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【蒼空に架ける橋】最終話 蒼空に架ける橋

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【蒼空に架ける橋】最終話 蒼空に架ける橋

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■第43章


――クク・ノ・チに挑む一方、館の最奥に当たる北対のクク・ノ・チの私室へとモリ・ヤを始めとした面子が向かっていた。
 ここまで来ると、先程はそこそこ見られた館の人間が見当たらなくなる。
 オオワタツミ出現という非常事態に、わざわざ最奥へ向かう人間はそう居ないだろう。
「このまま目的地まで何も無けりゃいいんだがな」
 モリ・ヤが呟くが、
「……残念ながら、そうはいかないみたいね」
『老子道徳経』の言葉の直後、ゆっくりと行く手を阻むように着物姿の仮面の女が現れた。
「ツ・バキ……!」
 見覚えのあるその姿に、セルマが身構える。それと同時にリンゼイも刀を構え、『老子道徳経』が一歩後ろに引く。セルマとリンゼイが前衛、『老子道徳経』は後衛に回るようだ。
「予定通り、ここは俺達に任せて貰おうか。そっちは頼んだ」
 セルマの言葉に頷き、モリ・ヤ達が走り出す。仮面の女――ツ・バキはモリ・ヤ達に顔を向けるが、後を追う様子は見せない。
「話せばわかる……わけはない、か」
 セルマが溜息を吐く。ツ・バキが得物の刀を抜き、構えたのだ。
「……で、策はあるのかい? 正直無暗に突っ込んでいっても倒せないよ、あの人」
 拳銃を抜きつつ、オミ・ナがセルマに問う。
「倒すんじゃない、無力化だ。あの人、生きているかもしれないんだろ?」
「だったら尚更難しいよ」
「手段はあります」とリンゼイがちらりと手錠の形をした魔力の塊――【魔力の手錠】を見せる。
「成程、それをかけるのが成功条件かい」
「隙を見て組み伏せて、リンの手錠で捕縛する」
「……現状、作戦はそれしかなさそうだね。戦術は?」
「俺とリンで接近戦を仕掛ける。術を使わせないように。シャオは後ろで援護を頼む」
『老子道徳経』が「任せなさい」と頷いた。
「結局は実力勝負になるわけか……失敗したら?」
 オミ・ナに問われてセルマが答える。
「もう一つの手段に出る。できればやらないでくれた方がありがたいんだけど」
「そのもう一つの手段を使わない結果になるよう祈ってるよ」
「御喋りはそこまでにしましょうか――来ます!」
 リンゼイの言葉とほぼ同時に、ツ・バキが駆けだした。

