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リアクション
【鏡の国の戦争・決戦前夜】
【鏡の国の戦争・決戦1】
「降下完了した、これより任務に入る」
ジェイコブ・バウアー(じぇいこぶ・ばうあー)とフィリシア・バウアー(ふぃりしあ・ばうあー)の二人は、単身敵勢力化にパラシュートで降下を完了し、強行偵察活動を開始した。
彼らの頭上では、大型飛行要塞がゆっくりと飛び、随伴するイコンの影が見える。既に砲火が放たれ、戦いの臭いが鼻をくすぐる。
「まずは第一関門突破ですわね」
「待ち構えてるのが扉なら、ノックして開けてもらえばいいのさ。行くぞ」
先日、突貫工事で作られた堰にオリジンから持ち込んだ三つの野戦築城、ヴィーキング、ニーベルンゲン、1月30日を配備し、さらに戦場で機動力を失いつつも、引き金ぐらいは引ける損傷したイコンを溝に配備された。
十分な火力と防御力を持ったこの要塞は、たった一晩で用意された一夜城である。
「熱源確認、要塞外周部防衛部隊は衝撃に注意しろ」
ギュンター・ビュッヘル(ぎゅんたー・びゅっへる)のニーベルゲンが、敵の攻撃を察知する。軌道、速度から推測するに、小型のロケットだ。
ロケットは速度を増し、ニーベルゲン、ヴィーキングの両要塞に直撃する。
「そんなちゃちな攻撃が効くかってんだよ」
表面装甲が僅かに焦げた程度で、どちらも大したダメージは無かった。戦車の正面装甲すら抜くのに苦労するような武器で、野戦築城が抜けるわけがないのだ。
「発射地点が絞れましたな……では、本物の火砲というものをお見せしてさしあげるでおじゃる」
藤原 時平(ふじわらの・ときひら)は的を大まかに決め、ヴィーキングの要塞砲による砲撃を開始した。砲弾は予定の地点に着弾、周囲の瓦礫を巻き上げて巨大な埃の柱を立てる。
砲弾が着弾してすぐ、別の地点から先ほどと同じ小型のロケットが飛び出してきた。ロケットは先ほどと別の地点の装甲を炙る。
「ちょこまかと、狙いは正確である必要はありません、第二射、撃ちなさい」
再び地面が巻き上げられる大爆発。だが、またしても同じ小粒の攻撃が別の地点から行われる。
「いつまでこんな蚊の刺すような真似を、第三射準備」
「少々お待ちを、今から地上部隊が調査に向かいますので」
同型要塞を指揮するアルフレート・ブッセ(あるふれーと・ぶっせ)の言葉に、時平は次の砲撃を取りやめた。
「よろしい、では報告を待つとしましょうか。要塞砲の弾は蚊を潰すには惜しい代物でありますからなぁ」
「そこ!」
ビルの窓に映った影に向かって、マリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)はシューティングスター☆彡を放った。もともと割れていたガラスの残りが砕け散る。内部でこそこそしていた何者かの姿が、一瞬なれどはっきり見えた。
「恐らく、標準機を持っているはずです。排除できれば、ロケットによる攻撃は不可能になるでしょう」
水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)は部隊を回り込ませつつ、自らはマリエッタと共にその背中を追った。斜めになったビルの側面を駆け上がると、シューティングスター☆彡で割った窓の反対側からワーウルフが一頭飛び出すのが確認できた。
「今度こそ!」
マリエッタのシューティングスター☆彡がワーウルフの足元のかつての塀を貫き、周囲を巻き込んで崩す。それにワーウルフも巻き込まれて、瓦礫と共に落下していく。
「追います」
助走をつけて飛び、瓦礫の散乱する地面に着地する。二人に銃声が聞こえてくる。先ほど回り込ませた隊だろう。
音を頼りにそちらへ向かうと、丁度ワーウルフはこちらに背中を向けていた。二人の足音に気付き、ワーウルフは振り返る。
「今度は外さないわ」
神の目の強烈な閃光がワーウルフの足を止めた。続けざまに天のいかづちが放たれる。魔力のこもった電撃はワーウルフの全身をくまなく破壊し、見た目はほぼそのまま絶命させた。
「あれ、強すぎたかな?」
マリエッタの横を抜けて、ゆかりはワーウルフの死体を検める。すぐに標準機を発見し、このワーウルフが先ほどのロケット砲のスポッターを努めていたのが確認された。
