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リアクション
第1章 旅立ち
出発を翌日に控えレインを中心として、蒼空学園の教室に今回のプロジェクトに参加するメンバーが集まった。
「コンフリー村までは私がご案内します」
レインの説明を、みんなが真剣に耳を傾けていた。ツァンダの領主が手配している資材や技術者を、悪路が続くコンフリー村まで、運ばなければならない。その後、コンフリー村の北の山の山頂付近にアンテナを設置することになっていた。その後、シャンバラ教導団の教官、沙 鈴(しゃ・りん)が中心となって生徒たちは各自の得意分野から、護衛、資材運送などの担当を決めたのだった。
次の日、朝早く、ツァンダからコンフリー村へは護送ルートに待ち伏せしているバラ実生徒の戦力の分散及び低下を狙うために、葉月 蓮華(はづき・れんか)が一番手で出発した。
集団行動が苦手な蓮華は、前日までにレインから実際にツァンダ〜コンフリー間を探索し、付近の地形やバラ実について村で聞いた情報と実際に見た情報とを照らし合わせて、メンバーと検証しておいたのだ。それは集団行動が苦手な蓮華にとっては、非常に努力のいることだった。とはいえ、彼には楽しみがあった。
「本隊が到着するまでに時間がありそうなら、温泉にでも入って待つかな……」
指揮を執るのは、村雨 焔(むらさめ・ほむら)。闇色の外套(クロークマント)を常に纏っており、腰まで届く、闇より深い漆黒の髪と同色の双眸で、時にその外見から女生徒間違われるほどの美丈夫であった。彼は周囲との連携を図り、まるでオーケストラの指揮者のように部隊全体をまとめていく。
参謀は沙 鈴。過度に干渉はしないが、統率の取れた行動に寄与できればと考えて、参謀役を買って出た。
技術者や資材を積み込み、出発の時を迎える。資材は車に乗せ、馬に引かせることとなった。また、蒼空学園の生徒は、小型飛空艇を操縦している。
「パラ実が欲しがっているのは、ツァンダからの資材だ。気を抜くな」
村雨の檄に、みんながこぶしを突き上げて応えた。
またウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)と蒼 穹(そう・きゅう)がレインからパラ実の生徒をどこでみたか、ルート上の近くに蛮族が住んでいないかの情報収集し、みんなに安全なルートを示していた。
蒼 穹は『ニコニコマッスル隊』と連携をし、特に機材運搬の護衛を務めることになっていた。
「パラ実なんかに負けないわ」
意拳、神意拳を修めた蒼 穹は、うずうずとその力を試したがっていた。
それに弥涼 総司(いすず・そうじ)と、アズミラ・フォースター(あずみら・ふぉーすたー)が加わる。
フェレットの『なつめ』を連れた動物好きの総司は、本来、桃源郷(女湯)を覗くためにコンフリー村へ向かうことを決意したのだ。
「思いっきり汗をかいた後の桃源郷(女湯)は最高だろうなあ。機材運搬の休憩時間にでも 一緒に同志の募集と現地調査はしておこう。斥候としてローグだけは確実に仲間にしておきたいぜ…」
「総司くんからドス黒いオーラが見えるような気がするんだけど、気のせいかしら?」
パートナーの吸血鬼のアズミラ・フォースターはショートウェーブの金色の髪をゆらして、首をかしげている。
「ニコニコマッスル隊」と銘打たれたメンバーを中心にして、部隊は出発した。島村 幸(しまむら・さち)と、桜間兄妹の妹、桜間 さやか(さくらま・さやか)とが偵察部隊として、先に出発することになった。用意した地図とコンパスを使いつつ、周辺の偵察、罠や敵の待ち伏せなどを警戒する為、集団より前を先行する。
理数大好き、実験LOVE、白衣をまとう男性の姿をしている幸だが、実は女性であった。だがさやかはそれを知らない。
