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【両国の絆】第一話「誘拐」

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【両国の絆】第一話「誘拐」

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【:VS ブリアレオス――邂逅】



 一方の――ジェルジンスク地方地下坑道。

 皇位継承問題の折に通った道を、逆に辿る形で、その長い道のりを急ぐ中「しかし何でまたヴァジラを誘拐……あ、逆か」と、首をひねったのはアキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)だ。
「アホキングももういないってのに、なんでんな事になってんだか……いったい何やってんだあいつ」
「今のヴァジラに、このような行動を取る理由がない」
 神崎 優(かんざき・ゆう)も難しい顔だ。
「それにヴァジラなら、こんな姑息な手を使わずもっと堂々と大胆な行動に出る筈だ」
「そーだろうね」
 その言葉にアキラも頷いて同意する。二人にとっては良く知った相手だ。性格上彼の行動としてはありえない、という確信はあるが、事件が起きていることそのものは事実だ。巻き込まれたのか、あるいは何か理由があるのか。
 そんな疑問は直接本人に聞くが早い、とここまでやって来たのだが、問題はその寒さだった。まだ地面の中は風の影響もなく、地熱のおかげもあって凍えると言うほどではないが、問題は外だ。事件が明るみに出ないためということもあって、ノヴゴルドの生んだ吹雪が絶賛活動中という話である。想像するだけで襲ってくる寒気に、もう既にアキラの心は折れかかっていた。
「……やべぇダメだ帰りたい、早く帰りたい……ううう、さっぶい、ありえない。帰って温泉浸かって思いっきり寝たい。つうか今すぐ帰りたい」
 そうアキラがぶつぶつと言うのに、アリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)が「コラー!」とぺしぺしアキラを叩いた。
「ヴァジラの危機ナノヨ。しっかりしないとダメデショー!」
 そう激励するアリス自身は、アキラの懐に入りっぱなしなので、なんとも説得力は無いのであるが。
「わかってるって……しかし、皆良く寒くないよな。キリアナさんもそんな格好寒くないの? つーか、まだその格好なんだ? 趣味?」
 突然言葉を向けられて、え、とキリアナは軽く戸惑ったようにしながらも「似合いまへんか?」とさらりと返して笑った。そうするとどう見たって美少女のそれでしかないため、アキラは「似合うけどさー」と言うしかない。
「趣味、言うか……最初は、無理しとったんですけど。もうこの格好するのも長いですよって、今更違う格好のほうがおかしいですやろ?」
 そんな様子に笑って、キリアナはそう言うと半ばはぐらかすように笑ってその話題を打ち切ったのだった。
 