「カーリー?」
「恐らくらく、少数の部隊で我々を霍乱するのが目的の行動でしょうね。問題は、そうする必然性ですが」
「もしかして、あたし達を無視して千代田基地に行くつもりなの?」
「そのような動きであれば、敵地偵察の任についたジェイコブ曹長から何らかの報告があるはずですが、不可解ですね」
「それがそんなに不可解な理由じゃないかもしれませんわよ」
会話に割り込む通信の声の主は、アフィーナ・エリノス(あふぃーな・えりのす)のものだ。
「どういう事ですか?」
「さっき、連絡がありましたの。詳しくは戻ってから確認してもらいたいのですが―――」
戦車は通常、複数の人間が乗車して動かす。その数は多くは無いが、その間での情報交換に僅かな時間を必要とする。
だが、怪物化した戦車はその僅かな時間を省き、一個の意思で主砲を、機銃を、移動を判断し、行動に移す事ができる。情報の伝達ミスが発生しないのは確かに利点かもしれない。
「たった一つの目と頭だけしなかいのなら、陽動も容易いものだ」
ホーエンシュタウフェンに身を包んだハインリヒ・ヴェーゼル(はいんりひ・う゛ぇーぜる)は戦車の真上から飛び込んだ。崩れたビルから飛び出したのだ。
戦車は逃げようとするが、部下の対物ライフルが履帯を切り裂いており、その場で無様に回転する。
鈍い音を立てて、戦車の上に飛び乗ったハインリヒはハッチを掴んだ。開かせまいという力を感じるが、それを力でねじ伏せ引き千切った。
「装甲がいくら硬くても、内側からの攻撃には耐えられまい」
引き千切ったハッチを投げ捨てながら、ハインリヒは離れるために高く後方に飛んだ。手にはパンツァーファウスト、放たれた弾頭は吸い込まれるようにハッチの内側へと滑り込む。
くぐもった爆発音は、それでも相応の音量で周囲に拡散した。
戦車の正面、瓦礫の山を一つ挟んだゴブリンの部隊に届いたのは、何の不思議もない。
「戦車の撃破を確認しましたわ。みなさん、もう我慢は必要ありませんわ」
装甲兵員輸送車から、指揮下の歩兵部隊にクリストバル ヴァリア(くりすとばる・う゛ぁりあ)に戦車撃破の報が飛ぶ。ゴブリンの足止めに徹していた歩兵部隊は、攻勢に転じた。一方のゴブリン隊は、さきほどの爆発に何か嫌な予感を感じ取ったのか、動きが鈍い。
瞬く間に勝敗が決する。だが、息つく間もなく、飛鳥の声が各班に届く。
「何かが近づいてきてますわ。この速度、戦車ではありませんわね。恐らく装甲車ですわ。数は、二、迎撃準備をお願いしますわ」
「了解した」
「あ、はい、わかりましたわ。すみません。先ほどの迎撃指示は撤回しますわ。各隊一度こちらに戻り、補給を受けてください」
「どうした?」
ハインリヒの問いに答えたのは、頭上を通り過ぎていく焔虎のバズーカの弾頭四つが答えた。
「あれは……」
真っ直ぐ目標に向かったバズーカの弾頭は、レーダーに映っていた表示をあっさりとかき消した。
「こちら、イコン支援部隊、指揮官マーゼン・クロッシュナー(まーぜん・くろっしゅなー)。これより貴公の部隊の前進援護を行う。と、こんな感じでよろしいですかな?」
「援護は助かるが、クロッシュナー隊はもっと後方に配置されてるはずではなかったか?」
「それについては、あたしが説明するね」
黒岩 飛鳥(くろいわ・あすか)の声。
「後方の守りは、三つの要塞で十分可能って判断に落ち着いたの」
三機の野戦築城の火力と装甲は確かに頼もしいが、身動きの取り難い彼らに守りの全てを任せるという判断は、大胆な判断だ。
「現状、敵のイコン相当大型怪物が千代田基地に接近するのは難しくって、地上の機械化歩兵部隊のよる攻撃が中心戦力みたい」
「そうだな、戦車と装甲車は見かけたが、それ以上は見ていない」
「地上歩兵部隊の足を止めるなら、単なる砲撃よりもイコンそのものを見せた方が威圧感もでますしね。それに、前に出るといっても、最前線まで駆けつけるわけではありません」
「了解した。このまま遊撃を行いつつ、敵を誘導するんだな」
このまま防衛を強化するべきか、あるいは此方から出向き短期決戦を臨むか。
一晩のうちに行われた作戦会議は、この二つの主張のどちらを選ぶかに集約された。多くの人はこれから起こる事がわからず、予測する以外の手段が無い以上、正しいか否かは結果を見るほか無い。