「…ケン兄ちゃんたら綺羅瑠璃さんとパートナー組んじゃって! ケン兄ちゃんは、あたしがいないとてんでダメなくせに! しかも、あたしが反対したら、『温泉入れてやらないぞ』なんて、ひどいひどぉい! …ようし、あたしは幸さんとラブラブになって、ケン兄ちゃんに焼き餅を焼かせちゃうんだもん! …よろしくお願いしますね、幸さん!」
きらきらっと真っ赤な瞳を輝かせ、さやかは幸に笑いかけると、幸もにっこりとほほえみ返す。
「よろしく、さやかちゃん」
その次に続くのが、ベア・ヘルロット(べあ・へるろっと)のパートナー、マナ・ファクトリ(まな・ふぁくとり)と、沙 鈴。さらに桜間 剣児(さくらま・けんじ)と、沙 鈴のパートナーの綺羅 瑠璃(きら・るー)がコンビを組み、囮となることになった。
しんがりを勤めるのは、大人びた顔立ちをしたベア・ヘルロットと褐色の肌のガートナ・トライストル(がーとな・とらいすとる)。この二人も資材や技術者を守る重要な役割を担っていた。
レインや技術者、資材を護衛部隊が取り巻くようにして、進んでいく。
イルミンスール学園から、このプロジェクトに参加した御影 春菜(みかげ・はるな)と御影 春華(みかげ・はるか)の双子の姉妹も活躍した。二人は「魔力の気配」感じとる事が出来たため、部隊に近づいてくる蛮族やゆる族の退治を担当することとなった。
「いと深き場所に眠る原初の炎よ〜我が命に応え我が敵を焼き払え〜」と呪文を唱え、車両周辺を炎のカーテンで包み、部隊を襲おうとした魔物や蛮族を打ち倒したが、火術をコントロールし、熱が車両に伝わらないよう、春菜は気をつけていた。
そんな一行を赤外線双眼鏡で見つめている人物がいた。中国で生まれ幼いころに華僑としてイギリスに渡り、親を殺された過去から権力への執着心が人一倍強いパラ実の朱 黎明(しゅ・れいめい)、その人であった。朱 黎明は、このプロジェクトを聞きつけ、権力の頂点に立つために、豊富な資材を手中にしようと画策していたのだ。
「ツァンダを出発しさえすれば、資材は私の物です」
その側にいるのは、黎明の唯一信頼する、ネア・メヴァクト(ねあ・めう゛ぁくと)だった。
厳しい行程の中で、癒しを担当したのは津久田 夏(つくだ・なつ)と一乗谷 燕(いちじょうだに・つばめ)だった。
関西弁で喋る執事見習いの津久田 夏は、常に一歩引いた状態で依頼者や技術者の後ろを大人しくついてきていたが、万が一戦闘になった場合には真っ先に飛び出して身体を張って彼らを守る気合い充分だった。また、道中での休憩時には持参した紅茶などを振舞い、それが仲間たちからの評判も上々だった。
「おいしいですわ。わたくし、甘い物は苦手ですが、これは美味しくいただけます」
沙 鈴が津久田 夏を絶賛し、綺羅 瑠璃もそれに同意する。
「熱い紅茶に特製蜂蜜をたっぷり、入れてみました。疲れた体には、冷たいもんよりあったかいもん、甘いもんがええと思ったんで」
引っ込み思案の彼だったが、レインや技術者たちのために一生懸命尽くしているのが、周囲からも良く理解できた。
また、資材・技術者を護衛担当している一乗谷 燕が作る温泉卵の評判も上々だった。資材が多いため、一乗谷 燕は出来るだけツァンダとコンフリー間を小型飛空艇を使って往復し、道中の安定を図ることを担当していた。一乗谷 燕は日中の護衛でついでに鳥の卵を運び、温泉卵を作って、仲間に配ってくれたのだ。育ちが良さそうな燕の京風の味付けは、温泉卵にはぴったりだった。
「レインはん、あんさんの温泉宿の名物にこの温泉卵、どないです?」
「美味しいわね。うん、考えてみるわ」
遠江 鮠(とおとうみ・はや)は「ひまつぶしだから」と最後尾をだらだらついていく。
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