『もしもし……ヴァジラさんのお宅でしょうか?』

 そんな中、冗談めかすような調子で、ヴァジラへ向けてテレパシーを送った源 鉄心(みなもと・てっしん)は「やはり繋がりませんね」と肩を竦めた。
「馬鹿か、のひとつも返って来ないのなら、そうですの」
 その送信内容を知るイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)が呆れた声で言ったのに、ふと口元を緩めながら「監獄内では一部の場所を除いて通信の類は行えないように出来ています」とランドゥスは言った。
「やはり、監獄自体はその機能を失ってはいないようですね」
 たとえ、誰とも知らぬ者の手に落ちているとしても、と、そんな言葉を飲み込んだランドゥスの横顔をちらと案じながら、いくらか話題を逸らそうとするように騎沙良 詩穂(きさら・しほ)は坑道を一度見回した。
「ここには……今はアンデッドはいないんですね」
 その言葉に頷いたのはキリアナだ。
「へぇ。先日この辺りで沸いていたのは、皇帝不在の折――世界樹の加護が巡り行かなかったのと、アールキングの出現がその原因でしたから、現在では早々アンデッドが沸くこともないんです」
「じゃあ……何故、監獄には沸いておるんかのう」
 首をかしげたのは清風 青白磁(せいふう・せいびゃくじ)だ。
「監獄は出口がジェルジンスクの中心地に繋がっておったところじゃろ?」
 その言葉には「いえ」と元監獄職員のランドゥスは首を振った。
「それは、監獄地下の脱出用通路のことかと思いますが……あれはあくまで脱出用、一方通行です」
 向かうためには使えず、またその存在は知っていても、所在を知るのも、扉の鍵を扱えるのも、代々のジェルジンスク地方の選帝神のみなのだという。故に、アンデッドが沸くことはありえない、と説明してランドゥスは続ける。
「ジェルジンスク山脈の登頂付近にあるこの監獄は、エリュシオン国内でも特殊な犯罪者が収監される場所ですから、周囲からは完全に隔絶されています。ドワーフが作った坑道はエリュシオン全土をくまなく通っていると聞きますが、流石に監獄とは繋がってはいません」
 今進んでいる坑道――先日の継承問題の折にも使ったこの坑道と、その出口のひとつにある温泉施設が特異な例外であり、脱出用の通路と同じく。公開されていない秘密裏の通路である。それにしたところで、監獄のすぐ目の前まで行けるわけではないのだ。監獄に沸いたアンデッドがこちらへ来ないのは、この坑道の存在を知らないからだろう。
 その説明を受けながら、セルフィーナ・クロスフィールド(せるふぃーな・くろすふぃーるど)は「アンデットと言えば」と眉を寄せた。
「イルミンスールでも死霊使いと名乗る少年が現れたと聞きます……何か関係があるんでしょうか?」
「氏無はんからの話を聞く限りやと、無関係ではないでしょうが……それ以上は」
 頷いたキリアナだったが、それきり言葉を探すように押し黙ってしまったのに、セルフィーナが首をかしげた、その時だ。
「その部分はまだ表沙汰に出来ない、ということですか。また何か厄介事を引き受けざるを得なかったようですね」
 助け舟を出すようにそう口を開いたのは叶 白竜(よう・ぱいろん)だ。留学生にしては老けてますが、と無精ひげを軽く撫でた仕草にキリアナは少し表情を緩めた。
「厄介ごととは思っとりませんよ。ウチやったら、シャンバラに向かうのに不審を抱かれんですみますよって」
 両国の立場上、表ざたに出来ない類の事案の間に立つのに、帝国側にこれ以上の適任はいないだろう。やはりそういう立場なのだ、と納得しながら「話しにくい部分ではあると思いますが……」と前置いて白竜が求めたのは、今回の事件の現在までで帝国の掴んでいる情報、そしてエリュシオン側の見解だ。キリアナの目が一瞬セルウスと氏無を見、二人が頷くのに、歩速はそのままにキリアナは説明を始めた。
「報告によれば誘拐されたのは一名、シャンバラからの留学生で貴族の子女であり、事実現在まで行方が判らなくなっていることも確認は取れとります」
 ただし、報告者との連絡は途絶えたため、正確な襲撃者の任数などは判っておらず、全体の敵の規模は不明であること。本国からの通信へも一切応答が無いことから、監獄は既に制圧されていると考えて間違いないだろうことを告げて、キリアナは息をついた。
「事情が事情なんで、この事件自体を知ってはるのは、帝国でも宮殿に邸をいただいてるような高官方のみですが……見解については、割れてます」
 ティアラやノヴゴルドのようにヴァジラ以外の犯人を想定している者もいれば、その上で双方共に制圧して隠蔽してしまえばいいと考える者、元々ヴァジラを排除したがっていた者や、かこつけてセルウスのこれまでの対応への批判をしたい者、等、思惑が錯綜し、敵味方の判別がつき辛い状態になっているらしい。ただ、いずれにせよ事態収拾のためにいずれ騎士団が動かざるをえないのは確実であり、そうして事が明るみになる以上は、真相がどうであれ、何らかの決着をつけざるをえなくなる。
「アーグラ隊長は、討伐や制圧を掲げる者の中に、どさくさでヴァジラを得ようとしている存在があるかもしれないとも危惧されとりまして……ティアラ様が強硬に出ているのも、そんな事情があってのことやそうです」
「成る程……」
 それらの情報を頭に叩き込みながら、仲間達との共有化を図りつつ、白竜はやや難しそうにして「それから、こちらは関係があるのかはわかりませんが」と言う言葉の続けた「頼みごと」には、キリアナは僅かに考えるように間を空けた。
「今、帝国内では、表向き特に何か大事が起こってるわけやありまへんで、国内でのシャンバラの方々の行動について、特に咎められることは無いと思いますし、ウチのできる限りの協力はします。……けど、ウチの役目はあくまで両国間の橋渡しですよって」
 とキリアナは申し訳なさそうに苦笑する。
「アーグラ隊長ぐらいでしたら、すぐに話も通りますけど、ウチの立場やと、あまり大層なことは出来へんよって……そこは理解いただけますやろか」
「勿論です」
 セルウスとは臣下を離れて親しい間柄ではあるキリアナだ。その気になれば、その権限も越えた「配慮」も可能だろうが、だからこそ立場は弁えねばならない。そんな思いを察して、白竜は即答して頷き、氏無の方へと視線を投げると、それを受けた当人は肩を竦めて見せた。
