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秋の夜長にすることは?

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秋の夜長にすることは?

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土と汗にまみれて

 一方、ルミーナのお手伝いを立候補した生徒たちはというと、料理班は3班に分かれて下準備に入り、体力班つまりは力仕事班も二手に分かれ、厨房とここ、広大な畑に来ていた。多くの生徒が通う蒼空学園では、食堂で使う一部の野菜を自家栽培しているのだ。
 これは、農学部の授業でも使われている物だが、当然その学部でない生徒は踏み込んだことのない場所だ。
 まさか畑仕事を頼まれると思っても見なかった4人は驚きながらも、力の見せ所だと張り切っていた。
 しかし、エメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)は違っていた。もともと潔癖症である彼は、力仕事をもっと他の作業だと思っていたので、まさか土いじりをさせられるなんてと渋い顔をしている。
「私はてっきり餅つきか何かだと思っていたのですが……」
 そんなエメの肩を叩き、さっさと終わらそうと声をかけるのは橘 恭司(たちばな・きょうじ)。力仕事と言えば材料や料理の運搬だろうと思っていた恭司にとっては、そこまで大きく予想を外れた作業ではない。
「じゃあ、俺が土の中から掘り返す。君がそれの土を払って台車に積んでいく。それでどうだ?」
「そうですね……洗って厨房へ運ぶ役目を承りましょう」
 任せた! と言わんばかりに、さっそく座り込んで作業し始める十倉 朱華(とくら・はねず)に、パートナーのウィスタリア・メドウ(うぃすたりあ・めどう)は手荒な扱いをしないよう、心配そうに隣で作業し始める。
「あまり強く引くと、葉だけとれてしまいますよ」
「ああ、スコップで傷つけないように気をつけないとね」
 こんな体験早々出来る物ではないと楽しそうに作業する朱華を見て、ウィスタリアは少し安心したように手伝い始めた。



 畑で材料を調達している間の厨房はと言えば、それなりに戦争だった。まだ材料が全部揃っていないなら、することも少ないだろうと思われがちだが、道具の準備に作業台の確保。それから身支度に今ある材料の下準備、そして誰が取り仕切るか。
 3つのメニューを作るためグループ分けされたのは良かったが、料理というのは人それぞれ作り方が異なる。誰の味に合わせるかで1番揉めていたのはレミ・フラットパイン(れみ・ふらっとぱいん)だ。
「そんなのつまんないよっ!」
「つまらないという問題ではなく、多くの人が同じように美味しいと言っていただけるようにですね……」
 基本に忠実な料理を心がけたい翔と、楽しく美味しくをモットーにアレンジしたいレミ。2人の意見がかみ合うことはなく、下ごしらえすら出来はしない。
「もう、周くんからも言ってやってよ! ……周くん?」
 自分のすぐそばにいると思ったパートナー、鈴木 周(すずき・しゅう)の姿が見つからないと思えば、まな板や包丁など軽い調理器具を運ぶマナ・ファクトリ(まな・ふぁくとり)をナンパしているではないか。
 パートナーのベア・ヘルロット(べあ・へるろっと)が重い鍋などを準備している隙をついて、なんという行動力だろうか。
「ほら、今はルミーナさんのお手伝いをしなきゃいけないし……」
 同じグループになった手前、キツイ物言いも出来ないとマナがやんわりと断っているというのに、その心遣いに全く気付かない周。
「俺がマナのことを手伝うから大丈夫だって!」
 人の話を聞きもせず、何を根拠にそんなことを言えるのだろう。マナは愛想笑いをするのにも疲れてきてしまった。
「マナのキレイな黒髪には心のように純粋な白が似合うけど、今日だけは俺色で染めてみないっ?」
「………………」
 必死のナンパ劇に、その周囲は固まった。どこぞのラブロマンス映画でも言わないような歯の浮くセリフを、遠回しに断り続けている相手に言うだろうか。しかも、最大限に格好つけながら。
 何故だか自信ありげな周にかける言葉もなく、呆れかえったマナへ天の助けが現われた。
「危ないッ!」
 突如、どこからともなく飛んできた鍋の蓋。周の頭にクリーンヒットして、金属音を響かせながら床に落ちた。
「いやー参ったぜ。道具の数はあっても使い勝手のいい大きさは争奪戦でさぁ。鍋は死守できたんだけど、蓋が飛んでこなかった?」
 大きめの寸胴鍋を器用に3つ抱えてやってきたベアは申し訳なさそうにしているが、どうやら作業台の隣で伸びている周には気がついていないらしい。
「多分これじゃない? 床に落ちちゃったし、1度洗いに行こうよ」
 自分の荷物を置いて、面倒が起らないようにこれからはベアと一緒に行動しようとマナは心に誓うのだった。
「……それで、どうされますか?」
 周が伸びてしまった今、同意を得ることは不可能だ。しかし、伸びていなかったら「地獄の蓋が開いたかと……」と料理の腕前がみんなにバラされてしまい、腕など振るえなかっただろう。
「そこまで美味しいものが作れる自信があるなら……勝負よっ!」
 幸か不幸か、鍋は3つある。参加者が多いことを考えると、足りないことはあっても作りすぎることはないだろう。そう考え、ビシッと翔を指さすレミは、なんとなく誰かさんに似ている気がした。
「では、レミ様とマナ様、そして私がそれぞれご用意するという形に致しましょう」
 このとき、何故必死に止めなかったのかと後悔することになるとは、誰も思いもしなかった。



 厨房に断末魔が響き渡るまで、あと数時間――