を下降して行こうとする者達がいる。
 成る程大胆なことをする、と思いながらも、唯斗は彼等を見送った。



「瘴気は、今も残っているみたいだな……」
 龍頭の事件跡、『シボラの大穴』の様子を探って、セルマ・アリス(せるま・ありす)は呟いた。
 カナンに避難、保護された人々は、いつこの土地に帰って来れるだろうか。
 或いは永遠にこの土地を手放さなくてはならないのだろうか。
 それを見極め、出来れば問題を解決して、故郷に帰してあげたい、そう思う。
「脳天潰しがうまくいかなかったからなのかな?」
 パートナーのミリィ・アメアラ(みりぃ・あめあら)はそんなことを呟きながら、風の翼を作り出すセルマを見る。
「ルーマ、気をつけてね」
 セルマは頷いた。
「サポートをよろしく頼む」

「あの後も異変が収まらないってどうにも不思議だよな」
 十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)は、聖邪龍ケイオスブレードドラゴンに乗り込みながら言う。
 パートナーのリイム・クローバー(りいむ・くろーばー)はスレイプニル。
 上空から『大穴』を調べるつもりでいる。

「おめえら! そこは危険だぜぇ!
 ん? 何だ、シャンバラの契約者か?」
 声がした方を見て、セルマは驚いた。
「アテムさん……!」
 シボラの国家神アテムが、肩で風を切って歩いて来る。
「『大穴』の調査か? 悪ぃな。まだまだ不安定でよ」
「まだ、何かが起きるのか?」
 宵一の問いに、アテムは首を横に振る。
「解らねえ。わしも注意して見てはいるんじゃがな。『大穴』に降りる気か?」
「いや、流石にそこまでは……」
 宵一は言いかけたが、セルマは頷いた。
「そのつもりです。瘴気の影響などは大丈夫でしょうか」
「うーん、ナラカまで降りるとかじゃなけりゃ、まあ大丈夫じゃろ」
 そう言って、まあ念の為、とアテムはばしんとセルマの背中を叩いた。
「加護をつけてやる。
 だが中から『穴』が見えなくなる程深くは降りんじゃねえぜ。出口が解らなくて帰って来れなくなるからな!」
「ありがとうございます」
 礼を言い、セルマは『大穴』の中へ降りて行く。


 ナラカから上がって来たのだろうか、微妙な浮力のある空間のそこかしこに、魔物の徘徊しているのが見える。
 だが、今回の異変に関するものは見つからない……と思っていると、不意にぞくりと全身が粟立つような気配を感じた。
「何だ!?」
 下だ。セルマはじっと目を凝らす。
 何かが、ものすごいスピードで上がって来る。
「ドラゴン……!」
 それは巨大な龍だった。
 異形の魔物ばかりが漂う空間で、圧倒的な異彩を放っている。
 周囲のものなど何も目に入らないような勢いで龍は上昇し、セルマの至近距離を通り過ぎて行く。
「ミリィ!」
 セルマは慌てて、地上のミリィへ連絡した。

 『大穴』から何かが出て来る。
 連絡を受けて、宵一はデジタル一眼POSSIBLEを構えた。
 ゴウッと風が吹き抜けて、巨大な龍が飛び出す。
「な、何だあっ!?」
 風圧に飛ばされながらも、宵一は夢中でシャッターを切る。
 龍は全く失速することなく、そのまま何処かへ飛び去った。

 暫くして、セルマが戻って来る。
「ドラゴンは?」
「飛んでっちゃった」
 ミリィの言葉に、息を吐く。安堵半分、落胆半分という感じだ。
「何というか、只者じゃない感じだったが……」
 言いながら、宵一はふと、首を傾げる。
 何しろ一瞬の出来事だったので、よく解らなかったのだが。
「何か、変でしたね。うまく言えませんが……」
 同じ違和感を感じたのだろう、セルマも彼に言う。
「そう……何というか、ものすごく出来のいい、CGみたいな感じがした……」
「ううむ……あっという間だったんでわしもちらりとしか見えなかったが……あれは……」
 アテムが唸っている。
 宵一は、龍を撮影したカメラを見せた。
「一枚幾らで買い取ってくれるか?」