百合園女学院へ

薔薇の学舎

校長室

波羅蜜多実業高等学校へ

伝説の教師の新伝説~ 風雲・パラ実協奏曲【3/3】 ~

リアクション公開中!

伝説の教師の新伝説~ 風雲・パラ実協奏曲【3/3】 ~

リアクション


第四十三章:やっぱり最後は可愛いのが勝つんじゃね?

 分校内で写楽斎との戦いは終盤を迎えようとしていた。
 流言飛語や偽情報に翻弄されたモヒカンたちが、右往左往して裏切ったり裏切られたり両陣営を行き来しながらも次第に勢力が終結していく。
「いい加減に決着をつけろ!」
 分校長のシリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)の号令で、全兵力が写楽斎討伐へと向けられた。決闘委員会だけではなく、平穏を望む分校生たちも武器を取り勇敢な戦士となって敵を攻撃した。
「カラーテ五段ノ技ノ切レ味ヲ見セテ……うぼぁぁぁぁっっ!」
 チュドーン!
“あぱっち君3号”は爆発し戦死した。
「もうだめ」
 敵のヤンキー女たちに棍棒でボコ殴りにされたメル・メルが担架で運び込まれてくる。
 しかし、そんな尊い犠牲を乗り越えて、シリウスと舞花の一団は写楽斎の立てこもる砦のような廃校舎へと迫る。
 金と欲につられて写楽斎の側についたならず者たちは、激しい抵抗を試みるも次第に数を減らしていった。まだ生き残っている他の特命教師たちも、荷物をまとめて逃げ出す用意をしている。
「くくく……、まだまだ終わるわけには行きませんよ」
 写楽斎はしぶとかった。こ切り札を用意していたのだ
「“人質”を盾にしなさい! 敵も攻撃の手を止めるでしょう」
 写楽斎は、混乱に乗じて捕まえてあった人質を戦線の真ん中に引きずり出した。こちらを攻撃すると人質を巻き込んでしまうし、いざとなれば人質を手にかけてしまえばいいのだ。
「あっ!!」
「汚ねぇ!」
 舞花とシリウスは声を上げる。完全にノーマークだったヒロインを思い出したのだ。
 写楽斎たちが捕らえていた人質は、エンヘドゥ・ニヌア(えんへどぅ・にぬあ)と数人の真面目な教師たち。そして宇宙旅行から帰ってきてゴロゴロしていた吉井 真理子(よしい・まりこ)だった。モブ教師はどうでもいいが、特にエンヘドゥは、危なっかしいなと皆に心配されながら野放し状態だったので、敵からすれば狙い放題だったのだ。
 エンヘドゥは、分校内で恋するスカウターの聞き込みを調査をしていたところを捕まってしまったらしい。以前からエンヘドゥを誘拐しようと企むならず者たちはいたが、強力な契約者たちに阻まれて計画はことごとく失敗していた。今回、その強力な契約者たちが宇宙へ派遣されていたため隙が出来ていたのだ。
 エンヘドゥはヒロインのお約束で十字架に磔になり気を失っている。真理子は首だけ出した袋詰め状態だ。この扱いの差はなんだろう。いや、両方人質なんだけど。
「しまった。完全に盲点だった。エンヘドゥがいつの間にか教師をしていて、敵の目の前にいるのを知っていたのに」
 シリウスは悔しげに舌打ちする。
「こんな時のためのボクたちだよ」
 パートナーのサビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)リーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)は、人質を取り替えそうと進み出る。
「ははははは! 動くと人質が死にますよ。人工衛星の爆破は失敗しましたけど、爆弾はまだ残っているのです!」
 写楽斎は高笑いする。
「吉井さんまで。ゲルバッキーは何をしていたのよ」
 真理子には吉井 ゲルバッキー(よしい・げるばっきー)がついているはずだった。しかし、ゲルバッキーは息子と娘に気を取られて彼らと遊びに行っていたのだ。
「攻撃できるものならしてみるといいですよ! 人質がどうなってもいいならね!」
 写楽斎が宣言した時だった。
 あらぬ方向から痛烈な攻撃が飛んで来る。
 ドドドドォオオオオオオン!
「えーーーーーー!」
 全員が思わず叫び声をあげる。
 爆煙と砂埃の向こうから、巨大な影が姿を現した。
「ゴルァ! ここかぁ! ルシアをかどわかす不埒者がいるという分校は!!」
 今更ながら、この分校へやってきたのは明倫館の忍者、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)だった。
