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【2019修学旅行】斑鳩の地で寺院巡り

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【2019修学旅行】斑鳩の地で寺院巡り

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●甘いものには、目がないんです

 歴史を感じさせてくれるのは、何も寺院ばかりではない。
 町中に佇む食事処や甘味処も、和洋取り揃えながら雰囲気にどこか味わい溢れ、道行く人に感慨を与えていた。

「はむはむ……日本の食べ物は美味しいのう……えへへー、幸せなのじゃ♪」
 両脇に店の立ち並ぶ道を、両手に一杯の食べ物を抱えて、セシリア・ファフレータ(せしりあ・ふぁふれーた)が実に満足そうな笑みを浮かべていた。
「次は何がいいかな。……お、あそこにあんみつ屋があるぞ。ナナー、セシリー、次はあんみつ食べよう!」
「はい! イリーナ様のお誘いとあらば、是非とも!」
 イリーナ・セルベリア(いりーな・せるべりあ)が店の一軒を指して呼びかけ、それにナナ・マキャフリー(なな・まきゃふりー)とセシリアがほいほいと付いて行く。
「またですかい……あの、もうちょっと控えてもらえませんかね、誤字姫さん?」
「むむ! 私は誤字姫などではない! その名で呼ぶなー!」
「そうだ、セシリーに失礼だぞ。……というわけで次も代金、よろしくな」
「あの、佐野様、ルース様、ゴチになります……で、いいんですよね?」
 ここまで一行の代金を持ってきた佐野 亮司(さの・りょうじ)が、その最たる根源の制御を試みるが、三人の女性パワーの前には儚くも無力であった。
「くっ、どうしてこうなったというのだ……」
「ま、ここは見守る立場にいる者として、潔く受け持ちましょうぜ」
 項垂れる亮司の肩を、ルース・メルヴィン(るーす・めるう゛ぃん)が叩いて慰める。
「……おっと、カワイイ子発見! おじょうさ〜〜ん、一緒に回りませんか〜」
「まぁ、喜んでくれているというなら、それもよしか。……それとルース、どうせ失敗するんだからナンパはやめておけ」
「これはオレの性分でね、止めろといっても簡単に止められるモンじゃないんですよ。亮司も一度やってみたらいい」
「ちょ、ちょっと待て、別に俺は――」
 抵抗する亮司を問答無用で引っ張っていくルース、その一方であんみつ屋に辿り着いたイリーナにセシリア、ナナの三人は、メニューを眺めながら雑談に興じていた。
「今日はとことんまで食べ尽くすからな。ああ、ちなみに負けた人は罰ゲームとして、勝った人に一晩添い寝だからな」
「い、イリーナ様と添い寝……! あ、あの、では負けた人はネコミミかイヌミミ着用というのはいかがでしょうか?」
「んー、それは罰ゲームなんじゃろか? まあよいかの、やるからには負けぬぞー!」
 イリーナの提案に、既にイリーナと添い寝すること前提のナナが注文をつけ、セシリアは首を傾げつつも運ばれてきたあんみつを目の前にして意気込む。
「いや〜、上手くいかないものですね〜」
「当たり前だ、まったく、俺まで巻き込んで何という……」
 そこに、収穫ゼロで戻ってきたルースと亮司が、渡された請求書に書かれていた金額を目にして言葉を無くす。
「……後いくら残ってますかね?」
「……考えるのは止めた。今俺にできることは、彼女たちと一緒にあんみつを食べることだけだ」
 言って亮司が、運ばれてきたあんみつを口にする。甘さの他に何故かしょっぱさを噛みしめる彼らの隣では、彼女たちがこれからの予定について大いに花を咲かせていた。

「さっき声をかけてきた人、何だったんだろーね?」
「さあ……すぐに居なくなってしまわれましたので、分からずじまいでしたね」
 土産物が並べられた店を眺め歩きながら、シャール・アッシュワース(しゃーる・あっしゅわーす)シャンテ・セレナード(しゃんて・せれなーど)が楽しげに会話を交わしている。
「仏像もいいですが、こういったのも風情があっていいでしょう?」
「……悪くないな」(ほう、これもなかなか……寺院で見かけた建造物も素晴らしいが、町並みもそれに合わせたように造られているとは、評価に値するな)
 その後ろを、姫北 星次郎(ひめきた・せいじろう)リアン・エテルニーテ(りあん・えてるにーて)が続く。
「あっ、これさっき見たところだね! 天蓋の壁画が凄かったよねっ? ボクずっと見上げてて、首が痛くなっちゃったよ」
 店先に提げられた寺院の模写図を、シャールが指差す。
「これはまた、素敵な色合いで描かれていますね……奥にもあるようですよ、行ってみましょうか」
 シャンテが率先して中に入っていくのを、シャールが後を追う形で付いて行く。
「行っちゃいましたね。俺たちも行きましょうか」
「……ああ」(あのようなシャンテを見るのは初めてだな。……いいこと、なのだろうな)
 中に入った一行を、鮮やかな色合いの絵画が出迎える。夕暮れに染まる寺院、朝日に輝くお堂などが、それぞれ独特の手法と色合いで描かれている様は、実際に寺院やお堂をその目にしてきた者たちに、新たな感動を与えてくれた。
「こうして見ると、また違った趣がありますね」
「……そうだな」(一枚こういうのがあれば、また違ったティータイムを演出できるかもしれぬな)
 絵画に見入っていた星次郎とリアンのところへ、シャールとシャンテが戻ってくる。
「はぁ〜、欲しいなーって思ったけど、あんなに高いとは思わなかったよ〜……」
「そうですね、僕たちではとても手が出せないですね」
 確かに、ゼロが五つも六つも並んでいるような価格では、学生の身分である彼らには到底手が届かぬ代物であろう。
「ではその分、この目にたっぷりと焼き付けておかないとな。さて、そろそろ行くぞ」
「うん! じゃあ今度は、リアンさんといっしょー♪」(同じ不老不死の身として、興味あるしね)
「……うむ」(シャール……種族は違えど、我と同じく永遠の時を生きる者……興味深いな」
「じゃあ僕は姫北さんとですね。案内、お願いしますね」
 そうして、四人が次の目的地へと、足を運んでいった。