「戦い方が、昨日と全く違うわね」
島本 優子(しまもと・ゆうこ)が知るダエーヴァの戦術は、大型怪物を持って押して押して押しまくる、という単調なものだ。そして、先日の戦いはそれで完全に押し切られた。結果、歩兵部隊は敵の主力歩兵部隊とぶつかる事なく、イコンのパイロットの救出や撤退支援に明け暮れていた。
だが一晩明けて、大型怪物による突撃はまだなく、その姿も後方では確認できないが、十から三十程度の戦車や装甲車を中心とした歩兵部隊が、要塞を迂回して千代田基地へ向かおうと行動している。
「奇妙ね、私達が要塞化を進めている事は向こうもわかっていたとは思うけど、それにしたって……」
「最初の砲撃で及び腰になってしまったのかしらね?」
島津 ヴァルナ(しまづ・う゛ぁるな)は指揮下の部隊に移動指示を出しながら、そう呟いた。
「最前線の部隊では交戦報告がある。戦力を出し惜しむような指揮官ではないはずなのは解せんが、変化があれば何か報告は届くだろう。それより今は、敵地上部隊を先に片付ける」
「了解」
クレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)の通信にそう答えて、ヴァルナは部隊の移動の指示を順次更新していった。指揮下の鋼竜は十機、クレーメックの乗るLSSAHとは別行動をさせている。
イコンほどの大型兵器が少し動くだけでも、相応の音と振動を発する。レーダーではなく、生身の生き物相手に隠すのはほぼ不可能だ。であれば、むしろの目立つ部分を利用し、敵の進路をこちらの手で操るのに利用する。
地上の歩兵部隊は、イコンを前にすれば戦う事も辞さないが、普段はなるべく避けようとする。イコンの相手は大型が勤めるという当然な判断が彼らにはあるのだ。その為、敵を探している様子を装いながら、敵の進軍ルートを狭めていく。
「地上部隊、配置につきましたわ。1月30日より砲撃準備完了の報告あり」
三田 麗子(みた・れいこ)の報告を受け、よし、と小さくクレーメックは応えた。
「まずは要塞砲で敵の士気を挫く。その後に突入、生き残っている機動力を排除する。とどめは地上部隊に任せる」
「了解。砲撃5秒前、3、2、1、来ますわ」
強烈な一撃が敵集団に叩き込まれた。
「突入する。一兵たりとも千代田基地に案内するわけにはいかない、この機体の離脱を持って突入し、敵を殲滅せよ!」
「ここですね、取り舵いっぱい」
ゴットリープ・フリンガー(ごっとりーぷ・ふりんがー)の宣言に合わせて、操舵主はユーゲントを進行方向を左にずらす。
その横を、先日の戦いで何度も目撃した槍が掠めていく。
「ジェイコブの偵察は確かですね……イコン部隊、順次発進。地上の大型怪物を殲滅します」
「飛び立ってしまえば、目立つのは避けられんのう。して、敵の数は、一、二、三、ふむ六体か」
枝島 幻舟(えだしま・げんしゅう)が数えたレッドラインは、既に予備と思われる槍を持っている。
「索敵を、待ち構えていたのなら投げ槍だけで対処しようなどとはしないはずです」
「見つけたぞ」
瓦礫をいくつか挟んだ奥に、肩にキャノン砲を取り付けたライオンヘッドを確認する。こちらに向けられていた砲塔は、しかし火を吹けない。
「そのライオン頭は俺達が貰う。いいよな!」
飛び出したケーニッヒ・ファウスト(けーにっひ・ふぁうすと)のダス・ライヒが二度ウィッチクラフトライフルの引き金を引く。一発目はすぐ近くに、二発目がキャノンのついた肩を掠めた。
「ちっ、外れか」
ライオンヘッドはこの衝撃で狙いを定め直す必要が発生する。一方のケーニッヒからは、瓦礫が邪魔で射線が取れない。
だが、飛び出しのはダス・ライヒだけではなく、彼の指揮下にある二機のイーグリッドも居るのだ。二機にイーグリッドは、夜通し行われた作業でウィッチクラフトライフルを換装されている。
同じく二発、二機が揃って発射っする。
「ぶっつけ本番はちょっと不安だったけど、これなら心配いらないわね」
二機のイーグリッドは、やや照準に甘さを感じるものの、ライオンヘッドの肩と脚部にそれぞれ一発ずつ命中させ、無力化した。八上 麻衣(やがみ・まい)は、「私達もうかうかしてられないわね」とメインパイロットのケーニッヒに告げる。
