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リアクション
謎のイコン
瘴気をまとうイコンが大分少なくなったイレイザーの向こうから急接近してくる。イコン部隊の予備戦力として、アクリトの戦艦に同乗していたシフ・リンクスクロウ(しふ・りんくすくろう)はミネシア・スィンセラフィ(みねしあ・すぃんせらふぃ)とともにアイオーンに機乗しながら言った。
「あの謎のイコン……やはり狙いはヒトガタでしょうね。
相手はヒトガタを破壊する意図はない。ならば、攻撃を避けながら針路を阻害して近づけないようにすればいいかしら。
攻撃は、衝撃自体は伝わっているようですし、ダメージがなくとも動きを止めるなり弾き飛ばすなりはできるはず……。
バスターライフルやファイナルイコンソードなど高火力兵装を中心に、相手の移動を邪魔できれば。
その間に他の方々が何か対策を立てられば良いのですが。
インテグラルナイトで出ておられる方もいますし、当該機が無茶をするような状況は避けたいところですね」
ミネシアが手早く計器類やレーダーから、周囲の状況をチェックしながら言う。
「しっかし、レイヴンの時もそうだったけど、なんで暴走するかもしれないものを実線に投入するんだろうねぇ……?
あと、あのイコン、ソウルアベレイターが乗ってるんだったっけ?」
「ソウルアベレイターが関係しているとは聞いていますが……あのイコン、外見上はどの系統のイコンに近いんでしょうか?」
「イコン自体が話してたみたいなこと言ってたけど……。
奈落人みたいにこっちで身体がないからイコンに憑いてるだけだったりしてねー。
なら、お祓いで何とかなったりしないのかなぁ」
「そんなことができれば、苦労していないのではないかしら……」
シフはとにかく出来る限りの時間稼ぎを行おうと思っていた。相手はマトモにやり合えない力量を持つ相手である。ただし会話することができ、質問などに答えるなど、全く非友好的とも思えない。実際斎賀 昌毅(さいが・まさき)がなにかコンタクトを取ってみたいと話していたし、彼女としても無駄な戦闘を避ける分には異存はない。一方、柊 真司(ひいらぎ・しんじ)はまた違った意図をもってゴスホークを発進させていた。リーラ・タイルヒュン(りーら・たいるひゅん)をパイロットスーツ代わりに纏い、BMI搭載機という仕様を生かして、ヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)の超能力攻撃も併せて試すつもりでいた。
「前回は殆ど奴にダメージを与える事はできなかったが、何処かに隙はあるはずだ……そこを突き崩す!」
「でもさ〜、無茶するのはよくないと思うよ〜。気をつけてよね」
胸元からリーラの声がする。
「わかってるって」
潜在解放でBMIのシンクロ率80%前後を維持し、一気に間合いをつめる。同時にアイオーンはシフの高速機動とミネシアが鉄の守り、ディメンションサイトを使い、瘴気を放つイコンを翻弄し、幻惑するような動きで攻撃をよけることにだけ集中する。真司がプラズマライフルで牽制射撃を行いながらレーザービットを展開、相手に対して全方位から攻撃させて足を止めを狙う。だが瘴気を纏うイコンは泥はね程度にしか感じていない様子である。
「クソッ! これならどうだ!」
プラズマライフル内蔵型ブレードにパイロキネシスによる炎を纏わせ、赤熱化させた剣を装甲の隙間を狙い、突き立てると同時にサンダークラップを放った。だが瘴気を放つイコンはうるさそうにそれを右手の剣で跳ね除けただけだった。ゴスホークはポイントシフトを使い素早く回避する。
「な〜んかものすごい装甲ねぇ……」
リーラが唸る。昌毅はマイア・コロチナ(まいあ・ころちな)とともにフラフナグズに乗り、ゴスホークの周囲で遠隔、近距離からの牽制攻撃を行いながらその様子をモニターしていた。
「……やっぱりな。前回の戦いで俺達含めエース級が揃って全力で飽和攻撃を行った……。
が、かすり傷程度しか負わせられなかったろ? 悔しいがあいつには正面から殴り合って勝てる気がしねぇ
………けどよ、あいつ、喋ったよな? パイロットが喋ったとかではなくてあいつが喋ったよな?
