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聖なる夜に奴らは群れでやってくる!!

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第三章 僕のサンタさん

 僕の名前は柳生権兵衛。
 今日は素敵なサンタさんに出会いました。
 その人の名前は鈴木 周(すずき・しゅう)さんと言います。
 周さんは僕のためにプレゼントをくれました。
 とても、ドキドキする男のロマンな物なのらしいですが、ミレーヌ・ハーバート(みれーぬ・はーばーと)は周さんに怒ってました。
「そ、そのプレゼントはダメなんじゃない?」
「ダメって、何でダメなのかな〜?」
「この変態!!」
 周さんがどうして変態になのか僕にはわかりませんでしたが、周さんの横顔は格好よかったです。
「どうだ、俺って男らしいだろ?」
 僕はウンと頷きました。
 周さんは堂々としていて、男らしかったのです。
 でも、ちょっと悲しい事がありました。

「ヒャッハー!!」
 『もひかん』軍団と言う、怖そうな人たちを連れてきたガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)という人が、彼を見て言ったんです。
「汚物は消毒だ〜!! ヒャッハー! これも後で返すからちょいと貸してくれよ」
「あっ……」
 ガートルードさんは周さんから貰ったプレゼントと周さんを連れて暗闇に消えていきました。
 ネヴィル・ブレイロック(ねう゛ぃる・ぶれいろっく)という怖そうな人も一緒に行きました。
 何をするのか尋ねたら、プロレスごっこをするそうです。
 120万パワーのネヴィルさんは周さんを持ち上げて、グルグルと回していました。
 ガートルードさんは周さんと一緒に火炎放射祭りをしていました。
 しばらくして、ネヴィルさんは戻ってきました。
「ほれ、これがプレゼントだ」
 そして、僕のところに周さんのプレゼントが戻ってきたのです。
 中身は男のロマン『プロレス大百科』でした。
 でも、周さんは戻ってきませんでした。
 それが、ちょっと悲しかったのです。


 ☆     ☆     ☆


 ――少し場所は変わって、そこは皇祁 黎(すめらぎ・れい)の住む家。
 黎はあまりの料理オンチぶりに落ち込んでいた。
 ケーキを作っていたはずのに、オーブンを開くとケーキが蒸発していたのだ。
 残っていたのはダシをたっぷりと吸い込み焦げた野菜。
 素敵な煮物の出来上がりである。

「いったい何が間違っていたと言うのだ!!?」

 黎は叫んだ。
 だが、答えは返ってこなかった。
 代わりに美味しそうなケーキが姿を現したのだ。
「ケーキならちゃんと出来てるぞ」
 飛鳥 誓夜(あすか・せいや)は自分が作ったケーキとお茶を机に二つ並べる。
「違う……違うんだ……そんなんじゃ……俺は…………のために……」
「まぁまぁ、せっかくのお茶が冷めてしまうぞ」
 仕方なく、黎は誓夜の作ってくれたケーキを食べる。
(美味しい)
 これほどの美味いケーキを誓夜は簡単に作ってしまうとは。
「俺は本当に駄目だな。今日くらいは良い所を見せたかったのにな」
 黎は頭を垂れると呟いた。
 すると、お茶を飲んでいた誓夜も呟く。
「まぁ、黎が頑張ってくれたのは嬉しかったし、それに……知ってるしな」
「!? 何をだ?」
「さぁな、早く飲まないとお茶が冷めるぞ」
「言えよ。何をだ?」
 しかし、誓夜は笑って答えなかったと言う。


 ☆     ☆     ☆


 ――そして、再び柳生家。
「ふふふっ、皆さん。燃えてますね」
「えっ! 後ろ!? (――ピキーン!)」
 権兵衛は後方にただならぬ気配を感じて振り返った。
 時間が流れて、騒がしくなってきた会場内。
 そこに白と緑のアラブ人風の衣装を着た二人、怪しげなサンタ二人、そして、トナカイ二匹がいたのだ。
「さて、これは我々からの贈り物ですよ」
 白いターバンを巻いたエメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)はそう言うと、緑色のターバンを巻いた片倉 蒼(かたくら・そう)とともに権兵衛の前に大きな宝箱と小さな宝箱を置いた。
 すると、物珍しさに周りの子供たちも集まってくる。
「これ、僕へのプレゼントなの?」
「子供たちへのサンタさんのプレゼントですわ」
 サンタの格好をした山時 雫(やまとき・しずく)は優しげな表情で頷くと、権兵衛たちは嬉しそうに宝箱を開けていく。
「わぁ、チョコレートとか入ってる。すげぇ!」
「こっちはクリームを発見! 白と緑の魔人からお菓子をゲットだぜ!」
 しかし、それだけではなかった。
(フォンフォンフォンフォン……)
 なんと、赤いターバンを頭に乗せたアレクス・イクス(あれくす・いくす)が奇怪な音を立てながら、小型飛空艇で真っ赤なそりを引っ張ってきたのだ。
 そこには土台のスポンジが乗っている。
「すげぇ、空飛ぶ猫だ。でも、頭のターバン……邪魔じゃないの?」
「これは飾りにゃう。お偉い人たちにはそれが分からんのにゃう」
 だが、その登場は子供らの心を釘付けにしたようだ。

