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幽霊部員、誕生!?

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幽霊部員、誕生!?

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第1章  お出かけの前に

 部活動紹介日の蒼空学園は、準備のために早朝から生徒が集まり、ざわざわ、がやがやと落ち着かない雰囲気に包まれていた。大きな部はもちろんだが、部員の人数が少ない、学校から正式に部活動として認められるかどうかの瀬戸際にある弱小部にとって、部活動紹介日は文化祭と並ぶ発表の舞台であると同時に、部の存続を賭けた『勝負』の場でもある。準備にも気合が入るというものだ。
 文化部の部室が並ぶ部室棟は、展示の準備をしたり、備品を取りに来る生徒が足早に行きかって、騒ぎの中心のひとつになっていた。その片隅の、今はどの部も入っていない空き部屋に『準備中』の札をかけ、山葉涼司(やまは・りょうじ) と、エリサと名乗る少女の幽霊にとりつかれてしまったパートナーの花音・アームルート(かのん・あーむるーと)は、荒巻さけ(あらまき・さけ)サイクロン・ストラグル(さいくろん・すとらぐる)鬼灯七厘(ほおずき・しちり)カルナス・レインフォード(かるなす・れいんふぉーど)など、エリサと花音を助けようと集まった生徒たちは、ひそひそと声をひそめて、今日一日の行動について話し合っていた。
 「エリサさんは、どんな部を見てみたいと思っていらっしゃいますの?」
 さけに聞かれて、エリサ(身体は花音だが)は首を傾げた。
 『運動は、あまり得意ではなかったような気がします……。お歌を歌ったり、お花を育てたりするのが好きだったから……そういう所があれば、見てみたいです」
 「じゃあ、音楽系の部のステージ発表を見に行ってみましょうか。あとは……お花を育てている部は、ありましたかしら?」
 「植物研究部があるけど、あそこはパラミタ産の怪しい植物の研究中心だからなあ。普通の花なんてあったかな?」
 涼司が腕を組む。
 「んなの、行ってみればいいんだよ! 何が面白いかなんて、見てみなきゃ、やってみなきゃわからねーじゃねーか!」
 七厘が身を乗り出し、エリサの鼻先に人差し指を突きつけた。
 「好き勝手していい身体を手に入れることが出来たんだろ? ぐだぐだ考えてないで、片っ端から体験してみりゃいいんだ」
 「ちょ、ちょっと待ってください!」
 ほら行くぞ、とエリサの腕を掴んで今にも走り出そうとする七厘を、エリサと交代した花音が慌てて止める。
 「あの、身体は一応あたしのなので、あまり無茶なことはしないで欲しいんですけど」
 「わたくしたち自身が楽しまなければ、一緒にいるエリサだって楽しくないでしょうから、みんなでわいわい楽しむのは賛成ですけど、それはちょっとやりすぎのような気がしますわ」
 さけが小さくため息をついた。七厘は少しむっとした顔をしたが、反論はせずに椅子に座り直した。
 「でも、最初からあんまりがっちりルートを決めるのも、無理があるんじゃないですか?」
 サイクロンが他の生徒たちを見回した。
 「先生がどこに居るかなんて、全部把握できるわけないんだし。スタート地点がこの部活棟ですから、とりあえず、ここの中を見ながら体育館までは行くことにして、あとは、警戒に当たる人たちと、エリサの近くに居る人たちで連絡を取りあって、校内を回りながら、次にどこに行くかを決めていった方がいいんじゃありませんか?」
 「そうだな……結構人数集まってくれたし、ステージ発表の他は、その場の状況を見て、臨機応変に行った方がいいかもな。エリサも、予定になくても見てみたら興味持つってこともあるだろうし」
 涼司はうなずいた。
 「それから、もう一つ提案なんですが、先生にばれないように、この作戦に参加してる生徒以外の人がいる所では、エリサも花音として接した方が良いと思うんですが、どうでしょう?」
 「いや、それよりも、逆に花音じゃないと思わせた方がいい」
 サイクロンの提案を聞いて、カルナスが大きな紙袋を取り出した。
 「エリサに花音になりきって行動しろって言っても、多分無理だろ? なのに花音として扱ってたら、かえって先生が怪しむ。生徒全員の顔を覚えてる先生なんてまず居ないだろうから、変装させて『エリサ』として連れて歩いた方が、危険が少ないと思うんだ」
 紙袋の中から出て来たのは、メガネとリボン、そして女子の制服だった。
 「髪の毛三つ編みにしてメガネかけて、いつものその服を制服にしたら、結構違って見えるだろ」
 「そうですわね!」
 それを見たとたん、さけの目が輝いた。
 「さあエリサさん、着替えましょう! あ、男子の皆さんは外へ出ていて下さいませ」
 さけが男子生徒たちを部屋の外に押し出す後ろで、女子たちがわらわらとエリサに群がる。

