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天気晴朗なれどモンスター多し

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天気晴朗なれどモンスター多し

リアクション

 絶好調の太陽が眩しい。
 手の届きそうな青空の向こうに綺麗な白い雲が浮いている。
 そんな夏の空の下、貝殻を含んだ砂がサラサラと潮風に遊ばれて浜辺。
 心地の良い海の香りの中に居たのはカップルでも白いワンピースの令嬢でも無く――
 物々しい武器を担いだ厳めしいウェットスーツ姿の一団だった。
 その異様っぷりが夏の浜辺の爽やかさを完膚無きまでに粉砕している。
 ともあれ、そこには一条 アリーセ(いちじょう・ありーせ)の朗々とした声が響いていた。
「――以上が筋力増強スーツの詳しい運用方法になります」
 アリーセは手元の資料を膝にぱたりと落としながら、はたで聞いていた楊教官の方をちらりと見やる。
 楊教官の頷きを確認してから、目の前に並んだスーツ着用者達の方へと視線を返し。
「繰り返しになりますが、あくまで試作品です。使用時間、被ダメージには十分に注意してください」
 言ったアリーセの横でプリモ・リボルテック(ぷりも・りぼるてっく)が続ける。
「一応。一号艇にはあたし、二号艇にはアリーセちゃんが乗ってくけど――基本は、データ収集になると思うから、あんましアテにしないでね」
 カメラを片手に、にへっと笑んだプリモに合わせて、アリーセも笑みを浮かべた。
「では、皆さん、よいサンプルデータを期待してます♪」


「天気が良いわね」
 紫光院 唯(しこういん・ゆい)は波音の中で青く晴れた空を見上げていた。
「ええ」
 しゃがんで砂へ手を差し入れていたパートナーのメリッサ・ミラー(めりっさ・みらー)が同じように空を見上げて頷く。
「折角の海。メリッサと遊べたら最高だったのに……戦闘だなんて」
「もともと訓練だったのですから、事件がなくとも遊べなかったと思いますよ? 気持ちは嬉しいですけれど……」
 メリッサは砂を指の間からさらりと零してから、立ち上がって、唯の方へと微笑み掛け。
「きっと機会はまたありますから、今度また一緒に海へ来ましょう? それに、わたくし達は力を得ていかなくてはなりません」
 言って、彼女は海の方へと視線を運ぶ。
 唯は彼女と同じように微笑を口元に浮かべて頷いた。
「そうね……」
 そして、唯もまた海へと視線を返す。


 海の向こうには巨大なタコとイカとクラゲの姿が見えていた。
 その奥には、本来なら遠泳のゴールになる筈だった小島が見える。
「イカやタコ、サメは食べられるのでしょうかねぇ……」
 シエンシア・カサドール(しえんしあ・かさどーる)は、それらを眺めながら、のんびりとした声で零しつつ小首を傾げた。
 その声は相変わらず、どこかしら楽しそうな色が滲んでいる。
「さて、どうでしょうな?」
 隣でパートナーのツーク・アイデクセ(つーく・あいでくせ)が、ふむ、と頷く。
 シエンシアは、ふと気付く事があって、ふわりと彼の方へと視線を向けて、ゆったりとした瞬きを一つした。
「ツークさん。今日は少し元気がありません?」
「濡れたり水に入るのが少々苦手でしてな――しかし」
 ツークは軽く肩をすくめ。
「結果的に、楽しめるのであれば。そんな事は些細な問題ですな」
 結局、いつもの調子でシエンシアへと声を返した。


 ◇


イカ前半戦


 巨大イカを目指して泳いでいた生徒達の目に最初に映ったのは、イカでもサメでも無く、黒のブーメランパンツを履いたグラウェン・ロックベル(ぐらうぇん・ろっくべる)だった。