 そしてそのまま、ミミ・マリー(みみ・まりー)と蒼に注目する。
 二人がケーキの土台に飾りつけを開始し始めたのだ。
「蒼君、このマジパンでできたサンタは僕が作ったんだよ」
「へぇ、器用ですね。今度、僕にも教えてくれませんか……こらこら、駄目ですよ。つまみ食いは。お腹が空いた人にはおやつをあげますから」
 蒼とミミはケーキの土台の余った部分を切り落としたスポンジケーキを子供たちに配っていく。
 そして、二人はビュッシュ・ド・ノエル(切り株風のケーキ)を作りあげたのだ。
「すげぇ!!?」
 ロールケーキだと思っていたのに、別のケーキに変身したのを見て、子供たちは感嘆の声をあげる。
「じゃあ、みんなでこのケーキを作りましょうか?」
 エメは準備した土台を子供らに配っていく。
 子供らはミミたちが作ったケーキに負けないようなオリジナリティ溢れるケーキを作っていく。
「これ、どうやってやったら上手く塗れるの?」
「んー、貸してみなぁ」
 幼い頃、あまり幸せでなかった永式 リシト(ながしき・りしと)は、嬉しそうに子供らに手ほどきする。
「恋をし、愛を育み、命を宿す……とても素敵なことですね」
 雫はリシトをサポートしながら、子供らの相手を行った。

 アレクスは猫だから、ケーキ作りに参加せずにプレゼントボックスの中に隠れて、開けようとする子供らに飛びかかり。
「メリークリスマスにゃう!」
 ……と、言う『リアルミミックボックス』に夢中だったが、それを瀬島 壮太(せじま・そうた)に見つかったから大変だ。
 壮太は子供らを誘うとアレクスの入った箱の前にビックリ箱を置く。
「シシシッ、それじゃあ、叩くぞ」
 そして、小声で笑うとアレクスの入った箱の表面を叩くのだ。
「メリークリスマス……にゃううううぅ!!?」
 アレクスは目の前に置かれたビックリ箱に驚き逃げていく――
「あははははっ」
 それを見た権兵衛は笑っていた。
 壮太はそんな権兵衛に忠告する。
「オレみてえに悪さばっかしてるとサンタの野郎は来ねえぞ」
「悪さをしないの? あの人みたいに?」
 権兵衛は天使のように微笑みながら、机に座って物静かにケーキを食べるエメを指差した。
 そのノブレス・オブリージュが染み付いた立ち振る舞いは貴族そのもの。
 彼はケーキを食べながら、アレクスの行動を眺め、そして、何かを思いついたかのように手をポンと叩くとニコニコしながら、リシト達に声をかけたのだ。
 とてもとても素敵な天使のような笑顔で声をかけたのです。
 それを見た壮太は腕を組み、首を傾げて言う。
「……うーん、何かが違うぞ。あいつは確かにいい奴だけど……面白さのためなら……ゲフンゲフン
「えっ、何? 聞こえないよ」
 昼ドラのようにドロドロとした話になりそうだったので、壮太は蒼が入れてくれた紅茶を飲むと会話を変える事にした。
「まぁ、どっちにしてもいい子にしてろよ。サンタはエコヒイキしてんだからよ」
 彼はそう言って、権兵衛の頭を撫ぜてやったのだ。