「アポイントを取る位ならできる、というか、まぁ今回に限って言えば、それはボクのお仕事かな?」
 ただし、その場合責任は組織の上に乗る。その危険を判った上でなら、と笑う顔が暗に言っていた。
 その表情に、ここへ至る直前の世 羅儀(せい・らぎ)の言葉――……イルミンスール側でクローディスが巻き込まれている可能性に「こっちに来てしまって良かったのか?」と問われたのを思い出し、その言葉に返答するように「……体制側が動けるようになるのを待ってはいられません」と白竜は低く言った。
「ここまでの経緯で『なんらかの意図を持ったもの』の動きにとって氏無大尉、そしてクローディスさんが関わらざるを得ない状況である予測はつきます」
 肝心の敵の意図はまだ見えて来ないが、キリアナが動き、氏無が動かねばならないようなことが既に水面下に蠢いていることは判っているのだ。氏無が鈴に漏らした言葉ではないが、ある程度相手の計略に乗ってでも相手の喉元に近寄り食らいつかないと終わらない。
「例え毒を食らい相打ちになってでも、です」
 その返答に満足するように目を細める氏無の隣で、羅儀もかすかに息をついて「そうだな」と頷いた。
「現場が動くしかないな」
 同意するように数人が頷く様子に、キリアナは頼もしげに目元を一瞬緩め、すぐにそれを正すと「何をするにもまず、今この目の前のことを解決せなあきまへん」と口を開いた、
「問題は、ここを抜けた後です。入り口で待ち構えているのはあの――ブリアレオスですから」
 キリアナの硬い声に、ティー・ティー(てぃー・てぃー)が眉を寄せた。現在動いているブリアレオスの操縦者が誰かはわからないが、ヴァジラの意思ではないだろう、というのは彼を知るものなら誰でもそう思うことだ。あれは、ヴァジラが操っているのではないはず――
「――では、誰が操っているんだ?」
 その疑問を口に出したのは樹月 刀真(きづき・とうま)だ。
「あれを操作するには相応の負担もかかった筈だが……」
 そんな中「……なあ」とキリアナたちに声をかけたのは朝霧 垂(あさぎり・しづり)だ。
「俺が話に聞く限りじゃ、あの『ブリアレオス』って言うイコンは帝国で厳重に保管されているはずだよな? それが何で此処にあるんだ? 危険と分かっていてヴァジラと共に搬送してきたとは到底思えねぇしな」
 その言葉に、キリアナは苦い顔をし、ちらりとセルウスを伺ったが、二人が答えないのに垂は続ける。
「悪いけど、誰か保管していた場所の管理責任者に連絡を入れてくれないか? ヴァジラが薬を使用する事でのみ動かせるという条件付きにも関わらず、目の前で動いている……どう考えても持ち出される理由の無いイコンがだ」
 中尉の権限で言えるような事ではない、とは自覚しながらも、ここは確認しておかなければならない、と言う調子で言葉は続く。
「あんたらがその理由を説明できるなら構わないが、できないのならば……」
 言いかけた垂を「ストップ」と氏無が遮った。
「そこまで。キミは誰を前にして、どこの誰として話しているのか、思い出しなさい」
 少しばかり強い声が言ったのに、垂は意図を悟って口をつぐんだ。が、特に気にした風もなく「オレだよ」とセルウスは言った。
「ブリアレオスを動かしたのはオレだよ。っていうか……元々、ここで管理してたんだ」
 だから、別に移送されてきたのではない、というその予想外の回答に、それぞれが違う意味をもって目を見開く中で、セルウスはため息を吐き出し、頬を軽くかいて「ヴァジラのジェルジンスク移送を決めたはそれもあるんだよね」と難しい顔だ。
「もしかして……ヴァジラさんと一緒にしてあげよう、と?」
 ティーが言えば、セルウスは「さすがに一緒にするのはダメって怒られたんだけどね」と苦笑した。
「ヴァジラには薬がなくったってブリアレオスを動かせる可能性があるから、危険だって言われたけど……ちゃんと拘束してはあったし、あれを扱える奴はもうひとりものこっていないって……ひとりぼっちになるのはかわいそうじゃん、さすがに」
 そんな甘い考えがこの事態を招いた、と言われる危険性は判っているのだろう、キリアナの顔色は余り良くないが、セルウスは気負う風もなく「だいたい、何でみんな、そんなむずかしいこと考えるのさ?」と首をかしげた。
「今から何が起こったか、どうしてこんなことになったのかを確かめにいくんでしょ? 何も見ないままこうかもああかもなんて考えてたって、しょうがないと思うんだけどな」
 それは幼い言葉ではあったが、あっけらかんとしたその声に態度に、硬くなっていた一同の顔を不意に緩めさせた。
「そうでありますね」
「あんまり考え込んでばっかりじゃ、着く前に疲れちゃうし」
 頷いたのは大熊 丈二(おおぐま・じょうじ)布袋 佳奈子(ほてい・かなこ)だ。重くなりがちな空気を切って、二人の話題はこの場にいないドミトリエに移った。
「やはり、ドミトリエ殿はお留守番なのでありますか」
「うん。ついてくって言ってたけど、オレこっそり出てきてるから、ドミトリエぐらいにしか留守任せらんないし」
 その際、ドミトリエが口をすっぱくしてあれこれ言っただろうことは予想でき、目に浮かぶなと、佳奈子は「じゃあ、ドミトリエさんの代わりに、頑張らないとね」とくすくすと笑う。
「ドミトリエさんに頼まれてるもの。セルウスさんのことお願い、って」
 それに、と佳奈子は顔を真剣なものへ変えた。留学生の受け入れは、エリュシオンとシャンバラの両国の交流活性化を象徴する事業だ。セルウスが頑張ろうとしていることを、比較的動きやすい自分たちが助けるべきなのだと意気込む佳奈子に、セルウスは嬉しげに頬を緩める。その様子に、丈二も表情をやや緩めながら、態度こそ皇帝相手の体を崩さないまま、内緒話をするように声を潜めた。
「それでは、陛下にドミトリエ殿へのお土産話を献上させて頂いても?」
「うん!」
 そうして、丈二は自身の巡った旅――コーラルワールドでの出来事や、海中都市ポセイドンの話を吟遊詩人よろしく披露した。事件そのものは、どれも話だけは知っていたようだが、その物語は今知るものばかりだ。目を輝かせている様子はただの少年のようでもあるが、その憧れに飛び出していくような子供では、もう無い。ほんの少し大人びた顔が、坑道の先を見つめて、目を細めた。
「早く帰って、ドミトリエに聞かせてやりたいな」