 彼は全力だった。
 サメの群れに追われて全力で泳いでいる。
 どうやら、彼は教導団のモンスター駆除とは全く関係の無い遠泳だかなんだかで、この海域に迷い込みサメに追われてしまっているようだった。
 そして。
 生徒達がそこへ辿り着く前に、彼はそこらのサメの群れを引き連れたままタコの方へと消えていってしまった。
「何処の誰だか分からねぇけど……ブーメランパンツ男――いや、黒いブーメラン! アンタが身をていして作ったこのチャンス。キッチリ活かしてみせるぜ!」
 涙こそ流しはしなかったが男泣きめいた様相で神代 正義(かみしろ・まさよし)はブーメランパンツ男を見送ってから、熱く拳を握って巨大イカの方へと向き直った。
 そして。
 彼は、お面をべっしゃんと水飛沫と共に装着し、
「セットアップ! パラミタ刑事シャンバラン!」
 高らかに掛け声を叫んだ。
 お面を被った際に思いっきり海水を喉に叩き込んでいたというのに、咳き込まなかったのは彼の熱い血潮の成す所。
 その叫びに呼応するように、巨大なイカの足が海上へと姿を現す。
「先手必勝!」
 高く隆起し踊る海面を突っ切って、水中銃を担いだ正義がイカの方へと勢い良く泳いでいく。
「まあ……確かに、機が良いのは間違いないな」
 零れた。正義とは対照的な落ち着いた呟き。
 ロブ・ファインズ(ろぶ・ふぁいんず)の射撃が、正義を襲おうと海上に伸び上がったイカの足を撃ち叩く。
「しかし――イカのあのルックスはどうにも好きになれないな」
 再び撃ち出された弾丸が、正確にイカ足へと衝撃を重ねた。
 正義の背の海面が、狙いをそれたイカ足の衝撃によって派手に飛沫を上げる。
 その隣で。
「ルックス?」
 比島 真紀(ひしま・まき)が、イカ本体の方へと泳いでいく戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)と、彼のパートナーであるリース・バーロット(りーす・ばーろっと)を狙うイカ足を狙撃しながら問い掛ける。
「ああ。ついでに……味も好みじゃないな。どうにも味気無くて」
 ロブの方も正義周辺のイカ足を狙った格好のまま、真紀に返して、また引き金を引いた。
「なるほど」
 言った真紀の銃撃が、リースに向かっていたイカ足を牽制する。
 と。
「――ところで」
 真紀のパートナーのサイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)が真紀の横に来る。
「水中銃。こいつの射程じゃ、奴の懐に入らないとキツイぜ? どうする?」
 問い掛けを受け、真紀は、ふむ、と少し考える間を取ってから。
「折を見て内に入る、か……。ともあれ、しばらくソイツの使用は様子見だな」
「了解」
 サイモンは頷き、水中を蹴った。
 そうして、ドラゴンアーツの構えに入る。
 

「とにかくプレッシャーを掛けて――」
 香取 翔子(かとり・しょうこ)は、己の思考の端を口に掠めつつ、引き金を引いていた。
 その銃撃を援護に、
「さて、頑張りましょうか」
 樹月 刀真(きづき・とうま)と、朝霧 垂(あさぎり・しづり)がイカ本体へと距離を詰めていく。
「っし、行くぜ! 樹月」
「垂、がんばってー!」
 垂のパートナーのライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)が後方から黄色い声援を飛ばす。
 その横では、刀真のパートナーの漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が不安げにイカの巨体を見つめていた。
「……大きい」
 ほつりと零し、刀真の背へと視線を降ろす。
「頑張って……だけど頑張らないで」
 刀真の身を案じた複雑な想いと共に、再び零れた呟き。


