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【両国の絆】第一話「誘拐」

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【両国の絆】第一話「誘拐」

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【VS ブリアレオス――白銀の中の応酬】




「蒼空戦士ハーティオン! 参る!」
「行くぞ!」

 戦闘の口火を切ったのはコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)馬 超(ば・ちょう)だ。
 そのスピードにあかせて飛び込み、蒼炎槍を右足の関節に狙いを定めて突き込み、激突と同時に飛び離れて距離を取った。コアではなく超の方が前出ているのは、彼の持つ槍が対イコンのために作られた兵器であるからだ。その身体を、ブリアレオスからの反撃から守るように背に庇うコアの前に、更に飛び込んだのは
戦闘舞踊服 朔望(せんとうぶようふく・さくぼう)を纏い、銀糸で刺繍された黒いローブを羽織った姿へ変じた赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)だ。味方からのパスファインダーによって深い雪の上も苦にせず飛び込んだその勢いと共に、魔剣『孤狐丸』、振り下ろされる腕をめがけて斬りつける。が。
「……ッ、硬いな」
 ガギッとぶつかりあった瞬間、霜月の剣はその勢いに押されるように弾かれた。腕の装甲の表面に僅かに
傷はつけられたが、流石に相手の武器でもあるそれを一撃で破壊するのは難しいようだ。弾かれた腕が、そのまま一度下がろうとした霜月を狙って振りぬかれようとしたが、酒杜 陽一(さかもり・よういち)がそれより早く飛び込むと、ソード・オブ・リコでそれを受け止めた。とは言え、完全に受け止め切れるほどブリアレオスの一撃は軽くない。衝撃にびりびりと手がしびれ、体が押し戻される感覚に、陽一は一旦その射程から離れて眉を寄せた。
「流石にこれは、優しく倒す、とはいっていられないな……」
 ブリアレオスは、渦中の人物であるヴァジラにとって作られた意味であり、複雑ではあろうが同時に大切な存在の筈だ。可能なら、余り破壊するようなことなく終わらせてやりたい、とは思うが、状況がそれを許してはくれなさそうだ。諦めに軽く息をつき、陽一は剣を構え直す。そうして2撃目を受け止めているうちに、漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)がブリアレオスの頭部を狙って狙撃することで作った、視界の僅かな隙で飛び込むのはブラックコートで気配を消して接近をかけた刀真だ。更に続いてクコ・赤嶺(くこ・あかみね)、そして十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)も飛び出す。
「この動きに、ついてこられるかしら?」
 クコと宵一がそのスピードを生かして正面から飛び込み、それぞれの分身駆使して挑発し、その注意を引いている間に、刀真の剣が後ろへと回ると、膝裏を狙って閃いた。が、一番装甲の薄いであろうその場所でも、容易く剣を通す様子はない。攻撃者が後ろへと回ったことを察知して、その足が後ろへと蹴り上げられた。
「……ッ、一撃では無理か」
 それをギリギリで回避して一旦下がりながら、刀真は眉をひそめた。だが、全く効いていないわけではないのだろう、一瞬だがその動きが鈍ったことを確認して、もう一度狙える瞬間を待つ中、同じように次々と、霜月や超が接近しては関節へ攻撃を食らわせ、食らわせては離脱を繰り返していく。あるいは陽一のように、攻撃を受け流した勢いをもって関節へ切り込んだりと、ルーチンワークのような波状攻撃をいかほど繰り返したか。ダメージは蓄積されているのは判るが、頑強な装甲の前に決定打が足りない。また、決定打を叩き込むための隙が出来ないのだ。
 そんな時だ。
「―――……ッ」
 溜まっていくダメージに機械ながら焦ったのか、それとも纏わりつく存在を鬱陶しく感じたのか、あるいは皆纏めて蹴散らしてしまおうという単純な目的だったのか。元々暴走していたブリアレオスの腕が、唐突に激しく振り回されたのだ。誰か、何かを狙ったのではなく本当に周囲へ振り回した、という単純なものだが、それだけに狙いが判り辛く、近づいていては危険だと、一旦契約者が離れた。 
 その隙を突いて、ハイコド・ジーバルス(はいこど・じーばるす)は、接近と同時にを装備した状態で滅破牙狼拳による内部破壊を試みたが、大振りな一撃はやはり正面から食らっては貰えず、地面を抉るようなブリアレオスの拳の衝撃に弾き飛ばされると藍華 信(あいか・しん)がその身体を抱きとめて、回復のために一度下がった。そこへ追撃をかけようと、接近したブリアレオスの前に、飛び出す影があった。
 迷彩バンダナで姿を隠していたリイム・クローバー(りいむ・くろーばー)が、機晶兵強化し、尚且つ機晶解放によって戦闘力の上がった調律機晶兵だ。
 勿論、足止め程度にしかならないものではあったが、それで十分。その時にはハイコドは背後へ退き、同時に宵一がブラックダイヤモンドドラゴンへ飛び乗って飛翔していた。そのまま一気にブリアレオスの頭部へと急接近させると、神狩りの剣を振り下ろす。殺戮と破壊の衝動に身を任せたその攻撃に、ブリアレオスの優先順位が切り替わり、排除しようとその腕が振り上げられた、次の瞬間。
 魔黒翼でブリアレオスの懐へ飛び込んだのはルカルカだ。我武者羅な宵一の剣と、アクロバッティングな飛行によって流石にひとつの腕では対処しきれなくなったのか、肩口の装甲の隙間へとルカルカの連撃を許すと、その強力な一撃がついにその装甲へと深い亀裂を入れた。
「喰らいなさい!」
 次の瞬間、超加速によって傷口へ取り付いたルカルカの放った火門遁甲・創操焔の術がその亀裂に滑り込むようにして炸裂し、内部を一気に高温にした。特殊なイコンであるとは言え、中身の全てが特殊なわけではないのだ。勿論、内側からの熱に耐える仕様にはなっていない。そのまま内部から焼き尽くされるか、と思われた、次の瞬間。
「―――ッ!!」
 ブリアレオスの口から、地鳴りのような雄叫びが響き、振り回された腕がルカルカを叩き落とした。勿論、直撃には至らず、たいしたダメージは無かったが、ブリアレオスの目がその光に警戒の色を強くさせた。

 体内の熱量が上がったことで、その体から更に湯気を上げると、暴走は更に加速したのだった。