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悪戯っ子の目に涙!?

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悪戯っ子の目に涙!?

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 食べる物が揃ったせいか、場もだいぶ和んできた。
「友達がたくさん集まるっていうのは、いいもんですね」
 両手でティーカップを持ってふーふーしながら、アルモがビュリに言った。
「そうじゃな。でも、ここにいるみんなは、全部友達なのか?」
 さっきは戦っていた者たちもいたことを思い出して、ビュリは小首をかしげた。
「友達よ。もし、まだ友達じゃなかったら、今友達になっちゃえばいいのよ。だから、私とも友達になろう」
 言いながら、朝倉 燐(あさくら・りん)がビュリにだきつこうとした。だが、彼女の手がビュリにふれる直前で、白い手袋をはめた手がすっと二人の間に差し入れられる。
「お客様。メインゲストには、お手をふれないようにお願いいたします」
 執事服のアレフが、やんわりと朝倉を牽制した。そのまま、自然な動作でビュリをエスコートして、彼女から遠ざける。
「ああ、美少女が遠ざかっていく……」
 朝倉は、がっくりとうなだれた。
 アレフが移動した先では、ラティアとビャクヤがビュリに近づいてきた。
「友達になるのなら、迷惑かけた分は謝らないとダメだよ」
「そうだよね。そこからが友達の第一歩になるんだから」
 ラティアの言葉に、ビャクヤがうなずいた。
「分かった。町のみんな、ごめんなのじゃ」
 ビュリはステージに駆け上ると、深々と頭を下げた。魔女のとんがり帽子がコロンと落ちて足下に転がる。
「偉大な魔女は、自分の過ちは素直に認めるのじゃ。わしは、わしがみんなの役にたつことをすれば、みんな喜んで友達になってくれると思っておったのじゃ。だが、わしがいいことと思っていたのは、わしが勝手にそう思っておっただけじゃった。これからは、ちゃんと、みんなに話す。話して、聞く。それで、許してくれるだろうか」
 返事はなかった。
 恐る恐るビュリが顔をあげると、町の人々も学生たちもニッコリと微笑んでいた。
 思わず、ビュリも少し涙をにじませながら顔をほころばせてしまう。
「はい」
 シャンテが、拾いあげた帽子をビュリに手渡した。
「みんな、友達になれたと思ってもいいのじゃろうか。それとも、これもわしの勝手な思いこみなのじゃろうか」
 嬉しい反面、ちょっと不安になってビュリはつぶやいた。
「それは、身勝手な思いこみなどではなーい。なぜならば、身勝手な者には、誰も微笑んではくれないからだ。正義の味方である俺が言うのであるから、間違いなーい!」
 突然、ステージの端に立てられた柱の上から声がした。
「とうっ!」
 華麗にジャンプした声の主は、ストンとビュリのそばに舞い降りた。マントのように広がるように改造したイルミンスールの制服を翻してビュリの身体を軽くつつむようにして跪くと、目許を仮面で覆った顔をゆっくりとあげた。
「緑陰の騎士クロセル・ラインツァート推参」
 口上とともに、なぜか仮面がきらりと光る。直後、クロセルが観客席の方をむいた。
「よい子の皆、危ないからオニーサンの真似をしちゃダメですよ」
「するかー」
「ひっこめー」
「空気読めー」
 さすがに、観客から罵声が飛ぶ。
「ははは、その通りだ。正義を僭称する奴には、消えてもらおう」
 低く重い声とともに、ステージの一部が盛りあがり始め、そして吹き飛んだ。そこから現れた者は……。
「出たな、地獄探索機フロンティーガー!」
 クロセルが、ちょっと棒読みの混じった口調で叫んだ。
 楽園探索機フロンティーガーが、改造の施された身体なのか本当に最初からロボットなのか分からないボディから、悪役っぽい雄叫びをあげた。
「さあ、大変なことになってきました。ビュリさんを巡っての、正義仮面と悪の重機の対立。はたして、戦いの行方やいかに」
 突如始まったヒーローショーに、シャンテが司会を続けた。
「何か、根本から間違ってるんじゃ……」
 六本木が、密かに絶句した。
 彼女や大半のお茶会の客が感じた思いは無視されて、ヒーローショーは進んでいく。
「フロンティーガーの兄貴、ビュリさんをこっちにいただいちまいましょうぜ」
 フロンティーガーの子分役の鈴倉が、ビュリを指さして芝居っぽく言った。
 とうのビュリは、最初は面食らっていたものの、どこか楽しんでいるようだ。
「よし行け、戦闘員よ」
「おー」
 フロンティーガーに命じられて、鈴倉がバーストダッシュで突っ込む。
「なんの、正義の鉄拳」
 クロセルが、ドラゴンアーツを使ったカウンターで鈴倉を弾き返した。もちろん、鈴倉は事前に女王の加護を使っているので無傷のはずだが……。
「アレフ、あれじゃビュリさんが危ないよ」
 レイがブラウンの瞳をむけて、パートナーのアレフに訴えた。
「分かっていますよ」
 アレフは、そう答えるとショーの続いているステージに近づいていった。
「お客様。そろそろティーブレイクのお時間です。ケーキもございますよ」
 右手に持ったティーセットを差し出しながら、アレフはビュリに言った。
「ケーキもか!」
 ビュリが目を輝かせる。
「ええ、ラティアさんの手作りの物が。では失礼いたします」
 言うなり、アレフがクロセルからひょいとビュリを奪い取って片手にかかえた。