 銃撃音が溢れる中へと昴 コウジ(すばる・こうじ)は自身の銃声を重ねていた。
 合間に、離れた場所で銃撃を行っている翔子の方へと視線を走らせる。
「なるほど。香取はイカをその場に固定したいらしいな」
「そのようです」
 パートナーのライラプス・オライオン(らいらぷす・おらいおん)が抑揚無く返答する。
 コウジは頷き。
「なら、こちらも協力するとしよう――しかし、その前に僕らは大きな問題を解決しなければいけない」
「……?」
 ライラプスが小首を傾げる。
「姫抱きは如何なものかなっ!」
 コウジの言葉に小首を傾げたライラプスが、よっこらせ、とコウジの体を抱え直す。
「何か問題が――」
「あるっ! 男子たるもの、いや、軍人としての根源に関わるような大問題がっ!」
 コウジの全力の抗議を受けて、ライラプスは、しばらく考えるような間を取り。
 そして。
「金槌の癖に水上訓練に参加、それも泳法必須の任務に出た事自体が問題なのでは? 無謀に過ぎると判断します」
 真っ直ぐな視線でコウジに言う。
 コウジは、ふっとアンニュイな息を一つ洩らし。
「本当は護衛艇での活動を希望しようと思ったんだ」
「それで?」
「申請書を盛大に書き間違えた――しいていえば、徹夜で大戦映画のラリー鑑賞をした後で書いたのが敗因かもしれないね」
「決定的に明確な答えがそれだと判断します」
 ライラプスの言葉を半ば聞き流す形でコウジが、ひょろりと溜め息を付く。
「幸い、キミのフロート加工が間に合ったから何とかなりそうだけど……」
「フロート加工……」
 じっと、ライラプスは己の水着姿と、そのあちこちに括り付けられている数個の小さな浮き袋を見下ろした。
 その内の一つが、ぷつっと切れて波に流されていく。
「なんだい?」
 コウジが不思議そうに首を傾げる。
「……いえ、なんでも」
 ライラプスは、すぅと視線を逸らし応えた。
「ともかく、体勢を変えよう」
「しかし――そうなると、後は背負うしかありませんが?」
「何故その回答が一番最後になるのか知りたい所だね。……うん、まあいい。とにかくそれだ。それで行こう」
「了解です」
 ライラプスは頷き、主たるコウジが、よじよじと自分の背へ這って回るのを待った。


 ロブの援護射撃に圧されたイカ足が、正義の手前の海面を叩いた。
 起きる飛沫を突っ切りながら、正義は水中銃を構える。
「貰ったぜッ! くらえ! シャンバランスピ――れ?」
 あ、と気付く頃には、正義の体は海上に吊り下げられていた。
 正義の足を取り、彼を海から引っこ抜いたイカの足が一気に正義の体に絡みついていく。
「――あグッッ」
「正義殿ッ!?」
 小次郎が筋力増強スーツによって強化された身体能力を活かし、海面のイカ足を蹴り跳び、空中に身を躍らせながら声を上げる。
 そして、同じく筋力の強化されているリースが、
「今、助けを!」
 迫るイカ足から身を翻しながら、正義を捉えるイカ足の方へと水中銃を構えた。
 しかし。
「大丈夫だッ! ヒーローは負けねぇ!」
 その叫びと共に、正義が己に絡みつくイカ足の枷を力任せにこじ開ける。
 筋力増強スーツをオンにしたらしい。
 そして、空中へと躍り出た正義は、肺に目一杯の空気を吸い込み――
「大変身!」
 それを叫びとして吐き出した。
「シャンバランRX!」
 輝く太陽を背に名乗る彼を見上げて、
「……RX?」
 リースがきょとりと呟く。
 小次郎が己に迫ったイカ足を掌で叩き、己の身を更に空中へと逃がして、もう一本の足を回避しながら、目を細める。
「どこがどう変身しているのか、と、言ってしまうのは無粋なのでしょうね」
 ともあれ、シャンバランRXこと正義はイカ足より飛び出した状態から、水中銃の切っ先をイカの本体へと合わせ。
「くらえ! シャンバランスピアァア!」
 それを撃ち出した。
 至近距離から撃ち込まれた銛がイカの本体へと深く刺さる。
 その痛みに震えたイカの足数本が正義を捉えようと振り出されていく。
 正義は撃ち終えた水中銃を海へと投げ捨て、迫るイカ足を蹴り、殴り、あるいは掴んでから、それを踏み台にして己の体を空中へと跳び逃がして、その攻撃を捌いていく。
 その一方で。
「今ですわ、小次郎」
 リースが水中銃からナイフへと持ち替えながら海水を蹴って、振り下ろされるイカ足を避ける。
「ええ」
 彼女の視線の先、小次郎が水中銃を構えている。
 正義とリースにイカ足が引き付けられているために、彼の切っ先からイカ本体までを遮る物は一切無い。
「――こちらは地味に決めてしまって、すいませんね」
 狙いを定め、撃ち出す。
 銛は方々で舞う飛沫の中を貫き抜けて、イカ本体へと突き刺さった。