「少しぐらい獲物を譲ってやらないと嫌われちまうからな」
部下の機体に通信を開くと、一旦ケーニッヒは肺の中の空気を吐き出し、そして可能な限り空気を補充した。
「よーし、いよいよパーティーの時間だ!! 一丁、ド派手にブチかましてやろうぜッ!!」
僚機のイーグリッドのパイロットからの威勢の良い返事に満足すると、さっそく機体を走らせる。
その様子を、相沢 洋(あいざわ・ひろし)は同じく降下中に確認していた。
「このまま獲物を全部取られるのは面白くないな」
洋は{ICN0005037#覇王・マクベス}の体を捻るように操作し、着地点を無理やり変更した。そこは敵地のど真ん中だ。
その動きに僚機はついてこれない。一方のレッドライン達も、まさか好んで目の前に飛び降りてくるなど考えておらず、初動が遅れた。
「橋頭堡確保を確認した。全機! 続け!」
20ミリレーザーバルカンを掃射すると、特に動きの遅かった一体の肩を吹き飛ばした。被害が発生した事で、怪物達も動きに精彩さが戻る。盾を掲げて間合いを詰める。
「ディンギル起動、システム正常。エネルギー刀身部へ。近接戦闘可能です」
サブパイロットの乃木坂 みと(のぎさか・みと)が敵の動きよりも早くそう報告する。
「近接戦闘が希望であれば相手になってやろう!!」
覇王・マクベスはバルカンを撃ちっぱなしにしたまま、突っ込んできた一機にカナンの聖剣を振るう。刀身の半分を盾に食い込ませつつも、両断には遠く、盾の持ち主にも刃が届いていない。
だが、洋はうろたえた様子はなく、むしろ凶暴な笑みを浮かべた。
「貴様の細腕と、この機体のパワー、どちらが上か教えてやろう」
そうして、カナンの聖剣が降り抜かれる。刀身は相変わらず半分盾に食い込んだまま、その向こうのレッドラインの胴体を真っ二つに分断した。
「次からは、ちゃんと盾の面の部分で受けるんだな」
「洋さま」
みとの声を聞き、洋はバルカンの動作を停止させた。怪物達はチャンスとばかりに殺到しようとするが、その無防備な背中を次々とウィッチクラフトライフルによって撃ちぬかれた。
「遅かったが、一応は、仕事をしたな」
レッドラインの背中に銃弾を叩き付けたのは、マクベスと共に降下したイーグリッド隊だ。真っ直ぐ正直に向かうのではなく、回り込んで合流しにきたのである。
ここで、怪物達は完全に不利を悟り、脱出を試みた。一体ずつマクベスとイーグリッドそれぞれに向かい、残った三体の怪物はこの場を離脱するつもりらしい。
「近接戦闘は相手にするな、道を明けてやれ」
部下に通信を飛ばしながら、洋は飛び掛ってくるレッドラインの槍をカナンの聖剣で受け止める。
「みと!」
「はい!」
部下の機体から、敵の退路を計算する。
「できます」
「よし、肩部特殊荷電粒子砲、電影クロスゲージ展開。スペアは貰うぞ!」
鍔迫り合いをしたまま、肩にマウントした荷電粒子砲が目標を追尾する。レッドラインはその異様な光景に、離れようと後方に飛んだ。
これは手痛い悪手だった。もしも、無理してでも盾を掲げていれば、損害は自分一人に納まっただろう。だが、恐怖に駆られた怪物にそんな自己犠牲の判断が可能になったのは、自身が光に飲み込まれるその瞬間だった。
「前方に味方もいるんですけどね。まぁ、無策には撃ってないでしょうが。以上」
逃走しようとしていたレッドラインを飲み込む光を見て、エリス・フレイムハート(えりす・ふれいむはーと)は目を細めた。表情ではなく、単に強い光から目を守るためである。
「ジェイコブ様からの報告と合わせると、この先も待ち伏せている可能性が高いですね。ミサイルは若干残ってますが、補充に戻ります。以上」
エリスの小型飛行艇ヴォルケーノが戻るために機首をユーゲントに向けたところで、エリスは首だけで背後を振り返った。
見覚えのある、オレンジ色の炎の花が咲いている。
まだ距離はある。
だが、自分達が向かえばいい中枢が、これによってはっきりした
「―――、はい、了解。こちらでも確認できました。もう少し接近を試みます。以上」
ぐるりとヴォルケーノの向きを変えた。
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