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秋の夜長にすることは?

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秋の夜長にすることは?

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誤字と眼鏡とチビと王子

 の誘いを断ったレイディスは、先約していた仲間たちと家庭科室で合流していた。その中にはセシリアの姿もあり、ほとほと武の運がなかったことが窺える。
「お、セシリア。勉強の調子はどうだ?」
「どうだも何も、私が躓くはずもなかろう。レイこそ調子はどうなのじゃ」
 もともとこの日はお月見をしようと集まっていたメンバーだったのだが、学校に閉じ込められてしまったので急遽学校でお月見をすることになってしまった。しかし、テストが心配というメンバーもいるので暫く別行動をとっていたのだが、セシリアは休憩がてらにレイディスの元へ顔を出しにきたようだ。そんな彼女にエルネスト・アンセルメ(えるねすと・あんせるめ)はお茶を差し出しながら笑う。
「レイさんはいつも自給自足ですから、とてもお上手なんですよ」
「ほほう。菓子作りも出来てしまうとは意外じゃのぉ。どれ……」
 セシリアがつまみ食いをしようとすると、レイディスが高々とお団子の乗った皿を持ち上げた。
「ダーメ。上手くできたのは校長に差し入れすんだから、まだ食うなよ」
「それだけあれば、1つや2つ変わらんじゃろ〜」
「材料をルミーナさんに分けて頂いてるので……すみません」
 つまらんと口を尖らせていると、隣の準備室からはクライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)の勉強を見ていたローレンス・ハワード(ろーれんす・はわーど)が顔を出した。
「よっ! ローレンスも休憩か?」
「……主は集中力さえ欠けなければ出来ると思うのだがな。2つ茶を入れてくれないか」
 エルネストが手慣れた手つきで紅茶を淹れ、室内に香りが漂ってくる頃。準備室で1人課題に取り組んでいたクライスが半泣きになりながらやってきた。
「せ、セシリアさん〜……どう見直しても、計算が合わないんです」
「計算問題など、ほとんど答えは1つじゃろう。どの問題じゃ? ……なんじゃ、こんなのもわからんのか」
(……なんで僕、小学生に勉強見てもらってるんだろう)
 けれども、セシリアは引っかけ問題の注意点まで丁寧に解説してくれるから頼らずにはいられない。ローレンスときたら、蒼学で配られた課題に加えて自らが用意した問題集まで解けと渡してくるわ、よそ見をしようものならヨーヨーが飛んでくるし、容赦のない言葉もズバズバと言うので課題が終わる頃には身も心もズタボロになりそうだ。
「しっかし、こうもカーテンで覆われてちゃ全然見えねぇな……」
「この分だと、屋上に出るのも難しいでしょうね」
 レイディスの言葉に同意しながら紅茶をカップに注いで振る舞うエルネストは、そこまで困った表情を見せていない。
「きっと、校長のお考えがあってのことですよ。もう少しのんびりと待ちましょう」
「その間、クライスは勉強だな」
「えぇっ!?」
 悲痛な表情を浮かべたクライスに一同が笑い、それで終了かと思われたのだが、ふと思い出したようにレイディスがポケットを探る。
「そういやさ、材料分けてもらって帰ってきたら廊下にこんなのがあったんだけど心当たりあるか?」
 折れ曲がっている上にさび付いている五寸釘。廊下はおろか、教室の中だってこんな釘を使っている部分はないし、図工室は離れている。いったいどこから転げ落ちて来たのだろう。
 不思議に思いながらも、外に出られるようになるまでは各々のやるべきことを頑張るのだった。