 そして、数分後。
 さけに手を引っ張られて、三つ編みおさげをリボンで結び、制服を着たエリサが、恥ずかしそうにドアの向こうに姿をのぞかせた。
 「あー、確かに……花音と雰囲気違うし、別人に見えるわ」
 七厘が目をぱちくりさせる。涼司も、言葉が出ない。と、急に花音がエリサと入れ替わり、つかつかと涼司に近づいた。
 「涼司さん……今、何かヘンなこと考えませんでした?」
 「いやぁ、ただ制服姿も似合うなぁと思っただけだって」
 涼司は慌てて手を振って、自分と一緒にエリサから離れて周囲の警戒をする生徒たちの方へ振り向いた。
 「先に出る皆は、そろそろ行ってくれ。俺は後ろからついて行く。……言っとくけど、身体はエリサなんだから、くれぐれもヘンな真似はするなよな!?」
 「念のため、これを渡しておくね」
 ジーン・ハーンフル(じーん・はーんふる)が、水晶玉がついた携帯ストラップを差し出した。『禁猟区』のスキルで作ったものだ。
 「これを持ってると、危険が迫った時に俺に教えてくれるんだ」
 『はい……ありがとうございます』
 エリサはストラップを受け取ると、スカートのポケットに入れてあった携帯につけた。


第2章 扉を、開けて

 『もうそろそろ、出発してもいいかな?』
 携帯電話から聞こえて来た久世沙幸(くぜ・さゆき)の声に、櫻井恭介(さくらい・きょうすけ)は前方の廊下の様子をうかがいながら答えた。
 「オーケー。先生が何人か居るけど、こっちで気を引いておく」
 授業が行われる校舎より若干狭い廊下は、部室に見学者を呼び込もうとする各部の部員たちと、見学に回っている生徒たちで混雑している。その中にちらほらと、巡回を兼ねて紹介を見て回っている教師の姿も見えた。恭介はこちらへ向かって来る教師に近付くと、
 「おはようございます」
 と挨拶をして、中庭やグラウンドで行われている部活動紹介の様子はどうだったか、などと話し始めた。
 「行こう、セルファ」
 パートナーのヴァルキリー、セルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)に声をかけ、御凪真人(みなぎ・まこと)は近くにいる先生のうち、体育で主に武道を教えている先生に近付いた。
 「先生、セルファがこれから『魔法剣術部』の模擬試合に出場するんですが、見に来て頂けませんか?」
 「みてくれる人が多い方が、みんなはりきって試合すると思うんですよ。先生、お願いします」
 セルファも、教師の腕に手をかけて誘う。教師が気を取られたのを見て、御白誡(みしろ・かい)はエリサたちを振り向き、手招きをした。
 「よし、行こう」
 レイザー・ラドクリフ(れいざー・らどくりふ)はエリサの手を取ろうとしたが、ぱっと手を引っ込められてしまった。
 「あのね、何度も言うようだけど、身体はあたしなんですから」
 花音が表に出てきて、困り顔で言う。
 「あー、そうか。そうだよな……」
 レイザーはきまり悪そうに頭を掻いた。
 『ごめんなさい……』
 入れ替わったエリサがうつむく。
 『あの、花音さん、ちょっとだけ、この方と手をつないじゃダメですか? 涼司さんには、後でわたしが謝りますから』
 「……しょうがないですね。じゃあ、本当にちょっと手をつなぐだけですよ?」
 花音はレイザーに向かって手を差し出した。レイザーが手を握ると、エリサは小さく微笑んだ。
 『ありがとうございます』
 「じゃ、今度こそ出発!」
 沙幸はにっこりと笑って、エリサとレイザーの肩を押した。エリサを囲んだ生徒たちは、真人とセルファに声をかけられている教師の背後を通り抜けて行く。それに続いて通り抜けていった涼司が、誡に向かって親指を立ててみせた。親指を立て返した誡は、そのままその場に残って、歩いてきた教師に、
 「…何か面白そうな部活はありますか」
 などと話しかけて、足止めをする。その隙に、エリサたちは先へ進んで行った。
 「聞いたことがないような部活も、結構あるよねー。エリサ、見たいのがあったら言ってね?」
 沙幸があたりを見回すたびに、頭の横で束ねた髪が揺れる。
 「ああほら、なぎさん! よそ見ばかりしていると、あっと言うまにはぐれるって!」
 一行とはまったく違う方向にフラフラと行きかけたパートナーの剣の花嫁、柳尾なぎこ(やなお・なぎこ)をひょいと抱き上げて、東條カガチ(とうじょう・かがち)がたしなめた。二十代なかばに見えるカガチと、どこから見ても小学生にしか見えないなぎこがそうやっていると、学生同士のパートナーと言うより、まるで親子のようだ。
 「いっそのこと、エリサとレイザーみたいに手をつなぐか?」
 言いながら顔を上げて、カガチはおや、と眉を寄せた。目の前に、私服を着た女子生徒が立っている。エリサのまわりにいた女子生徒のうちの1人だったと思うが、なぎこを止めに来てくれたという様子でもない。
 「どうかしたかい?」
 カガチが声をかけると、女子生徒は、
 「いえ、何でも……」
 と手を振って、きょろきょろと周囲を見回し、慌てた様子でエリサの居る集団の方へ向かった。
 「何だ、あれ?」
 カガチは首を傾げて、それを見送った。