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温室大騒動

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温室大騒動

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7.伐採です

「でも大きいですねぇ〜〜」

 朱宮 満夜(あけみや・まよ)は膝丈もある根を見つめながら溜息をつく。

「土にもまだ埋まっていることから、掘り起こしても、運べないくらいの大きさな気がします……」

 枯らせてしまうのは惜しいので、掘り起こしてイルミンスールに持っていこうと思っていた。

「これほど巨大だと……無理ですね」

 目の前にある根だけでこのくらいの大きさだとすると……本体は一体どのくらいなんだろう?

……さわさわと。

 触手が近寄ってくる。

「鬱陶しいです!」

 すぐさま満夜は魔法で対処する。

……マンドラゴラ系で、ハマグリで……本当に、どういう植物なんだろう?

「管理人室に斧があったけど、これで切れるかな?」

 遠鳴 真希(とおなり・まき)が、重そうに斧を下に置いた。

「う〜んどうでしょう? かなり頑丈そうです」

「根を1本切ったところで、どうにもならないような気がするんだけど……」

 実は管理人が『あちらの世界へ連れて行かれた』んだと思い、真希は自ら進んであちらの世界に渡ろうとしていた。

──危なかった。

 管理人さんは喰われていただけだった。
 耳栓を満夜から分けてもらい、真希は再び斧を持ち上げた。

「痛いかもしれないけど、ごめんねっ! ──……って、や、やっぱり出来ないよぉ!」

 真希はがくりと崩れ落ちた。
 耳栓を外すと、天井を見上げた。
 磨りガラスから、うっすら青い空が垣間見える。

(出来ない……)

 いくら命令でも、排除なんて可哀想すぎて出来ないよ……
 真希は唇を噛んだ。

  ◇

「永太は、タネ子様の陽動及び撹乱を行って下さい。その隙に私がタネ子様に接近し、沈黙させますので」

 神野 永太(じんの・えいた)のパートナーである燦式鎮護機 ザイエンデ(さんしきちんごき・ざいえんで)が、珍しく提案してきた。
 永太は快く承諾した。
 だがその時、ザイエンデの口の端から涎が垂れていたように見えたのは、気のせいではなかった。
 ザイエンデはタネ子を確認した瞬間に思った。

(…おいしそうです……)

 鯨飲馬食なザイエンデは、ハマグリのような頭を見つめながら食べてみたいと、強く思った。

 永太がタネ子を撹乱している隙に頭部へ飛び掛り、むさぼり食らってやる──食虫花といえど、所詮植物。食って食えないことはない! まずは茎を食らって頭を落とします!

「じゃあ、そろそろやりますか──え?」

 永太がそう言った途端に、ザイエンデは茎に向かって一直線。突進した!

 がふっ!

 思い切りかじりつく。

「………ザイン…」

 唖然としている永太を尻目に、タネ子が近づく。

「わっ! 危ないザイン!」

「…ふがっ、ふがっっ!」

 タネ子は珍しく、頭ではなく足部分にかじりついた。だが負けじとザイエンデも茎にかぶりつく。
 お互い、放してたまるか! との思いが伝わってくる。

「はは……」

 永太は乾いた笑みを浮かべた。

  ◇

「しかし、この根は何処まで蔓延っていやがるんだ?」

 ジガン・シールダーズ(じがん・しーるだーず)は温室を見回した。

「味方の攻撃にも注意を払わないとな、根っこを攻撃した瞬間は耳栓をするように心がけるか。ノウェム、合図を頼むぞ」

 パートナーのノウェム・グラント(のうぇむ・ぐらんと)は大きく頷く。

「分かりました。でもまだ耳栓をしていない自分達がこうしていられるってことは、誰も根を傷つけていないんですね」

「あぁそうだな」

 ジガンはいそいそと耳栓を装着する。

「もう準備されるんですか? 用意がいいですねぇ」

「せいのっ!」

 言うが早いか、ジガンは転がっていた斧を拾い上げて振り下ろしにかかる。

「わわわ〜〜〜!!! ちょちょちょっと待ってください! 自分何にも用意してません!!」

 思慮深く行動するノウェムは、結局ジガンに振り回されてしまうのだ。

 かんっ

 根に深く刺さる斧。


ぐげええぇえええええぇええ!!!!



 タネ子の絶叫が温室中に響き渡る。

「……よ、良かった。ギリギリ耳栓は間に合ったみたいです……あ」

「お?」

 横を走っていたはずの柚子、波音、プレナが、固まって石化していた。

「あれ?」

 近くに行ってコンコンと叩いてみる。

「石化しちゃいました……。──わ〜ん、ジガンのせいですよ〜〜〜!」

 ジガンはしばらくカチコチになったそれを見つめていたが。

「タネ子はメデューサの血も混じっているみたいだな」

 そう呟いて、静かに天を仰いだ。

「……てめぇらの死は、無駄にしないぜ!!!」

 ジガンは斧を再び振り下ろした──