 ☆     ☆     ☆


「ほーっほっほっほ! メリークリスマス!」
「わわっ!?」
 権兵衛は突然現れたサンタの野太い声マネをした三浦 晴久(みうら・はるひさ)に肩掛けをかけられた後で肩車をされた。
 百八十を超える晴久の肩車は、今まで感じた事のない高さに思える。
「どうだ、高いだろ?」
「うん、高い」
「楽しんでるか?」
「うん、楽しんでるよ」
「そっかー、病は気からというんだ。まぁ、今日は思い切り楽しんでくれよ。俺のことは晴兄って呼んでいいからな!」
 晴久はゆっくりと雪の中を歩きだした。
 屋外は肌寒く、足を進めるとキュッ、キュッと雪を踏みならす音が聞こえてくる。。
「どこに行きたい?」
「とりあえず、真っ直ぐ……」
 本当であれば自分の足で歩きたいのだろう。
 晴久は権兵衛の言うとおりに進んでいく。
「歩けるまで俺がお前の足になってやるからよ。だから絶対治せ。お前の人生をお前が諦めるな! 俺も諦めないからよ」
 関わった以上は校長にも一肌脱いでもらうつもりで、二人の生活支援と足の治療を直訴していた。
 しかし、本当に治るかどうかは誰にもわからない。
 中途半端な励ましは逆効果になるかもしれないが晴久は真剣だった。
 何とかしてやりたかったのだ。
 それが嬉しかったのか、権兵衛は晴久をギュッと掴むと言った。
「あっ、雪だよ。晴兄」
「おう、本当だな」
 暫しの間、止んでいた雪がまた降り出した。
 白い雪は何かをかき消すように降り注いでくる。


 ☆     ☆     ☆


 ブロン、ブロロンッ……
 キーを差込み、右に回すと心地良い振動とともに四気筒のアルペジオが演奏始まった。
「ホホホッ、ホッーホッホッ〜!」
 どこから仕入れたのか知らないが、独特の言語であるサンタ語を真似したエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は自前のバイクにトナカイ風の飾りとソリをつけて、疾走していく。
 遠くから見ると、彼の風を切りながら走る姿は暴走サンタそのものである。
「フッ、少年ごときに心を動かされるとは……認めたくないものだな。自分自身の若さゆえの過ちというものを……」
 実は超ロボットマニアで彼はここぞとばかりに、どこかで聞いたような台詞を呟いてみた。
「なーにを真剣な顔して、格好つけてるの?」
 すると、ソリに乗った袋の中から首を出したロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)が声をかけてきたではないか。
「……いや、何でもないな。それよりもサンタ語の通訳は頼んだぞ」
「もちろんです」
 同じく、袋の中に入っていたミュリエル・クロンティリス(みゅりえる・くろんてぃりす)の声を聞くと、エヴァルトは何も言わずにエンジンを吹かしていく。
 途中、何人かの生徒たちとすれ違った。
 悪と戦っているヒーロー。
 逃げていく忍者。
 しかし、その中でも圧巻だったのはやはり柳生家の家の前に雪像を作りあげた彼らであろう。

「クルードさん……次、行きますよ!」
「……またつまらない物を斬る事になるか……だが、それも悪くない……行くぞ……」
「……我が身に宿りし蒼天の力よ……その輝きを示せ!……【蒼氷華】……【ブルー・アイシクル】!」
 ユニ・ウェスペルタティア(ゆに・うぇすぺるたてぃあ)が氷術で作り出した氷をクルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)が削っていく。
 その高速的な動きで生み出されていくのは、狼、四聖獣などの像であった。
 スピードと削り取られた氷は、漆黒の空でキラキラと輝きながら地面に落ちていくと子供たちから歓声があがった。
「わぁぁ! すごい!」
 クルードの横ではアイシア・ウェスリンド(あいしあ・うぇすりんど)がジャンヌ・ダルクの雪像を作っていく。
「はぁ……どうしてこんな事に……ふぅ……行きます。聖なる氷の祝福を……出でよ……【聖剣デュランダル】!」
 英霊である彼女は昔を思い出しつつ、恥ずかしさに頬を染めながら氷を削っていた。
 だが、さすがに限りあるSPでは量産は出来そうにない。
「さ……流石に疲れましたぁ……」
 ユニが地面に座り込むのを見て、仕方なくクルードは最後の一刀を加える事にする。
「……やれやれ……仕方がないな……」
 彼がバーストダッシュを加速すると、空間がバターのように溶けていく。
「何が起きてるの?」
 子供たちには何が起きているのかわからないが、彼の剣は確実に何かを作り出していた。
 次第に形になっていく氷上のジオラマに子供たちは歓声を上げる。
「……これで……終わりだな……」
 そして、彼が止まる頃、柳生家の庭に美しい氷像が完成したのだ。
 漆黒の夜に浮かびあがるのは、聖獣たちを背にしたジャンヌ・ダルクとサンタの饗宴。
 それはまるで柳生家を見守るように静かに佇んでいたと言う。