 勿論――そんな、奇妙な和やかさがあったのは、坑道を抜けるまでの数分のことだった。
 いつかの逃亡の折にも通った場所を、懐かしむ間もなく走り抜けた先。その巨人は一行の道を塞ぐようにして、監獄の前で佇んでいた。
 吹雪く白銀の世界の中、その体表の熱がしゅうしゅうとあげる水蒸気が、黒い巨人の姿を酷く恐ろしいものに見せた。
「ドージェの力を再現するためのイコン、か。初めて見るが、流石に壮観だな」
 シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)が独り言のように言うのに「何かに似ていると思わない?」とサビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)が言った。
「姿かたちじゃなくて、ヴァジラとの関係とかが、さ」
 その言葉に言いたい事を悟って「ああ」とシリウスは頷いた。特別な兵器と、それを扱うために帝国に作られた生命。自身も良く知った相手を思い出しながら、サビクは眉を寄せる。
「ヴァジラは失敗作だったって言うし……本人が知らないだけで、同じような存在が他にいても可笑しくはないよね」
 そうすると、敵の狙いがヴァジラではなくブリアレオスであるという可能性も出てくるが、それもまだあくまで可能性のひとつか、と、調律改造を施した五獣の女王器・EXをシリウスへ返しながら、サビクは視線を前へ戻した。
「ま、それを確かめるためにも、あれを何とかしないとね」
 そう、思案していること、危惧すべきことは様々あれど、まずはこの関門を突破しないことには、何も始まらないのだ。シリウスは頷くと、ざっとセルウスから一歩距離を取って多少わざとらしいぐらいに礼をとって見せた。
「ここは我々が。オレが不作法をしでかす前に、先へ進んでいただけますか、陛下?」
 それに続いて、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)も「セルウス陛下」とその場で礼をとった。
「本当は私も貴方を守って一緒に行きたい。でも、何所が自分の能力を一番発揮できるか、考えたの」
 そう言って、ルカルカは視線を前へ戻した。
「私は、ブリアレオスをなんとかしようと思う」
 その声に続くように「必ずスキは作る」と垂も力強く言った。
「その時が来たら、迷わず先へ行ってくれ」


 そうして、その一瞬を作るべく、皆が飛び出そうとしていた一方で、南臣 光一郎(みなみおみ・こういちろう)は後方に下がったままの氏無に、じり、と距離を寄せていた。ただついてきただけのような素振りで、その実、この場の全ての責任をその身に負っていることを何とはなしに察していながらも、あえてといった調子で「何をノンケ、いやのんきに構えてんのかな氏無ちゃん」と詰め寄った。
「真面目な話として、俺様たちのような前に出る者の立場から言わせてもらうと、後ろからの支援は不可ケツ、不可欠だ」
 そう言いながら、ずずいと顔を寄せて光一郎は続ける。
「無事戻ってきた暁には支援応援が十分だったかどーかたっぷり吟味させてもらうからな。足りなかったらお仕置き、十分だったらご褒美だ!」
 ご褒美の意味は教えてあげないけどなー、と、その色々と含みやらなにやら混ぜこぜな物言いに、氏無はくつりと喉を笑わせながら、返答を待たずに箒にまたがってやや戦線から離れるように飛んでいってしまった背中を見送った。

 同時、ドンッ、と前線に轟音が響く。
 それが、戦闘開始の合図だった――……