「おい、今はショーの最中……うぼっあ」
 止めようとして注意を逸らしたクロセルが、鈴倉の一撃を受けてひっくり返った。その間に、アレフがビュリを観客席に戻す。
「痛かったんだぞー!」
 頬を押さえながら、鈴倉が叫んだ。どうやら、女王の加護でも、クロセルの一撃を全部防ぎきれなかったらしい。
「そのくらい、自分で防がないかあ!」
 再び、クロセルが鈴倉を吹っ飛ばす。もんどり打った鈴倉は、フロンティーガーの顔面に激突した。それを見て、思わずクロセルが笑ってしまう。
「うううう……。んがあぁぁぁ!」
「ちょ、待て、これはショー……うわあ」
 ステージの上で、乱闘が始まってしまった。もうすでに、設定もストーリーもありはしない。
「おい、何やってんだ。これじゃ段取りが……。わあ」
 巻き込まれそうになって、司会のシャンテもあわてて避難してきた。
 他の観客たちも、席から立ちあがってステージ近くから逃げだし始めている。
「まずいな、本気になって我を忘れちゃってるよ。そうだ、ビュリさん、あいつらをなんとかできませんか」
 困り切って、シャンテがビュリに助けを求めた。
「ん? あ奴らを、どこかへやればいいのか?」
 聞きながら、ビュリはアレフのくれたショートケーキのいちごにフォークを突き刺した。そのままパクリと一口にして、嬉しそうに顔をほころばせる。
「ええ、お願いします」
 シャンテが頼むと、ビュリが空中にルーンを切った。
 暴れていた三人の下のステージで、空気の爆発が起こった。火が伴わなかったから、突風か何かだろうか。それはフロンティーガーの巨体さえも持ち上げて、公園の端まで吹き飛ばした。
 そのままでは、三人とも大怪我をしてしまうと思われたとき、なぜか樹と樹の間で三人の身体が不自然な形で止まった。
「おや、あれは私たちが仕掛けた霞網の罠じゃないですか」
「ええ、私たちの努力が無駄にならないですみましたわ」
「よかったよかった」
 リョウとアリスティアが、喜びながら三人を霞網から外すためにむかっていった。
「それにしても、うまく吹っ飛ばしたわよね」
 峰谷は、感心したように言った。
「むろん、わしは偉大な魔女だからの。もう誰も傷つけたりはしないのじゃ。まあ、まだちょっと派手かもしれぬが……」
 ビュリの言葉に、町の人たちからくすくすと笑いがもれた。
「もう大丈夫よね。みんな仲直り完了ね」
 峰谷は、町会長とビュリを握手させて言った。
「じゃあ、あらためてスキンシップを」
 朝倉が、ビュリの頭をなでようとする。だが、その手がすりすりしたのは、アレフが絶妙のタイミングで差し出した銀のお盆だった。
「さて、そろそろお開きの時間に……」
 シャンテがそう言いかけたとき、遙か遠く、ビュリの家がある森の方から何か火の玉のような物が空中高く飛び上がった。一瞬後、高空でみごとな光の花が二つ咲く。やや遅れて、ドーンという音が聞こえてきた。
「たまやー」
 思わず誰かが叫ぶ。
 なぜか、ファストナハトは、それを見て涙があふれてくるのだった。
「誰が花火なんか仕掛けたのかしら」
 ベアトリーチェが口にした疑問に、ビュリがちょっと困ったような顔になった。
「たぶん、泥棒じゃ。わしの家に仕掛けた泥棒よけの罠に、一斉に引っかかったとみえる」
「えっ、でも、あの爆発じゃ、ビュリの家も一緒に吹っ飛んじゃったんじゃないの」
 桜華が、驚いて言った。
「かもしれぬ。はははは、困ったものじゃ」
 ビュリが、乾いた笑いをあげた。
「でしたら、これを機会にどこかの学校に入るのはどうでしょうか」
「それはいいかも。寮のある学校って多いもの」
 ベアトリーチェの提案に、小鳥遊が同意した。桜華もうなずいている。
「だったら、イルミンスールだよ。面白いことが一杯だよ」
 大きな目を一杯に見開いて、風滝が叫んだ。
「確かに、我が校なら寮も完備していますね」
「それがいいぜ」
 朱鷺に肩を借りて戻ってきたクロセルが言った。朱鷺もそれに同意する。
「それでしたら、いっそ我と契約を結びません?」
 狭山が申し出たが、ビュリはやんわりとそれを断った。
「わしは、もっといろいろな友達を作ってみたくなったのじゃ」
「じゃあ、まずは手始めとしてイルミンスールへ行かれるといいと思います。わたくしが、いいえ、わたくしたちが御案内いたしますわ」
 リフレシアが、ビュリに言った。
 ビュリは、それに思いっきりうなずいた。
「うん。きっと、まだ知らない誰かが待っているに決まっているのじゃ」

担当マスターより

▼担当マスター

篠崎砂美

▼マスターコメント

 初リアクション完了です。
 あれ? このシナリオって、こんな話でしたっけ?
 いや、基本的な流れは想定通りのはずなんですが、予想外に派手な流れになってしまいました。若干一名、ダークサイドに逝きかけた人もいますし……。
 途中からかなり予想外の流れになっていったので、予定通りの展開にならなかった人も多かったと思います。特に説得するアクションは、多数の人がだぶったためにかなり成立しにくい結果となっています。申し訳ありません。
 ただ、ほぼすべてのキャラに大なり小なり見せ場は作ってあげられたはずなので、自分や他の人との絡みを楽しんでいただければ幸いです。思わぬところで、自分の行動が後の伏線になっている人がたくさんいますので。
 なお、今回、イベントシナリオとしては、かなり多い描写量になっています。とりあえず、初回サービスということで。
 では、また次のシナリオでお会いしましょう。