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リアクション
第六章 VS防衛システム
獅子小隊の前衛班――つまり、前田 風次郎(まえだ・ふうじろう)、蒼 穹(そう・きゅう)、黒 姫(くろ・ひめ)、イライザ・エリスン(いらいざ・えりすん)、ソフィア・クロケット(そふぃあ・くろけっと)、レオンハルト・ルーヴェンドルフ(れおんはると・るーべんどるふ)ら六名は、それぞれに武器を構えながら、防衛システムの射程圏外ギリギリに散開してタイミングを計っていた。
一方、レヴィアーグ・葬賢(れびぃあーぐ・そうけん)、レーゼマン・グリーンフィール(れーぜまん・ぐりーんふぃーる)、ルース・メルヴィン(るーす・めるう゛ぃん)、イリーナ・セルベリア(いりーな・せるべりあ)、霧島 玖朔(きりしま・くざく)ら射撃班の五名は一所に集結し、銃口を防衛システムへと一直線に定め。
その射撃班の背を守るように仙國 伐折羅(せんごく・ばざら)、ローゼニクルアクト・アマク(ろーぜにくるあくと・あまく)、シルヴァ・アンスウェラー(しるば・あんすうぇらー)の三名が射撃班を囲っていた。
未だ、射程内に踏み込む者の居ない防衛システムは沈黙を守っている。
そして。
「我は戦おう仲間のために、我は助けよう己のために」
ローゼニクルアクトが誰とも無く言った言葉が合図となったように、タイミングを計っていた風次郎らが一斉に防衛システムへと踏み出した。
瞬時に放たれたシステムのマシンガンが、牽制するようにイライザの足元の地面を抉り彼女の足を止める。
その隙に、他の前衛の者が一気に距離を詰めて行き、射撃班がシステムと互いの射程範囲ギリギリまで踏み込んで、一斉射撃を開始した。
防衛システムが移動のために駆動音が高く上げるが、絶え間無い射撃によって大幅に動きを妨げられる。
その間に風次郎がドラゴンアーツを発動して放ち、その一撃が防衛システムの装甲に食い込んだ。
刹那。マシンガンの銃口が風次郎に向けられる。
「風次郎殿ッ!!」
後方、パートナーの伐折羅の声が飛ぶのと、風次郎が銃撃にさらされるのとは、ほとんど同時だった。
「――ッッ、大丈夫だ」
直撃は避けたものの……かなりの深手であるのは間違い無い。
「クッ!」
だが、伐折羅には今、彼を助けに行く事は出来なかった。己に任された役目は、射撃班の背を下級モンスター達から守る事。
そして、戦いの気配を察したゴブリン達が現れ始めている。風次郎を信じて、己の役目に徹しなければいけない。
伐折羅の放った火術が遠くのゴブリンを焼いた。
「見たかっ!これぞ鍛えられた忍の力!」
一方、防衛システムの懐へと踏み込んだ蒼穹がシステムのセンサー部位を狙って、槍を突き出す。
が、防衛システムが素早く回避行動を行ったために、その切っ先は虚空を突いた。
「黒姫ッ!」
「頂きですよ!」
そのシステムの動きを予測していたパートナーの黒姫が、蒼穹に代わってセンサーへ槍先を掠めさせる。
「っ、惜しいですね!」
次いで、ソフィアの剣がシステムの装甲を削り、レオンハルトの光条兵器が深々とシステムへ振り下ろされた。
その光の力は装甲を切らずに内部へ直接ダメージを叩き込む。
システムの稼動音が僅かに軋む。
「音に変化が――」
後方より射撃を続けていたレヴィアーグが呟く。
「手応えは有ったみたいだな」
隣で射撃を続ける玖朔が頷く。
そして、ルースが口端を上げてボヤいた。
「ああ、でも、まだ全然動けるみたいですね」
「予想以上に頑丈なヤツだな」
イリーナが苦々しく呻く。
ルースは射撃を続けながら、すすっと彼女の方へ視線を向け。
「ところで――お嬢さん、このあとデートに行きませんか?」
イリーナはルースの視線を一瞥して、システムに視線を返してから盛大にため息を付いた。
そして、レーゼマンが視線もくれずに言う。
「後でソフィアに報告しておく」
言われて、ルースは軽く肩をすくめてから、また防衛システムを鋭く見据え直した。
システムの銃口がレオンハルトに向けられていた。
レオンハルトは己の次の姿が想像出来た。
向けられた銃口を睨み据える。
この距離、タイミング、避けられる筈は無いと知っていた。