 なんでも、聞いたところによると、唯斗が愛する妹のルシアがモヒカンの毒牙にかかろうとしているというではないか。何者かしらないが、絶対に阻止しなければならない。
 彼は、ルシアのために元凶を全て叩き潰すことにしたのだ。
 なにしろ、唯斗はルシアの保護者であり、お兄ちゃんを自負しているのだ。妹の危機には駆けつけるのは当然のことだった。
 ルシアを狙うお面モヒカンを分校ごと消し飛ばす! その話はもう終わっているのだが、怒りに頭に血を上らせた彼は聞いていなかったのだ。
「もうよせ。こんなことをしても何の解決にもならぬ」
 パートナーのエクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)は、無理やり連れてこられて諦観が漂っている。止めても無駄なのだ。
「うぬら、すまぬ! わらわの無力をゆるせ。逃げるのじゃ!」
「はははハハハァァー、ルシアにちょっかい出すなんて命知らずだなぁ……! 連帯責任として全力を持って殲滅する!」
 唯斗は、このためだけにイコン魂剛を持ち出してきていた。この魂剛はマホロバの重支援型鬼鎧で第二世代機相当のポテンシャルを持つのだ。強大なパワーを誇るため近接戦でも脅威となる。そのイコンの全力攻撃が分校に向けられた。
「ヒャッハー! 全部ぶっ壊してやるぜぇ!」
 ドドドドド! 
 大破壊が起こり、辺りが混乱し始める。
「やめろコラ! 分校が壊れる! というか、人質が巻き込まれるだろ、やめろ!」
 シリウスは、全然関係ない闖入者に怒りをあらわにした。分校生よりも他校生のほうがならず者でわけがわからないではないか。
「貧弱貧弱ぅー! 全員塵になりやがれ!」
 魂剛は勢いに任せて暴れ狂う。
「待ちなさい! 人質がどうなってもいいのですか!!」
 写楽斎も驚いて威嚇する。
「誰だお前は!? 知らーーん!」
 魂剛の【神斬刀・天羽々斬】が、写楽斎と特命教師たちを粉砕していた。
 ゴゴゴゴ! と轟音を立てて、写楽斎たちの砦が崩れ落ちる。
「えーーーーー!」
 またしても全員が声を上げた。これまでの戦いが空しくなるほどあっけない最期だった。
「無茶するなーーー!」
 サビクとリーブラが攻撃をかわしながら人質を救出していた。
「ハッハー! もう誰もオレをとめられないぜ!」
「全員、あのならず者を攻撃!」
 シリウスが、モヒカンより凶暴な唯斗を敵と認識して分校生たちに指示を出す。
「ヒャッハー!」
 分校生たちも対抗するためにイコンを持ち出してきた。
 しかし、考えるまでもなく魂剛に太刀打ちできるわけはないのだ。魂剛は勝負のあやでわずかに不覚を取ったとはいえ、先日のイコン格闘大会では圧倒的な戦闘力で決勝まで駒を進めたイコンなのだ。
 たちまちにして分校のイコンは叩き潰された。
 これは、大騒動になるか、と全員が覚悟を決める。
 と。
「お兄ちゃん、嫌い」
 なんとしたことか、すぐ近くに当のルシア・ミュー・アルテミス(るしあ・みゅーあるてみす)がいた。
 ルシアは、あの宇宙旅行の後、気に入ったお面をもらいに分校に来ていたのだ。彼女はこれまで誰にも気づかれないほど、分校のお面モヒカンたちとなじんで仲良くなっていた。
 そのルシアが、暴れる魂剛を見上げていた。唯斗と目が合う。
 そして、言った。
「お兄ちゃん、嫌い」
「「うおおおおおおおおおお〜〜〜〜〜〜ん!  うおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ〜〜〜〜〜〜ーーーーーーーーーーん!!!
 唯斗と魂剛は血涙を流して咆哮した。心の底から泣いていた。
「うむ、これは唯斗、死んだであろう」
 エクスは、良い薬じゃ、と呟いた。
「うそ。やっぱりお兄ちゃん好き」
 ルシアは、ニッコリと微笑む。
「「フォーーーーーーーーーー!
 唯斗と魂剛はパーっと明るくなった。
「だから、帰ろうね。お兄ちゃん」
 ルシアは言う。
「はい」
 唯斗は頷いた。
 そのまま唯斗と魂剛は子犬のように、ルシアに連れられて去って行った。
「……」
 様子を見ていた全員があっけに取られて、ルシアを見送った。もうなんというか、なんともいえない結末だった。この微妙な空気を何とかして欲しかった。
 誰かが言う。
「実は、ルシア最強だろ……」
 皆が同意したのだった。

 かくして、写楽斎はわけがわからないまま滅び、特命教師たちは全て壊滅した。
 分校の騒動は、決着したのだった。