あのイコンこっちの質問に対して素直に返事を返していたよな?」
マイアが頷く。
「会話してあのイコンの動きを止められるならアリなのかも知れませんね。
今のところ全く倒す方法も見つかってないわけですし、時間稼ぎ程度には………」
真司はやはり覚醒なしでは相手取るどころかコバエほどにしか相手は感じておらず、避けるほどもないと認識されていると実感した。
「くッ! こうなったら……覚醒ッ!」
ゴスホークが淡い輝きに包まれる。アクセルギアで体感時間を延ばし、もはやエネルギーの消費も視野に入れず、エナジーバーストによる突撃の勢いに乗せ、リミッター解除したファイナルイコンソードによる神速の斬撃を腰間接めがけて叩きこむ。
「ヒット数15!」
ヴェルリアが叫ぶ。
「ほう、なかなかやるな」
瘴気をまとうイコンが感心したような声を上げ、手にした剣を大きく振りかぶった。と思った瞬間にはもうゴスホークに剣戟が打ち下ろされている。行動予測でそれを予期していた真司は、すでにG.C.Sによる空間歪曲をさらにグラビティコントロールで強化して展開していた。ヴェルリアもアブソリュート・ゼロによる氷壁を展開して剣戟を和らげ、機体へのダメージは最小限ですんだ。ヴェルリアが再びレーザービットで全方位から瘴気を纏うイコンに最大攻撃を加え、ミラージュによる幻影を作り出して本体を遠ざける。
「なんていうかさ。バケモノっていう表現がふさわしいわね」
リーラがため息混じりに呟く。
「だが多少傷はつけてやったぜ」
真司が言った。
「そろそろ覚醒が切れます、撤退を」
ヴェルリアが言い、依然として瘴気を纏うイコンをモニターしながらゴスホークは伊勢の格納庫に向かった。
「キェアアアア!!喋ったぁぁぁ!!」
マイアがパイロット席からの奇声にぎょっとして昌毅を見ると、半ば白目をむいている。
「いけない!昌毅が発作を起こしました!
イコンが大好きすぎて時折周囲が見えなくなる事もナンパした事もあるのは知っていましたが……!」
むっとしながらメインの操縦を取って代わる。昌毅がスピーカーのスイッチを入れ、雪崩のように質問し始めた。
「とりあえず、お名前はー!!」
瘴気を纏うイコンは素直に答える。
「大陸が滅びる前……私は、こちらの世界で『指導者』を意味するドゥケという名で呼ばれていた」
「好きなタイプはあるのかな? 連絡したいと思うんだが、メアドはあるのか?!」
「今私と対峙していたイコンはなかなかいいと思うぞ。いい動きをしていた。
……しかし……お前は面白いことを喋るな」
ドゥケは笑いを含んだような声で返す。
「その装甲……どうなってるんだろう? 滅ぶ前にいた大陸ってどんなとこだった?
「さまざまな国々があり……美しい場所もいくつもあった……」
ドゥケは懐かしむように言葉を切った。
「だが……元いた大陸はやつらに滅ぼされた。私は唯一人残された……いや残ってしまったというべきか。
そして……お前たちがナラカと呼んでいる世界をを私は彷徨った……長い、長い間な。
私は機晶石を命の源とする生命体、お前が装甲と呼ぶのは私の体だ。
ナラカにいる間に私は、我らの種族は他種族の手を借りねば新たには生まれぬものと知った。
当時もわからなかったし、大陸の滅んだ今となってはもはや知るすべもないが……。
私の居た大陸には、かつて他の知的生命体も居たのだろうな」
ドゥケは一旦言葉を切った。
「なんて波乱万丈な生涯なんだ……」
涙ぐむ昌毅を、マイアが目を吊り上げて見ている。
「なんだかムカつきます。
何であんな姿もいまいち見えない奴に昌毅はあんなだらしない顔してるんですかね?
ボク相手にそんな顔したことないですよね? 納得いかないです。
いつか絶対にスクラップにしてあげますから。……覚悟しててくださいね」
「ははは何を言うんだ。会話で情報を引き出すのが目的ですよ」
乾いた笑い声を上げ、昌毅はドゥケに尋ねる。
「お前、解き放たれて行く光条世界への道を、脆弱な者たちの手より奪い守る、みたいなことを言ってたけど……。
守ろうとしてるのは『脆弱な者たち』か『光条世界』のどっちだ?
会話できるんなら説得なりなんなりで、ヘンな戦い方しなくてもあっさり目的達成できるかもしれないぞ?」
「今、光条世界への道を開かねば、奴らの一方的な干渉を受け続けることとなるだろうな。
そして……ニルヴァーナもパラミタも滅びることになる。かつての我らの世界のように。
奴らの干渉によって私の大陸は滅んだ。同じように滅ぼされた大陸はいくつもある。
我らは……奴らの好き勝手を許すわけにいかん」
「と、言うことは……私たちと対立するような理由はないんですね?」
シフが口を挟んだ。
「私はお前たちがヒトガタと呼ぶものに用がある、それだけだ」
そう言ってドゥケは近寄ってきたイレイザーを無造作に切り捨てた。
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