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【両国の絆】第一話「誘拐」

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【両国の絆】第一話「誘拐」

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【VS ブリアレオス――決着】



 同じ頃、極寒のジェルジンスクの大地でも、その決着の時が訪れようとしていた。

 どれだけのエネルギーを内包しているのか、疲弊する様子の無かったブリアレオスだったが、それでも明らかにその動きが精彩を欠き始めたのだ。
「関節のダメージが、影響し始めてるんだわ」
「強烈な一撃に、足元の方がその負荷に耐えられなくなってきてるんだ」
 体力や怪我の回復に、前線を入れ替わること数回、霜月たちがブリアレオスに応じている間、細女の分析に、上空から見ていたソイルも頷いた。
「それに、突入前のルーの攻撃が大分効いてるんじゃないかな。亀裂入ってるのもそうだけど、内部が熱を持って、脆くなってる可能性がある」
「つっても、あそこをピンポイントに狙うのは難しいぜ」
 ソイルの言葉に、一旦前線から退いたハイコドは眉を寄せた。負傷したことが原因か、それとも別の理由があるのか、暴走状態を深めたブリアレオスの動きは見境がなく、接近すれば味方同士のほうが回避のために激突しかねないほどに暴れまわっているのだ。大まかな場所を定めてダメージを蓄積させていくのなら兎も角、動いている相手の、傷のいった僅かな部分を狙うのは至難の業である。そんな中、信が「なあ」とハイコドに声をかけた。
「関節部を破壊じゃなくて“動かない”ようになら出来るんじゃないか?」
 その言葉に首を傾げるハイコドに、信は続ける。
「関節部にお前の触手を幾重にも巻きつけて動かなくするんだよ、ギブスみたいにガッチガチに固定してやるのさ」
「なるほど」
 それに応じたのは、ハイコドではなく小次郎だった。
「先程は流石に砕かれてしまいましたが、触手を更に隙間なく固めれば、制限できる動きの幅は広がる筈ですね」
 その説明に、ふむ、とハイコドと信が考える仕草をする中、小次郎は続ける。
「それに、先ほどの攻撃で、ブリアレオスの方もこの武器を認識したはず。どうしたって、他の方の攻撃の方が脅威ですからね、カカオを飛ばしてくる武器など、警戒から外れているでしょう。そこに、付け入る隙があります」
「けど、その方法だと最悪の場合関節部に壁を作ることにならないか?」
 関節破壊の邪魔にならないか、というハイコドの疑問に、小次郎は頷く。確かに関節を破壊するのが目的ならばそうだろうが、今、必要なのはブリアレオスを「倒すこと」だ。となれば、動きをいくらかでも止める事さえ出来れば、先程入った亀裂をそのまま狙うことが出来る。
 後方へ下がった一同がそうして頷いたのに、小次郎がカカオの粘度の調節に雪をタンクに入れたりなどして調整をしている間、刀真は月夜の胸から覚醒光条兵器を引き抜くと、その動けなくなった身体へとブラックコートをかけた。
「気をつけてね……刀真」
 そっとそのコートを抱きしめるようにする月夜の頭を軽く撫で、刀真は頷いて剣を携えて踵を返す。
 それが、開始の合図だった。
「行くぞ! オォオオオ……!」
 コアの雄叫びと同時、その剣が大地に突き立てられ、炎の柱をブリアレオスに向けて吹き上がったのと同時、放たれたのはニーナの対イコン用爆弾弓だ。続けざま、リイムが終焉のアイオーンが、同じくブリアレオスの頭部を狙う。それらは直撃はせず、ブリアレオスの手に弾かれたが、その腕が振り払われるより早く、ドラゴンを駆る宵一と、翼を羽ばたかせるルカルカとがその頭部を狙って突撃し、両腕がその防衛に回った、瞬間。一同は一斉に行動に移った。
 最初にひゅう、と空を切る音を立てながら、接近と同時に触手を放ったのはハイコドだ。それはそのまま伸びてブリアレオスの左関節に絡み付いてギチっと音がするほどに固定され、そのまま上から小次郎のカカオ放射器が溶けたカカオを浴びせて固めていく。
 同時、側面へと飛んだ陽一、そして背中側へ飛び込んだ刀真と、正面から飛び込んだコアの剣が閃いた。
「喰らえ……!」
「神代三剣!!」
「勇心剣! 横一文字斬り――っ!」
 ソード・オブ・リコから噴出す闘気の剣、覚醒光条兵器の目にも止まらぬ三撃がその膝裏から、そして膝の正面からは調律改造された勇心剣の横凪の一撃が、右足の関節を挟むようにして激突する。既に蓄積したダメージの上に、三方からの圧力と衝撃である。ミシリ、と嫌な音が響いて、その巨体が轟音と共に膝をついた。
「――今だ!!」
 そして――その時を、その瞬間だけをずっと待っていたのは桐ヶ谷 煉(きりがや・れん)だ。
 ようやく訪れたそのチャンスに、錬はブリアレオスの真正面へと飛び出すと、愛用の黒焔刀『業火』を構えなおした。
 敵を正面にして防御を捨て、敵を討ち滅ぼすことだけを追求したその構えは、煉の覚悟の証そのものだ。仲間達の戦っている間に自身に眠る全ての力を引き出し、倍勇券によって体の限界まで引き上げた力を闘気へと変えて、それを全て剣へと纏わせることで、それは巨大な闘気の剣と化す。
「この技は超獣との戦いで使って以来だったな――あの時からどれくらい強くなれたか……ブリアレオス、お前を倒せるかどうかで見定めさせてもらうッ!」」
 狙いは、亀裂の入った右の肩口だ。このたった一撃だけに全てを賭け、錬は柄を握り締めた。
「斬り裂け、神薙之太刀……ッ!!」
 気合一声、全身全霊の一撃が、真っ直ぐに振り下ろされ、巨大な剣は過たず正面からその亀裂へと向けて振り下ろされる。激突は一度。しかしそれで、十分だ。振り下ろす音にも轟音を連れたその剣は、ブリアレオスが再び動き出す直前にその身体を深々と抉り、脆くなっていた内部へと止めを刺した。
「――――……ッ!!」
 破壊される機械の音か、それとも断末魔の叫びか。耳に痛い唸り声のような音がブリアレオスから聞こえたかと思うと、その上体はゆっくりと傾いでいき、そして――契約者たちが飛び退いたその上へと、地響きを上げながら黒い巨人はついに、倒れ伏したのだった。
 一同の間に、安堵と歓喜の息が漏れる。だが、その中で一人、戦闘終了後の雪原に漂う、恐ろしいほど不釣合いな甘い香りに、小次郎はため息を吐き出していた。状況は終了したが、これが完了ではない。これから先、報告しなければならないことが山ほどある、のだが。