 イカ本体へと距離を詰めていく刀真の身体目掛けて、幾本かのイカ足の先が伸び来る。
 それを垂の鞭型の光条兵器が牽制していく。
「行けッ、樹月!」
 刀真のすぐ後方で鞭を振るう垂の一声。
 そして。
「おいイカ、大人しく殺されろ」
 刀真が水中銃を構える。
 垂の光の鞭が刀真の身体を摺り抜けて、イカ本体までの射線を塞ごうとしていたイカ足を牽制した。
 引き金を引く。
 撃ち放たれた銛が海面を擦り上げて飛沫を散らしながらイカ本体へと吸い込まれていく。
 そして、震えるイカの身体。
「っし、このまま畳み掛けるぜ! 樹づ――」
 と、垂の声が息の端を残して空に昇る。
「朝霧さん!?」
 刀真が振り返り見れば、垂の身体はイカの足に捉えられ、強く締め付けられていた。
 すぐに刀真は水中銃を海中へ捨て、自身に伸び来るイカの足先を避けながら垂を捉えたイカ足の方へと向かった。
 そこへ。
 横殴りの強烈な衝撃が襲う。
 刀真は声を出す間も無く叩き飛ばされて、意識を失った。


「刀真――」
 月夜の目に映ったのは、イカの足で吹き飛ばされていく刀真の身体だった。
 翔子が射撃を続けながら口元を歪める。
「まずいわね……樹月さん、気絶してる」
「漆髪さんっ、助けに行こう!」
 ライゼが刀真の方へと水を掻く。
 月夜はライゼの後を追い、
「でも、ライゼ――垂が掴まってる」
「大丈夫っ!」
 ライゼは、ザブザブと水を掻きながら笑んでいた。
「垂は凄いんだからっ! 料理の味付け以外は!!」


「ンのヤロォオッ!」
 筋力増強スーツを起動させた垂は、巻き付くイカ足を内側から力任せにこじ開けて、水中銃の引き金を引いた。
 垂を捉えていたイカ足が、銛を撃ち込まれた衝撃に痙攣しながら吹き飛ばされていく。
「ざまぁみやがれ!」
 ハン、と口端を上げた垂は、海面へ落下していた。
 と、垂は落下していく己へと迫る気配に気付いて、鋭く視線を走らせた。
 幾本かのイカ足が、すでに眼前に迫っていた。
「チッ!」
 水中銃から光条兵器へと持ち返るには時間が足らない。
 刹那、垂に迫っていたイカ足の一本がターンと弾き飛ばされる。
 続けざまに、二本目、三本目――そして、ドラゴンアーツによる衝撃が最後の一本を叩き飛ばす。
 そうして、垂は無事に海へと着水した。
 落下の勢いで沈んだ距離を泳ぎ、垂は海面に、ぶはっと顔を覗かせる。
 そして。
「悪ぃ、助かった!」
 遠方に見えたロブ、真紀、サイモンの方へと手を振った。


「ライラプス。僕らは樹月を援護する。急ごう」
 コウジがライラプスに背負われた格好で言う。
「了解です。方向と速度の指示を」
 そして、ライラプスは彼に言われた通り、移動速度を上げた。
「わわわ!? 揺らすな! 怖いじゃないか!」
「了解です。安定を確保します」
 ライラプスは至極冷静に頷き、コウジを支えていた腕を離し、その手を海水へと滑らせる。
「わぁーー!? 離すな!!」
 急に己を支えていた腕を失って、コウジは射撃を中断しつつライラプスにギュッとしがみついた。
 ライラプスは、再び、よいせっとコウジを背中に背負い直す。
「速度についての再設定を要求します」
「あ、ああ……」
 ライラプスの腕に支えらて、コウジは安息の息を付きながら頷き――それから、キッと視線鋭く、向かうべき方を睨み据えた。
「僕の絶対安全を確保する程度に全力前進だ!」
 