そして、予想通り、鋭く激しい衝撃に打ち飛ばされる。
仲間の誰かが叫んだ声が聞こえる。
直撃だった。
だが。
「まだ――」
まだ、動ける。
「危険です。あなたは撤退を。私が援護します」
イライザがフォローに入ろうとする。
「まだだ」
レオンハルトが血を吐き捨てながら言う。
言われて、イライザは視線を一瞬ばかり後方のレーゼマンの方へと向けた。
遠く、レーゼマンが僅かに首を振ったのが見える。
「了解しました」
イライザは言って、防衛システムへと斬り込んで行く。
蒼穹と黒姫の槍が続けざまに防衛システムのセンサー部にダメージを入れた。
次いで、風次郎とソフィアがそれぞれ一撃を成功させる。
後方、射撃班に近づくゴブリンへと火術を放ち、伐折羅が心配そうに防衛システムと戦う者達の方を見やった。
「クッ――風次郎殿に続いて、隊長殿まで」
「助けに行けぬのが歯痒い――が」
ローゼニクルアクトが伐折羅の火術を抜けて迫るゴブリンを武器で牽制しながら続ける。
「我らは信じるしか、ない」
「あの人は大丈夫ですよ」
光条兵器を構えながらシルヴァが簡単に言った。
そして、彼はゴブリンへと一太刀入れて、ゴブリンへと微笑む。
「済みませんが、此処から先は通行止めとなっております」
絶え間なく銃声を響かせる射撃班。
「もうじき……タイムアップだ」
玖朔が言い放つ。
定めた時間までに倒し切れなければ撤退。
彼らは、そう決めていた。
「かなり良い線までいってる筈だ」
レヴィアーグが言う。銃声の間に聞こえていたのは乱れ行く稼動音。
イリーナは苦く顔を曇らせていた。
「だが、負傷者が――時間にならなくてもマズそうだったら……」
「どちらにせよ、女性が傷付く前に終わってくれるとありがたいですね」
ルースは軽い口調で言ったが、その表情は真剣だった。
しかし、その願いも虚しく、蒼穹と黒姫を防衛システムの攻撃が襲う。
「ッ――!?」
「キャァ――!?」
薙ぎ払うように放たれたマシンガンに二人はさらされたが、攻撃が分散していた分、ダメージはまだ少なくて済んだ。
レオンハルトの光条兵器が再び、内部へ直接ダメージを叩き込み、風次郎が外部へと更に一撃を加える。
そうして、装甲が剥がれた部位へと射撃が集中する。
イライザの切っ先が走る。
次いで、ソフィアの剣が動力部へ深々と突き刺さり――
「これがシャンバラの獅子の力だ」
レーゼマンが眼鏡の位置を指先で直しながら言った。
「やれやれだな……」
風次郎が武器を納める目の前で、ギ、ギ、と各部をぎこちなく痙攣させながら、防衛システムはゆっくりと、その身を地に落として行く。
そして、ずるずると引き攣るように稼動音が収束して行き、その動作を停止した。
「目標の撃破、完了しました」
言って、イライザが剣を降ろす横で蒼穹が口元の血を拭う。
「今の、私の実力なら、こんなところかな……」
そして。
ザン、とシステムの残骸を踏み付ける男の足。
「貴様はシャンバラの獅子に狩られたのだ、光栄に思うが良い」
レオンハルトが血を噛んだ。
◇
「おや、どうせ癒すなら可憐なお嬢さんが良いのですが」
シルヴァがレオンハルトの傷をヒールで癒しながら戯言を言う。
レオンハルトはそれを面白くもなさそうに流す。
その傍らでは風次郎がローゼクニクルアクトのヒールを受けていた。
その肩を笑んだ伐折羅の手が叩く。
「心配したでござるぞ! 風次郎殿」
「大丈夫だと言っただろう?」
風次郎は伐折羅の方へと軽く笑んでから、ローゼニクルアクトへ。
「俺はもう大丈夫だ。蒼穹と黒姫を……」
「ああ」
ローゼニクルアクトは頷き、彼女らを探して首を巡らせた。
「……黒姫は何処に行った?」
「あっちだ」
レヴィアーグが指差したのは、防衛システムの残骸だった。
「くすくす、もらっちゃってもいいですよね」
黒姫は残骸を漁っていた。
「こんなガラクタを抱えて、残りのコースを行くつもりか?」
玖朔が冷静に言い放つ。
「……あ」
言われて、気付く。
そして、黒姫は何か恨みがましそうに玖朔の方を見上げた。
「俺をそんな目で見られても困る」
玖朔は片眉を曲げた。
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