「…………これ、どう説明したものでしょうかね……」



 そして――その、同時刻。

「ぅ、あぁ……ッ!」

 びくん、と少女の体が跳ねた。そうして、突然に咽こむと、口から真っ赤な血を吐き出しながらよろめき、壁にその身体を寄せると共にずるずると膝から崩れていく。明らかに尋常ではない様子に、一同が戸惑っている間、動いたのは刹那から目配せを受けたアルミナだ。
「――れっちゃん!」
 名前を呼ばれた瞬間、レッサーブレードドラゴンが壁を突き破るようにして顔をのぞかせ、一同の不意をついている間に、刹那は一気に少女の下まで跳躍して戻ると、その身体を抱き上げてドラゴンの背へと飛び乗った。
「退くぞ」
 応じてアルミナが飛び乗り、一同が反撃するよりも早く、身を翻したドラゴンは、窓を壁ごと割ってそのまま中空へ躍り出ると、階下へ落下する身体を器用に翻し、監獄の高い壁を飛び越えていく。
 その姿を見やりながら「追いますか?」とキリアナは言ったが、セルウスは難しい顔で首を振った。
「たぶん、間に合わない。それに……」
 そう、セルウスが呟いているのと同じ頃。
 ドラゴンの背中で、刹那は抱えている少女の様子に眉を寄せた。息は既に途切れかかり、その身体は異様なほどに軽く、そして冷たい。不安げに覗き込むアルミナに、刹那は苦い顔で首を振った。

「――この娘はどうやら、最初から死んでおったようじゃの」

 その言葉に、アルミナは顔を強張らせたのだった。