 翔子、コウジの援護射撃の中。
 気絶していた刀真をイカ足が捉えて、彼を海面から空中へと引き剥がしていく。
 そこへ、ライゼの水中銃が放たれる。
 銛は、ダメージを蓄積していたイカの足が切断し、刀真を再び海面へと返した。
「刀真……刀真……っ」
 月夜が刀真へと寄って、その身体に手を触れ、ヒールを掛ける。
「樹月さん、大丈夫っ!?」
 水中銃を背中に担ぎ直しながら、ライゼが二人の傍にやってくる。
 月夜はライゼの方へと不安定な瞳を向けた。
「目を覚まさない……傷は直したのに」
「まだ気を失ってるだけだよっ。すぐに目覚めるから」
 ライゼが月夜を励ますように微笑んで。
「今はとにかく、ここを離れなきゃっ」
 言って、ライゼは筋力増強スーツを起動した。
 そして、ぐったりとした刀真の腕を取り、月夜と共にその場から離れていく。
 
 
 タン、と正義が海面を軽やかに蹴り跳ぶ。
 実際は海面すれすれに覗いていたイカ足の端を蹴っただけだが。
 ともあれ、飛沫を散らし、正義は剣を振り広げながらイカの頭へと空を駆けた。
 彼の突撃を妨げようとしたイカ足を、小次郎のアサルトカービンが近距離から撃ち払う。
 と、小次郎は自分を狙って伸びるイカ足を目端に捉えた。
「リース殿」
 短くパートナーの名を呼ぶ。
「はい」
 リースが小次郎の肩に手を掛けて、海中から己の身体を引っ張り出し、足を彼の肩に掛ける。
 そして、彼女は小次郎の肩を足場に空へと飛び上がり、伸び出されてきたイカ足へとナイフを走らせた。
 その光景を視界に掠めながら、正義は、振り開いていた剣を腰で内側へ絞り込むように、
「シャンバランブレーードッッ!」
 イカの頭へと叩き込んでいく。


 ◇


 護衛艇。
「こちらは順調そうだな」
 クレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)が巨大なイカと戦闘を続ける一団を眺めながら、零すように言う。
 彼の手には楊主任教官から渡されたカメラがあった。
「んー」
 その隣で、カメラから送られてくる戦闘状況の画像データの整理を行いながら、プリモ・リボルテック(ぷりも・りぼるてっく)が生返事を返す。
 そして、彼女はひょいっとクレーメックの方を見上げ、小首を傾げた。
「クレちゃんってさあ。参謀科だよね?」
「ああ」
「何で技術科の手伝いをしてくれるの? 良い人?」
 重ねられた問い掛けに、クレーメックは微笑みを返すだけで応えた。
 言葉の方は返って来ないらしい。
「ま、いっか」
 プリモは口元を、にへっと笑ませて、データ処理画面の方へと視線を返した。
「ところでさー、クレちゃん。垂ちゃんが締め上げられてるシーンが少ないよ! 折角のエロ――」
「エロ?」
 クレーメックが首を傾げる。
 プリモは、何かしらの言葉を喉の奥へと飲み流し。
「締め上げ耐性のデータが沢山欲しいの! 次のチャンスはお願いだからね!」
「ああ、すまなかったな。了解だ」
 頷くクレーメックの隣で、菅野 葉月(すがの・はづき)が巨大イカの方を眺めながら、小さく息を付いた。
「しかし……凄いですね。筋力増強スーツというのは」
「神代 正義なんて冗談みたいな動き方してるもんね」
 葉月のパートナーのミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)が護衛艇のヘリに顎を乗っけながら、はむはむ頷く。
 傍で、同じように戦闘域を眺めていたクロス・クロノス(くろす・くろのす)が「ええ」と繋げた。
「あちらの方に私達の出番は無いかもしれませんね」
 どちらかといえば無い方が良い、とクロスは心中で呟く。
 予定していた装備の持ち込みを教官に止められ、一抹の不安があった。
 と。
「いや、そーでも無いかもね」
 プリモがデータを収集整理しながら言う。
 他の生徒達の視線が彼女に集まる。
 プリモはカタタっとデータを一区切り打ち終えてから、ひょいっと立ち上がった。
「教官に言って、ボート出しとこっか!」