 セルマの槍とリンゼイの刀、そしてツ・バキの刀が交差する。
 オミ・ナも含めて3対1の状況、だというのにこの場を制しているのはツ・バキであった。
 セルマとリンゼイは【彗星のアンクレット】で速度を上げていた、にも拘らず、ツ・バキはその上昇した速度に対応し、斬撃を、刺突を、銃撃を、全て捌き切っている。
「やっぱ姐さん、化けモンだわ」
 至る所に細かい刀傷をつけ、オミ・ナが呆れた様に呟く。
「感心している場合ではありません。全力で殺さずに挑まねば、こちらがやられます」
 リンゼイがオミ・ナを叱責する。そのリンゼイも、所々に傷を負っていた。
 傷を負っているのはリンゼイだけでなく、セルマもである。速度を上昇させているというのに、攻撃をスレスレの状態で躱すのが精一杯なのだ。
「そっちの手はまだ使えないのか?」
 ちらりとオミ・ナが待機している『老子道徳経』に視線を向ける。
 ツ・バキを抑え込む手段を持っている、というのだが今の所状況を見ているだけで動く様子は無い。
「まだ出せないわ。彼女を追いこまないと」
 首を横に振って『老子道徳経』が答える。しかし現状追い込むどころか追い込まれているのに等しい状況だ。
「……仕方ない」
 ツ・バキと距離を取ったセルマが呟いた。
「もう一つの作戦だ。俺が盾になってツ・バキの攻撃を受けるから、後を頼んだ」
「盾? 一体どういう……」
 イマイチ理解できていないオミ・ナに対し、リンゼイは解ったように頷くのを見ると、セルマは前に出る。
 そしてセルマ、リンゼイがツ・バキを攻めるという戦法から、今度はセルマがツ・バキの攻撃を受け続けた。
 しかし複数で挑んでも追い込まれる相手。セルマは次第に捌ききれなくなり、やがて手に持つ槍を弾かれてしまう。
 その一瞬、隙が生じ、踏み込んできたツ・バキの刀の刃が、セルマの身体を斬り裂いた――筈だった。
 違和感にツ・バキが動きを止める。生じたのは人の身体とは違う、固い手応え。まるで鎧のような――
「……っくぅ……ッ! 覚悟決めてても、やっぱり怖いもんだな……!」
 苦笑を浮かべるセルマ。斬られた服の隙間から見えるのは肌ではなく、龍の鱗のような物が見える。【龍鱗化】で皮膚を硬質化させていたのである。
 動きを止めてしまったせいで、反応が遅れた。セルマの背後から、オミ・ナが飛び出す。
 ただ只管にオミ・ナはツ・バキに向かって引き金を引く。咄嗟に刀を構え、何とか弾丸を弾くが捌き切れず、逆に刀を弾かれてしまう。
 このままでは不利と思ったのか、距離を取るためツ・バキが後方に飛び退く。
「――待ってたわよ、このチャンスを!」
『老子道徳経』が動く。同時に、【紅蓮の走り手】が炎を纏い、ツ・バキへと飛びついた。
 飛び退くツ・バキにそのまま圧し掛かる様に、【紅蓮の走り手】が襲い掛かった。
 避ける事が出来ず、ツ・バキは押し倒される。両手は抑え込まれ、首元は炎を纏った聖獣に噛みつかれている。所謂甘噛みと呼ばれる状態であるが、その気になれば何時でも牙を剥く事が出来る。
「あんまり暴れない方が良いわよ? 暴れる用なら、この状態から私がこれに何をさせるか、わかるわよね?」
 逃れようともがくツ・バキに、『老子道徳経』が笑みを浮かべて言い放つ。
 その言葉が届いたのかは解らないが、抵抗は無駄と悟ったようにツ・バキはもがくのをやめ、大人しくなる。その隙にリンゼイが素早く【魔力の手錠】でツ・バキの両手を後ろ手に拘束する。
「……他に術を使うような物は隠し持っていないようですね」
 拘束する際、リンゼイが身体を検め、投擲用の小刀等や術用の札等を取り上げる。
「そうかい」
 それを確認すると、オミ・ナは銃に弾丸を込める。そして、動けないツ・バキの頭に銃口を向ける。
「おい、一体何を……」
 セルマが言いきらない内に、オミ・ナは引き金を引いた。弾丸はツ・バキが纏っている仮面に辺り、大きく衝撃で頭を仰け反らせる。
「――ッ! 何するんだ!?」
 セルマがオミ・ナに掴みかかる。
「――操られているとしたら、何かしら術をかける際に道具を使っている可能性がある。例えば仮面、とかね」
「何を言って……」
「そして術を解く際、その道具をただ外すだけでは解けない可能性もある。逆に外す事で操る対象を傷つけるような措置をとったりすることもあるらしい――コレはそう言った術を無効化するのと同時に、その道具だけを破壊するんだ」
 オミ・ナがそう言った瞬間、ツ・バキの顔を覆っていた仮面に亀裂が走り、真っ二つに割れる。
 割れた仮面は地面に落ち、残ったのは傷一つついていないツ・バキの顔だ。
「……! 息をしています! 生きています!」
 リンゼイがそう言うと、オミ・ナが大きく安堵の息を吐いた。
「……そういう代物ならそうと最初に言ってくれよ」
 同じように大きく息を吐いたセルマが、オミ・ナに言う。
「正直こっちも賭けだったんだよ……効果があるとはわからないし、弾丸は一発しかないから押さえつけた時でもないと使えないからね。それに、そっちだって『盾になる』って事詳しく言ってくれなかったし、お互い様って事で」
 そう言うと、緊張の糸が切れたようにオミ・ナが座り込む。
「……後は、他の連中が上手くいくように祈るとするか」